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Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
第19話『想い重ねて』
7月5日、金曜日。
午後4時40分。俺と雅先輩は月曜日に彼女から告白された場所に来ている。この場所にした理由は、全ての間違いはここから始まったので、始まりの場所できちんと今回のことを終わらせたいとのことだ。
「……雅、ちゃん」
さっそく、待ち人である西垣先輩が榎本先輩と一緒にやってきた。西垣先輩は俺と雅先輩の姿を見て驚いているようだ。
「どうしてここに雅ちゃんがいるの? あなたの後輩である香川さんの恋愛相談をするんじゃなかったの?」
「……ごめんね、舞ちゃん。でも、雅ちゃんがあなたに会いたいって言っても、今のあなたは絶対に会ってくれないでしょう?」
榎本先輩がそう言うと、西垣先輩は下唇を噛んだ。
そう、あの後……榎本先輩にお願いして、奈央の恋愛相談という名目で西垣先輩がここに来てもらうようにしたのだ。榎本先輩の言うとおり、雅先輩が会いたいと正直に言っては絶対に来てくれないと踏んで。
「……私、帰るよ。雅ちゃんから聞く話なんてないから」
「待って! 舞!」
雅先輩は立ち去ろうとする西垣先輩の手を掴む。
「私の話を聞いて。大切な話だから」
西垣先輩は雅先輩の方に振り返るも、雅先輩と意図的に視線を合わそうとしない。きっと、雅先輩の言おうとしていることが分かっているからだろう。
「舞のことが好きなの。私と付き合ってください」
一度振られても無くなることはなかった、西垣先輩への恋心。雅先輩は再び、直接言葉にして伝えた。
西垣先輩は焦った表情になり、視線をちらつかせている。
「……何、言ってるの?」
「そのままだよ。私は舞のことが好きで、一度振られたけど……諦められないの」
「あのときにも言ったでしょ。女の子同士で付き合っても苦しい想いをするだけ。それに、私には付き合っている彼氏がいるの。だから――」
「それは知ってるよ。里奈から聞いた」
雅先輩がそう言うと、西垣先輩の目つきが一瞬にして鋭くなり、手を振り払い、雅先輩のことを睨み付ける。
「だったらどうして私に告白なんてするの! あなたのやろうとしていることは、彼から恋人を奪うことなんだよ!」
西垣先輩から罵声のような声を浴びせられても、雅先輩は動じない。
「……舞が私のことが好きなことも、私を諦めるために今の彼と付き合っていることも知ってるよ」
「えっ……」
「舞の言うとおり、女の子同士で付き合うことで辛い目に遭うかもしれない。だけど、一番辛いのは自分の気持ちに嘘を付くことなんじゃないの?」
「……私は嘘なんてついてないよ。雅ちゃんのことが嫌いなのは嘘じゃないよ……」
西垣先輩は首を振り、俯きながらそう呟く。
雅先輩から離れてどこへ向かうのかと思ったら、俺の目の前にやってきて、
「……雅ちゃんと付き合って」
「えっ?」
俺がそう言うと、西垣先輩はガッ、と俺の両腕を強く掴んで、
「雅ちゃんと付き合ってよ! あなたを見る雅ちゃんの目は好きな人のことを見る目だった! それに、坂井君だって雅ちゃんを見放さないって言ったじゃない。それって、雅ちゃんのことが好きだって言っているようなものでしょ?」
涙目で俺のことを見上げながら、必死にそう訴えてきた。
「昨日と言っていることが真逆ですね。昨日は俺に雅先輩と別れろと言ったのに」
「それは、例の写真を使って脅迫なんてするから……」
「……俺は泣き崩れる雅先輩が見放せないと言ったんです。それに、俺が好きなのは幼なじみの香川奈央だけですから」
「そんな……」
