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Fragrance 1-コイノカオリ-
エピローグ『始まりの朝』
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4月21日、日曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、そこには私のことを覗き込む笑顔の絢ちゃんがいた。優しい目つきで私のことを見ている。
「おはよう、遥香」
「……おはよう、絢ちゃん」
そして、絢ちゃんから目覚めのキス。日曜日の朝をこんなに幸せな形で迎えられたことが今までにあっただろうか。
部屋にあった時計を見ると、時刻は午前8時を回っていた。今日は日曜日だけど、普段の休みの日よりも少し早い目覚め。
「遥香の寝顔、とても可愛かったよ」
「……朝からそんなこと言われるとちょっと調子狂う」
「あははっ、そうか」
「でもごめんね、ゆっくり寝ちゃって」
「気にしなくていいよ。それに、気持ち良さそうに寝ている遥香の顔を見ているだけで幸せになれるよ。土曜日とかも部活がある日が多いから、今日みたいな部活のない休日でも早く目が覚めちゃうんだ」
そういえば、昨日と今日は陸上部の練習がないって言っていたな。ということは、今日も絢ちゃんと一緒に過ごせるんだ。昨日、色々とありすぎて物凄く長く感じたせいか不思議な感覚だ。
「今日も絢ちゃんと一緒にいられるんだね」
「そうだね。今日はどうする? どこか遊びに行く?」
「ううん、今日はお家デートする」
「お家デート? ということは、家でゆっくりするってこと?」
「うん。そういうこと。一緒に音楽を聴いたり、DVDを観たり。昨日は外だったから今日は家でのんびりしたいなぁ」
媚びるような感じで言ってみると、絢ちゃんの頬が見る見るうちに赤くなった。
外に出かけてもいいけれど、昨日の疲れがまだ残っているから、家でゆっくりしたいのが本音。それに、絢ちゃんのご家族が夕方まで帰ってこないから、ここならずっと2人きりでいられるし。
「……私も今日は家でゆっくりしたいって思ってたよ」
「じゃあ、ご飯は絢ちゃんの好きなもの作ってあげるね!」
「ありがとう。昨日の焼きそばも美味しかったし、楽しみにしているよ。あと、この前のクッキーが凄く気に入ったんだ。また作ってくれないかな?」
「あのくらいなら幾らでも作ってあげるよ」
確か、絢ちゃんは甘いものが好きなんだよね。よし、今日ははりきってクッキーの他にも何か作ろうかな。
そんなこんなで今日はお家デートに決定。家で好きなことをして過ごすだけだけど、今から楽しみで仕方ない。
「遥香、朝ご飯はもうできてるよ。私、料理はあまり得意じゃないから簡単なものしか用意できなかったけど」
「それでも構わないよ。今から朝ご飯作ろうかなって思っていたくらいだから」
「……そんなことを言ってくれるなんて、本当に遥香を嫁にほしいくらいだよ」
いつもの爽やかな微笑みを浮かべながら、嫁という言葉をさらっと言ってくる。少し天然なところでもあるのかな。
「でも、女同士だからどっちが嫁とかあるのかな?」
「絢ちゃんは王子様って呼ばれているわけだし、嫁に相応しいのは私じゃないかな」
「王子様、か。遥香も私のことを王子様って思ってる?」
「学校で他の女子に囲まれているときは、ね。でも、今みたいに私と2人きりのときは可愛い女の子だよ。王子様って雰囲気はあんまり感じないかな」
私がそう言うと、絢ちゃんはほっとしたような表情をした。
「……そっか。今の話を聞いて安心した」
「えっ、どうして?」
「昨日の観覧車の中で言ったでしょ。なかなか本音が出せないって。あれは高校に入学してからも一緒で。でも、遥香の前だけでは違った私に見えたってことは、私の本心を上手く遥香に伝えられたんだと思う。入学式の日から遥香のことが好きだったから、せめて遥香と2人きりの時はできるだけ本音で接しようと思って」
「そうだったんだ……」
じゃあ、今まで抱いていた違和感のようなものは……私に対する好意が原因だったわけだ。他の女子との接し方が違えば、私にはかっこいい王子様と可愛い女の子という二面性があるように見えて当たり前ってことか。
