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Fragrance 1-コイノカオリ-
第15話『Girls Date ⑤-お化け屋敷-』
私達はさっきと同じベンチで休憩している。
一度だけ落下するから大丈夫だろうと思っていたけれどそれは甘い認識だった。
落下速度がジェットコースターよりも速く、落差も100メートル以上だったから、たった一度の落下でも相当な体力が奪われたような気がする。
だから、席から立ったときに再び強い眠気が襲ってきたのだ。そのせいで意識を失いかけてしまった。絢ちゃんが支えてくれたから良かったけど。
「遥香、ごめんね。絶叫マシン2連発はさすがにきつかったよね……」
「ううん、いいよ。私も大丈夫だと思って乗ったわけだし」
「でも、ちょっと辛そうに見えるけれど」
絢ちゃん、私がこうしているのはきっと自分のせいだって思っているんだろう。ジェットコースターの後にフリーフォールに乗りたいなんて言ったから、って。彼女はいつになく俯いている。
「ただ、眠気が襲ってきただけだよ。寝不足だったからね。特に気分が悪いわけじゃないから、ちょっと休んだらどこかに行こうよ」
「それ、さっきも言っていたような……」
「思ったよりもフリーフォールの威力が凄かったんだよ。これは完全に私が悪いわけであって、絢ちゃんは何も悪くないよ」
たった一度の落下なら、と甘くみていた私に責任がある。絢ちゃんはただ、自分の希望を言っただけだから何の落ち度もない。私が断ることだってできたんだし。
「それでもまだ罪悪感があるって思うなら、次に行くアトラクションは私に決めさせてくれないかな。それで帳消しってことにしよう」
今まで行った2つのアトラクションは絢ちゃんの希望だったからね。そろそろ私の行きたいアトラクションに行ってみたい。
私の提案に納得してくれたのか、絢ちゃんの顔には普段の爽やかな笑みが戻る。
「……分かった。じゃあ、そうしよう」
「ありがとう、絢ちゃん」
「それで、遥香はどこか行きたい場所は見つけられたの?」
「幾つかには絞ってあるんだけどね。今から決めるよ」
そう言って、遊園地のパンフレットを開く。
たくさんのアトラクションがあるけれど、この人の多さだと今日一日では回れる場所は限られてくる。なので、行きたいアトラクションを数カ所に絞っておいた。
遊園地は広いから、まずはここからできるだけ近い場所のアトラクションにしたい。その条件に最も適する場所は……ここかな。
「お化け屋敷……」
「えっ?」
「次に行くのはお化け屋敷がいいな。絶叫マシン2連発の後にはちょうどいいんじゃないかな? それに、私……ホラーとか結構好きなんだ」
「へ、へえ……」
絢ちゃん、顔が引きつっている。ホラー好きなんて意外だと思っているのかな。
「ここからも近いし、お化け屋敷でもいいかな?」
「ちょ、ちょっと待って! お化け屋敷って……もちろんお化けが出てくるんだよね?」
「当たり前だよ。お化けがいなかったからただの屋敷だって」
「でも、お化けとか妖怪って元々人を驚かすためにいるわけでしょ?」
「全部が全部そうじゃないけど……」
座敷童子なんて家にいると守り神的存在でいいって言われているし。
「だけど、大半のお化けは驚かすためにいるんだよ。少なくとも、お化け屋敷にいるお化けはお客さんを驚かすためにいるんだから」
「驚かせるお化けがいないと面白くないもんね」
「そうだよね。ということは、たくさんお化けに驚かされるわけだから……必然的に私達はたくさん叫ぶことになるんだ」
「そう……なるね」
「ここで一度考えてみよう。私達は今日、絶叫マシンの代表とも言えるジェットコースターとフリーフォールに乗ってきたんだ。遥香も私も文字通り絶叫した。そのせいで喉が疲れているのに、ここでお化け屋敷に行ったらどうなる? お化けのせいでまた絶叫して、きっと喉が潰れることになるよ」
どうしてそこまで喉が気になるのかな。私のことを気遣ってくれるの?