嘘だ、と西垣先輩は首を横に振る。彼女はどうにかして雅先輩を諦めたいんだ。そのためには、雅先輩が俺と付き合ってしまうのが、一番諦めがつくと考えている。雅先輩が俺に対して恋心を抱いているのは事実だから。
「西垣先輩。あなたと雅先輩の気持ちはずっと前から重なっている。雅先輩はあなたのことが好きだから距離を縮めようとした。でも、あなたは雅先輩のことが好きだから距離を開こうとした。どうして、あなたがそうしてしまうのか? それは雅先輩のことを傷つけてしまうかもしれないからでしょう? でも、雅先輩はそれも覚悟して、あなたと付き合いたいと言っているんです!」
きっと、高校時代に好きだと告白されてから、西垣先輩の不安は杞憂に終わっていたはずなんだ。西垣先輩ならどんなことでも乗り越えてみせる。雅先輩はそれを覚悟して西垣先輩に告白したはずだから。
「……今更、無理だよ……」
「何が無理なんですか?」
「坂井君だって知っているはずだよ! 私には付き合っている彼氏がいるって! それなのに、雅と付き合うなんていうひどいことはできない!」
そう言う西垣先輩の目からは涙が溢れ出る。
そろそろ、俺達の隠し球を出す場面になったかな。
「……俺達は西垣先輩の言うひどいことをさせるために、ここに呼んだわけではありませんよ」
「えっ……」
「……入ってきてください」
すると、近くの扉から水澤と岩坂と一緒に1人の男性が入ってきた。俺と同じくらいの背の高さで、顔立ちも整っている。
西垣先輩はその男性を見て驚いたのか、さっきまで流れていた涙がピタリと止まる。
「大悟、君……」
そう、2人と一緒に入ってきた男性は西垣先輩の彼氏である高岡大悟さんだ。高岡さんは3人と同じ高校に通っていた。
西垣先輩とは別に、高岡さんにも榎本先輩に頼んでここに呼んでもらった。ただし、彼には本当のことを話して。
「高岡さんには本当のことを話しています。雅先輩が西垣先輩に告白することを。もしかしたら、西垣先輩は雅先輩の彼女になるかもしれないことを。それが嫌であれば、西垣先輩を呼び出すようなことはしないと。でも、あなたはここにいる。それがどういう意味なのか分かりますよね」
後は高岡さんに任せよう。今の西垣先輩の背中を押すことができるのは彼しかいないし、彼も西垣先輩に言いたいことがあると聞いているから。
高岡さんは俺と頷き合うと、優しい笑みを浮かべて西垣先輩の頭にそっと手を置く。
「……俺の思った通りだった」
「えっ?」
「高校時代に舞が神崎から告白されたことはもちろん知ってた。舞に告白されたときは凄く嬉しかった。だって、高校の時からずっと好きだったからな。でも、舞は俺よりも神崎のことを考えていたように感じたよ。もしかしたら、今も神崎のことが好きで、でも彼女と付き合おうとすることが怖くて。だから、そこから逃げたくて……諦めたくて。俺と付き合ったんじゃないかって」
「大悟、君……」
「舞のことが嫌いなわけじゃない。好きだよ。でも、俺が好きな舞は……神崎のことが好きな舞だったんだ。今でも神崎のことを話す舞はとても楽しそうで。そんなことを考えていたときに榎本から電話がかかってきて、今回の話を聞いたんだ。俺は舞に自分の気持ちに嘘を付かないで欲しいと思ってる。そのためなら、俺は舞と別れられる」
高岡さんは優しい笑顔を絶やすことなくそう言った。
これで西垣先輩の気持ちの障害はなくなった。雅先輩は覚悟を決めて、高岡さんは西垣先輩の背中を押すつもりでいる。あとは西垣先輩自身が一歩を踏み出すだけだ。
俺達が2人を見守る中、西垣先輩は雅先輩の前に立つ。
「……雅ちゃん。改めて私の気持ちを話していいかな」
「うん」
