サクラブストーリー

桜庭かなめ

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本編-新年度編-

第64話『ひさしぶりに-中編-』

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「よし、これで体の方も終わり……っと」

 サクラに何かいたずらされることもなく、俺は体を洗い終えた。
 ボディータオルを濯ぎ終わると、サクラが「戻してあげる」と言ってくれた。なので、その厚意に甘えることに。

「ダイちゃん、湯船に入ってきていいよ。私、目を瞑っているから気にしないで。見られたら恥ずかしいところは隠しているから、ダイちゃんは目を開けながら入ってきていいからね。あと、入ったら、私みたいに扉の方を向いてくれるかな」
「分かった。じゃあ、入るぞ」
「うん。……わ、私が目を瞑っているからって、変なことはしないでね」
「もちろんさ」

 俺はバスチェアから立ち上がり、湯船の方に振り返る。
 俺が入りやすいようにするためか、サクラは端で浴室の扉の方を向きながら湯船に浸かっている。目を瞑り、左腕で胸を隠していた。ヘアグリップで髪をまとめているため、普段と違う髪型になっているのもいい。うなじにそそられる。そんなサクラがとても美しいから、抱きしめてしまいたくなる。
 サクラへの欲望を少しでも押さえるためにも、湯船に足を踏み入れるとすぐに扉のある方へ向き、そのまま正座の形で座った。サクラに見られてしまったら恥ずかしい部分に両手を添えて。
 お腹のあたりまでしかお湯に浸かっていない。だけど、隣にサクラがいることでドキドキしているので、むしろこのくらいでちょうどいい。

「サクラ。もう目を開けても大丈夫だぞ」
「うん」

 サクラは目を開け、俺の方に視線を向ける。俺と視線が合った瞬間に微笑む姿は、普段よりも大人っぽく思えた。

「き、気持ちいいね、お風呂」
「そ、そうだな。4月も後半になったけど、夜になると肌寒くなる日があるもんね」
「うん」

 ゆっくりと首肯するサクラ。
 それから少しの間、無言の時間が流れる。自分の心音以外で聞こえるのは、互いの髪や体から水滴が湯船に落ちる音がくらい。

「ド、ドキドキするけど、ダイちゃんと一緒に湯船に浸かるっていいね」

 優しい声色でサクラはそう言ってくれる。サクラの方を見ると、サクラは柔らかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「そうだな。ただ……こうして扉の方を向いて隣同士に座るのは、何だか変な感じがするけど」
「家のお風呂だからかな。でも、ホテルの大浴場とかに行くと、隣同士に座って一緒に入るよね」
「大浴場とか露天風呂はかなり広いからな。そういう広い風呂でゆったりと浸かるのもいいけど、サクラと2人きりで入るなら、このくらいのサイズでもいいかな」
「……私も同じようなことを思ってた」

 そう言うと、サクラは少しだけ俺の方に寄ってくる。そのことで、彼女の腕や脚がそっと触れてきて。肌と肌で触れ合っているので、サクラの柔らかさが凄く伝わってくる。

「ほんのちょっと動いただけで、ダイちゃんと体が触れるんだね。今は2人で並んで座ってちょうどいい感じなんだね。小さい頃は和奏ちゃんと3人で入っても、まだ余裕があったのに」
「それだけ俺達も大きくなったってことだな。次に和奏姉さんが帰省したときには3人で入ることになったけど、物理的な意味で一緒に湯船に浸かれるのかね」
「……和奏ちゃんなら、何が何でも3人一緒に入りそう」
「……姉さんならあり得そうだ」

 たとえば、俺かサクラのことをぎゅっと抱きしめたり、俺の膝の上に座ったりとか。
 それにしても、サクラと肌が触れているからか、今まで以上に彼女のことを意識してしまい、彼女の顔だけじゃなく体にも自然と視線が向いてしまう。左手と腕で一部を隠しているけど、胸……大きくなったな。そこにはユートピアが広がっている。

「もう、ダイちゃんのえっち。胸をじっと見て」
「ご、ごめん!」

 慌てて視線をサクラの顔の方に戻すと、そこには優しく微笑むサクラが。

「ダイちゃんの視線が胸に向いているのがはっきり分かったから、つい。こんな状況だから、胸を見ちゃうのも仕方ないよ。恋人のダイちゃんなら……恥ずかしいけど、嫌だって気持ちは全然ないし」
「……そうか。でも、ごめんな」