「いや、別に喉は特に問題ないって。お茶も時々飲んでるし」
「えっ、休んでいたのって喉のケアをするためじゃなかったの?」
「……さっき、眠くなっただけだって言わなかった?」
「そ、そういえばそう言っていたかもね……」
絢ちゃんは苦笑いをしている。
それにしてもさっきから、絢ちゃんが必死になって話しているように思える。お化け屋敷へ行くことに否定的に聞こえて仕方ない。そこから考えられる理由は容易に想像がつくんだけれど……一応、訊いてみようかな。
「まさか、絢ちゃん……お化けが怖いの?」
ギクッと絢ちゃんは反応したけれど、必死に作り笑いを見せる。いや、お化けが怖いのは一発で分かったから。
「そ、そんなわけないって」
「じゃあ、どうしてお化け屋敷に行きたくないような感じで……」
「遥香の体を考えてだよ! だって、寝不足で凄く眠いんだよね?」
「でも、お化けに驚かされたらきっと目が覚めると思うよ」
「だけど、お化け屋敷ってもちろん中が暗いよね。暗いと眠くなっちゃうんじゃ……」
「そこまで眠くないよ!」
今の話で分かったのは、少なくとも……絢ちゃんはお化け屋敷に行くことに乗り気ではないということだ。でも、ホラー好きな私にとってお化け屋敷は外せない。
こうなったら最後の手を使うしかないかな。
「さっき約束してくれたでしょ? 私の行きたい場所に行かせてくれるって」
「そ、そうだね……」
「だから、お化け屋敷に行こうよ。行かせてくれないと、今こうなっているのが絢ちゃんのせいだって思っちゃうかもしれないから」
強行突破のような形はとりたくなかったんだけど、こうでもしないと絢ちゃんがお化け屋敷に行こうと決心がつかない気がして。
私は絢ちゃんの手を恋人繋ぎでしっかりと握る。
「それに……今日はずっと手を繋いでくれるんでしょ? こうしていればお化け屋敷だって乗り越えられるって」
絢ちゃんが納得してくれるように、できるだけ優しい口調で話す。今までの話を聞いていればお化けを怖がっているのは丸わかりだし。
無言のまま少々時間が流れて、
「……分かった。行こう」
絢ちゃんは唯一言、そう言った。表情はとても凜々しい。
「じゃあ、けっこう休憩できたし、さっそく行こうか」
「そうだね」
絢ちゃんは今一度、私の手を強く握った。握っている手は少し震えている。きっと、今からお化けが怖いのだろう。
絢ちゃんの気が変わって逃げられないようにするためにも、私は絢ちゃんの手を引きながら足早くお化け屋敷のある場所まで行く。
お化け屋敷の入り口の前にも人が並んでいたけど、2つの絶叫マシンの時に比べれば遥かに短い。最後尾にある看板にも10分待ちと書かれていた。
私達は待機列の最後尾に並ぶ。
「良かった、今度はすぐに入れるね」
「……別にすぐに入れなくてもいいんだけど」
「絢ちゃん、待つのは好きじゃないんでしょ?」
「さ、さっきも言ったじゃないか。待つのはあまり好きじゃないけど、遥香となら幾ら待っても大丈夫だって……」
「ああ、そうだったね。じゃあ、どうしてすぐに入れなくてもいいの?」
「……こ、心の準備が必要なんだよ。お化け屋敷っていうのは」
「そんなものかなぁ」
これ以上、絢ちゃんをからかうのは止めておこう。今も絢ちゃんは何時になく額に冷や汗を浮かべているから。
絢ちゃんが緊張してしまっているせいか、それから話が進まなかった。それでも、十分という時間はあっという間に過ぎていった。
「絢ちゃん、私達の番だよ」
「そうだね。緊張してきた。こんなの陸上の公式戦決勝以来だよ」
「そんな大げさな……」
まあ、それだけ絢ちゃんは覚悟を持ってお化け屋敷に挑むのだろう。人生をかけた大一番みたいな。
私達は係員の人に建物の入り口前まで誘導される。
入り口前にあった説明によると、お化け屋敷は廃旅館をイメージして作られているらしい。この旅館では何人もの人が自殺をし、気づけば自殺の名所として有名な場所になっていたようだ。しかし、その真実は旅館ができる遥か前に、旅館のある場所で1人の女性が自殺し、その女性の霊が冥界に引き寄せたとのこと。
順調に進めば30分ほどでゴールに着くらしい。私は大丈夫だけど、絢ちゃんの気力が最後まで持つかどうかちょっと不安だ。
「……遥香」
「どうかした?」
絢ちゃんは真剣な表情で私のことを見つめてくる。どんな場所でも、絢ちゃんに見つけられるとドキドキする。
「絶対に私の手を離さないで。約束して」