「私は雅ちゃんのことが好き。高校時代に雅ちゃんから告白されたときもそうだったし、ずっと前から雅ちゃんのことが好き。だけど、怖かった。付き合うことで雅ちゃんが辛い目に遭うんじゃないかって。だから、あなたの側にいながら、あなたからずっと逃げてた。だけど、どんなことをしてもやっぱり無くならなかった」
再び涙を流し始め、嗚咽が出てしまう西垣先輩。
そんな彼女の手を雅先輩は優しく握って、優しい笑顔で彼女のことをしっかりと見る。それはまるで勇気を与えるように。
「……雅ちゃんのことが好きです。あなたと一緒にいたい。だから、私と付き合ってください」
やっとのことで言葉にできた西垣先輩の想いに、雅先輩は煌びやかな笑顔をして、
「……もちろんだよ、舞」
そう言って、西垣先輩のことを思い切り抱きしめた。
ようやく終着点に辿り着いたんだ。互いに想いを言葉にして、2人が付き合うという最良の終着点に。
さてと、俺達の出番はここまでだ。雅先輩と西垣先輩が終着点に辿り着くまでの協力だから。
「隼人君」
ここから立ち去ろうとしたとき、雅先輩に呼び止められる。
「何ですか?」
「今まで、本当にごめんね。隼人君にはたくさん迷惑をかけちゃったし、ひどいことをしちゃったと思ってる」
「本当ですよ、まったく。でも、今回のことがあったから得られることがありました。何よりも西垣先輩と付き合うことができて本当に良かった。俺に悪いと思うなら、西垣先輩と仲良く付き合ってください。俺はそれで十分です」
俺が雅先輩と付き合った理由。それは一連のことの原因を突き止め、それを解決することだった。つまり、両想いである雅先輩と西垣先輩が付き合うことだ。それができた今、俺は雅先輩に対して何の恨みも持っていない。まあ、雅先輩の自己中心ぶりには頭を抱える時があったけど。
「隼人君、ありがとう」
「私からもお礼を言わないとね。雅ちゃんと向き合えたのは坂井君のおかげだからね。本当にありがとう」
「……俺はただ、自分のやりたいことをやっただけです。こういう結果になったのは、2人の想いがずっと重なっていたからだと思います。じゃあ、俺はこれで。榎本先輩と高岡さん、ご協力ありがとうございました」
榎本先輩と高岡さんがいなければ、このような結果に辿り着けなかったと思うから。2人の理解もあってこんなに早く雅先輩と西垣先輩の仲を修復できたと思う。
「礼を言うのはこちらの方よ、坂井君」
「榎本の言うとおりだな。こうなって、俺もとてもスッキリしているからね。俺からも礼を言わせてくれ。坂井君、ありがとう」
「……いえいえ」
4人が嬉しそうに笑うことができるようになって、本当に嬉しい。一連のことはこれで終わりだな。
「じゃあ、俺はこれで。今日こそ自分の家に帰ります」
俺は雅先輩達のところから立ち去った。
キャンパスを出るため、マルチユーススペースに差し掛かったときだった。水澤と岩坂に会うのだが何か様子がおかしい。2人は不気味な笑いを浮かべて、
「良かったな、坂井。まずは一件落着で」
「でも、今度は坂井君の番だよ。じゃあ、僕達はお邪魔だろうからサークルに行こうか」
「そうだな。じゃあ、頑張れよ!」
俺が口を挟む間を与えずにそう言うと、2人は足早に姿を消していった。これまでの礼を言いたかったんだけどな。
「頑張れ、ってどういうことなんだろう?」
今度は俺の番とか言っていたし。その言葉も怪しいし、何よりもあのニヤニヤした笑いが一番怪しかった。何かあるに違いない。
「……隼人」
さっそく、あった。
いつの間にか、俺の背後に頬を赤くさせた奈央が立っていた。
まあ、あの2人は高岡さんと一緒にいたから確実に話を聞いていたし、奈央も心配になってどこかで聞いていたんだ。
――頑張れ、か。
邪魔しないとか言ってたし。まあ、奈央のことを考えればそっちの方がいいか。
