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Fragrance 3-メザメノカオリ-
第10話『違和感』
放課後。
陸上部の練習が終わって、今は女子更衣室で体操着から制服に着替えている。
昨日と同じように、今から卯月さんの家に向かう予定だけど、その前に私はある人に会って相談したいことがあった。また、その人は必ずここにやってくる。
制服に着替え、近くのベンチに座ってその人のことを待つ。
「どうすればいいんだか……」
周りに人がいなかったので、そう声を漏らした。
卯月さんは本当に片桐さんのことを嫌ってしまったのだろうか。私にはどうしてもそう思うことができない。
片桐さんの話をしたとき、卯月さんは嫌な表情を見せていた。けれど、どこか焦っていたり動揺していたりしているようにも見えた。例えそうであっても、どうしてそうなるのか……その心当たりは何もなかった。
まあ、そんな疑問もあるから、私はここで待っているんだけど。
女子バスケ部の方も、もうそろそろ終わると思うんだけどな。
そんなことを思っていると、廊下から続々と体操着姿の部活終わりの子達が入ってきた。女子バスケ部だ。見覚えのある同級生がいる。
以前はこういう場所でも、結構な女子に囲まれていたんだけど、遥香との恋人宣言をしてからはそれもめっきり減った。親しくしている人だけが今でも話しかけてくる状況だ。
「原田さん」
今、私に声をかけてきた汐崎瑠璃も親しい人の1人だ。先月の写真の件が解決した後に仲良くなった。
彼女こそ私の相談したい相手だった。事前にその旨のメールを送って、汐崎さんから練習後の更衣室で話そうと提案され、今に至る。
「汐崎さん。練習、お疲れ様」
「原田さんこそ、お疲れ様。それよりも相談したいことがあるんだよね」
「……うん。着替えながらでいいから、話を聞いてくれないかな」
「……分かった。それで、何か悩んでいることがあるの?」
「私自身のことじゃない。ただ、助けたい人達がいるんだ」
「助けたい人達?」
「うん」
私は卯月さんと片桐さんのことについて、1年前の出来事を中心に話した。一通り話したときには、汐崎さんは制服に着替え終わっていた。
「……つまり、卯月さんっていう子は片桐さんのアドバイスさえなければ、首を吊るようなことはなかったって言っているんだ。それを理由に片桐さんを突き放した」
「そんな感じ」
「それで、原田さんは卯月さんの方を説得していて、遥香と美咲は片桐さんの側にいるっていうわけか」
「まあね。卯月さんの方が上手くいくかもしれないと思ったら、今度は片桐さんが卯月さんから逃げてしまっているんだ」
「それだけ卯月さんへの罪悪感が強いってことなんだろうね」
「せめて卯月さんに、片桐さんと一度でも良いから話し合うように促したいんだけど。卯月さん、片桐さんのことをどう思っているか分からなくて」
「えっ、片桐さんを嫌っているんじゃないの?」
やっぱり、話を聞くだけだと片桐さんを嫌っているように思えるのか。ということは、私の感じている違和感は卯月さんの態度や表情からなんだろうな。
「……それが納得できないんだ、汐崎さん」
「じゃあ、他にどう思っているっていうんだ?」
「……分からない。でも、片桐さんのことを一番に考えているって信じたい。その気持ちが上手く表に出せないだけだって思いたいんだ」
「まさか、それで私に相談したいって言ったの?」
「……そうだよ」
あえて汐崎さんに相談した理由は、彼女は自分の本音をやっとのことで表に出すことができたからだ。本音が言えなかったときの気持ちや、本音を言うきっかけがどんなことだったのかが知りたかった。
汐崎さんはそんな私の気持ちを汲み取ってくれたようだ。爽やかに微笑んでいる。
「私と卯月さんは真逆だと思うよ」
「どういうこと?」
「私は自分の本音が全然分からなかったんだもん。遥香のおかげで、遥香のことを独占したかった気持ち、そして椿への恋心を自覚したんだ。けれど、卯月さんは逆だと思う。原田さんが違和感を抱いているなら、それは絶対に卯月さんは自分の本音が分かっているからだと思う。本音を隠すために、わざと片桐さんを嫌ったような態度を見せているんじゃないのかな」
確かにそれは的を射ているのかもしれない。
卯月さんは自分を嘘で包み込もうとしているんだ。だから、私が片桐さんのことを訊くと核心に触れて動揺してしまうのか。
「どうすれば、卯月さんが本当の気持ちを言えるようになるのかな」
卯月さんの気持ちが分かっても、本人が片桐さんに言えなければ何の意味はない。私達が目指そうとしている到達点はそこだ。
「簡単なことだよ、原田さん」
汐崎さんは優しい目つきで私のことを見る。
「卯月さんの側にいて、彼女の話をとことん聞くんだ。私の場合、遥香という存在が側にいて話を聞いてくれたから、本音に辿り着いて、君に言う決心がついたんだ。遥香のような存在になればいいんだと思う」
「遥香のような存在、か……」
思い返してみればその通りだ。
卯月さんの側にいて、話す度に……彼女はどんどん明るくなっている。最初は見せなかった動揺も、昨日ははっきりと分かるくらいだった。それって、少しずつでも彼女の本音が表に現れようとしている証拠なんじゃないのか?