「……当たり前だよ。それに、今朝……同じことを約束したじゃない」
鏡原駅でのこと、忘れちゃったのかな。
絢ちゃんは一つ深呼吸をすると、ちょっと照れくさそうにはにかんだ。
「そうだったね。緊張してすっかり忘れていたよ。遥香は優しいから、私の手を離すなんてことするわけないよね」
「うん」
この様子なら、何とか大丈夫そうだ。
「それでは、中に入ってください」
ちょうどいいタイミングで、係員が入り口の引き戸を開けた。まだ入っていないのにお化け屋敷の独特な冷たくて暗い雰囲気が伝わってくる。
「行こうか、絢ちゃん」
「そ、そうだね……」
私達はお化け屋敷の中に入る。
入り口の引き戸が閉められると、中は薄暗くなった。ぼんやりとした赤い光が自殺した人の血を表現しているような気がして怖い。
「とりあえず、前に進まないと始まらないからね。行くよ」
「うん……」
自然と私が絢ちゃんの前で歩く形になっている。こんな光景、学校では絶対に見られないよ。今は王子様じゃなくてお姫様かな? お化けが苦手な。
それにしても、ここ……ひんやりしているな。演出だろうけれど。ワンピースだから足下がとても寒い。
「ねえ、絢ちゃん。この中って結構――」
「ひゃああっ!」
私の耳元で物凄く可愛らしい悲鳴が上がり、その直後には絢ちゃんが私の右腕にしがみつく。
「私の足を誰かが掴んでる!」
「えっ?」
すぐに絢ちゃんの足下を見ると、彼女の言う通り黒い長髪のお化けが絢ちゃんの足首を掴んでいた。
『あたしを……ひとりにしないで……』
演じているって分かっていても、この雰囲気で実際に言われると怖いものがある。絢ちゃんは足を掴まれているから更に怖いと思う。その証拠に、絢ちゃんの体はびくびくと震えている。
「はるかぁ……」
「とりあえず、手を振り払って逃げよう!」
私がそう言うと、絢ちゃんは全力でお化けの手を振り払った。
それからは、お化け屋敷では定番とも言える冷たいこんにゃくや青緑色の火の玉などが登場し、それなりに怖い思いをした。
しかし、係員が演じていると思われるお化けは、決まって絢ちゃんを驚かせていた気がする。お化けの声は全て女性だから演者は女性だと思うけど……絢ちゃんのことを気に入っちゃったのかな。
お化けが絢ちゃんに絡む度に、絢ちゃんは可愛い声を上げ、私にしがみついてきた。もう、こんな彼女は絶対に学校ではお目にかかることができないだろう。
こんな風にしていれば当然、ペースは落ちていき、出口まで辿り着くのに50分もかかってしまったのであった。
一度だけ落下するから大丈夫だろうと思っていたけれどそれは甘い認識だった。
落下速度がジェットコースターよりも速く、落差も100メートル以上だったから、たった一度の落下でも相当な体力が奪われたような気がする。
だから、席から立ったときに再び強い眠気が襲ってきたのだ。そのせいで意識を失いかけてしまった。絢ちゃんが支えてくれたから良かったけど。
「遥香、ごめんね。絶叫マシン2連発はさすがにきつかったよね……」
「ううん、いいよ。私も大丈夫だと思って乗ったわけだし」
「でも、ちょっと辛そうに見えるけれど」
絢ちゃん、私がこうしているのはきっと自分のせいだって思っているんだろう。ジェットコースターの後にフリーフォールに乗りたいなんて言ったから、って。彼女はいつになく俯いている。
「ただ、眠気が襲ってきただけだよ。寝不足だったからね。特に気分が悪いわけじゃないから、ちょっと休んだらどこかに行こうよ」
「それ、さっきも言っていたような……」
「思ったよりもフリーフォールの威力が凄かったんだよ。これは完全に私が悪いわけであって、絢ちゃんは何も悪くないよ」
たった一度の落下なら、と甘くみていた私に責任がある。絢ちゃんはただ、自分の希望を言っただけだから何の落ち度もない。私が断ることだってできたんだし。
「それでもまだ罪悪感があるって思うなら、次に行くアトラクションは私に決めさせてくれないかな。それで帳消しってことにしよう」
今まで行った2つのアトラクションは絢ちゃんの希望だったからね。そろそろ私の行きたいアトラクションに行ってみたい。
私の提案に納得してくれたのか、絢ちゃんの顔には普段の爽やかな笑みが戻る。
「……分かった。じゃあ、そうしよう」
「ありがとう、絢ちゃん」
「それで、遥香はどこか行きたい場所は見つけられたの?」
「幾つかには絞ってあるんだけどね。今から決めるよ」