雅先輩と西垣先輩が付き合い始めたことで、一連の出来事は全て終わったと思っていたけれど、どうやらあと1つ……けりを付けなければいけないようだ。
午後4時40分。俺と雅先輩は月曜日に彼女から告白された場所に来ている。この場所にした理由は、全ての間違いはここから始まったので、始まりの場所できちんと今回のことを終わらせたいとのことだ。
「……雅、ちゃん」
さっそく、待ち人である西垣先輩が榎本先輩と一緒にやってきた。西垣先輩は俺と雅先輩の姿を見て驚いているようだ。
「どうしてここに雅ちゃんがいるの? あなたの後輩である香川さんの恋愛相談をするんじゃなかったの?」
「……ごめんね、舞ちゃん。でも、雅ちゃんがあなたに会いたいって言っても、今のあなたは絶対に会ってくれないでしょう?」
榎本先輩がそう言うと、西垣先輩は下唇を噛んだ。
そう、あの後……榎本先輩にお願いして、奈央の恋愛相談という名目で西垣先輩がここに来てもらうようにしたのだ。榎本先輩の言うとおり、雅先輩が会いたいと正直に言っては絶対に来てくれないと踏んで。
「……私、帰るよ。雅ちゃんから聞く話なんてないから」
「待って! 舞!」
雅先輩は立ち去ろうとする西垣先輩の手を掴む。
「私の話を聞いて。大切な話だから」
西垣先輩は雅先輩の方に振り返るも、雅先輩と意図的に視線を合わそうとしない。きっと、雅先輩の言おうとしていることが分かっているからだろう。
「舞のことが好きなの。私と付き合ってください」
一度振られても無くなることはなかった、西垣先輩への恋心。雅先輩は再び、直接言葉にして伝えた。
西垣先輩は焦った表情になり、視線をちらつかせている。
「……何、言ってるの?」
「そのままだよ。私は舞のことが好きで、一度振られたけど……諦められないの」
「あのときにも言ったでしょ。女の子同士で付き合っても苦しい想いをするだけ。それに、私には付き合っている彼氏がいるの。だから――」
「それは知ってるよ。里奈から聞いた」
雅先輩がそう言うと、西垣先輩の目つきが一瞬にして鋭くなり、手を振り払い、雅先輩のことを睨み付ける。
「だったらどうして私に告白なんてするの! あなたのやろうとしていることは、彼から恋人を奪うことなんだよ!」
西垣先輩から罵声のような声を浴びせられても、雅先輩は動じない。
「……舞が私のことが好きなことも、私を諦めるために今の彼と付き合っていることも知ってるよ」
「えっ……」
「舞の言うとおり、女の子同士で付き合うことで辛い目に遭うかもしれない。だけど、一番辛いのは自分の気持ちに嘘を付くことなんじゃないの?」
「……私は嘘なんてついてないよ。雅ちゃんのことが嫌いなのは嘘じゃないよ……」
西垣先輩は首を振り、俯きながらそう呟く。
雅先輩から離れてどこへ向かうのかと思ったら、俺の目の前にやってきて、
「……雅ちゃんと付き合って」
「えっ?」
俺がそう言うと、西垣先輩はガッ、と俺の両腕を強く掴んで、
「雅ちゃんと付き合ってよ! あなたを見る雅ちゃんの目は好きな人のことを見る目だった! それに、坂井君だって雅ちゃんを見放さないって言ったじゃない。それって、雅ちゃんのことが好きだって言っているようなものでしょ?」
涙目で俺のことを見上げながら、必死にそう訴えてきた。
「昨日と言っていることが真逆ですね。昨日は俺に雅先輩と別れろと言ったのに」
「それは、例の写真を使って脅迫なんてするから……」
「……俺は泣き崩れる雅先輩が見放せないと言ったんです。それに、俺が好きなのは幼なじみの香川奈央だけですから」
「そんな……」
嘘だ、と西垣先輩は首を横に振る。彼女はどうにかして雅先輩を諦めたいんだ。そのためには、雅先輩が俺と付き合ってしまうのが、一番諦めがつくと考えている。雅先輩が俺に対して恋心を抱いているのは事実だから。
