管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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本編

第33話『黄金色の天使』

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 4月9日、火曜日。
 今日も初めて受ける教科がいくつもあった。ただ、昨日一日過ごしたのもあって、昨日よりは時間の進みが速く感じられた。
 あと、今日の昼休みの校内放送で、料理部の紹介映像が流れた。そのときは料理部の部長さんと副部長の美優先輩が出演していて。そのときは多くのクラスメイトと花柳先輩がとても盛り上がった。ただ、美優先輩はテレビは見ず、恥ずかしそうにしながらお昼ご飯を食べていた。

「今日も授業終わったね。由弦は今日も校内探検?」
「ああ。昨日は特別棟を見終わったときに、『敗者の集い』の人達に絡まれちゃったし。美優先輩と一緒に校内を散歩するつもり」

 放課後になったら、すぐにこの教室の前まで来てくれるらしい。

「そっか。今日は変な人達に絡まれないといいね」
「ああ。風花は練習頑張って」
「ありがとう! やっぱり泳ぐのは気持ちいいよ。あの水着も泳ぎやすいし。あと、水泳部には泳ぐのがとても速い先輩がいて刺激を受けてる。高校は凄いよ」
「そうなんだ。良かったな」
「うんっ! じゃあまたね」
「またね」

 風花は俺に小さく手を振ると、駆け足で教室を後にした。入学前から入部すると決めていた水泳部がいいところのようで良かった。
 加藤は中学時代の先輩がいることもあり、サッカー部に早くも馴染んでいるそうで。橋本さんもマネージャーとして入部し、彼を含めたサッカー部員のサポートを始めているそうだ。心に決めた部活に入ったからか、みんなさっそく部活を謳歌しているな。

「由弦君、迎えに来たよ」
「あたしも一緒に回るわ」

 扉の方から美優先輩と花柳先輩が俺に向かって手を振ってくる。そのことに一部のクラスメイトの男子が大興奮。美優先輩はもちろんのこと、花柳先輩は見た目は可愛らしいからな。
 俺はバッグを持って2人のところへ。

「先輩方、授業お疲れ様です。美優先輩だけじゃなくて、花柳先輩も来たんですね」
「昨日のようなことがあるかもしれないでしょ? それに今日はあたし特に予定ないし、2人と一緒に散歩するのもいいかなって」
「そういうことですか」

 昨日のようなことが起きる可能性はゼロじゃないし、美優先輩のことを心配しているのは本当だろうな。

「じゃあ、さっそく行こうか。昨日は特別棟を廻ったんだよね」
「はい」
「それなら、次は部室棟がいいかな。運動部だけじゃなくて、文化系の部活や同好会の活動室もあるから。その近くにはテニスコートがあるから、杏ちゃんの姿が見られるかも」
「そうなんですか。では、部室棟の案内をお願いします」
「うん! 行こっか!」

 俺達は部室棟に向けて、1年3組の教室を出発する。
 美優先輩や花柳先輩と一緒だからか、常に誰かしらの視線を感じるな。美優先輩は慣れっこなのか、そんなことはあまり気にしていないように思える。
 第1教室棟を出ると、今日もチラシを持った生徒が何人もいる。ただ、美優先輩や花柳先輩がいるからか、昨日のようにチラシを配られることはなかった。
 部室棟の近くにテニスコートがあるので見てみると、体操着を着て練習している松本先輩の姿が見えた。練習する松本先輩の姿を初めて見たけど、とてもかっこいいな。ただ、俺達の話し声に気付いたのか、

「みんなー!」

 と、こちらに手を振ってきた松本先輩はとても可愛らしかった。
 部室棟に行くと、運動部の部室だけでなく、文化系の同好会の活動室がある。アイドル同好会、オカルト同好会、鉄道同好会、散歩同好会、映画同好会、スイーツ同好会など多岐に渡る。
 霧嶋先生が顧問である文芸部の部室もあったけど、活動のない火曜日だからか施錠されていた。
 その後も部室棟を歩き回ると、

「白金先輩が入っている漫画同好会がありますね」
「白金……ああ、メガネの彼ね。あたしも漫画は好きだけど、ここには見学に来たことがなかったからいい機会ね」
「じゃあ、覗いてみよっか」

 美優先輩がノックをすると、すぐに中から白金先輩が出てきた。

「おっ、桐生に管理人さんに花柳か。さっそく来てくれて嬉しいよ。さあ、中に入ってくれ」

 漫画同好会の活動室の中に入る。同好会のメンバーなのか、男女合わせて10人近くの生徒が漫画やライトノベルを読んでいた。男子の方が多いな。俺達に気付いたのか、会釈をしたり、「こんにちはー」と挨拶する生徒も。
 本棚にはたくさんの漫画やラノベ、フィギュアまで飾ってある。学校にある一室というよりは、そういったものが好きな人の部屋という感じだな。