それにしても、そのことを遥香から教えられるなんて。本当に凄い女の子を彼女に持ったよ。
「……分かった。卯月さんと向き合ってみるよ。この後、彼女と会うつもりだから」
「そっか。卯月さんもそうだけど、片桐さんも元気になるといいね」
「うん。ありがとう、相談に乗ってくれて」
「気にしないでいいよ。それに……ちゃんと向き合えば大丈夫だと思う。だって、私達がこうして普通に話せているじゃない。親友だった2人なら、絶対に仲直りできるさ」
「……そう、信じたいね」
自分の気持ちを自覚し、向き合うことができた彼女だからこそ、今の言葉はとても重く、でも、心強い。
「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。図書室に椿を迎えに行かないといけないから」
「そっか」
「……頑張って」
そう言うと、汐崎さんは私に手を振り、更衣室から出て行った。
私もそろそろ帰ろうかな。卯月さんと会う約束があるし。それから程なくして、私も更衣室を後にするのであった。
陸上部の練習が終わって、今は女子更衣室で体操着から制服に着替えている。
昨日と同じように、今から卯月さんの家に向かう予定だけど、その前に私はある人に会って相談したいことがあった。また、その人は必ずここにやってくる。
制服に着替え、近くのベンチに座ってその人のことを待つ。
「どうすればいいんだか……」
周りに人がいなかったので、そう声を漏らした。
卯月さんは本当に片桐さんのことを嫌ってしまったのだろうか。私にはどうしてもそう思うことができない。
片桐さんの話をしたとき、卯月さんは嫌な表情を見せていた。けれど、どこか焦っていたり動揺していたりしているようにも見えた。例えそうであっても、どうしてそうなるのか……その心当たりは何もなかった。
まあ、そんな疑問もあるから、私はここで待っているんだけど。
女子バスケ部の方も、もうそろそろ終わると思うんだけどな。
そんなことを思っていると、廊下から続々と体操着姿の部活終わりの子達が入ってきた。女子バスケ部だ。見覚えのある同級生がいる。
以前はこういう場所でも、結構な女子に囲まれていたんだけど、遥香との恋人宣言をしてからはそれもめっきり減った。親しくしている人だけが今でも話しかけてくる状況だ。
「原田さん」
今、私に声をかけてきた汐崎瑠璃も親しい人の1人だ。先月の写真の件が解決した後に仲良くなった。
彼女こそ私の相談したい相手だった。事前にその旨のメールを送って、汐崎さんから練習後の更衣室で話そうと提案され、今に至る。
「汐崎さん。練習、お疲れ様」
「原田さんこそ、お疲れ様。それよりも相談したいことがあるんだよね」
「……うん。着替えながらでいいから、話を聞いてくれないかな」
「……分かった。それで、何か悩んでいることがあるの?」
「私自身のことじゃない。ただ、助けたい人達がいるんだ」
「助けたい人達?」
「うん」
私は卯月さんと片桐さんのことについて、1年前の出来事を中心に話した。一通り話したときには、汐崎さんは制服に着替え終わっていた。
「……つまり、卯月さんっていう子は片桐さんのアドバイスさえなければ、首を吊るようなことはなかったって言っているんだ。それを理由に片桐さんを突き放した」
「そんな感じ」
「それで、原田さんは卯月さんの方を説得していて、遥香と美咲は片桐さんの側にいるっていうわけか」
「まあね。卯月さんの方が上手くいくかもしれないと思ったら、今度は片桐さんが卯月さんから逃げてしまっているんだ」
「それだけ卯月さんへの罪悪感が強いってことなんだろうね」
