片道15分の恋人

桜庭かなめ

文字の大きさ
32 / 51
恋人編

5月2日(金)-④-

しおりを挟む
「ごめんなさい、日高さん。ひどいことをしてしまって……」
「……こんなことを二度としないって約束してくれるなら、いいよ」

 亜実と協力者の女の子が栞に謝り、無事に解決した。
 亜実はそのまま家に帰ったけど、一緒に帰りたいという栞の希望から、僕は校舎の外にあるベンチで待つことに。
 授業間の休み時間に女子生徒が僕の前を通るけど、決まって僕のことを物珍しげな視線で見ていた。何か騒がれても、来校者の札を首から提げているのできっと大丈夫……だと思いたい。


 午後3時半頃。
 放課後になったのか生徒さんが校舎から続々と出てきた。もうすぐ栞に会えるかな。
 僕の座っているベンチからは広大なグラウンドが見える。陸上トラックも整備されているので、ここでは陸上部の活動が行われるのだと思う。実際に準備運動をしたり、トラックの上で走ったりする生徒さんがいる。
 一際目立っているのは、背の高い金髪の女子生徒。亜実のようにポニーテールにしている。全力でトラックを走っているからかとても速い。僕よりも速いんじゃないか? 走った後に周りの女生徒からキャーキャー騒がれている。王子様的女子という感じ。見た目は亜実にどことなく似ている。

「男の子でも、あやちゃんの走りに釘付けになるんだね」

 気付けば、僕のすぐ側に天羽女子の生徒が立っていた。セミロングの茶髪が印象的で顔もかなり可愛らしい。
 あと、あの金髪の人は絢という名前なのか。

「その制服……八神高校のものだね。君が栞ちゃんの彼氏の新倉悠介君かな」
「はい、そうです」
「やっぱり。あなたの王子様エピソードはもう学校中に知れ渡っているよ。まさか、こういう展開になるとは……」
「ちょっと待ってください。色々と訊きたいことがあるのですが。どうして、あなたは僕のことを知っているんですか? それ以前にあなたは……」
「ごめんごめん。名前を言うのを忘れていたね。私の名前は坂井遥香。この学校に通う2年で、栞ちゃんとは茶道部で一緒に活動してるよ」
「えええっ!」

 驚きのあまりのけぞってしまった。
 こ、この人が栞の話に登場していた坂井先輩だったのか。栞が物凄く尊敬しているし、栞の背中を押した人なのでレジェンドのように思える。

「そんなに驚くってことは、栞ちゃんから私の話をされたんだね」

 坂井先輩は僕の横に座る。

「あと、あなたが見ていた金髪の女の子は私の彼女なの」
「ああ、かっこかわいい彼女さんですよね。栞から聞きました」
「かっこかわいい……あははっ、まさにその通りかな」

 頬をほんのりと赤くして笑う坂井先輩。

「栞ちゃんにたくさん相談されたからね。一度でいいから、あなたに会ってみたいと思ったの。そうしたら、今日、昼休みに八神高校の制服を着た男の子が1年2組にいるって話を聞いたの。もしかしてと思ったんだけど……どうやら、ビンゴだったみたい」

 坂井先輩も僕と同じことを思ってくれていたのか。きっと、栞との繋がりが強い証拠だろう。

「僕が言うのは何ですけど、色々と栞にアドバイスしてくれたみたいで。ありがとうございました」

 栞に喫茶店で坂井先輩からアドバイスを貰ったと話されて以来、一度会ってお礼が言いたかった。だから、この場で言えて良かった。

「お礼を言われるほどのことはしていないよ。私の周りには素直になれなくて恋に悩む人が多いからね。恋愛相談されるのは慣れているの。それもあってか、私も色々なことを経験してきたけれどね」

 何という主人公体質。坂井先輩は快活な笑みを見せているけど。きっと、彼女に相談した人達は、みんないい方向へ進んだんだろうな。
 今回のことも、自分のことを素直に言葉に出せなかったことから起こったことだ。素直になることは簡単なようで、本当はかなり難しいことなのだろう。

