恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編6

プロローグ『恭子からのメッセージ』

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特別編6



 8月4日、水曜日。
 今日も朝から綺麗な青空が広がり、気温がどんどん上がっています。よく梅雨明け十日といいますが、梅雨が明けてから2週間ほど晴天が続いています。この先、夏が終わるまでずっと晴れが続くのではないかと思うほどです。
 今日は午前中から友人の火村恭子ひむらきょうこさんと一緒に葉月沙綾はづきさあやさんの家に行き、3人で夏休みの課題を取り組んだり、沙綾さんが買ったボーイズラブアニメのBlu-rayを観たりする予定に……なっていたのですが、

『風邪引いた。だから、あたしは参加できないわ。ごめんなさい』

 という恭子さんからのメッセージが、午前10時前に恭子さん、沙綾さん、私・青山氷織あおやまひおりのグループトークに届きました。
 恭子さん……風邪を引いてしまったのですか。心配です。ただ、その次に思ったことは、恭子さんのお見舞いに行き、看病をしようということでした。
 沙綾さんとの個別トーク画面を開き、

『私、恭子さんのお見舞いに行って、看病をしたいと思っています。沙綾さん、どうでしょうか?』

 と、恭子さんのお見舞いと看病について沙綾さんに相談します。
 沙綾さんはスマホを手にしているのでしょうか。私が送信したメッセージにすぐに『既読』のマークが付きます。

『あたしもお見舞いに行って、看病したいと考えていたッス』

 と、返信が届きました。沙綾さんの考えが私と同じだと分かって嬉しい気持ちになります。

『分かりました。では、恭子さんに訊いてみて、お願いされたら一緒に恭子さんの家へ行きましょうか』
『そうッスね』

 沙綾さんとの考えが纏まりました。
 個別トークを閉じて、再び3人のグループトーク画面を開きます。

『恭子さん。もしよければ、これから沙綾さんと一緒にお見舞いに行ってもいいですか?』
『ひおりんと一緒に看病するッスよ、ヒム子』

 私と沙綾さんは恭子さんに向けてそんなメッセージを送ります。
 沙綾さんがトーク画面を開いているのか、送信した直後に『既読1』とマークが付きます。そこから程なくして、『既読2』となりました。恭子さんも私達のメッセージを見ていることになりますね。恭子さん……私達のメッセージを見てどう思うでしょうか。

『来てくれたら嬉しいけど……いいの? あなた達2人でも課題をしたり、Blu-rayを観たりすることはできるけど』

 というメッセージが恭子さんから送られてきました。私達に来てほしい気持ちと、予定を変更させては申し訳ない気持ちが伝わってきます。

『何を言っているッスか。確かに、ひおりんと2人きりでも課題をしたり、アニメを観たりすることはできるッス。でも、ヒム子と3人で一緒にいたいッス』
『沙綾さんと同じ気持ちです。それに、体調を崩している恭子さんに何かしたいんです。それに、私も1学期に風邪を引いたとき、恭子さんがお見舞いに来て看病してもらって嬉しかったですから』

 沙綾さんのすぐ後に私もメッセージを送ります。
 1学期のゴールデンウィーク明けに風邪を引いたとき、恭子さんと沙綾さん、私の恋人の紙透明斗かみとうあきとさんがお見舞いに来て、看病してくれました。学校を欠席して寂しい気持ちになりましたから、3人の姿を見られて、優しさに触れられたのがとても嬉しかったことを覚えています。
 私が体調を崩した日から3ヶ月近く経っていますが、恭子さんにあの日の恩返しをしたい思いもあります。

『……分かった。ありがとう。2人に看病をお願いするわ』

 という恭子さんからのメッセージが送られてきました。この文面を見て、心が温かくなっていきます。

『了解ッス!』
『分かりました。沙綾さんと一緒に恭子さんの家に行きますね』
『ありがとう。2人が来るのを待ってる』

 待ってる……ですか。自分を求めてくれているのが分かって嬉しい気持ちになります。
 その後、沙綾さんと一緒に恭子さんに体調を訊くと、発熱、だるさ、のどの痛み、軽い頭痛があるとのことです。ただ、幸いにもお腹は壊していないそうです。
 また、家には風邪薬や冷却シートがあるそう。なので、スポーツドリンクやプリンといった食べ物や飲み物を買ってから、恭子さんの家に行くことにしました。


