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Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
第16話『キスシーン』
7月4日、木曜日。
午後6時。茶道部の活動を終えた私は、絢ちゃんのいるグラウンドの近くに向かっている。
お兄ちゃんが帰ってこない理由を、昨日の放課後に奈央ちゃんから聞いた。
まさか、私と絢ちゃんが学校でキスしているところを写真で撮られているとは思わなかった。そして、それを利用してお兄ちゃんが脅迫されていることも。このことについて、今日の朝に絢ちゃんに伝えた。
私達に迷惑をかけまいとお兄ちゃんが頑張ってくれているのは嬉しい。でも、私達がお兄ちゃんに迷惑をかけてしまっている。それが悔しくてたまらない。
「……遥香」
待ち合わせの場所には既に制服に着替えていた絢ちゃんが待っていた。私を見つけると彼女は爽やかな笑みを浮かべて手を振ってくる。
「絢ちゃん、待たせちゃった?」
「ううん、私もたった今来たところだから」
そう言うと、絢ちゃんは私のことを抱きしめてきた。そのときに香ってくる彼女の汗の匂いが今の私にはとても心地よい。
「こんなところで抱きしめられるなんて恥ずかしいよ」
「……もう、恋人宣言をしてから2ヶ月くらい経っているんだ。今の私達を見たってイチャイチャしているくらいにしか思わないよ」
「……うん」
絢ちゃんの気持ちに応えるように、私も彼女のことを抱きしめる。
「……ねえ、遥香」
「なに?」
「……キスしようよ。もう、我慢できない」
「で、でも……」
私達が外でキスしたせいで、お兄ちゃんがあんなことになっているのに。
「……分かってる。でも、抑えきれないよ」
そんなことを見つめられて言われると、私も欲求を抑えられなくなる。私だって絢ちゃんとキス、したい。
「……一度だけ、だよ」
「ありがとう。好きだよ、遥香」
「……私も、好き」
そして、私は絢ちゃんとキスをする。一度始めると止めることができなくなって、絢ちゃんと舌を絡ませる。
こんなところを誰かに見られていたら恥ずかしいな。過去に写真を撮られていたと思うとより一層。写真を撮った人は私達を見てどう思っているのかな。
実際に訊いてみないとね。今もスマートフォンを使って私達のことを撮っているから。
「あそこにいるよ!」
私がそう叫ぶと杏ちゃん、美咲ちゃん、瑠璃ちゃん、椿ちゃんの4人が私の指さした場所に一気に走り始める。
すると、木の陰からショートボブの紫色の髪が特徴的な女子生徒が飛び出してきた。4人に囲まれてとまどっている。
「彼女を取り押さえるんだ!」
瑠璃ちゃんの一言によって、4人はショートボブの女子生徒を取り押さえた。
「いやあっ! な、何するの!」
「それはこちらの台詞です! 遥香ちゃんと原田さんのキスシーンを盗撮するとはどういうことですか!」
そういえば、美咲ちゃん達には私と絢ちゃんを盗撮する人を捕まえて欲しいと言っただけで、ちゃんとした理由は言っていなかったな。
「みんな、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
「この生徒が私達のキスをした瞬間を撮っていたのか。うちの制服だけど、あなたはどこのクラスの生徒なんだ?」
「……榎本蘭。2年3組よ」
せ、先輩だったんだ。幼顔だし、その……体つきも杏ちゃん以上に幼いからてっきり同級生だと思った。
「それよりも、どうしてこんなことに……」
「……全ては隼人の指示だよ」
そう言って、奈央ちゃんが私達の前に姿を現した。真剣な様子でこちらにやってくる。
「隼人は遥香ちゃんと絢ちゃんのキスシーンを撮った協力者の正体が知りたいようなの。そのためにはキスシーンを撮るように催促すれば絶対に現れると考えたみたい」
「だって、お姉ちゃんは雅ちゃんから……あっ」
榎本先輩はとっさに口を押さえた。
「あなたの名前が榎本蘭って聞いて驚いたよ。榎本里奈先輩の妹さんだよね。私、学科の先輩でお世話になっているの」
ということは、お兄ちゃんが言っていた協力者は榎本里奈さんなんだ。それが奈央ちゃんの先輩っていうのはちょっとした運命なのかな。
「神崎先輩のスマートフォンを使って里奈先輩にメールをしたのは隼人だよ。お姉さんからこう言われたでしょう? 遥香ちゃんと絢ちゃんのキスするシーンを撮影して欲しいって」
