ハナノカオリ

桜庭かなめ

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Fragrance 1-コイノカオリ-

第11話『Girls Date ①-待ち合わせ-』

 4月20日、土曜日。
 午前9時半。
 私は鏡原駅の改札前で絢ちゃんを待っている。待ち合わせの時間は9時半なのでもうすぐ絢ちゃんも来るはずだ。
 私は昨日の手紙の件でずっと心の中で葛藤していた。
 けれど、夜が明けた頃から絢ちゃんに会いたい気持ちが芽生え、その想いは時間に経つにつれて強くなっていった。そのおかげか一睡もできなかったけれど、眠気や疲れがどっと襲ってくるようなことは一切ない。
 昨日の手紙の件がどうであれ、まずは今日のデートを思いっきり楽しみたい。絢ちゃんに何があったかを知るのはその後にしようと決めた。でも……一応、昨日の手紙に入っていた写真は持ってきている。

「絢ちゃん、どう思うかなぁ……」

 私はカジュアルなフリル付きの赤いワンピースを着ている。胸元についている蝶々結びの黒いリボンがポイント。絢ちゃんがこの姿を見て可愛いって思ってくれるといいな。
 さて、今日行く予定の潮浜シャンサインランドは、潮浜市の海沿いにある日本有数のテーマパーク。最寄りの桃ノ木もののき駅までは鏡原駅から各駅停車で50分くらいのところにある。普段電車に乗っていないからか、今から小旅行に行く気分。

「遥香、待たせたね」

 絢ちゃんの声がしたので後ろに振り返ると、ちょうど絢ちゃんが改札を出てくるところだった。
 絢ちゃんは七分丈の青いジーンズに白いワイシャツというボーイッシュな服装をしていた。首や腕にはアクセサリをしている。教室にいるときと同じように、周りの多くの女性達が絢ちゃんの方に注目していた。男性があまり注目していないところが面白い。

「絢ちゃん、おはよう」
「おはよう、遥香。赤いワンピース、似合ってて可愛いよ」
「……ありがとう」

 やっぱり、この爽やかな笑顔は……本物としか思えない。1人の女の子を殺した人の笑顔には決して見えないよ。そして、私を餌食にしようとしているとも到底思えない。

「ちょっと遅れちゃったけど、結構待たせちゃったかな」
「ううん、私もついさっき来たから気にしなくていいよ」
「……そっか」

 絢ちゃんはほっとしているようだ。私、そこまで時間には厳しくないけど。

「何だか眠そうに見えるけど」
「そ、そうかな?」
「今日が楽しみで眠れなかった?」
「……うん。やっぱり、楽しみで仕方なくて」

 必死に笑顔を作りながらそう言った。例の手紙のせいで眠れなかったなんて言えないから。絢ちゃんにそのことを気づかれないように。

「私もちょっと眠れなかったかな。遥香と一緒に行くのが楽しみで」
「意外だね。絢ちゃんってそういうことに関係なく眠れるって思ってた」
「昨日も言っただろう? 遥香ともっと話をしてみたいって。だから、遥香と1日ずっと一緒にいられることが楽しみで仕方なかったんだ」
「絢ちゃん……」

 やっぱり、今の絢ちゃんは教室にいるときとは違う気がする。今の方が素の部分を見せているというか、気楽に話しているように思える。教室にいるときのような圧倒的な王子様オーラは全くないけど、今の絢ちゃんならそれでもいいと思ってしまう。
 そんなことを考えていると突然、絢ちゃんは左手で私の右手を掴んだ。しかも、指を絡める恋人繋ぎで。

「あ、絢ちゃん?」
「……今日は何があっても私から離れないで。遥香と一緒にいたいんだ」

 絢ちゃんは真剣な表情をして私にそう言った。
 そういえば、教室では常に爽やかな笑みを浮かべていて……今のような表情は陸上トラックで走っているとき以外に見たことはなかった。
 私と手を繋いで一緒にいたいだなんて。これって、絢ちゃん……私のことが気になっている可能性大かも。これなら、今日中に告白してもいいかもしれない。

