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しおりを挟む電話が切れたあとも、沙耶子は
スマホを握りしめたまま、
呆然と天井を見つめていた。
考えさせてくれ、って───
それは、拒絶でもなければ、受け入れでもない。
ただ、答えを保留にされたというだけの言葉。
でも……また会いたいって言ったとき、
すぐに否定しなかった
それが唯一の救いだった。
・
・
・
それから一週間、沙耶子は毎日
彰からの連絡を待った。
仕事をしていても、友達と話していても、
スマホが鳴るたびに期待してしまう。
だけど、彰からの電話も、メッセージも、
一向に来る気配はなかった。
───やっぱり、あれきりなんやろか……
何もなかったことに
しようとしているのかもしれない。
そう思うと、胸がきゅっと締めつけられる。
でも、待つだけの自分にも耐えられなかった。
思い切って、沙耶子の方から
メッセージを送ることにした。
『元気?』
本当にどうでもいいような、ありふれた言葉。
でも、それしか送れなかった。
送信ボタンを押したあと、すぐにスマホを伏せる。
もし既読がつかなかったら、
もし無視されたら───
そんなことばかり考えて、怖くなった。
だが、数分後。
スマホが小さく振動し、思わず画面を見てしまう。
『おう』
たった二文字。
それでも、沙耶子の胸は高鳴った。
……返ってきた。
それだけで、息がしやすくなった気がする。
すぐに、もう一通メッセージを送る。
『今度、会える?』
ほんの数秒。
でも、永遠にも感じる時間のあと。
『来週そっち行くわ』
その文字を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。
抑えきれない喜びが込み上げる。
来週。
あと、たった数日後に
沙耶子と彰は、また会う。
・
・
・
沙耶子からのメッセージを見たとき、
彰は思わずスマホを伏せた。
あの日以来、何度も連絡しようと思っては、
結局できずにいた。
理性と、衝動と、後悔と。
様々な感情が絡まり合って、
簡単に結論を出せるようなものではなかった。
───元気や、なんて嘘やけどな。
あの夜のことを思い出すたびに、
後戻りのできないところまで
踏み込んでしまったという現実を突きつけられる。
それでも、沙耶子の温もりが
脳裏にこびりついて離れない。
彼女を抱いたときの感触、指の震え、掠れた声。
すべてが、昨日のことのように蘇る。
だが、それは決して許される関係ではない。
叔父と姪。
越えてはいけない一線を、確かに踏み越えた。
だからこそ、考えなければならなかった。
沙耶子の気持ちも、自分の気持ちも、
きちんと整理して、けじめをつけなければならない。
そのためには……一回、会わなあかんな。
そう思った瞬間、スマホを手に取り、指を動かした。
『来週そっち行くわ』
送信ボタンを押したあと、しばらく画面を見つめる。
すぐに『本当?』と返信が来た。
その文字に、ほんの一瞬だけ微笑んでしまった
自分に気づき、苦しくなる。
───ほんま、俺は甘い
けじめをつけるために会うはずなのに、心のどこかで
彼女に会えることを喜んでいる自分がいる。
それが、何よりの問題だった。
でも、もう決めた。
次に会うとき、すべての気持ちに整理をつける。
そのはずだった。
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