「西垣先輩。あなたと雅先輩の気持ちはずっと前から重なっている。雅先輩はあなたのことが好きだから距離を縮めようとした。でも、あなたは雅先輩のことが好きだから距離を開こうとした。どうして、あなたがそうしてしまうのか? それは雅先輩のことを傷つけてしまうかもしれないからでしょう? でも、雅先輩はそれも覚悟して、あなたと付き合いたいと言っているんです!」
きっと、高校時代に好きだと告白されてから、西垣先輩の不安は杞憂に終わっていたはずなんだ。西垣先輩ならどんなことでも乗り越えてみせる。雅先輩はそれを覚悟して西垣先輩に告白したはずだから。
「……今更、無理だよ……」
「何が無理なんですか?」
「坂井君だって知っているはずだよ! 私には付き合っている彼氏がいるって! それなのに、雅と付き合うなんていうひどいことはできない!」
そう言う西垣先輩の目からは涙が溢れ出る。
そろそろ、俺達の隠し球を出す場面になったかな。
「……俺達は西垣先輩の言うひどいことをさせるために、ここに呼んだわけではありませんよ」
「えっ……」
「……入ってきてください」
すると、近くの扉から水澤と岩坂と一緒に1人の男性が入ってきた。俺と同じくらいの背の高さで、顔立ちも整っている。
西垣先輩はその男性を見て驚いたのか、さっきまで流れていた涙がピタリと止まる。
「大悟、君……」
そう、2人と一緒に入ってきた男性は西垣先輩の彼氏である高岡大悟さんだ。高岡さんは3人と同じ高校に通っていた。
西垣先輩とは別に、高岡さんにも榎本先輩に頼んでここに呼んでもらった。ただし、彼には本当のことを話して。
「高岡さんには本当のことを話しています。雅先輩が西垣先輩に告白することを。もしかしたら、西垣先輩は雅先輩の彼女になるかもしれないことを。それが嫌であれば、西垣先輩を呼び出すようなことはしないと。でも、あなたはここにいる。それがどういう意味なのか分かりますよね」
後は高岡さんに任せよう。今の西垣先輩の背中を押すことができるのは彼しかいないし、彼も西垣先輩に言いたいことがあると聞いているから。
高岡さんは俺と頷き合うと、優しい笑みを浮かべて西垣先輩の頭にそっと手を置く。
「……俺の思った通りだった」
「えっ?」
「高校時代に舞が神崎から告白されたことはもちろん知ってた。舞に告白されたときは凄く嬉しかった。だって、高校の時からずっと好きだったからな。でも、舞は俺よりも神崎のことを考えていたように感じたよ。もしかしたら、今も神崎のことが好きで、でも彼女と付き合おうとすることが怖くて。だから、そこから逃げたくて……諦めたくて。俺と付き合ったんじゃないかって」
「大悟、君……」
「舞のことが嫌いなわけじゃない。好きだよ。でも、俺が好きな舞は……神崎のことが好きな舞だったんだ。今でも神崎のことを話す舞はとても楽しそうで。そんなことを考えていたときに榎本から電話がかかってきて、今回の話を聞いたんだ。俺は舞に自分の気持ちに嘘を付かないで欲しいと思ってる。そのためなら、俺は舞と別れられる」
高岡さんは優しい笑顔を絶やすことなくそう言った。
これで西垣先輩の気持ちの障害はなくなった。雅先輩は覚悟を決めて、高岡さんは西垣先輩の背中を押すつもりでいる。あとは西垣先輩自身が一歩を踏み出すだけだ。
俺達が2人を見守る中、西垣先輩は雅先輩の前に立つ。
「……雅ちゃん。改めて私の気持ちを話していいかな」
「うん」
「私は雅ちゃんのことが好き。高校時代に雅ちゃんから告白されたときもそうだったし、ずっと前から雅ちゃんのことが好き。だけど、怖かった。付き合うことで雅ちゃんが辛い目に遭うんじゃないかって。だから、あなたの側にいながら、あなたからずっと逃げてた。だけど、どんなことをしてもやっぱり無くならなかった」