「そのことで私もお兄ちゃんに指示されたんです。写真を撮られるために、わざと絢ちゃんとキスして欲しいって。ただし、奈央ちゃんが来る放課後までは絶対にしないようにと。そして、撮影されているときに榎本先輩を捕まえるようにって」
「……あなたのお兄さんが考えた通りに動いちゃったってわけか」
ふっ、と榎本先輩は小さく笑った。
「美咲ちゃん達、もう大丈夫だよ。私達のことで協力してくれてありがとう。あとは私達で何とかするから」
私がそう言うと美咲ちゃん、杏ちゃん、瑠璃ちゃん、椿ちゃんはみんな笑顔だった。突然のことだったけど、全員快く引き受けてくれた。今度、お兄ちゃんにもお礼を言わせようかな。
「私達はお礼を言われるほどのことはしていませんよ、遥香ちゃん。今の話を聞く限り、何か大きな理由があるのでしょう。絶対に解決してくださいね」
4人を代表するように美咲ちゃんがそう言うと、それ以上深入りせずに4人は帰っていったのであった。
そして、ここには私、絢ちゃん、美咲ちゃん、榎本先輩だけになる。
「榎本先輩、私と絢ちゃんのキスシーンを撮影した写真。消していただけますか?」
「……分かったよ」
榎本先輩はさっきの私達のキスシーンが映っているスマートフォンの画面を見せながら、写真のデータを消去した。
「これでいいでしょう?」
「……確認しました」
しかし、こうしてキスシーンの写真を見ると恥ずかしいな。絢ちゃんも頬を赤くしてはにかんでいる。
「蘭ちゃん、これからお家に帰るんだよね」
「そうですけど」
「それなら、私達も一緒について行ってもいいかな。その理由、蘭ちゃんはもちろん分かっているよね」
奈央ちゃんの言う理由。それは榎本先輩の家に行って、神崎雅さんの協力者である榎本里奈さんに会うためだと思う。
「……分かりました。お姉ちゃんには会わせたい人がいるからと言っておきますね」
「ありがとう。遥香ちゃんと絢ちゃんも一緒に来るよね」
「もちろんだよ。お兄ちゃんが脅迫されちゃった写真を撮られたわけだから」
「遥香と同じです。今回のようなことがどうして起こってしまったのか、私も知りたいです」
お兄ちゃんと奈央ちゃんから一連の出来事の背景を聞いたけれど、話してくれたこと以外にもまだ何かあるような気がする。
私達は榎本先輩の家に向かうために、学校を後にするのであった。
午後6時。茶道部の活動を終えた私は、絢ちゃんのいるグラウンドの近くに向かっている。
お兄ちゃんが帰ってこない理由を、昨日の放課後に奈央ちゃんから聞いた。
まさか、私と絢ちゃんが学校でキスしているところを写真で撮られているとは思わなかった。そして、それを利用してお兄ちゃんが脅迫されていることも。このことについて、今日の朝に絢ちゃんに伝えた。
私達に迷惑をかけまいとお兄ちゃんが頑張ってくれているのは嬉しい。でも、私達がお兄ちゃんに迷惑をかけてしまっている。それが悔しくてたまらない。
「……遥香」
待ち合わせの場所には既に制服に着替えていた絢ちゃんが待っていた。私を見つけると彼女は爽やかな笑みを浮かべて手を振ってくる。
「絢ちゃん、待たせちゃった?」
「ううん、私もたった今来たところだから」
そう言うと、絢ちゃんは私のことを抱きしめてきた。そのときに香ってくる彼女の汗の匂いが今の私にはとても心地よい。
「こんなところで抱きしめられるなんて恥ずかしいよ」
「……もう、恋人宣言をしてから2ヶ月くらい経っているんだ。今の私達を見たってイチャイチャしているくらいにしか思わないよ」
「……うん」
絢ちゃんの気持ちに応えるように、私も彼女のことを抱きしめる。
「……ねえ、遥香」
「なに?」
「……キスしようよ。もう、我慢できない」
「で、でも……」
私達が外でキスしたせいで、お兄ちゃんがあんなことになっているのに。
「……分かってる。でも、抑えきれないよ」
そんなことを見つめられて言われると、私も欲求を抑えられなくなる。私だって絢ちゃんとキス、したい。
「……一度だけ、だよ」
「ありがとう。好きだよ、遥香」
「……私も、好き」
そして、私は絢ちゃんとキスをする。一度始めると止めることができなくなって、絢ちゃんと舌を絡ませる。
こんなところを誰かに見られていたら恥ずかしいな。過去に写真を撮られていたと思うとより一層。写真を撮った人は私達を見てどう思っているのかな。
実際に訊いてみないとね。今もスマートフォンを使って私達のことを撮っているから。
「あそこにいるよ!」
