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続編-螺旋百合-
第21話『秋の始まり』
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9月1日、木曜日。
今日から季節も秋になって、2学期が始まる。勉強ももちろんだけれど、この2学期の間に声楽コンクールがあるので頑張っていかないと。
午前7時半。
私は智也さんと一緒に桜花駅へと向かう。智也さんの会社と私の学校が同じ方向だったらいいんだけれど、残念なことに反対方向。桜花駅で別れなければならない。
「まさか、こうやって美来と一緒に歩くときが来るなんてね」
「そうですね。夢のようです。これで智也さんとしばらくの間、朝の電車に乗ることができたら最高なのですが。電車の中でイチャイチャできますから」
「美来と一緒なら通勤も楽しそうでいいけれど、痴漢と間違われそうで怖いよ」
「そういうときは私が大声で『旦那でーす』って言えばいいだけのことです」
「そ、そういうものなのかな」
最近は痴漢についてもしっかりと報道するようになったからね。もちろん、中には痴漢冤罪で酷い目に遭ってしまう人もいるみたいけど。難しい問題だ。
「でも、痴漢には気を付けなよ、美来」
「はい。智也さんこそ痴漢冤罪には気を付けてくださいね」
「……もう冤罪は懲り懲りだよ」
「ですね。私は桜花駅が最寄り駅のクラスメイトの友人がいますので、その子と一緒に学校へ通うつもりです。彼女が7時半過ぎに桜花駅の改札口で待ち合わせをしようって言ってくれて」
「そうだったんだね。だから、僕と一緒に家を出発したんだ。桜花駅が最寄り駅の友達がいるのは心強いね」
「そうですね」
たとえ待ち合わせが7時半より遅かったとしても、智也さんと一緒に家を出発するつもりだったけれど。
そんなことを話していると桜花駅の改札口に到着する。すると、約束通り、私と同じ制服を着た天羽女子の制服を着た女の子が立っていた。
「亜依ちゃん!」
「あっ、美来ちゃん!」
佐々木亜依ちゃん。私と同じ1年2組の生徒で、天羽女子に編入してきて最初にできたお友達。優しい雰囲気を醸し出す落ち着いた女の子だ。
「美来、彼女がクラスメイトの?」
「はい、そうです。佐々木亜依ちゃんといいます。それで亜依ちゃん、こちらの素敵な男性が結婚を前提に付き合っている氷室智也さん」
「へえ、美来ちゃんの言う通り、かっこいい人だね。……初めまして。私、美来ちゃんのクラスメイトで友人の佐々木亜依といいます。よろしくお願いします」
「初めまして、氷室智也といいます。美来とは結婚を前提に付き合っていて、8月の半ばからここから徒歩10分くらいのマンションで同棲しているよ。よろしくね」
「はい。美来ちゃんから写真でお顔は知っていましたけれど、実際に会ってみるとやはり素敵な方ですね」
「どうもありがとう、嬉しいよ。美来がここから通うの今日が初めてだから、佐々木さん……美来のことをお願いするね」
「もちろんです!」
「ありがとう。美来が天羽女子に編入してまだ日が浅いから、ちょっと不安だったけれど、こんなに近くにクラスメイトのお友達がいるって分かって安心したよ」
智也さんは爽やかな笑みを浮かべている。前の高校では色々とあったから、天羽女子でも上手くやっていけているかどうか不安だったのかも。
それにしても、こんなに素敵な智也さんの笑顔を見ていると、これから反対方面の電車に乗るのがちょっと辛い。
「あっ、僕の方……そろそろ電車が来そうだ。じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい、智也さん」
「お仕事頑張ってくださいね!」
「うん。2人とも、学校まで気を付けて行ってね。特に痴漢には」
そう言って、智也さんは改札口を通って、急ぎ足で私達とは反対側のホームへと向かっていった。走って行く後ろ姿もかっこいい。
「美来ちゃん、素敵な彼氏さんですね。一目見て、お似合いだと思いましたよ」
「ありがとう」
亜依ちゃんは誰に対しても敬語で話す。でも、本人にとってこれが落ち着くみたい。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「うん、よろしくお願いします」
もちろん、ここから天羽女子に向かうルートは分かっているけれど。朝の時間帯に実際にこうやって学校へ行くのは初めてなので、亜依ちゃんが一緒なのは心強い。
私達も改札を通って、智也さんの向かった方とは反対側のホームへと向かう。
「乗り換えをするときにちょっと時間がかかりますけれど、先頭車両はちょっと空いているからそっちの方に行きましょうか。この時間でしたら登校時間に余裕で間に合うと思いますから」
「うん」
実家から天羽女子に通うときも電車に乗っていたけれど、そのときも空いている車両を選んで乗っていた。
確かに、先頭の方はあまり人が並んでいないな。
「そういえば、美来ちゃん。大きなバッグを持っていますね」
「ああ、これね。夏休みに智也さんと一緒に旅行へ行ったからそのお土産。声楽部の先輩方にも渡そうと思ってね。もちろん、亜依ちゃんの分もあるよ」
「そうなんですか、嬉しいですね」
今日は2学期の始業式だけなので、午前10時くらいには終わる。その後、すぐに声楽部の集まりがあるので、部活の生徒にはその時にお土産を渡すつもり。
そんなことを話していると、すぐに急行列車が到着する。ちなみに、この桜花駅も、潮浜線に乗り換える畑町駅も、学校の最寄り駅である鏡原駅も全て急行列車が停車する。通学するにはとても便利だ。
亜依ちゃんと一緒に電車に乗ると、程なくして次の急行停車駅である畑町駅に向かって発車する。
「さすがに座れないみたいだけれど、ギュウギュウってほど混んでいなくて良かった。いつもこんな感じ?」
「ええ、そうですよ」
今も亜依ちゃんと体が触れてしまうくらいに近くて、シャンプーなのか彼女の長い黒髪からは甘い匂いがほのかに感じる。
「こっち側は下り線だからまだマシですが、氷室さんの方が乗っている上り線は端の車両でもキツいそうですよ。上りの電車に乗るお父さんから聞いたことがあります」
「そういえば、智也さんもそういったことを言ってた。初めて乗ったときは真ん中の車両に乗ったから地獄のようだったって。それからは先頭車両に乗るようになったけど、それでもなかなかの混みようだって」
「多くの駅が真ん中の車両の近くに階段があるので、通勤や帰宅の時間は地獄って言っても過言ではないみたいです」
「そっか……」
混んでいるなら、それこそ智也さんと一緒に乗りたかったな。智也さんに密着して、智也さんの温もりや匂いを感じて、智也さんの吐息が頭にかかって、智也さんの肌に流れる汗を舐めて……あぁ、想像しただけでドキドキしてきちゃう。
「美来ちゃん、今……氷室さんのことで色々と想像していますよね?」
「えっ、わ、分かっちゃった?」
「1学期の頃から、氷室さんの話をしたときの笑顔は素敵ですから。それに、氷室さんのことを想像するときはニヤニヤしたり、顔が赤くなったりしますよ」
「そっか、顔に出ていたんだ。ちょっと恥ずかしいかも」
「ふふっ。私も、美来ちゃんのように思い浮かべると笑顔になれる恋人がいつかはできるのでしょうか。男の子でも、女の子でも」
「……いつか来るんじゃないかな」
亜依ちゃん、とても素敵な女の子だし……性別問わず人気がありそうな気がする。うちは女子校だし、つい最近……桃花さんと仁実さんっていう幼なじみのカップルもできたこともあってか、亜依ちゃんが誰か女子と一緒に仲睦まじくしているところを想像してしまう。
「それよりも、美来ちゃん。夏休みの話を聞かせてくれますか? 氷室さんと同棲し始めて、旅行もしたんでしょう? 私、ずっと楽しみにしていたんです」
「そうだね。色々と話したいことはあるけれど、話に集中して乗り過ごさないように気を付けないと」
「そこは私に任せてください」
「うん。じゃあ……そうだね。何から話そうかな……」
「氷室さんと楽しい時間を過ごしていたんですよね」
「もちろん! 引越しとか、旅行とか、智也さんの従妹が遊びに来るとか色々とあったけれどね」
「それだけ話題があるなら、たくさん楽しい話が聞けそうです」
亜依ちゃんに夏休みの思い出を話し始める。といっても、それは智也さんとの思い出とも言えるんだけれど。
亜依ちゃんにちょくちょくからかわれながらも、その度に智也さんの顔を思い浮かんだからか、恥ずかしい気持ち同時に温かな気持ちが生まれて。
新しい家からの初めての登校は、亜依ちゃんのおかげでとても楽しむことができたのであった。
今日から季節も秋になって、2学期が始まる。勉強ももちろんだけれど、この2学期の間に声楽コンクールがあるので頑張っていかないと。
午前7時半。
私は智也さんと一緒に桜花駅へと向かう。智也さんの会社と私の学校が同じ方向だったらいいんだけれど、残念なことに反対方向。桜花駅で別れなければならない。
「まさか、こうやって美来と一緒に歩くときが来るなんてね」
「そうですね。夢のようです。これで智也さんとしばらくの間、朝の電車に乗ることができたら最高なのですが。電車の中でイチャイチャできますから」
「美来と一緒なら通勤も楽しそうでいいけれど、痴漢と間違われそうで怖いよ」
「そういうときは私が大声で『旦那でーす』って言えばいいだけのことです」
「そ、そういうものなのかな」
最近は痴漢についてもしっかりと報道するようになったからね。もちろん、中には痴漢冤罪で酷い目に遭ってしまう人もいるみたいけど。難しい問題だ。
「でも、痴漢には気を付けなよ、美来」
「はい。智也さんこそ痴漢冤罪には気を付けてくださいね」
「……もう冤罪は懲り懲りだよ」
「ですね。私は桜花駅が最寄り駅のクラスメイトの友人がいますので、その子と一緒に学校へ通うつもりです。彼女が7時半過ぎに桜花駅の改札口で待ち合わせをしようって言ってくれて」
「そうだったんだね。だから、僕と一緒に家を出発したんだ。桜花駅が最寄り駅の友達がいるのは心強いね」
「そうですね」
たとえ待ち合わせが7時半より遅かったとしても、智也さんと一緒に家を出発するつもりだったけれど。
そんなことを話していると桜花駅の改札口に到着する。すると、約束通り、私と同じ制服を着た天羽女子の制服を着た女の子が立っていた。
「亜依ちゃん!」
「あっ、美来ちゃん!」
佐々木亜依ちゃん。私と同じ1年2組の生徒で、天羽女子に編入してきて最初にできたお友達。優しい雰囲気を醸し出す落ち着いた女の子だ。
「美来、彼女がクラスメイトの?」
「はい、そうです。佐々木亜依ちゃんといいます。それで亜依ちゃん、こちらの素敵な男性が結婚を前提に付き合っている氷室智也さん」
「へえ、美来ちゃんの言う通り、かっこいい人だね。……初めまして。私、美来ちゃんのクラスメイトで友人の佐々木亜依といいます。よろしくお願いします」
「初めまして、氷室智也といいます。美来とは結婚を前提に付き合っていて、8月の半ばからここから徒歩10分くらいのマンションで同棲しているよ。よろしくね」
「はい。美来ちゃんから写真でお顔は知っていましたけれど、実際に会ってみるとやはり素敵な方ですね」
「どうもありがとう、嬉しいよ。美来がここから通うの今日が初めてだから、佐々木さん……美来のことをお願いするね」
「もちろんです!」
「ありがとう。美来が天羽女子に編入してまだ日が浅いから、ちょっと不安だったけれど、こんなに近くにクラスメイトのお友達がいるって分かって安心したよ」
智也さんは爽やかな笑みを浮かべている。前の高校では色々とあったから、天羽女子でも上手くやっていけているかどうか不安だったのかも。
それにしても、こんなに素敵な智也さんの笑顔を見ていると、これから反対方面の電車に乗るのがちょっと辛い。
「あっ、僕の方……そろそろ電車が来そうだ。じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい、智也さん」
「お仕事頑張ってくださいね!」
「うん。2人とも、学校まで気を付けて行ってね。特に痴漢には」
そう言って、智也さんは改札口を通って、急ぎ足で私達とは反対側のホームへと向かっていった。走って行く後ろ姿もかっこいい。
「美来ちゃん、素敵な彼氏さんですね。一目見て、お似合いだと思いましたよ」
「ありがとう」
亜依ちゃんは誰に対しても敬語で話す。でも、本人にとってこれが落ち着くみたい。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「うん、よろしくお願いします」
もちろん、ここから天羽女子に向かうルートは分かっているけれど。朝の時間帯に実際にこうやって学校へ行くのは初めてなので、亜依ちゃんが一緒なのは心強い。
私達も改札を通って、智也さんの向かった方とは反対側のホームへと向かう。
「乗り換えをするときにちょっと時間がかかりますけれど、先頭車両はちょっと空いているからそっちの方に行きましょうか。この時間でしたら登校時間に余裕で間に合うと思いますから」
「うん」
実家から天羽女子に通うときも電車に乗っていたけれど、そのときも空いている車両を選んで乗っていた。
確かに、先頭の方はあまり人が並んでいないな。
「そういえば、美来ちゃん。大きなバッグを持っていますね」
「ああ、これね。夏休みに智也さんと一緒に旅行へ行ったからそのお土産。声楽部の先輩方にも渡そうと思ってね。もちろん、亜依ちゃんの分もあるよ」
「そうなんですか、嬉しいですね」
今日は2学期の始業式だけなので、午前10時くらいには終わる。その後、すぐに声楽部の集まりがあるので、部活の生徒にはその時にお土産を渡すつもり。
そんなことを話していると、すぐに急行列車が到着する。ちなみに、この桜花駅も、潮浜線に乗り換える畑町駅も、学校の最寄り駅である鏡原駅も全て急行列車が停車する。通学するにはとても便利だ。
亜依ちゃんと一緒に電車に乗ると、程なくして次の急行停車駅である畑町駅に向かって発車する。
「さすがに座れないみたいだけれど、ギュウギュウってほど混んでいなくて良かった。いつもこんな感じ?」
「ええ、そうですよ」
今も亜依ちゃんと体が触れてしまうくらいに近くて、シャンプーなのか彼女の長い黒髪からは甘い匂いがほのかに感じる。
「こっち側は下り線だからまだマシですが、氷室さんの方が乗っている上り線は端の車両でもキツいそうですよ。上りの電車に乗るお父さんから聞いたことがあります」
「そういえば、智也さんもそういったことを言ってた。初めて乗ったときは真ん中の車両に乗ったから地獄のようだったって。それからは先頭車両に乗るようになったけど、それでもなかなかの混みようだって」
「多くの駅が真ん中の車両の近くに階段があるので、通勤や帰宅の時間は地獄って言っても過言ではないみたいです」
「そっか……」
混んでいるなら、それこそ智也さんと一緒に乗りたかったな。智也さんに密着して、智也さんの温もりや匂いを感じて、智也さんの吐息が頭にかかって、智也さんの肌に流れる汗を舐めて……あぁ、想像しただけでドキドキしてきちゃう。
「美来ちゃん、今……氷室さんのことで色々と想像していますよね?」
「えっ、わ、分かっちゃった?」
「1学期の頃から、氷室さんの話をしたときの笑顔は素敵ですから。それに、氷室さんのことを想像するときはニヤニヤしたり、顔が赤くなったりしますよ」
「そっか、顔に出ていたんだ。ちょっと恥ずかしいかも」
「ふふっ。私も、美来ちゃんのように思い浮かべると笑顔になれる恋人がいつかはできるのでしょうか。男の子でも、女の子でも」
「……いつか来るんじゃないかな」
亜依ちゃん、とても素敵な女の子だし……性別問わず人気がありそうな気がする。うちは女子校だし、つい最近……桃花さんと仁実さんっていう幼なじみのカップルもできたこともあってか、亜依ちゃんが誰か女子と一緒に仲睦まじくしているところを想像してしまう。
「それよりも、美来ちゃん。夏休みの話を聞かせてくれますか? 氷室さんと同棲し始めて、旅行もしたんでしょう? 私、ずっと楽しみにしていたんです」
「そうだね。色々と話したいことはあるけれど、話に集中して乗り過ごさないように気を付けないと」
「そこは私に任せてください」
「うん。じゃあ……そうだね。何から話そうかな……」
「氷室さんと楽しい時間を過ごしていたんですよね」
「もちろん! 引越しとか、旅行とか、智也さんの従妹が遊びに来るとか色々とあったけれどね」
「それだけ話題があるなら、たくさん楽しい話が聞けそうです」
亜依ちゃんに夏休みの思い出を話し始める。といっても、それは智也さんとの思い出とも言えるんだけれど。
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