「せめて卯月さんに、片桐さんと一度でも良いから話し合うように促したいんだけど。卯月さん、片桐さんのことをどう思っているか分からなくて」
「えっ、片桐さんを嫌っているんじゃないの?」
やっぱり、話を聞くだけだと片桐さんを嫌っているように思えるのか。ということは、私の感じている違和感は卯月さんの態度や表情からなんだろうな。
「……それが納得できないんだ、汐崎さん」
「じゃあ、他にどう思っているっていうんだ?」
「……分からない。でも、片桐さんのことを一番に考えているって信じたい。その気持ちが上手く表に出せないだけだって思いたいんだ」
「まさか、それで私に相談したいって言ったの?」
「……そうだよ」
あえて汐崎さんに相談した理由は、彼女は自分の本音をやっとのことで表に出すことができたからだ。本音が言えなかったときの気持ちや、本音を言うきっかけがどんなことだったのかが知りたかった。
汐崎さんはそんな私の気持ちを汲み取ってくれたようだ。爽やかに微笑んでいる。
「私と卯月さんは真逆だと思うよ」
「どういうこと?」
「私は自分の本音が全然分からなかったんだもん。遥香のおかげで、遥香のことを独占したかった気持ち、そして椿への恋心を自覚したんだ。けれど、卯月さんは逆だと思う。原田さんが違和感を抱いているなら、それは絶対に卯月さんは自分の本音が分かっているからだと思う。本音を隠すために、わざと片桐さんを嫌ったような態度を見せているんじゃないのかな」
確かにそれは的を射ているのかもしれない。
卯月さんは自分を嘘で包み込もうとしているんだ。だから、私が片桐さんのことを訊くと核心に触れて動揺してしまうのか。
「どうすれば、卯月さんが本当の気持ちを言えるようになるのかな」
卯月さんの気持ちが分かっても、本人が片桐さんに言えなければ何の意味はない。私達が目指そうとしている到達点はそこだ。
「簡単なことだよ、原田さん」
汐崎さんは優しい目つきで私のことを見る。
「卯月さんの側にいて、彼女の話をとことん聞くんだ。私の場合、遥香という存在が側にいて話を聞いてくれたから、本音に辿り着いて、君に言う決心がついたんだ。遥香のような存在になればいいんだと思う」
「遥香のような存在、か……」
思い返してみればその通りだ。
卯月さんの側にいて、話す度に……彼女はどんどん明るくなっている。最初は見せなかった動揺も、昨日ははっきりと分かるくらいだった。それって、少しずつでも彼女の本音が表に現れようとしている証拠なんじゃないのか?
それにしても、そのことを遥香から教えられるなんて。本当に凄い女の子を彼女に持ったよ。
「……分かった。卯月さんと向き合ってみるよ。この後、彼女と会うつもりだから」
「そっか。卯月さんもそうだけど、片桐さんも元気になるといいね」
「うん。ありがとう、相談に乗ってくれて」
「気にしないでいいよ。それに……ちゃんと向き合えば大丈夫だと思う。だって、私達がこうして普通に話せているじゃない。親友だった2人なら、絶対に仲直りできるさ」
「……そう、信じたいね」
自分の気持ちを自覚し、向き合うことができた彼女だからこそ、今の言葉はとても重く、でも、心強い。
「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。図書室に椿を迎えに行かないといけないから」
「そっか」
「……頑張って」
そう言うと、汐崎さんは私に手を振り、更衣室から出て行った。
私もそろそろ帰ろうかな。卯月さんと会う約束があるし。それから程なくして、私も更衣室を後にするのであった。
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