私がそう叫ぶと杏ちゃん、美咲ちゃん、瑠璃ちゃん、椿ちゃんの4人が私の指さした場所に一気に走り始める。
すると、木の陰からショートボブの紫色の髪が特徴的な女子生徒が飛び出してきた。4人に囲まれてとまどっている。
「彼女を取り押さえるんだ!」
瑠璃ちゃんの一言によって、4人はショートボブの女子生徒を取り押さえた。
「いやあっ! な、何するの!」
「それはこちらの台詞です! 遥香ちゃんと原田さんのキスシーンを盗撮するとはどういうことですか!」
そういえば、美咲ちゃん達には私と絢ちゃんを盗撮する人を捕まえて欲しいと言っただけで、ちゃんとした理由は言っていなかったな。
「みんな、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
「この生徒が私達のキスをした瞬間を撮っていたのか。うちの制服だけど、あなたはどこのクラスの生徒なんだ?」
「……榎本蘭。2年3組よ」
せ、先輩だったんだ。幼顔だし、その……体つきも杏ちゃん以上に幼いからてっきり同級生だと思った。
「それよりも、どうしてこんなことに……」
「……全ては隼人の指示だよ」
そう言って、奈央ちゃんが私達の前に姿を現した。真剣な様子でこちらにやってくる。
「隼人は遥香ちゃんと絢ちゃんのキスシーンを撮った協力者の正体が知りたいようなの。そのためにはキスシーンを撮るように催促すれば絶対に現れると考えたみたい」
「だって、お姉ちゃんは雅ちゃんから……あっ」
榎本先輩はとっさに口を押さえた。
「あなたの名前が榎本蘭って聞いて驚いたよ。榎本里奈先輩の妹さんだよね。私、学科の先輩でお世話になっているの」
ということは、お兄ちゃんが言っていた協力者は榎本里奈さんなんだ。それが奈央ちゃんの先輩っていうのはちょっとした運命なのかな。
「神崎先輩のスマートフォンを使って里奈先輩にメールをしたのは隼人だよ。お姉さんからこう言われたでしょう? 遥香ちゃんと絢ちゃんのキスするシーンを撮影して欲しいって」
「そのことで私もお兄ちゃんに指示されたんです。写真を撮られるために、わざと絢ちゃんとキスして欲しいって。ただし、奈央ちゃんが来る放課後までは絶対にしないようにと。そして、撮影されているときに榎本先輩を捕まえるようにって」
「……あなたのお兄さんが考えた通りに動いちゃったってわけか」
ふっ、と榎本先輩は小さく笑った。
「美咲ちゃん達、もう大丈夫だよ。私達のことで協力してくれてありがとう。あとは私達で何とかするから」
私がそう言うと美咲ちゃん、杏ちゃん、瑠璃ちゃん、椿ちゃんはみんな笑顔だった。突然のことだったけど、全員快く引き受けてくれた。今度、お兄ちゃんにもお礼を言わせようかな。
「私達はお礼を言われるほどのことはしていませんよ、遥香ちゃん。今の話を聞く限り、何か大きな理由があるのでしょう。絶対に解決してくださいね」
4人を代表するように美咲ちゃんがそう言うと、それ以上深入りせずに4人は帰っていったのであった。
そして、ここには私、絢ちゃん、美咲ちゃん、榎本先輩だけになる。
「榎本先輩、私と絢ちゃんのキスシーンを撮影した写真。消していただけますか?」
「……分かったよ」
榎本先輩はさっきの私達のキスシーンが映っているスマートフォンの画面を見せながら、写真のデータを消去した。
「これでいいでしょう?」
「……確認しました」
しかし、こうしてキスシーンの写真を見ると恥ずかしいな。絢ちゃんも頬を赤くしてはにかんでいる。
「蘭ちゃん、これからお家に帰るんだよね」
「そうですけど」
「それなら、私達も一緒について行ってもいいかな。その理由、蘭ちゃんはもちろん分かっているよね」
奈央ちゃんの言う理由。それは榎本先輩の家に行って、神崎雅さんの協力者である榎本里奈さんに会うためだと思う。
「……分かりました。お姉ちゃんには会わせたい人がいるからと言っておきますね」
「ありがとう。遥香ちゃんと絢ちゃんも一緒に来るよね」
「もちろんだよ。お兄ちゃんが脅迫されちゃった写真を撮られたわけだから」
「遥香と同じです。今回のようなことがどうして起こってしまったのか、私も知りたいです」
お兄ちゃんと奈央ちゃんから一連の出来事の背景を聞いたけれど、話してくれたこと以外にもまだ何かあるような気がする。
私達は榎本先輩の家に向かうために、学校を後にするのであった。
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