 怒っていないのが幸いだ。サクラとは恋人の関係にもなったけど、礼節をもって接することを心がけなければ。

「それで……ど、どう? 一部分だけだけど胸を見た感想は」
「へっ?」

 心がけた直後の質問だったので、思わず間の抜けた声が出てしまった。浴室だからかその声がやけに響く。そのことが面白かったのか、サクラはクスクスと笑った。

「まさか、感想を聞かれるとは思わなかった?」
「恥ずかしいって言っていたし。えっと、その……お、大きくなったように見えるな」

 正直にそう言ってしまったけど、果たしてこれが正解だったのかどうか。サクラがどう反応するか怖いけど、俺は彼女の顔を見続ける。
 胸の感想を言われたからか、頬の赤みが強くなったけど、サクラの顔から笑みは消えない。

「良かった。3年前のあの日、身体が子供っぽいって言われたから。今はダイちゃんの照れ隠しだって分かっているけど、あのときは傷ついたんだからね。当時は全然胸が大きくならないことに悩んでいたから」
「そうだったのか。……すまない」
「ふふっ。遅かった成長期なのか、大人っぽくなろうって頑張った成果か、距離ができてから背や胸が大きくなったの。それで、今は……Cカップになりました」
「……そ、そうか。大人っぽくなったな」

 そうか。Cカップか。これがCカップなのか。可愛い胸だな。CカップはのCはCuteのC。覚えておこう。
 そういえば、春休みに和奏姉さんが帰省したとき、姉さんが「Cカップくらいある」って言っていたっけ。その目測は見事に当たっていたことになる。すげえな。

「ありがとう。ダイちゃんは……大きい胸って好き?」
「……す、好きだよ」

 まあ、サクラの胸ならどんな大きさでも好きだけど。それを言ったら変態だと引かれそうなので心に留めておく。

「じゃあ、もしこれからも大きくなっても大丈夫だね」

 嬉しそうにサクラは言った。
 サクラの母親の美紀さんの胸はかなり大きめ。だから、まだまだこれからサクラの胸が成長する可能性はあるんじゃないかと思う。ただ、胸の大きさは遺伝は関係がなく、生活習慣次第とも言われているそうだが。

「ねえ、ダイちゃん」
「うん?」
「今日はずっとダイちゃんと一緒にいたいな。だから……ひさしぶりに私のベッドで一緒に寝よ?」

 上目遣いで俺を見つめながら、普段よりも甘い声でそうお願いしてくる。

「もちろんいいよ、サクラ。俺も今日はサクラと一緒に寝たいと思っていたから」
「うんっ! じゃあ、約束のキスをして?」
「分かった」

 俺がそう言うと、サクラは少し顔を上に向けて、目をゆっくり瞑る。そんなサクラも凄く可愛いと思いながら、彼女にキスをする。
 素肌を晒して、一緒に湯船に浸かりながらのキス。だから、背中を流してもらったとき以上にドキドキして。サクラがうるさいと思うんじゃないかと思うくらいに、心臓がバクバクしている。サクラの方はどうなんだろう。
 このままだと心臓が破裂して、のぼせてしまいそうだ。サクラから唇を離すと、

「もっとしたい」

 サクラのそんな声がした瞬間、今度はサクラから唇を重ねてきた。だから、さっきとは違ってサクラに唇を包まれているような感じがする。
 依然として鼓動は激しいものの、その鼓動が段々と心地良く感じられるように。きっと、激しくなる原因がサクラとのキスだからなのだろう。
 やがて、サクラの唇が離れたのが分かったので、ゆっくりと目を開けると、そこには顔を真っ赤にしてうっとりとした表情のサクラがいた。

「……キスって凄く気持ちいいことだって改めて思った」
「気持ちいいよな」
「うんっ。でも、お風呂でキスしたから、凄く身体が熱くなっちゃった。もうそろそろ出ようかな」
「背中を流してくれたとき以外は、俺が入ってきてからずっと湯船に浸かっているもんな。先に上がっていいよ。俺、目を瞑っているから」
「分かった。目を開けていいよって言うからね」
「ああ。サクラが出たら、俺も出るから」
「うん。じゃあ、出ていいときにもちゃんと言うね」
「了解」

 俺が目を瞑るとすぐに水の音が聞こえ、浴室の扉が開閉する音がした。

『目を開けていいよ~』
「おう」

 サクラにそう言われたので、ゆっくりと目を開ける。正座から脚を伸ばす姿勢に変えるととても気持ちがいい。ついさっきまでサクラが入っていたから、いつもよりもお湯が温かいような気がする。
 浴室の扉の方を見ると、曇りガラスにぼんやりと人影が見える。ただ、その人影の正体がサクラだと分かっているので、かなりドキドキしてしまうのであった。
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