「でも、そろそろ他の女子にも本音で接しなきゃいけないな。離れていったら怖いとかそういうことに屈しないでさ」
「……そうだね。私がちゃんと見守ってるよ」
「うん。そうしてくれると心強い」
「で、でも……私以外には甘い言葉は言わないでよ。嫁にほしいとか」
絢ちゃんの場合、何にも考えずに相手をその気にさせる言葉を言っちゃいそうだから。ここは彼女として注意しておかないと。
「言わないよ。遥香が私の彼女だってことは絶対にこの先も揺るがないから」
「うん、約束だからね。あと、キスとか……昨日の夜にしたようなことも他の子には絶対しないで。絢ちゃんは人気があるからちょっと不安なの」
「……あんなこと、遥香にしかできないよ。遥香じゃなきゃ気持ち良くない」
「き、気持ちいいって……恥ずかしいよ、もう。……でも、約束だよ」
何度も絢ちゃんからされているので、今回は私からキスをする。
「誓いのキスってことで」
「誓うよ。でも、遥香も気をつけて。昨日、片桐さんが言っていたけど……遥香が人気だって話、本当だろうから。遥香が可愛いって小耳に挟んだこと何回もあるし」
「……分かった」
昨日の話の中で、私が同級生の間で人気があるっていうところだけは嘘だと思っていたんだけど、まさか本当だったとは。全く自覚がなかった。杏ちゃんや美咲ちゃんといつも一緒にいるからかな。
「そろそろ朝ご飯でも食べようか。リビングに用意してあるから」
「そうだね」
私達はベッドから降りて、一階のリビングまで行く。
「あっ、新聞取ってくるのを忘れた。遥香、先に食べてて」
「ソファーに座って待ってる」
「そっか。じゃあ、そうしてて」
私はリビングの大きなソファーに座る。
今思ったけど、将来……もし、絢ちゃんと2人で暮らすことになったら、毎日こんな朝を迎えることになるのかな。今日は絢ちゃんだったけど、たまには私が早起きして朝ご飯を作っておくとか。想像してみるだけでもけっこう楽しい。
「でも、最終的にはそうなりたいなぁ……」
女同士だから結婚できないとか、そういうのは関係ないと思う。女同士でも、好きな人同士が一緒にいることに変わりないし、何にも悪いことじゃないと思っている。と、昨日の夜に絢ちゃんがそう言っていたことを思い出す。そして、実際にそう思ってくれる人達が私と絢ちゃんの周りにいてくれることが心強い。
「遥香! 私宛に変な手紙が来ているんだけど」
「えっ?」
絢ちゃんの手には新聞の朝刊と白い封筒があった。
白い封筒に書いてある宛先は絢ちゃんになっており、差出人の名前は書かれていない。消印とかが一切ないということは誰かが直接家のポストに入れたことになる。
「とりあえず、開けてみよう」
封筒を開けると、そこには1枚の写真が入っていた。服装からして、昨日のデートの時の写真だ。写真に写る私と絢ちゃんは手を繋いでいる。
「これ……鏡原駅じゃないかな。見たことのある背景だよ」
「じゃあ、昨日の朝にこの写真を撮ったのか。一体、誰がこんなことを……」
「まさか、美咲ちゃん……なわけないよね。卯月さんのこともちゃんと聞いて、絢ちゃんが悪魔じゃないって分かってるし」
「ああ、昨日家に帰ってきたときに確認したけど……こんな手紙は入ってなかった。広瀬さんじゃないと思うよ」
この手紙……一体、どんな思惑があって送ってきたのだろう? 絢ちゃん宛ということだから絢ちゃんに目的があると思うけれど。
「遥香、写真の裏側に何か書いてある」
絢ちゃんに指摘され、写真の裏側を見てみる。
『悪魔め。今度は彼女を餌食にするのか。
彼女は将来、私の嫁にするつもりなんだ! 覚悟しておけ!』
そんな文章が書いてあった。
「まだ、絢ちゃんを悪魔だと思う人がいるんだ……」
「卯月さんの一件で私を悪魔だと揶揄する人はかなりの人数だ。あのことで、卯月さんよりも前に私に振られた女子やその友人達も私を悪魔だと思い始めたからね。卯月さんの親友である片桐さんと昨日、教会にいた何人かの女子に真実が分かっただけでは、こういう手紙もまだ暫くの間は届くことになりそうだ」
「でも、親友の杏ちゃんが真実を知っている。だから、きっと絢ちゃんが悪魔だっていう話はなくなっていくと思うよ。それに、私が支えるから安心して」
「そうしてくれるのは嬉しい。けど、果たして悪魔の一件だけで手紙がなくなると言い切れるかな。文章にある『彼女』って誰のことを指していると考えるべきだろう?」