「のんびりとした雰囲気ですね」
「そうね。本棚にはたくさんの作品があるのね。漫画だけじゃなくて、ラノベやそういった関係の雑誌もあるのね」
「ああ。これまでの先輩方が同好会のために買ってくれたり、寄贈してくれたりしたものだ。色々なジャンルが揃ってる。同好会のメンバーになれば一時的に家に持ち帰ってもいい。普段はこうやって自分が持ってきた本や、そこの本棚にあるものを読んでいるんだ。あと、他のメンバーに迷惑をかけないくらいの声の大きさで、ある作品やキャラクターについて熱く語り合うこともある」
「好きなことについて語らうのって楽しいですよね」

 俺も中学まで、好きな漫画が一緒に奴らと教室で読み合ったり、色々と話したりしたことがあるな。アニメ化された作品だと、録画したものを家で一緒に観たっけ。

「楽しいと思えることはいいことだ、桐生。あと、毎年お盆と年末に有明で行なわれる大規模な同人誌即売会に参加しているんだ。その近くになると、イベントで販売するオリジナル漫画や同人誌を制作するんだよ。たまに、小説の短編集っていうときもある。中にはコスプレをやるメンバーもいるんだ」
「そうなんですね」

 そういうイベントがあることは知っていたけれど、地元で開催されることはなかったな。
 漫画やラノベを読むだけじゃなくて、創る側の方もやるのか。コスプレもやるとは思わなかったけれど。

「漫画やラノベもそうだけど、人それぞれ楽しみ方がある。ここで読みたくなったり、作品について語りたくなったりしたら、うちに入ってくれると嬉しい。こういった同好会だから、1年の桐生だけじゃなくて、2年の管理人さんや花柳も大歓迎だ。他の部活や同好会に入っていてもかまわないぞ」
「あたしは漫画やアニメは好きだけど、今はマイペースに楽しむわ。でも、ここの存在は覚えておく」
「ふふっ。私も漫画やラノベは読むけれど、料理部や管理人の仕事があるからね。とりあえずはいいかな」
「俺は……選択肢の一つにとりあえず入れておきます」
「ははっ、そっか。気が向いたらここに来たり、俺に言ったりしてくれ」
「分かりました。ありがとうございました」

 俺達は漫画同好会の活動室を後にする。
 漫画同好会は思ったよりも落ち着いていて良さそうな雰囲気だった。
 ただ、今のところは自分で買って、個人的に楽しめば満足かな。たまに美優先輩や花柳先輩、風花、白金先輩と話ができればそれで。
 それからも部室棟の中を回ってたまに話を聞いたけど、漫画研究会以上に興味があるのは今のところはなかったな。

「部室棟はこれで一通り回ったかな」
「ですね」
「色々な同好会や部活があったわね。……そうだ、せっかくだから風花ちゃんのいる水泳部に行こうよ。あたし、風花ちゃんの水着姿を見ていないから」
「それいいね! 私もお店で水着姿は見たけど、泳いでいる姿は見たことないからね。由弦君、それでいい?」
「いいですよ。夏になれば水泳の授業もありますから、プールがどんな感じなのか見ておきたいです」
「じゃあ、さっそく行ってみよう」

 俺達は風花が入部することに決めている水泳部の様子を見るために、屋内プールへと向かう。屋外プールは小学校や中学校にもあったけど、屋内プールがあるとは。本当に施設が充実している学校だな、陽出学院って。
 屋内プールのある建物を入ると、プールへと向かう扉が開いているので、バシャバシャと泳ぐ音が聞こえてくる。
 キャスター付きの小型のホワイトボードがいくつか置いてあり、それぞれ練習風景を見学したい人、練習に参加したい人についての案内が書かれていた。俺達は練習風景を見学したいので、その案内に従って屋内プールの中に入っていく。

「これが屋内プールですか。ここで水泳の授業もやるんですよね」
「そうだよ」

 屋内プールの中はとても綺麗だ。プールサイドもとても広くて。また、俺達のいるところとその向かい側には観客席が設けられている。
 俺達は観客席の最前列に座る。

「立派な施設ですね。しかも、こうした観客席もあるなんて」
「私も入学したときは同じようなことを思ったよ。どうやら、この屋内プールは競技会の会場に使われることがあるみたいだよ」
「そうなんですね」
「ここから見る屋内プールの風景って初めてだな。ところで、風花ちゃんはどこにいるのかしら。風花ちゃんは金髪だけど、水泳帽を被っている子が多いから分からない」
「そうですね……」