 午前10時半ちょっと前。
 電車に乗って、沙綾さんの自宅の最寄り駅の高野たかの駅に行きます。沙綾さんとは10時半頃に改札を出たところで待ち合わせることになっていますが、もういるでしょうか。そう思いながら改札へ向かうと、

「ひおりーん!」

 と、改札の外から手を振ってくる沙綾さんの姿が見えます。ハーフパンツにノースリーブのパーカー姿がよく似合っていて可愛いです。トートバッグを持っているので大学生のようにも見えて。そんなことを思いながら、私は沙綾さんに向かって手を振りました。
 改札を出ると、沙綾さんは笑顔で私の目の前まで近づきます。

「おはようッス、ひおりん!」
「おはようございます、沙綾さん」
「そのスカートとブラウス、可愛いッスね。似合っているッス。ヒム子が見たら元気になりそうッス」
「ふふっ、そうだといいですが。沙綾さんもパーカー似合っていますよ」
「どうもッス!」

 沙綾さん、結構嬉しそうです。可愛いですね。
 今の沙綾さんのように、私達が家に行って恭子さんが嬉しそうにしてくれると嬉しいです。

「じゃあ、さっそくヒム子の家の方へ行くッスか」
「ですね。確か、途中にドラッグストアがあったはずなので、そこで買い物をしましょう」
「そうッスね」

 私達は恭子さんの家の方に向かって歩き始めます。高野駅から恭子さんの家があるマンションまでは歩いて15分ほどです。
 私の記憶の通り、道中にドラッグストアがありました。そこで、恭子さんに差し入れるスポーツドリンクとプリン、レトルトの玉子粥を購入しました。また、このドラッグストアまで10分近く歩いたのでいい休憩にもなりました。
 ドラッグストアを出て、私達は恭子さんのご自宅があるマンションに向かいます。
 暑い中歩いてきたので、マンションのエントランスに入るとちょっと涼しく感じられます。入口前のインターホンで、私が恭子さんのご自宅の部屋番号を入力して呼び出します。

『……はい。あっ、氷織に沙綾……』

 インターホンのスピーカーから恭子さんの声が聞こえます。風邪を引いているので、いつもとは違って元気さが感じられませんね。

「氷織です」
「沙綾です。お見舞いに来たッス」
『ありがとう。開けるわ』

 恭子さんがそう言うと、目の前にあるマンションの入口の扉が開きます。一軒家に住んでいるので、こういうのを見るとちょっとワクワクしますね。
 沙綾さんと一緒にマンションの中に入り、エレベーターで恭子さんのご自宅があるフロアまで上がります。
 フロアに到着して、恭子さんのご自宅の前まで辿り着きます。今度は沙綾さんがインターホンのボタンを押しました。
 ――ピンポーン。
 インターホンの音が鳴り響きます。その音が終わる前に、

「……いらっしゃい」

 玄関の扉がゆっくりと開いて、桃色の寝間着姿の恭子さんが出てきました。普段のポニーテールとは違い、今は髪がストレートになっていて。発熱しているのもあってか、おでこには冷却シートが貼られています。その姿を可愛いと思ってしまいました。
 熱があるからか頬を中心に顔が赤いですね。また、だるさからか扉に寄り掛かっていて。きっと、自室からここまで来るのは大変だったことでしょう。

「こんにちは、恭子さん」
「どうもッス、ヒム子」
「……来てくれてありがとう。2人の顔を実際に見てちょっと元気出た」

 恭子さんは私達のことを見ながら微笑みます。そのことに安心します。こういう反応ができるのですから、ゆっくりと休めば体調がすぐに良くなりそうです。

「良かったッス。あと、ヒム子の今の言葉で元気出たッス」
「私もですよ。さあ、恭子さん。部屋に戻って横になりましょう」
「ええ」
「お邪魔します」
「お邪魔するッス」

 沙綾さんと私は恭子さんの家の中に入ります。
 さあ、沙綾さんと一緒に、恭子さんを看病していきましょう。
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