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愛を聴けば孤独 1話
しおりを挟む「起きられる?…ゆっくりでいい。水分も少しずつ補給して」
八嶋はベッドのヘッドボードにタツキを凭れさせると、ストロー付きのペットボトルで水を飲ませた。
一口目は咽せてしまったが、胃で染み渡るように水が広がる感覚があり、タツキは喉が渇いていたのだとそこで初めて自覚した。
「嫌だったろうけど、擦り傷と打撲の手当ても簡単にさせてもらった。…暴行なら、──警察に通報した方がいい。病院も。僕らじゃ、行き届かないことが多い筈だから」
申し訳なさそうに助言する八嶋に、タツキは誤解だと首を振った。
「…レイプじゃありません。…ただ、あの──」
どう言えばいいのか判らなかった。
否、何を話してもいけないと知っていた。八嶋と、天馬を守る為に──。
「何も、なかったんです。本当に」
はっきりと、否定した。
しばらくもの言いたげだった八嶋だが、タツキの性格を知っているだけに、もう何も聞き出せはしないと諦めた。
「ねぇ、やっし~!俺もう帰っていい?飲み屋に支払いに行かないと、あのおいたんに殺されちゃう!だから早くお金貸して」
「…ちょっと待ってて」
隣室から叫ぶうるさい天馬に、八嶋は軽くため息をついて、しかし文句も言わず部屋を出た。
静かな部屋。限りなく白に近いクリーム色の壁。薄緑色のカーテン。同系色のベッドスプレット。僅かに開いた窓から入る、朝の風。
その空間に一人黙って座っていると…。
呼吸が、乱れ始めた。いや、鼓動が速まっているのかもしれない。
全身が脈打ち、思考が澱む。panic。そんな単語が浮かんでは消える。
知らずシーツを握りしめ、タツキは浅い呼吸を激しく繰り返していた。
「達樹ちゃん!」
部屋に戻った八嶋が焦って駆け寄る。
これまで八嶋さんに名前を呼ばれたことあったっけ…。
呑気な疑問と。
このまま死ぬのかな。
どんよりとした絶望が脳裏でグルグルと溶け合った。
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