ハナノカオリ

桜庭かなめ

文字の大きさ
17 / 226
Fragrance 1-コイノカオリ-

第16話『甘く危険な香り』

 お化け屋敷を出ても、絢ちゃんは私と腕を絡ませていた。

「絢ちゃん、もう終わったんだから大丈夫だって」
「……だって、凄く怖かったから」
「お化け、集中的に絢ちゃんばかり驚かせていたもんね……」
「……もう、暫くの間はお化け屋敷には行かない」

 絢ちゃんの顔をよく見ると、目元が赤くなっていた。暗くて気づかなかったけど、あまりにも怖くて泣いていたんだ。
 何か普段見ることのできない絢ちゃんが見られて嬉しい。

「でも、私はまた絢ちゃんと行きたいな。お化け屋敷」
「遥香のいじわる……」
「別に嫌な思いをさせるためじゃないよ。ただ、可愛い素の部分がたくさん見られて良かったなって」
「遥香……」
「学校での絢ちゃんが自然体だったらそれはそれでいいけれど、もし……今の方が自然体なら、もう少し普段から素の部分を見せていってもいいんじゃないかな。可愛い絢ちゃんもきっとみんなも受け入れてくれると思うよ」

 今のお化け屋敷を通して私の抱いていたとある推測は、確信に変わった。

 今の絢ちゃんは学校にいるときの絢ちゃんと振る舞い方が全く違うということ。

 学校での絢ちゃんは王子様のようにかっこいいけれど、今の絢ちゃんは可愛い女の子になっている。そうしている理由はまだ分からないけど。
 私に指摘されて恥ずかしいのか、頬を赤くして絢ちゃんは何も話そうとしない。

「とりあえず、お昼ご飯にしようか。もう1時過ぎてるから」

 スマホを見ると時刻は午後1時20分になっていた。
 私達のすぐ目の前には大きな広場があり、設置されているテーブルとイスには多くの客が利用している。お昼過ぎだけれど、昼食を取っている人も多い。
 私達は空いているテーブルのイスに座る。

「絢ちゃん、お昼ご飯……食べられそう?」
「……うん」
「じゃあ、私が何か買ってくるから、絢ちゃんはここで待っててよ」
「ちょっと待って!」

 絢ちゃんは私が離そうとしたぎゅっと手を掴んできた。
 どうしたんだろう? さっきまであまり元気がなさそうだったのに、今度は血相を変えて……何か慌てているようにも見える。

「わ、私も一緒に……」
「絢ちゃんはここでゆっくりしていて。さっきのお化け屋敷で相当驚かされて、いっぱい叫んで体力も結構使っちゃっただろうし」
「で、でも……」
「眠気はもう飛んだよ。絢ちゃんがたくさん叫んだからかな。大丈夫だよ、買ったらすぐに戻ってくるから」

 絢ちゃんは私をここに連れてきてくれて。絶叫マシンで意識が飛びそうになった私をずっと側で介抱してくれて。ずっと手を離さないでいてくれて。間違っているかもしれないけど、1人の時間を作って絢ちゃんをゆっくりさせてあげたい。

「何か食べたいものはある?」
「……焼きそば」
「分かった。焼きそば買ってくるから。絢ちゃんはゆっくり休んでて」
「うん。……それと、遥香」
「どうかした?」
「遥香に大事な話があるんだ。昼食を食べたらゆっくりと話したい」
「うん、分かったよ」

 真剣な表情をしながら、大事な話があると言われるとドキドキしちゃうよ。

「……あと、何かあったらすぐに連絡して。絶対だからね」
「そんなこと言われなくても、そのつもりだよ」
「気をつけて行ってきてね」
「うん」

 私は絢ちゃんに手を振って、広場から離れる。
 絢ちゃんの話したい大切な話が気になって仕方ない。その内容を知るためにも、早く焼きそばを買わなきゃ。
 パンフレットを頼りに飲食店の並ぶエリアまで辿り着く。様々な料理の匂いが混ざっているけれど、どれも美味しそうな匂いなので嫌な気には全くならない。
 端の店から順番にメニューを見ていき、半分くらい来たところにやっとメニューに焼きそばのあるお店を見つけた。

「よし、さっそく――」

 その店の待機列に並ぼうとしたときだった。

「んんんっ!」

 誰かによって薬を染みこませた布を嗅がされてしまう。何も抵抗できないまま意識が次第に薄れていく。そして、意識の失う直前に感じたものは――。

 最近、どこかで知った甘い香りだった。
感想 20

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。