そう言って、遊園地のパンフレットを開く。
たくさんのアトラクションがあるけれど、この人の多さだと今日一日では回れる場所は限られてくる。なので、行きたいアトラクションを数カ所に絞っておいた。
遊園地は広いから、まずはここからできるだけ近い場所のアトラクションにしたい。その条件に最も適する場所は……ここかな。
「お化け屋敷……」
「えっ?」
「次に行くのはお化け屋敷がいいな。絶叫マシン2連発の後にはちょうどいいんじゃないかな? それに、私……ホラーとか結構好きなんだ」
「へ、へえ……」
絢ちゃん、顔が引きつっている。ホラー好きなんて意外だと思っているのかな。
「ここからも近いし、お化け屋敷でもいいかな?」
「ちょ、ちょっと待って! お化け屋敷って……もちろんお化けが出てくるんだよね?」
「当たり前だよ。お化けがいなかったからただの屋敷だって」
「でも、お化けとか妖怪って元々人を驚かすためにいるわけでしょ?」
「全部が全部そうじゃないけど……」
座敷童子なんて家にいると守り神的存在でいいって言われているし。
「だけど、大半のお化けは驚かすためにいるんだよ。少なくとも、お化け屋敷にいるお化けはお客さんを驚かすためにいるんだから」
「驚かせるお化けがいないと面白くないもんね」
「そうだよね。ということは、たくさんお化けに驚かされるわけだから……必然的に私達はたくさん叫ぶことになるんだ」
「そう……なるね」
「ここで一度考えてみよう。私達は今日、絶叫マシンの代表とも言えるジェットコースターとフリーフォールに乗ってきたんだ。遥香も私も文字通り絶叫した。そのせいで喉が疲れているのに、ここでお化け屋敷に行ったらどうなる? お化けのせいでまた絶叫して、きっと喉が潰れることになるよ」
どうしてそこまで喉が気になるのかな。私のことを気遣ってくれるの?
「いや、別に喉は特に問題ないって。お茶も時々飲んでるし」
「えっ、休んでいたのって喉のケアをするためじゃなかったの?」
「……さっき、眠くなっただけだって言わなかった?」
「そ、そういえばそう言っていたかもね……」
絢ちゃんは苦笑いをしている。
それにしてもさっきから、絢ちゃんが必死になって話しているように思える。お化け屋敷へ行くことに否定的に聞こえて仕方ない。そこから考えられる理由は容易に想像がつくんだけれど……一応、訊いてみようかな。
「まさか、絢ちゃん……お化けが怖いの?」
ギクッと絢ちゃんは反応したけれど、必死に作り笑いを見せる。いや、お化けが怖いのは一発で分かったから。
「そ、そんなわけないって」
「じゃあ、どうしてお化け屋敷に行きたくないような感じで……」
「遥香の体を考えてだよ! だって、寝不足で凄く眠いんだよね?」
「でも、お化けに驚かされたらきっと目が覚めると思うよ」
「だけど、お化け屋敷ってもちろん中が暗いよね。暗いと眠くなっちゃうんじゃ……」
「そこまで眠くないよ!」
今の話で分かったのは、少なくとも……絢ちゃんはお化け屋敷に行くことに乗り気ではないということだ。でも、ホラー好きな私にとってお化け屋敷は外せない。
こうなったら最後の手を使うしかないかな。
「さっき約束してくれたでしょ? 私の行きたい場所に行かせてくれるって」
「そ、そうだね……」
「だから、お化け屋敷に行こうよ。行かせてくれないと、今こうなっているのが絢ちゃんのせいだって思っちゃうかもしれないから」
強行突破のような形はとりたくなかったんだけど、こうでもしないと絢ちゃんがお化け屋敷に行こうと決心がつかない気がして。
私は絢ちゃんの手を恋人繋ぎでしっかりと握る。
「それに……今日はずっと手を繋いでくれるんでしょ? こうしていればお化け屋敷だって乗り越えられるって」
絢ちゃんが納得してくれるように、できるだけ優しい口調で話す。今までの話を聞いていればお化けを怖がっているのは丸わかりだし。
無言のまま少々時間が流れて、
「……分かった。行こう」
絢ちゃんは唯一言、そう言った。表情はとても凜々しい。
「じゃあ、けっこう休憩できたし、さっそく行こうか」
「そうだね」
絢ちゃんは今一度、私の手を強く握った。握っている手は少し震えている。きっと、今からお化けが怖いのだろう。
絢ちゃんの気が変わって逃げられないようにするためにも、私は絢ちゃんの手を引きながら足早くお化け屋敷のある場所まで行く。
