【完結】二人はさよならを知らない

シラハセ カヤ

文字の大きさ
19 / 30

19.

しおりを挟む



電話が切れたあとも、沙耶子は
スマホを握りしめたまま、
呆然と天井を見つめていた。

考えさせてくれ、って───

それは、拒絶でもなければ、受け入れでもない。
ただ、答えを保留にされたというだけの言葉。

でも……また会いたいって言ったとき、
すぐに否定しなかった

それが唯一の救いだった。







それから一週間、沙耶子は毎日
彰からの連絡を待った。

仕事をしていても、友達と話していても、
スマホが鳴るたびに期待してしまう。
だけど、彰からの電話も、メッセージも、
一向に来る気配はなかった。

───やっぱり、あれきりなんやろか……

何もなかったことに
しようとしているのかもしれない。
そう思うと、胸がきゅっと締めつけられる。

でも、待つだけの自分にも耐えられなかった。

思い切って、沙耶子の方から
メッセージを送ることにした。

『元気?』

本当にどうでもいいような、ありふれた言葉。
でも、それしか送れなかった。

送信ボタンを押したあと、すぐにスマホを伏せる。
もし既読がつかなかったら、
もし無視されたら───

そんなことばかり考えて、怖くなった。

だが、数分後。
スマホが小さく振動し、思わず画面を見てしまう。

『おう』

たった二文字。
それでも、沙耶子の胸は高鳴った。

……返ってきた。
それだけで、息がしやすくなった気がする。

すぐに、もう一通メッセージを送る。

『今度、会える?』

ほんの数秒。
でも、永遠にも感じる時間のあと。

『来週そっち行くわ』

その文字を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。
抑えきれない喜びが込み上げる。

来週。

あと、たった数日後に
沙耶子と彰は、また会う。








沙耶子からのメッセージを見たとき、
彰は思わずスマホを伏せた。

あの日以来、何度も連絡しようと思っては、
結局できずにいた。

理性と、衝動と、後悔と。

様々な感情が絡まり合って、
簡単に結論を出せるようなものではなかった。

───元気や、なんて嘘やけどな。

あの夜のことを思い出すたびに、
後戻りのできないところまで
踏み込んでしまったという現実を突きつけられる。

それでも、沙耶子の温もりが
脳裏にこびりついて離れない。

彼女を抱いたときの感触、指の震え、掠れた声。
すべてが、昨日のことのように蘇る。

だが、それは決して許される関係ではない。

叔父と姪。
越えてはいけない一線を、確かに踏み越えた。
だからこそ、考えなければならなかった。

沙耶子の気持ちも、自分の気持ちも、
きちんと整理して、けじめをつけなければならない。

そのためには……一回、会わなあかんな。

そう思った瞬間、スマホを手に取り、指を動かした。

『来週そっち行くわ』

送信ボタンを押したあと、しばらく画面を見つめる。

すぐに『本当?』と返信が来た。

その文字に、ほんの一瞬だけ微笑んでしまった
自分に気づき、苦しくなる。

───ほんま、俺は甘い

けじめをつけるために会うはずなのに、心のどこかで
彼女に会えることを喜んでいる自分がいる。

それが、何よりの問題だった。

でも、もう決めた。
次に会うとき、すべての気持ちに整理をつける。

そのはずだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...