 女子の方は俺達の座っている観客席側で練習している。帽子を被っていない女子の中に金髪の子はいない。帽子を被っていて、水中メガネを掛けている子もいるから誰が風花なのか分からないな。
 ただ、買った水着の雰囲気からして、今、クロールで泳いでいる女の子が風花かな? とても綺麗なフォームで泳いでいる。

「あれ、白鳥先輩じゃないか?」
「本当だ! かわいいなぁ!」

「白鳥さんって、かっこいい男の子と住んでるって聞いたけど本当なんだ!」
「かっこいいー!」

 風花を見つけようとしたら、水泳部の部員達に俺達の存在に気付かれてしまった。こちらを見て興奮している生徒や、黄色い声を挙げる生徒が多いな。そんな状況に美優先輩は苦笑い。
 クロールを泳ぎ切った女子生徒は、普段と雰囲気が違うと気付いたのかキョロキョロと向き、水泳帽と水中メガネを外す。すると、俺達がよく知っている金色の髪と可愛らしい顔が姿を現した。

「あっ、風花ちゃんだ! 水着姿かわいい!」
「そうだね」
「みんな、来ていたんですね!」

 風花はプールから上がると、嬉しそうな様子で観客席の近くまでやってくる。今日はネイビーの水着を着ているんだ。よく似合っているな。

「どうしたんですか、ここに来て。もしかして、由弦は水泳部に興味があるの? いや、由弦は水泳は得意じゃないって言っていたし、運動部には入らないって言っていたから……あたしの水着姿を見たくてここに来たんでしょ。やっぱり変態だー!」

 こんなところで変態だと大きな声で言わないでほしいな。楽しそうな様子で言ってくれるだけマシだけど。

「いちいち俺を変態呼ばわりしないでくれ。ただ、風花の泳ぐ姿は一度見たかったよ」
「そ、そうなんだ。……わざわざ見に来てくれてありがとう」

 えへへっ、と風花は頬を赤くしてはにかんだ。
 ただ、泳いでいる姿を見て、ようやく本当に水着姿を見たってことになるよな。それを言ったらまた変態って言われそうなので、心に留めておこう。

「桐生君のために美優と一緒に校内散歩しててね。そんな中で、あたしが風花ちゃんの水着姿を見たくなってここに来たいって言ったの」
「そうだったんですか」
「風花ちゃん、その水着似合ってるね! あと、さっきのクロール良かったよ」
「ありがとうございます!」
「写真撮ってもいい?」
「いいですよー」

 花柳先輩と美優先輩はスマホで風花のことを写真に撮っている。それが嬉しいのか、風花は持ち前の元気な笑顔でピースサイン。

「由弦は撮らないの?」
「俺はいいよ。その代わり、目に焼き付けておく」
「そう? まあ、由弦なら、言ってくれればいつでも水着姿を見せてあげてもいいからね。この水着を選んでくれた1人なんだし」
「そいつはどうも」

 ただ、実際に水着を見せてほしいって言ったら、変態だってバカにされそう。多分、そんなことを言うことはないだろう。
 それにしても、水着姿の風花はとても可愛いな。さっきのクロールも、

「綺麗だったな……」
「えっ? あたしの水着姿が綺麗だと思ってくれているの?」
「えっ?」

 また思ったことを気付かないうちに口に出していたのか。

「さっきのクロールがとてもフォームが綺麗だったなって。もちろん、水着姿も綺麗だと思ってるよ。本当に水泳が好きなんだって思える」
「そ、そう? ありがとう。由弦がそう言ってくれて嬉しいよ」

 風花は言葉通りの嬉しそうな表情を浮かべる。水着姿が綺麗だと言ったので、また変態だって言われるかと思ったけど。あと、今の俺が言った言葉のせいか、風花は周りにいる水着姿の女子生徒にからかわれている。

「こーら、1年生をあんまりからかわないの。イケメンの桐生君と楽しそうに話しているから、ちょっかいを出したい気持ちも分かるけど。姫宮ちゃん、今度は平泳ぎをやってみようか」
「は、はいっ! じゃあ、また」

 風花は俺達に手を振って、水泳帽と水中メガネをかけながらスタート地点に向かう。
 そして、風花は平泳ぎを泳ぎ始める。クロールのときと同様にフォームが綺麗だし、スイスイ前に進んでいく。どうして、あんなに前へスイスイ進めるんだ? どんなに練習しても俺……10mも泳げない。俺と何が違うのか。
 その後も風花は背泳ぎ、バタフライを泳いでいく。どれも綺麗なフォームで速さも凄い。泳ぎ終わったときの気持ち良さそうな笑顔は、天使のように可愛い。そんな風花の泳ぎに見惚れてしまい、気付けば水泳部の練習が終わっていたのであった。
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