「うん、私も……同じ気持ち。今日は絢ちゃんと一緒にいたいな」

 まずは今日のデートを楽しんで、絢ちゃんとの距離を縮めないとね。

「じゃあ、そろそろ行こうか。遥香は切符買った?」
「カードにチャージしたから大丈夫だよ」

 お兄ちゃんにICカードのことを教えてもらい、さっき購入した。カードには2000円分チャージしてあるので、往復分の交通費は大丈夫。

「それを聞いて安心した。遥香は地元に住んでいるって聞いたから、まだ切符を買ってなければカードがいいって教えようと思ったんだけど」
「絢ちゃんは確か、電車通学なんだよね」
「うん、だから定期券にチャージしてあるんだ。遥香って結構準備をする方なんだね」
「そんなことないよ。ただ、お兄ちゃんに教えてもらっただけで」
「じゃあ、お兄さんに先を越されちゃったわけか」
 と言って、絢ちゃんは声を上げて笑った。もしかして、ICカードのこと……自分が教えたかったのかな。もしそうならかなり可愛い。
「じゃあ、行こうか。電車ももうすぐ来るようだし」
「うん」

 私は絢ちゃんの後に改札を通り、彼女に手を引かれるような形で潮浜市方面に向かう電車が来るホームまで行く。
 絢ちゃんの言う通り、電車はすぐに来た。行き先は大渡おおわたり駅で電車の種別は快速になっている。

「さっき、時刻表をちらっと見たら色々な行き先があったけど、この電車でも大丈夫なのかな?」
「大渡駅は桃ノ木駅よりも先にあるし、桃ノ木駅は快速も停車するからね。この電車に乗ろう」
「分かった」

 さすがは電車通学生。頼りになるなぁ。
 私と絢ちゃんは大渡行きの快速電車に乗る。
 車内は土曜の朝にしては随分と空いているように思えた。2人分座れる場所が幾つもあったから。
 私達は端から2人分空いている席に座る。私が端に座り、隣に絢ちゃんという形で。

「絢ちゃん、電車のこと結構詳しいんだね。電車通学って言っていたけど、潮浜市方面から来ているの?」
「うん。そうだよ。そう言っても、潮浜市はかなり広いからね。私が住んでいるところは鏡原駅から快速で15分くらいの緑区って場所なんだ。鏡原市に一番近いかな。ちなみに私の家の最寄り駅は上山駅ってところ」

 確か、杏ちゃんも潮浜市方面に15分から20分くらい乗るって言っていたっけ。ということは杏ちゃんの家って緑区にあるのかな。
 あれ、潮浜市に住んでいる絢ちゃんが鏡原駅まで来て、そこからまた潮浜市にある潮浜シャンサインランドに行くってことは、

「鏡原駅までわざわざ来てくれたんだね」

 そう、絢ちゃんにとっては無駄な道のりなのだ。何だか手間かけさせちゃって申し訳ない気分になる。

「別に気にしなくていいよ。今日のことだって私から言い始めたことだし。それに、途中まででも遥香を1人にしたくないからね。あと、鏡原駅までなら定期券の範囲内だからお金も気にしなくていいしね」

 絢ちゃんは爽やかな笑みを浮かべながらそう言った
 本当に絢ちゃんは優しい女の子だ。好きだという気持ちが更に強くなる。恋人がこういう人だったら本当にいいな。理想だよね。

「それに、鏡原駅まで行けば……遥香と一緒にいられる時間が増えるじゃない。それが一番の理由かな」
「あ、あうっ……」
「頬、ほんのり赤くなってるよ」
「し、指摘してくれなくていいから。そんなこと分かってるし、恥ずかしいよ……」

 私がそう言うと、絢ちゃんはそれ以上何も言わず……微笑ましそうに私のことをじっと見ていた。
 恥ずかしいと言いながらも、本当は凄く嬉しい。そして、絢ちゃんとこんな時間が過ごせるんだと安心すると途端に眠気が襲ってきてしまった。思わずあくびをしてしまう

「眠気が来ちゃったのかな。私はずっと起きてるから、遥香は寝ていいよ。桃ノ木駅の近くになったら、私が遥香を起こすから」
「で、でも……」
「気にしないでいいよ。眠くなったときにはちゃんと寝た方がいいって。今はただ、こうして座っているだけなんだし。少しでも寝れば遊園地で思い切り遊べると思う」
「……じゃあ、お言葉に甘えて寝るね」
「うん」

 本当は絢ちゃんとゆっくり話をしたかったんだけど。話すことはシャンサインランドに着いてからでもできるし、ここは絢ちゃんの優しさに甘えさせてもらおう。
 絢ちゃんの左手を一度離し、右腕を彼女の左腕に絡ませてから、もう一度右手で彼女の左手を握った。そして、彼女の方に寄り掛かる。眠りに入ったように見せればこのくらい大胆なことしてもいいよね。
 絢ちゃんの方から甘くて爽やかな匂いが感じられる。とても気持ちのいい中で、私はしばしの眠りにつくのであった。
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