確かにこの分には「彼女」という言葉が使われている。写真と併せてこの文章を読んでいくとこの「彼女」と称されている人は――。
「わ、私のことだ……」
「これで分かっただろう? 遥香の人気も並大抵じゃないことを。嫁にしたいってことはこの手紙を書いた人は遥香のことがかなり好きみたいだ」
「……物凄く嫌な方法で知っちゃったよ」
手紙の文面からして、私や絢ちゃんの前に差出人が現れると思うけれど。今度は誰なんだろう。私達の知っている人なのかな。いずれにせよ、昨日の一件をこの手紙の差出人は知っていることになる。
絢ちゃんの彼女になっても、色々と大変なことがこの先待っていることだろう。絢ちゃんの彼女でいられるように頑張っていかないと。
「近いうちに学校で私と遥香が付き合っていることを公表しようか。そうすると色々と騒がれると思うけど、誰も付き合っていないと勘違いされるよりもよっぽどいい」
「言っちゃって大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。女子校だから、女の子同士で付き合っている生徒もいるし。それに、遥香はどんなことがあっても私の彼女でいてくれるんだろう?」
「もちろんだよ! 絢ちゃんのことを好きな気持ちは誰にも負けないよ」
「私だって遥香のことが好きな気持ちは誰にも負けない。お互いにそれを信じ合っていれば、絶対に乗り越えられるよ」
「……そうだね。一緒に乗り越えていこう」
「じゃあ、それを誓うためにキスしようか」
「……本当はキスをしたいだけなんじゃないの?」
私がそう指摘すると、絢ちゃんはばれたかと言わんばかりの笑顔を見せる。
「まったく、しょうがないなぁ……」
「でも、気持ちは本当だよ」
「分かってるって。それに、私だって絢ちゃんとキスがしたい。ほら……絢ちゃんが言い出したんだから、絢ちゃんからしてよ」
「……分かった。遥香、好きだよ。愛してる」
「私も、絢ちゃんのことが好き。愛しているよ」
互いに気持ちを確かめ合って絢ちゃんの方からキスをした。
そう、好きだという気持ちを抱き続けられれば……どんな困難があっても乗り越えられると信じている。絢ちゃんとなら絶対に。
そんなことを思いながら、私は今日も愛しい人の側で愛しい時間を過ごしていく。
Fragrance 1-コイノカオリ- おわり
Fragrance 2-ウラヤミノカオリ- に続く。
ゆっくりと目を覚ますと、そこには私のことを覗き込む笑顔の絢ちゃんがいた。優しい目つきで私のことを見ている。
「おはよう、遥香」
「……おはよう、絢ちゃん」
そして、絢ちゃんから目覚めのキス。日曜日の朝をこんなに幸せな形で迎えられたことが今までにあっただろうか。
部屋にあった時計を見ると、時刻は午前8時を回っていた。今日は日曜日だけど、普段の休みの日よりも少し早い目覚め。
「遥香の寝顔、とても可愛かったよ」
「……朝からそんなこと言われるとちょっと調子狂う」
「あははっ、そうか」
「でもごめんね、ゆっくり寝ちゃって」
「気にしなくていいよ。それに、気持ち良さそうに寝ている遥香の顔を見ているだけで幸せになれるよ。土曜日とかも部活がある日が多いから、今日みたいな部活のない休日でも早く目が覚めちゃうんだ」
そういえば、昨日と今日は陸上部の練習がないって言っていたな。ということは、今日も絢ちゃんと一緒に過ごせるんだ。昨日、色々とありすぎて物凄く長く感じたせいか不思議な感覚だ。
「今日も絢ちゃんと一緒にいられるんだね」
「そうだね。今日はどうする? どこか遊びに行く?」
「ううん、今日はお家デートする」
「お家デート? ということは、家でゆっくりするってこと?」
「うん。そういうこと。一緒に音楽を聴いたり、DVDを観たり。昨日は外だったから今日は家でのんびりしたいなぁ」
媚びるような感じで言ってみると、絢ちゃんの頬が見る見るうちに赤くなった。
外に出かけてもいいけれど、昨日の疲れがまだ残っているから、家でゆっくりしたいのが本音。それに、絢ちゃんのご家族が夕方まで帰ってこないから、ここならずっと2人きりでいられるし。
「……私も今日は家でゆっくりしたいって思ってたよ」
「じゃあ、ご飯は絢ちゃんの好きなもの作ってあげるね!」
「ありがとう。昨日の焼きそばも美味しかったし、楽しみにしているよ。あと、この前のクッキーが凄く気に入ったんだ。また作ってくれないかな?」
