43 / 64
愛を聴けば孤独 11話
しおりを挟む何度目かの錯乱の後、タツキは打って変わった穏やかな口調で八嶋に訊ねた。
「…彼は死んだ?」
誰のことか判らない。どう答えたら正解なのかも皆目検討がつかない。
八嶋は人形のようにフローリングに座り込むタツキの前に、膝をついた。
「あの人を、私は殺してしまった?」
これまでのタツキの悪夢を繋ぎ合わせれば、それが比喩ではなく言葉そのままであろうことは確かだ。
声のやんわりとしたトーンに比べ、虚ろな目はどんより濁っている。心は罪の意識に沈んでいるのだろう。絶望の片鱗が、彼女の気配から伺い知れた。
「T、君は、殺していない」
八嶋は出来る限り彼女の焦点の先に顔を寄せ、少しだけ強い語調で諭す。
「…そう?」
「ああ。君は人殺しなんかじゃない」
「──あなた嘘をついてる」
タツキは目を閉じた。
『…エジプト20章13節殺してはならない──グランマ、私は罪人です』
掠れた声は、英語だった。それは十戒の一節だった筈。
『私ごと、その罪を浄化するには…』
八嶋には、その後に続く言葉が視えた気がした。彼にもまた彼女のように、一つの罪の重さに耐えかねて命を落とした家族がいたからだ。
自ら命を絶った家族──今は亡き妹と、最後に過ごした時と似た空気が、この部屋には満ち溢れていた。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる