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第16話『夢であなたは』
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5月3日、日曜日。
目を覚ますと……頭痛は治まっていなかった。ただ、頭痛薬のおかげで、昨日に比べたらマシになっている。
あと、昨日とは違って体に熱っぽさを感じる。ベッドの中に熱がこもっているだけかと思って掛け布団をめくると……妙な寒気が。熱っぽさも取れない。どうやら、ひさしぶりに映画を観た後に風邪を引いてしまったみたいだ。
部屋の時計を見ると……今は午前8時近くか。頭痛薬を飲んだから結構眠れたのだろう。
ベッドから立ち上がると、体にだるさを感じる。辛い。
何とかして、1階のリビングへ行く。すると、キッチンで朝食を食べている両親と撫子の姿が見えた。
「あら、桔梗。おはよう……って、顔色が悪いわね」
「辛そうだよ。兄さん大丈夫?」
撫子は心配そうにして、僕のところに駆け寄ってくれる。
「頭痛は昨日よりマシになったけど、熱っぽくて。あと、だるい」
「体温計を出すから、兄さんはソファーで楽にしてて」
「ありがとう、撫子」
僕はソファーで横になる。ベッドのように気持ちよさはあまり感じられないけど、こうしていると体が楽ちんだ。
それからすぐに、撫子が体温計を持ってきてくれた。体温計で今の僕の体温を測ってみると――。
「38度3分。結構な熱だね」
「……そんなに高いか。じゃあ、今日はバイトを休まないとダメだな」
「ゆっくり休まないとダメだよ、兄さん。……確か、いつも行っている病院は日曜日も診察していたはず。お父さん、お母さん。日曜日も午前中は診察していたよね」
「確かそうだったと思うけど……どうかしら、お父さん」
「スマホで調べてみる。……うん、撫子の言う通り、午前9時からお昼の12時半まで診察しているね」
「……じゃあ、9時になったら病院に行ってくるよ。それまではベッドで横になってる」
僕は父さんに肩を貸してもらって、自分の部屋へと戻る。
スマホで店長に電話をして、今日のバイトは体調不良で休むことを伝えた。明日もシフトが入っているけど、まずはゆっくりと休んで体調を良くしてほしいと言われた。今日、サカエカフェで働くみなさん、ごめんなさい。
また、明日のバイトについては、明日の朝に連絡を入れることになった。
それから午前9時近くまで少しでも寝ようとしたけど、頭痛のせいか、眠ることはできなかった。
9時を過ぎたので、僕は近所にあるかかりつけの病院へ。だるさがマシになったので僕は1人で病院に行った。
先生に症状を伝えると「これは立派な風邪だね」と診断された。風邪に立派も不立派もないと思うけど。38度以上の熱が出ていて、昨日から頭痛が続いているからだろうか。
処方された薬をもらい、僕は家に帰った。
「おかえり、兄さん。お粥を作ったよ。少しでもいいから、お薬を飲むためにも食べよう」
「そうだね」
「じゃあ、用意してくるから、兄さんは寝間着に着替えて」
「うん。ありがとう、撫子」
僕は自分の部屋に戻って、撫子の言う通りに寝間着に着替える。
着替え終わった直後、撫子がお粥を持ってきてくれた。まだだるさが残っているので、僕はベッドに寄りかかるようにして座った。病院に行ってきたからか、この体勢でも楽に思える。
「兄さん、私がお粥を食べさせてあげる」
「いいのか?」
「もちろん。あと、今日は学校お休みだしお母さんもパートがあるから、私が看病するからね」
「……ありがとう」
撫子が看病すると言ってくれるだけで、ちょっと元気になってきたぞ。連休中に風邪を引くのはもったいない気がしていたけど、連休中で良かったかもしれない。僕は幸せ者だなぁ。
撫子は僕のお茶碗に入った塩をかけてスプーンで混ぜる。一口分のお粥をすくい、ふーっと息を吹きかける。
「はーい、兄さん。お粥ですよー。あーん」
「……あーん」
僕は撫子にお粥を食べさせてもらう。撫子が息を吹きかけたおかげでちょうどいい温かさだ。塩をかけただけのシンプルなお粥だけど、ほんのり甘くて美味しい。
「どうかな? 兄さん」
「……甘くて美味しいよ。温かさもちょうどいい」
そんな感想を言うと、撫子は安堵の笑みを浮かべる。
「良かった。じゃあ、こんな感じで食べさせてあげるね」
「……うん。ありがとう、撫子」
その後も僕は撫子にお粥を食べさせてもらう。撫子が作ってくれて、撫子に食べさせてもらっているからか、今まで食べたお粥の中でも一番美味しい。
僕に食べさせている間、撫子はずっと笑みを浮かべていた。こうするのが楽しいのだろうか。ただ、その笑顔のおかげでお粥の甘味に優しさを感じられ、お茶碗一杯分のお粥を食べても平気だった。
お粥を食べ終わったので、病院で処方された薬を飲んで寝るのであった。
「うんっ……」
目を開けると、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。ただ、この明るさは……まるで朝のようだ。もしかして、処方された薬の効果で朝までぐっすりと寝たのかな。
「あっ、起きたんだね。桔梗」
すぐ近くから、そんな女性の可愛らしい声が聞こえた。その声は最近になってよく聞くようになった声だ。声がした方にゆっくりと体を向けると、
「おはよう、桔梗」
「……おはよう、向日葵」
ベッドのすぐ側に向日葵が立っていたのだ。そんな向日葵はジーンズパンツに長袖のTシャツというシンプルな服装。そして、なぜかその上に赤いエプロンを身につけていたのだ。
「……どうしてエプロン姿なんだ?」
「朝ご飯を作ったからだよ」
「……わ、わざわざ家に来て朝ご飯を作ってくれたのか?」
僕が風邪を引いたことを撫子から聞いたのかな。それで心配になって僕の家に来て朝ご飯を作ってくれたと。向日葵がこんなにも優しいとは。病人だから優しくしてくれるのかな。嬉しいなぁ。ただ、向日葵の料理の腕前が未知数なので、一抹の不安が正直ある。
しかし、向日葵はちょっと不機嫌そうな表情になり、頬を膨らませる。
「もう、何を言ってるの? あたし達は夫婦になって、ここに一緒に暮らしているんでしょう?」
「……えっ?」
何を言っているんだろう、この子は。
ただ、向日葵の顔を見ていると、僕をドッキリさせようという感じはしない。本気で夫婦だと言っているように見える。ということは、つまり。
「……これは夢か」
「もう何を言っているのよ。夢じゃなくて現実なの。一緒にシスコンになろうよって桔梗らしい言葉でプロポーズをしてくれたじゃない。今でも笑っちゃう」
そのときのことを思い出しているのか、向日葵は楽しそうに笑う。
現実でも、向日葵がかぐやと初対面したときに同じような言葉を言ったな。そのときは向日葵に「なるわけない」と断られたけど。夢の中ではプロポーズとして言ったのか。僕らしいのは否定しないけど、実際にプロポーズするとしたら別の言葉を使うよ。
それにしても、向日葵と夫婦になる夢を見るとは。熱にうかされているのかな。昨日から続く頭痛のせいかも。それとも、処方された薬の影響だったりして。あと、向日葵とは昨日は偶然ではあるけど、映画を隣同士の席で観て、感想を楽しく語り合ったし。
「……そんなに見つめられると照れちゃうよ。でも、幸せだな」
頬を赤くしながらそう言うと、向日葵はやんわりとした笑みに。とっても可愛らしいな。夢だと分かっていてもちょっとキュンとなったぞ。
「桔梗。おはようのキスしよっか」
「えっ? いや、夢でもキスはさすがに……」
「だから、これは夢じゃなくて現実なんだってば。あたしのキスでそれを分からせてあげるわ」
そう言うと、向日葵は僕の両肩をしっかりと掴み、ゆっくりと僕に顔を近づけてくる。かなり力が強くて、この体勢を崩せない。
視界に向日葵の顔しか見えなくなったとき、急に目の前が真っ白になったのであった。
目を覚ますと……頭痛は治まっていなかった。ただ、頭痛薬のおかげで、昨日に比べたらマシになっている。
あと、昨日とは違って体に熱っぽさを感じる。ベッドの中に熱がこもっているだけかと思って掛け布団をめくると……妙な寒気が。熱っぽさも取れない。どうやら、ひさしぶりに映画を観た後に風邪を引いてしまったみたいだ。
部屋の時計を見ると……今は午前8時近くか。頭痛薬を飲んだから結構眠れたのだろう。
ベッドから立ち上がると、体にだるさを感じる。辛い。
何とかして、1階のリビングへ行く。すると、キッチンで朝食を食べている両親と撫子の姿が見えた。
「あら、桔梗。おはよう……って、顔色が悪いわね」
「辛そうだよ。兄さん大丈夫?」
撫子は心配そうにして、僕のところに駆け寄ってくれる。
「頭痛は昨日よりマシになったけど、熱っぽくて。あと、だるい」
「体温計を出すから、兄さんはソファーで楽にしてて」
「ありがとう、撫子」
僕はソファーで横になる。ベッドのように気持ちよさはあまり感じられないけど、こうしていると体が楽ちんだ。
それからすぐに、撫子が体温計を持ってきてくれた。体温計で今の僕の体温を測ってみると――。
「38度3分。結構な熱だね」
「……そんなに高いか。じゃあ、今日はバイトを休まないとダメだな」
「ゆっくり休まないとダメだよ、兄さん。……確か、いつも行っている病院は日曜日も診察していたはず。お父さん、お母さん。日曜日も午前中は診察していたよね」
「確かそうだったと思うけど……どうかしら、お父さん」
「スマホで調べてみる。……うん、撫子の言う通り、午前9時からお昼の12時半まで診察しているね」
「……じゃあ、9時になったら病院に行ってくるよ。それまではベッドで横になってる」
僕は父さんに肩を貸してもらって、自分の部屋へと戻る。
スマホで店長に電話をして、今日のバイトは体調不良で休むことを伝えた。明日もシフトが入っているけど、まずはゆっくりと休んで体調を良くしてほしいと言われた。今日、サカエカフェで働くみなさん、ごめんなさい。
また、明日のバイトについては、明日の朝に連絡を入れることになった。
それから午前9時近くまで少しでも寝ようとしたけど、頭痛のせいか、眠ることはできなかった。
9時を過ぎたので、僕は近所にあるかかりつけの病院へ。だるさがマシになったので僕は1人で病院に行った。
先生に症状を伝えると「これは立派な風邪だね」と診断された。風邪に立派も不立派もないと思うけど。38度以上の熱が出ていて、昨日から頭痛が続いているからだろうか。
処方された薬をもらい、僕は家に帰った。
「おかえり、兄さん。お粥を作ったよ。少しでもいいから、お薬を飲むためにも食べよう」
「そうだね」
「じゃあ、用意してくるから、兄さんは寝間着に着替えて」
「うん。ありがとう、撫子」
僕は自分の部屋に戻って、撫子の言う通りに寝間着に着替える。
着替え終わった直後、撫子がお粥を持ってきてくれた。まだだるさが残っているので、僕はベッドに寄りかかるようにして座った。病院に行ってきたからか、この体勢でも楽に思える。
「兄さん、私がお粥を食べさせてあげる」
「いいのか?」
「もちろん。あと、今日は学校お休みだしお母さんもパートがあるから、私が看病するからね」
「……ありがとう」
撫子が看病すると言ってくれるだけで、ちょっと元気になってきたぞ。連休中に風邪を引くのはもったいない気がしていたけど、連休中で良かったかもしれない。僕は幸せ者だなぁ。
撫子は僕のお茶碗に入った塩をかけてスプーンで混ぜる。一口分のお粥をすくい、ふーっと息を吹きかける。
「はーい、兄さん。お粥ですよー。あーん」
「……あーん」
僕は撫子にお粥を食べさせてもらう。撫子が息を吹きかけたおかげでちょうどいい温かさだ。塩をかけただけのシンプルなお粥だけど、ほんのり甘くて美味しい。
「どうかな? 兄さん」
「……甘くて美味しいよ。温かさもちょうどいい」
そんな感想を言うと、撫子は安堵の笑みを浮かべる。
「良かった。じゃあ、こんな感じで食べさせてあげるね」
「……うん。ありがとう、撫子」
その後も僕は撫子にお粥を食べさせてもらう。撫子が作ってくれて、撫子に食べさせてもらっているからか、今まで食べたお粥の中でも一番美味しい。
僕に食べさせている間、撫子はずっと笑みを浮かべていた。こうするのが楽しいのだろうか。ただ、その笑顔のおかげでお粥の甘味に優しさを感じられ、お茶碗一杯分のお粥を食べても平気だった。
お粥を食べ終わったので、病院で処方された薬を飲んで寝るのであった。
「うんっ……」
目を開けると、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。ただ、この明るさは……まるで朝のようだ。もしかして、処方された薬の効果で朝までぐっすりと寝たのかな。
「あっ、起きたんだね。桔梗」
すぐ近くから、そんな女性の可愛らしい声が聞こえた。その声は最近になってよく聞くようになった声だ。声がした方にゆっくりと体を向けると、
「おはよう、桔梗」
「……おはよう、向日葵」
ベッドのすぐ側に向日葵が立っていたのだ。そんな向日葵はジーンズパンツに長袖のTシャツというシンプルな服装。そして、なぜかその上に赤いエプロンを身につけていたのだ。
「……どうしてエプロン姿なんだ?」
「朝ご飯を作ったからだよ」
「……わ、わざわざ家に来て朝ご飯を作ってくれたのか?」
僕が風邪を引いたことを撫子から聞いたのかな。それで心配になって僕の家に来て朝ご飯を作ってくれたと。向日葵がこんなにも優しいとは。病人だから優しくしてくれるのかな。嬉しいなぁ。ただ、向日葵の料理の腕前が未知数なので、一抹の不安が正直ある。
しかし、向日葵はちょっと不機嫌そうな表情になり、頬を膨らませる。
「もう、何を言ってるの? あたし達は夫婦になって、ここに一緒に暮らしているんでしょう?」
「……えっ?」
何を言っているんだろう、この子は。
ただ、向日葵の顔を見ていると、僕をドッキリさせようという感じはしない。本気で夫婦だと言っているように見える。ということは、つまり。
「……これは夢か」
「もう何を言っているのよ。夢じゃなくて現実なの。一緒にシスコンになろうよって桔梗らしい言葉でプロポーズをしてくれたじゃない。今でも笑っちゃう」
そのときのことを思い出しているのか、向日葵は楽しそうに笑う。
現実でも、向日葵がかぐやと初対面したときに同じような言葉を言ったな。そのときは向日葵に「なるわけない」と断られたけど。夢の中ではプロポーズとして言ったのか。僕らしいのは否定しないけど、実際にプロポーズするとしたら別の言葉を使うよ。
それにしても、向日葵と夫婦になる夢を見るとは。熱にうかされているのかな。昨日から続く頭痛のせいかも。それとも、処方された薬の影響だったりして。あと、向日葵とは昨日は偶然ではあるけど、映画を隣同士の席で観て、感想を楽しく語り合ったし。
「……そんなに見つめられると照れちゃうよ。でも、幸せだな」
頬を赤くしながらそう言うと、向日葵はやんわりとした笑みに。とっても可愛らしいな。夢だと分かっていてもちょっとキュンとなったぞ。
「桔梗。おはようのキスしよっか」
「えっ? いや、夢でもキスはさすがに……」
「だから、これは夢じゃなくて現実なんだってば。あたしのキスでそれを分からせてあげるわ」
そう言うと、向日葵は僕の両肩をしっかりと掴み、ゆっくりと僕に顔を近づけてくる。かなり力が強くて、この体勢を崩せない。
視界に向日葵の顔しか見えなくなったとき、急に目の前が真っ白になったのであった。
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