お化け屋敷の入り口の前にも人が並んでいたけど、2つの絶叫マシンの時に比べれば遥かに短い。最後尾にある看板にも10分待ちと書かれていた。
私達は待機列の最後尾に並ぶ。
「良かった、今度はすぐに入れるね」
「……別にすぐに入れなくてもいいんだけど」
「絢ちゃん、待つのは好きじゃないんでしょ?」
「さ、さっきも言ったじゃないか。待つのはあまり好きじゃないけど、遥香となら幾ら待っても大丈夫だって……」
「ああ、そうだったね。じゃあ、どうしてすぐに入れなくてもいいの?」
「……こ、心の準備が必要なんだよ。お化け屋敷っていうのは」
「そんなものかなぁ」
これ以上、絢ちゃんをからかうのは止めておこう。今も絢ちゃんは何時になく額に冷や汗を浮かべているから。
絢ちゃんが緊張してしまっているせいか、それから話が進まなかった。それでも、十分という時間はあっという間に過ぎていった。
「絢ちゃん、私達の番だよ」
「そうだね。緊張してきた。こんなの陸上の公式戦決勝以来だよ」
「そんな大げさな……」
まあ、それだけ絢ちゃんは覚悟を持ってお化け屋敷に挑むのだろう。人生をかけた大一番みたいな。
私達は係員の人に建物の入り口前まで誘導される。
入り口前にあった説明によると、お化け屋敷は廃旅館をイメージして作られているらしい。この旅館では何人もの人が自殺をし、気づけば自殺の名所として有名な場所になっていたようだ。しかし、その真実は旅館ができる遥か前に、旅館のある場所で1人の女性が自殺し、その女性の霊が冥界に引き寄せたとのこと。
順調に進めば30分ほどでゴールに着くらしい。私は大丈夫だけど、絢ちゃんの気力が最後まで持つかどうかちょっと不安だ。
「……遥香」
「どうかした?」
絢ちゃんは真剣な表情で私のことを見つめてくる。どんな場所でも、絢ちゃんに見つけられるとドキドキする。
「絶対に私の手を離さないで。約束して」
「……当たり前だよ。それに、今朝……同じことを約束したじゃない」
鏡原駅でのこと、忘れちゃったのかな。
絢ちゃんは一つ深呼吸をすると、ちょっと照れくさそうにはにかんだ。
「そうだったね。緊張してすっかり忘れていたよ。遥香は優しいから、私の手を離すなんてことするわけないよね」
「うん」
この様子なら、何とか大丈夫そうだ。
「それでは、中に入ってください」
ちょうどいいタイミングで、係員が入り口の引き戸を開けた。まだ入っていないのにお化け屋敷の独特な冷たくて暗い雰囲気が伝わってくる。
「行こうか、絢ちゃん」
「そ、そうだね……」
私達はお化け屋敷の中に入る。
入り口の引き戸が閉められると、中は薄暗くなった。ぼんやりとした赤い光が自殺した人の血を表現しているような気がして怖い。
「とりあえず、前に進まないと始まらないからね。行くよ」
「うん……」
自然と私が絢ちゃんの前で歩く形になっている。こんな光景、学校では絶対に見られないよ。今は王子様じゃなくてお姫様かな? お化けが苦手な。
それにしても、ここ……ひんやりしているな。演出だろうけれど。ワンピースだから足下がとても寒い。
「ねえ、絢ちゃん。この中って結構――」
「ひゃああっ!」
私の耳元で物凄く可愛らしい悲鳴が上がり、その直後には絢ちゃんが私の右腕にしがみつく。
「私の足を誰かが掴んでる!」
「えっ?」
すぐに絢ちゃんの足下を見ると、彼女の言う通り黒い長髪のお化けが絢ちゃんの足首を掴んでいた。
『あたしを……ひとりにしないで……』
演じているって分かっていても、この雰囲気で実際に言われると怖いものがある。絢ちゃんは足を掴まれているから更に怖いと思う。その証拠に、絢ちゃんの体はびくびくと震えている。
「はるかぁ……」
「とりあえず、手を振り払って逃げよう!」
私がそう言うと、絢ちゃんは全力でお化けの手を振り払った。
それからは、お化け屋敷では定番とも言える冷たいこんにゃくや青緑色の火の玉などが登場し、それなりに怖い思いをした。
しかし、係員が演じていると思われるお化けは、決まって絢ちゃんを驚かせていた気がする。お化けの声は全て女性だから演者は女性だと思うけど……絢ちゃんのことを気に入っちゃったのかな。
お化けが絢ちゃんに絡む度に、絢ちゃんは可愛い声を上げ、私にしがみついてきた。もう、こんな彼女は絶対に学校ではお目にかかることができないだろう。
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