再び涙を流し始め、嗚咽が出てしまう西垣先輩。
そんな彼女の手を雅先輩は優しく握って、優しい笑顔で彼女のことをしっかりと見る。それはまるで勇気を与えるように。
「……雅ちゃんのことが好きです。あなたと一緒にいたい。だから、私と付き合ってください」
やっとのことで言葉にできた西垣先輩の想いに、雅先輩は煌びやかな笑顔をして、
「……もちろんだよ、舞」
そう言って、西垣先輩のことを思い切り抱きしめた。
ようやく終着点に辿り着いたんだ。互いに想いを言葉にして、2人が付き合うという最良の終着点に。
さてと、俺達の出番はここまでだ。雅先輩と西垣先輩が終着点に辿り着くまでの協力だから。
「隼人君」
ここから立ち去ろうとしたとき、雅先輩に呼び止められる。
「何ですか?」
「今まで、本当にごめんね。隼人君にはたくさん迷惑をかけちゃったし、ひどいことをしちゃったと思ってる」
「本当ですよ、まったく。でも、今回のことがあったから得られることがありました。何よりも西垣先輩と付き合うことができて本当に良かった。俺に悪いと思うなら、西垣先輩と仲良く付き合ってください。俺はそれで十分です」
俺が雅先輩と付き合った理由。それは一連のことの原因を突き止め、それを解決することだった。つまり、両想いである雅先輩と西垣先輩が付き合うことだ。それができた今、俺は雅先輩に対して何の恨みも持っていない。まあ、雅先輩の自己中心ぶりには頭を抱える時があったけど。
「隼人君、ありがとう」
「私からもお礼を言わないとね。雅ちゃんと向き合えたのは坂井君のおかげだからね。本当にありがとう」
「……俺はただ、自分のやりたいことをやっただけです。こういう結果になったのは、2人の想いがずっと重なっていたからだと思います。じゃあ、俺はこれで。榎本先輩と高岡さん、ご協力ありがとうございました」
榎本先輩と高岡さんがいなければ、このような結果に辿り着けなかったと思うから。2人の理解もあってこんなに早く雅先輩と西垣先輩の仲を修復できたと思う。
「礼を言うのはこちらの方よ、坂井君」
「榎本の言うとおりだな。こうなって、俺もとてもスッキリしているからね。俺からも礼を言わせてくれ。坂井君、ありがとう」
「……いえいえ」
4人が嬉しそうに笑うことができるようになって、本当に嬉しい。一連のことはこれで終わりだな。
「じゃあ、俺はこれで。今日こそ自分の家に帰ります」
俺は雅先輩達のところから立ち去った。
キャンパスを出るため、マルチユーススペースに差し掛かったときだった。水澤と岩坂に会うのだが何か様子がおかしい。2人は不気味な笑いを浮かべて、
「良かったな、坂井。まずは一件落着で」
「でも、今度は坂井君の番だよ。じゃあ、僕達はお邪魔だろうからサークルに行こうか」
「そうだな。じゃあ、頑張れよ!」
俺が口を挟む間を与えずにそう言うと、2人は足早に姿を消していった。これまでの礼を言いたかったんだけどな。
「頑張れ、ってどういうことなんだろう?」
今度は俺の番とか言っていたし。その言葉も怪しいし、何よりもあのニヤニヤした笑いが一番怪しかった。何かあるに違いない。
「……隼人」
さっそく、あった。
いつの間にか、俺の背後に頬を赤くさせた奈央が立っていた。
まあ、あの2人は高岡さんと一緒にいたから確実に話を聞いていたし、奈央も心配になってどこかで聞いていたんだ。
――頑張れ、か。
邪魔しないとか言ってたし。まあ、奈央のことを考えればそっちの方がいいか。
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