心に咲く花

桜庭かなめ

文字の大きさ
29 / 42

第28話『漏らしたのは、だれ?』

しおりを挟む
 浅利部長と三好副部長が帰った頃には陽も大分沈んでいたので、僕は夕食の仕度を始める。料理は好きなので気分転換になるだろう。
 ――プルルッ。
 スマートフォンが鳴っているな。もうすぐパートも終わる時間だから母さんかな?
 確認してみると、緒方からメッセージが届いていた。

『気分はどうだ? 神岡は元気なかったけれど、早退することはなかった』

『カミングアウトの内容を漏らした人間はまだ分かってない』

 伊織のことは浅利部長と三好副部長から聞いていたけれど、カミングアウトの内容を漏らした人は……やっぱり、まだ見つかっていないか。見つかったらきっと、すぐにメッセージや電話をかけてくると思うし。

『朝よりは大分良くなったよ』

『漏らした人が早く見つかるに越したことはないけどね。そういえば、瀬戸さんはどう?』

 瀬戸さんについては緒方からが一番訊きやすい。伊織ほどじゃないけれど、彼女は僕がカミングアウトをしたことで色々と考えているようだし、今朝もあまり顔色が良くなかった。なので、ずっと気になっていた。
 すると、すぐに緒方からメッセージが届き、

『神岡が元気ないからかもしれないが、あまり笑顔を見せなかったな。友達の女子にはたまに見せていたけど、それは作り笑いだったよ』

 やっぱり、瀬戸さんはあまり元気じゃなかったようだ。今朝の伊織はとても落ち込んでいたからな。あのままだったのなら、瀬戸さんが元気じゃなかったのも頷ける。

『神岡と瀬戸が元気なかったから、俺と天宮先生でクラスメイトには沖田のことはしっかりと伝えておいた。お前が着拒設定にしているからなのか、謝罪のメッセージを送れなくてがっかりしている奴もいたよ』

 2人のおかげで少しはクラス内の状況は良くなっているのかな。あと、着拒でメッセージが送れないというのは、意外とダメージを与えてしまうようだ。だからといって、その設定を解除する気はまだないけれど。

『分かった。ありがとう』

 というメッセージを送ると、『既読』の2文字が表示されただけで、彼から新しいメッセージが送ってくることはなかった。
 夕食を作り終わったところで両親が仲良く帰宅してきたので、それから程なくして僕は3人で夕食を食べた。
 食事の後は、片付けを両親に任せて僕は自分の部屋に戻った。
 寒いのでベッドの中に入ると、夕方に浅利部長がふとんを被っていたからか、彼女の匂いが感じられた。抱きしめられているときにも思ったけれど、2歳年上の気品のある女性のものだからか、とても安心感のある匂いだ。夜になったからか眠気を誘う。
 ――プルルッ。
 スマートフォンが鳴っているので確認すると、天宮先生から通話が来ている。今日のことを教えてくれるのかな。

「はい、沖田です」
『天宮です。体調や気分はどうかな、沖田君』
「家でゆっくりしていたので、気持ちは大分落ち着いてきました」
『そっか、それなら良かったよ。夕方くらいに、沖田君の家に千佳ちゃんと朱里ちゃんが来た?』
「ええ、来ましたよ。放課後に先生から住所を教えてもらったと言っていました。生徒の個人情報を教えちゃっていいんですか? 僕の許可無しに」
『許可を取らなかったのは……ごめんなさい。でも、2人のことは信頼しているからね』
「……そうですか」

 さすがに、浅利部長と三好副部長だから教えたのか。2人のおかげで、いくらか気持ちが軽くなったのは事実だ。

「ところで、学校での伊織の様子はどうでしたか? 伊織から全然連絡がなくて。今朝のこともあってか、僕からもメッセージを送ることも躊躇ってしまって、一度も連絡を取れていないんです」
『なるほどね。1時間目は緊急にクラス会を行なってね。その間に伊織ちゃんが戻ってきたの。酷く落ち込んでいて、思い悩んでいたように見えたわ』

