ハナノカオリ

桜庭かなめ

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Fragrance 2-ウラヤミノカオリ-

プロローグ『汐崎瑠璃』

Fragrance 2-ウラヤミノカオリ-



 坂井遥香を恋人にした原田絢のことがどうしても許せない。

 周りには常に彼女へ好意を寄せる人間がいるのに、彼女は全く告白を受け入れなかった。その所為で、中学時代に1人の女子を眠らせた『悪魔』の噂だって知っている。
 そんな女が突然、遥香を自分の彼女にした。
 どうして? 私の方が遥香のことをよく知っているし、遥香だって原田絢よりも私のことの方をよく知っているのに。

 ああ、嫌な気分になる。考えただけでむしゃくしゃしてくる。

 だったら考えるのを止めればいいってことは分かっている。それでも考えてしまう。中学校からの親友のことだから。
 とにかく、遥香が原田絢の彼女になったことが許せない。
 だから、私は原田絢の家のポストにあの写真を入れた。

『悪魔め。今度は彼女を餌食にするのか。
 彼女は将来、私の嫁にするつもりなんだ! 覚悟しておけ!』 

 宣戦布告のようなメッセージをぶつけて。
 覚悟しておけ、と書いておきながら、私には何も覚悟ができていなかった。
 ううん、何の覚悟をすればいいのかさえ分かっていない。遥香が原田絢の彼女になったのが嫌、という理由で写真を入れたからだ。
 遥香に『特別な感情』を抱いているのは確か。
 でも、その中身が自分でもよく分かっていないのだ。
 ただ、一つ言えるのは……今の私を動かしているのは、その『特別な感情』であるということ。


 あの写真をポストに入れてから2日が経った。
 私は遥香や原田絢の様子を監視している。隣のクラスだから四六時中監視することはできないけど、私の見る限りではそれまでと全く様子は変わらない。

 ああ、つまらない。そして、ムカつく。

 2人の写真はたくさん撮っている。時には『悪魔』のことについて全生徒にばらすという脅迫文を添えて送っているのに、原田絢は困った様子を全然見せない。
 それって、遥香が自分の彼女になってくれたから? もしそうなら、今すぐに原田絢を消し去りたい。

「ひゃあっ!」

 突然、頬に冷たいものが当たる。冷たすぎて悲鳴を上げると同時に我に返る。
 私、汐崎瑠璃しおさきるりの横には、水筒を持って微笑んでいる立見真奈たつみまながいた。セミロングの黒髪が清楚なイメージを持たせる可愛い女の子。

「瑠璃、浮かない顔してるけど……体調でも悪いの?」
「ううん、別に」

 顔に出ちゃうほど考えていたのか。
 今は女子バスケットボール部の活動中。練習中は忘れられるけれど、休憩時間になるとどうしても考えてしまう。考えすぎて、練習に支障をきたさないようにしないと。

「瑠璃がそう言うならいいけど。何か、休憩の時間になると、何か悩んでいるように見えたから……」
「別にそんなことないよ。ちょっと眠いだけ」
「……そっか。瑠璃、頑張ってるもんね。夏の予選ではさっそくレギュラーになれるんじゃない?」
「真奈がいるんだからそんなことないって」

 真奈とは高校で初めて同じに学校になったけど、中学時代からバスケットボール繋がりで面識がある。主に大会の予選トーナメントの準決勝や決勝で対戦していた。特に去年は互いにキャプテンで、死闘の決勝戦を繰り広げた。僅差で勝って全国大会に行けたけど、私より背の低い真奈のプレーには、巧さを超えて恐ろしさを感じた。
 真奈とのレギュラー争いも理由の1つだけど、それよりも原田絢のことを考えないようにするために練習を頑張っている、という方が正しい。

「でも、一緒にレギュラーになれるように頑張ろうよ、瑠璃」
「……そうだな。それが一番いい」

 真奈が天羽女子高校に入学すると分かった瞬間、絶対に同じチームでインターハイに出たいと思った。それはできるだけ早く実現したい。そのためには遥香や原田絢のことで考え込んだり、悩んだりしちゃいけないんだ。それは分かっている。
 だけど、時間が経つに連れて消えるどころか存在感が増していく。それに打ち勝つには今まで以上に練習を頑張るしかないのか。
 そう考えると原田絢のことがますます邪魔者のように思えてくる。

「また浮かない顔してる。眠いの?」
「ううん、真奈と一緒に大会に出るにはどうすればいいのかなって考えてただけ」
「瑠理は真面目だね。それに、見た目通りクールだし」
「私は別にそんな風に思わないけど」

 真奈は私の名前と同じ瑠璃色の髪を見て言っているだけだと思う。真奈には普通に接しているつもりなんだけど。
 真奈は私よりもよっぽど明るくて、気さくで、真っ直ぐな女の子だ。出会って間もない先輩ともすぐに仲良く話せてしまうほど。そんな子が私を見たらクールだっていう印象を抱くのかな。

「……あっ、もう時間だ。真奈、練習に戻ろう」
「うん、そうだね」

 そう言う彼女の笑みはとても可愛くて、羨ましかった。

 ――あんなことさえなければ、私も同じように笑えたのかなって。

 遥香に対する『特別な感情』を抱き始めたのがいつからなのかは分からない。でも、こんな心境になったのは絶対にあのときからだ。

 遥香と原田絢が接触し始めたあのときから。
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