「あのくらいなら幾らでも作ってあげるよ」
確か、絢ちゃんは甘いものが好きなんだよね。よし、今日ははりきってクッキーの他にも何か作ろうかな。
そんなこんなで今日はお家デートに決定。家で好きなことをして過ごすだけだけど、今から楽しみで仕方ない。
「遥香、朝ご飯はもうできてるよ。私、料理はあまり得意じゃないから簡単なものしか用意できなかったけど」
「それでも構わないよ。今から朝ご飯作ろうかなって思っていたくらいだから」
「……そんなことを言ってくれるなんて、本当に遥香を嫁にほしいくらいだよ」
いつもの爽やかな微笑みを浮かべながら、嫁という言葉をさらっと言ってくる。少し天然なところでもあるのかな。
「でも、女同士だからどっちが嫁とかあるのかな?」
「絢ちゃんは王子様って呼ばれているわけだし、嫁に相応しいのは私じゃないかな」
「王子様、か。遥香も私のことを王子様って思ってる?」
「学校で他の女子に囲まれているときは、ね。でも、今みたいに私と2人きりのときは可愛い女の子だよ。王子様って雰囲気はあんまり感じないかな」
私がそう言うと、絢ちゃんはほっとしたような表情をした。
「……そっか。今の話を聞いて安心した」
「えっ、どうして?」
「昨日の観覧車の中で言ったでしょ。なかなか本音が出せないって。あれは高校に入学してからも一緒で。でも、遥香の前だけでは違った私に見えたってことは、私の本心を上手く遥香に伝えられたんだと思う。入学式の日から遥香のことが好きだったから、せめて遥香と2人きりの時はできるだけ本音で接しようと思って」
「そうだったんだ……」
じゃあ、今まで抱いていた違和感のようなものは……私に対する好意が原因だったわけだ。他の女子との接し方が違えば、私にはかっこいい王子様と可愛い女の子という二面性があるように見えて当たり前ってことか。
「でも、そろそろ他の女子にも本音で接しなきゃいけないな。離れていったら怖いとかそういうことに屈しないでさ」
「……そうだね。私がちゃんと見守ってるよ」
「うん。そうしてくれると心強い」
「で、でも……私以外には甘い言葉は言わないでよ。嫁にほしいとか」
絢ちゃんの場合、何にも考えずに相手をその気にさせる言葉を言っちゃいそうだから。ここは彼女として注意しておかないと。
「言わないよ。遥香が私の彼女だってことは絶対にこの先も揺るがないから」
「うん、約束だからね。あと、キスとか……昨日の夜にしたようなことも他の子には絶対しないで。絢ちゃんは人気があるからちょっと不安なの」
「……あんなこと、遥香にしかできないよ。遥香じゃなきゃ気持ち良くない」
「き、気持ちいいって……恥ずかしいよ、もう。……でも、約束だよ」
何度も絢ちゃんからされているので、今回は私からキスをする。
「誓いのキスってことで」
「誓うよ。でも、遥香も気をつけて。昨日、片桐さんが言っていたけど……遥香が人気だって話、本当だろうから。遥香が可愛いって小耳に挟んだこと何回もあるし」
「……分かった」
昨日の話の中で、私が同級生の間で人気があるっていうところだけは嘘だと思っていたんだけど、まさか本当だったとは。全く自覚がなかった。杏ちゃんや美咲ちゃんといつも一緒にいるからかな。
「そろそろ朝ご飯でも食べようか。リビングに用意してあるから」
「そうだね」
私達はベッドから降りて、一階のリビングまで行く。
「あっ、新聞取ってくるのを忘れた。遥香、先に食べてて」
「ソファーに座って待ってる」
「そっか。じゃあ、そうしてて」
私はリビングの大きなソファーに座る。
今思ったけど、将来……もし、絢ちゃんと2人で暮らすことになったら、毎日こんな朝を迎えることになるのかな。今日は絢ちゃんだったけど、たまには私が早起きして朝ご飯を作っておくとか。想像してみるだけでもけっこう楽しい。
「でも、最終的にはそうなりたいなぁ……」
女同士だから結婚できないとか、そういうのは関係ないと思う。女同士でも、好きな人同士が一緒にいることに変わりないし、何にも悪いことじゃないと思っている。と、昨日の夜に絢ちゃんがそう言っていたことを思い出す。そして、実際にそう思ってくれる人達が私と絢ちゃんの周りにいてくれることが心強い。
「遥香! 私宛に変な手紙が来ているんだけど」
「えっ?」
絢ちゃんの手には新聞の朝刊と白い封筒があった。
