蝶たちの予感 **言葉より、キスより はじまりのストーリー**

深月 翠

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愛を聴けば孤独   11話

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 何度目かの錯乱の後、タツキは打って変わった穏やかな口調で八嶋に訊ねた。

「…彼は死んだ?」

 誰のことか判らない。どう答えたら正解なのかも皆目検討がつかない。

 八嶋は人形のようにフローリングに座り込むタツキの前に、膝をついた。

「あの人を、私は殺してしまった?」

 これまでのタツキの悪夢を繋ぎ合わせれば、それが比喩ではなく言葉そのままであろうことは確かだ。

 声のやんわりとしたトーンに比べ、虚ろな目はどんより濁っている。心は罪の意識に沈んでいるのだろう。絶望の片鱗が、彼女の気配から伺い知れた。

「T、君は、殺していない」

 八嶋は出来る限り彼女の焦点の先に顔を寄せ、少しだけ強い語調で諭す。

「…そう?」

「ああ。君は人殺しなんかじゃない」

「──あなた嘘をついてる」

 タツキは目を閉じた。

『…エジプト20章13節殺してはならない──グランマ、私は罪人です』

 掠れた声は、英語だった。それは十戒の一節だった筈。

『私ごと、その罪を浄化するには…』

 八嶋には、その後に続く言葉が視えた気がした。彼にもまた彼女のように、一つの罪の重さに耐えかねて命を落とした家族がいたからだ。

 自ら命を絶った家族──今は亡き妹と、最後に過ごした時と似た空気が、この部屋には満ち溢れていた。
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