 1時間目になってから、伊織は戻ってきたのか。それだけ俺のことを考えていたんだろう。

「そうですか。きっと、僕の心が女性であることを今まで隠していたことが原因だと思います。あと、夕方に緒方から聞いたんですけど、先生と彼が僕のことをクラスメイトに伝えてくれたんですよね。それって1時間目に?」
『そうそう。伊織ちゃんほどじゃないけれど、彩音ちゃんも元気がなかったから、私と緒方君で沖田君のことを話したの。心と体の性別の違いっていう大切なことを突然伝えたから、戸惑っている生徒も多かったかな。でも、謝ろうと沖田君に電話をしようとした子もいたんだよ。着拒で電話できないから、ショックを受けていたけれど』

 また、着拒でショックか。それによって、僕の受けた痛みや苦しみとかがどんなものだったのか少しでも分かってくれればいいな。自業自得だけど。

『しばらくはそっとしておきなさいって言っておいたから、沖田君が直接カミングアウトした人以外からは連絡は来ないと思うよ』
「分かりました。ありがとうございます」
『ただ、カミングアウトの内容は噂で知った生徒ばかりだから、当然……その噂は誰から流されたものなのかが話題に上がったわ』
「そうですか。緒方の話だと、まだ分かっていないそうですが」
『うん。緒方君が言っていたけれど、沖田君のカミングアウトを盗み聞きした生徒がいるかもしれないから、その可能性も考えて引き続き調査していくよ』
「よろしくお願いします」

 すぐに見つかればいいけれど、緒方の言うように、盗み聞きした生徒が広めたのだとしたら見つけるのは難しそうだ。
 あと、もう一つ先生に訊きたいことがあった。

「……あの、先生」
「うん?」
「僕、これまで通りに学校に通うことはできるのでしょうか。僕の心が女性だと知ったことで、周りの生徒に迷惑を掛けてしまうと思って……」

 男性として生きて、男性として周りから扱われることに特に嫌悪感はない。カミングアウトしていなければ、僕の気持ちの持ちようで事が済んだのだ。
 でも、今は違う。僕の心が女性であるとカミングアウトしたことで、僕を女性として見るようになる人もいるだろう。変わらずに男性として見る人もいるだろう。それならいいけれど、体と心で2つの性別の持っている僕を、どうやって見ればいいのかどうか分からない人も出てくる。

「もし、学校に復帰したとき、教室には僕の席はあるのでしょうか」

 学校は生徒を男子と女子で区別している。人によっては体は男、心は女の僕をどちらの性別にも属さないと考えると思う。

『……この時間に電話を掛けたのは、沖田君のことで緊急の職員会議が開かれたからなんだ。うちの学校ではこれまでに例のないことだけれど、沖田君の気持ちを尊重して学校として対応していくことになったよ』
「……そうですか」
『職員会議でも、問題となっているのは、そんな沖田君に心ない言葉を放った生徒が複数人いたこと。そして、沖田君のカミングアウトの内容を漏らした生徒がいたこと。沖田君のことは今や校内中に広がっている。だから、学校としても調査するつもりだって沖田君に言うために電話をしたんだよ』
「そうだったんですね。ありがとうございます。これから、色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」

 今朝の教室での雰囲気を考えたら、学校の対応もきっといい加減なんだろうって勝手に思っていた。信じるまではいかないけれど、今は天宮先生に任せることにしよう。

『いえいえ。可愛い生徒のためだから。沖田君、ゆっくり休んで。どこかに遊びに行ったりして楽しい気持ちになるのもいいかもね』
「……考えてみます」
『じゃあ、早いけれどおやすみ。また何かあったら連絡するね』
「はい。おやすみなさい」

 先生の方から通話を切った。
 どうやら、白花高校の生徒として生活することに大きな支障はないようだ。
 ただ、今は……カミングアウトの事実が流れたことでできてしまった空気をどう変えるか。その事実を漏らした人は誰なのか。それが最優先事項だろう。



 しかし、僕がカミングアウトした内容を漏らした人については、翌日の午後にあっさりと明らかになった。
 緒方からの電話でそのことを聞いた。カミングアウトの内容を漏らした人は、

『……瀬戸だった。SNSを使って、沖田がカミングアウトした内容を噂として広めたそうだ』

 そのことを終礼が始まる前に伊織と緒方の前で話したという。僕を伊織から引き離すためにカミングアウトの内容を広めたそうだ。
 しかし、その事実を話した瀬戸さんへの代償はとても大きかったようで。

 目の前で伊織が号泣し、瀬戸さんは伊織から絶交すると宣言されてしまったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...