白い封筒に書いてある宛先は絢ちゃんになっており、差出人の名前は書かれていない。消印とかが一切ないということは誰かが直接家のポストに入れたことになる。
「とりあえず、開けてみよう」
封筒を開けると、そこには1枚の写真が入っていた。服装からして、昨日のデートの時の写真だ。写真に写る私と絢ちゃんは手を繋いでいる。
「これ……鏡原駅じゃないかな。見たことのある背景だよ」
「じゃあ、昨日の朝にこの写真を撮ったのか。一体、誰がこんなことを……」
「まさか、美咲ちゃん……なわけないよね。卯月さんのこともちゃんと聞いて、絢ちゃんが悪魔じゃないって分かってるし」
「ああ、昨日家に帰ってきたときに確認したけど……こんな手紙は入ってなかった。広瀬さんじゃないと思うよ」
この手紙……一体、どんな思惑があって送ってきたのだろう? 絢ちゃん宛ということだから絢ちゃんに目的があると思うけれど。
「遥香、写真の裏側に何か書いてある」
絢ちゃんに指摘され、写真の裏側を見てみる。
『悪魔め。今度は彼女を餌食にするのか。
彼女は将来、私の嫁にするつもりなんだ! 覚悟しておけ!』
そんな文章が書いてあった。
「まだ、絢ちゃんを悪魔だと思う人がいるんだ……」
「卯月さんの一件で私を悪魔だと揶揄する人はかなりの人数だ。あのことで、卯月さんよりも前に私に振られた女子やその友人達も私を悪魔だと思い始めたからね。卯月さんの親友である片桐さんと昨日、教会にいた何人かの女子に真実が分かっただけでは、こういう手紙もまだ暫くの間は届くことになりそうだ」
「でも、親友の杏ちゃんが真実を知っている。だから、きっと絢ちゃんが悪魔だっていう話はなくなっていくと思うよ。それに、私が支えるから安心して」
「そうしてくれるのは嬉しい。けど、果たして悪魔の一件だけで手紙がなくなると言い切れるかな。文章にある『彼女』って誰のことを指していると考えるべきだろう?」
確かにこの分には「彼女」という言葉が使われている。写真と併せてこの文章を読んでいくとこの「彼女」と称されている人は――。
「わ、私のことだ……」
「これで分かっただろう? 遥香の人気も並大抵じゃないことを。嫁にしたいってことはこの手紙を書いた人は遥香のことがかなり好きみたいだ」
「……物凄く嫌な方法で知っちゃったよ」
手紙の文面からして、私や絢ちゃんの前に差出人が現れると思うけれど。今度は誰なんだろう。私達の知っている人なのかな。いずれにせよ、昨日の一件をこの手紙の差出人は知っていることになる。
絢ちゃんの彼女になっても、色々と大変なことがこの先待っていることだろう。絢ちゃんの彼女でいられるように頑張っていかないと。
「近いうちに学校で私と遥香が付き合っていることを公表しようか。そうすると色々と騒がれると思うけど、誰も付き合っていないと勘違いされるよりもよっぽどいい」
「言っちゃって大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。女子校だから、女の子同士で付き合っている生徒もいるし。それに、遥香はどんなことがあっても私の彼女でいてくれるんだろう?」
「もちろんだよ! 絢ちゃんのことを好きな気持ちは誰にも負けないよ」
「私だって遥香のことが好きな気持ちは誰にも負けない。お互いにそれを信じ合っていれば、絶対に乗り越えられるよ」
「……そうだね。一緒に乗り越えていこう」
「じゃあ、それを誓うためにキスしようか」
「……本当はキスをしたいだけなんじゃないの?」
私がそう指摘すると、絢ちゃんはばれたかと言わんばかりの笑顔を見せる。
「まったく、しょうがないなぁ……」
「でも、気持ちは本当だよ」
「分かってるって。それに、私だって絢ちゃんとキスがしたい。ほら……絢ちゃんが言い出したんだから、絢ちゃんからしてよ」
「……分かった。遥香、好きだよ。愛してる」
「私も、絢ちゃんのことが好き。愛しているよ」
互いに気持ちを確かめ合って絢ちゃんの方からキスをした。
そう、好きだという気持ちを抱き続けられれば……どんな困難があっても乗り越えられると信じている。絢ちゃんとなら絶対に。
そんなことを思いながら、私は今日も愛しい人の側で愛しい時間を過ごしていく。
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