わかばの頃に

うみのほたる

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 四月だというのに、この寒さ。予報通りではあるが、男の目論見は外れた。
 
 ソフトケースから一本抜くと100円ライターで火をつけた。最初の一服と缶コーヒーとの相性の良さ以外、彼の身体には良いことはなかった。

 時は高度経済成長期、メイド・イン・ジャパン。仕事は忙しかったが、金には困らなかった。金と暇、どうしてどちらか一方しか手にはいらないのだろうか。10時まで残業して高級クラブに繰り出す日々。それが当たり前で、そこに疑うという文字はなかった。

 通りに出た男は手を挙げてタクシーを止めた。時計屋の古時計は三時を指していた。
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