「栞ちゃんは普段は大人しくて控え目な子で。でも、あなたの話をするときはとても目を輝かせて、積極的に話してくれるの。あなたのことが本当に好きなんだって分かる」
「そうですか」
「昨日の部活では元気がなさそうだった。最初はあなたが浮気者かもしれないと思ったけれど、栞ちゃんは信じていたみたい。こうなったのには理由があるって」

 その読みは見事に当たっていた。信じてくれていたのが嬉しい。
 しかし、栞は鏡原駅で僕と亜実が一緒にいたところを見て、やはり僕と亜実は付き合っていると思い込んでしまった。今でもちょっと胸が苦しくなる。

「理由はどうであれ、栞に寂しい想いをさせてしまったことに変わりありません。これからは、彼女の側にもっといたいと思います」
「それが一番いいと思うよ。君ならきっと栞ちゃんを幸せにできる。何せ、わざわざ教室まで行って、好きだと言って抱きしめちゃうもんね」
「……僕も栞に会いたかったんですよ。栞の顔を見たら思わず……」
「ヒューヒュー! かっこいいぞー」

 坂井先輩は楽しそうにからかってくる。茶目っ気のある人だな。
 しっかし、こうして自分のしたことを言われると、恥ずかしい気持ちになってくるな。勢いで教室まで会い行ったけれど、僕……大胆なことをしたんだなぁ。何か顔が熱くなってきた。

「でも、栞ちゃんは素敵な人に巡り会えたと思う。安心した」
「坂井先輩にそう思い続けてもらえるように頑張ります」
「頼もしいね」

 この先、今回のようなことが起こらないのが一番だけど、栞を守っていけるように頑張っていこう。

「さてと、私はそろそろ退散しようかな。栞ちゃんも来たみたいだし」
「えっ?」

 僕が気付いたときには、既に栞がこちらに向かって歩いてきていた。坂井先輩がいることにも気付いたようで、驚きの表情を見せる。

「あ、あれ? 悠介君と遥香先輩が一緒にいる」
「たまたま彼を見つけたから、ちょっとお話ししてた。栞ちゃんの話を聞いて、新倉君と一度会ってみたいと思っていたからね」
「そうだったんですか。坂井先輩、ありがとうございました。悠介君が私を迎えに来てくれました」

 幸せに満ちた笑みを浮かべ、栞はそう言う。
 迎えに来た、か。まあ、そういう風に考えることもできるか。

「栞ちゃんは今日一番、いや今年一番のヒロインかもね」
「いえいえ、そんな……」

 照れているからか頬だけだった赤みが、栞の顔全体に広がっていく。

「でも、あの後……色々と訊かれたでしょ? 新倉君のこととか、新倉君のこととか、新倉君のこととか!」
「ええ、まあ。それでちょっと来るのが遅くなっちゃった。ごめんね、悠介君」
「気にしないで。それにさっきから、相当なことをしたんだなと思っていたところだし」

 鏡原駅でも会えなかったから、もう学校に行って直接会うしかないと思って。きっと、今日のように早く学校が終わらなければ、こういうことはしなかったと思う。おそらく、校門の前で栞を待つぐらいだろう。

「あぁ、2人を見ていると暑い暑い。でも、私も去年は絢ちゃんとこんな感じだったんだろうなぁ」

 何かを思い返すように坂井先輩は呟く。

「悠介君、そろそろ帰ろうか」
「そうだね。坂井先輩、失礼します」
「うん。私は絢ちゃんの練習の様子を見ていようかな。栞ちゃん、せっかく新倉君がお迎えに来てくれたんだから、明日からの連休は2人でたっぷりと楽しみなさい」
「はい、遥香先輩」
「じゃあ、今度会うのは来週の木曜の部活かな」
「そうですね。では、失礼します」
「うん、じゃあね」

 坂井先輩は笑顔で僕達に手を振る。
 僕と栞は手を繋いで天羽女子を後にするのであった。もう離れないと互いの手をいつもより強く握りながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

処理中です...