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Fragrance 6-キオクノカオリ-
第4話『須藤歩』
父さんの元恋人の須藤歩さん、か。大学時代の友人、ってことは父さんや母さんと同年代ってことか。そういう風には全然見えないな。
「あらあら、そんなに見つめられると何だか照れちゃうわね。もしかして、親子で好意を持たれちゃったりして」
「いや、若いなと思って……」
「嬉しいことを言ってくれるわね。私の方があなた達親子に恋をしちゃうかもね」
うふふっ、と須藤さんは声に出して笑っている。結構可愛らしい雰囲気なので両親とあまり変わらない年齢だとは信じられない。
「そういえば、隼人君は急いでいるようだったけれど、何かあったの?」
「……あっ!」
須藤さんが父さんの元恋人であることに驚いたせいで、遥香のことをすっかりと忘れてしまっていた。
「俺、妹の遥香の後を追おうと天羽女子に向かおうとしていたんです」
「遥香ちゃん……ああ、あのとき、トモちゃんが抱いていた赤ちゃんのことね」
トモちゃん……というのは母さんのことか。名前が智子だし。
「遥香ちゃん、何かあったの?」
「ああ、実は遥香と絢さんが付き合っていることを父さんが激しく否定してさ。それにショックを受けて、遥香はきっと絢さんのいる天羽女子に行っていると思うんだ」
「そうだったんだ……」
「でも、父さんが否定した理由は親心からだけじゃないような気がして。同性で付き合うことに対する……憎悪のようなものを感じてさ」
「中にはそういうのを否定する人はいるからね……」
奈央は苦笑いをしながらそう言うが、それ以上の言葉が出ない。人を好きになる気持ちはやっぱり難しいことだよな。恋愛は自由であるけれど、同性で付き合うことを嫌う人ももちろんいるから。
「とにかく、俺は遥香のところに行かないといけないんです。なので、これで――」
「待って」
話を切り上げて遥香のところへ行こうと走り出そうとしたとき、須藤さんは真剣な表情をして俺の手をぎゅっと掴んでくる。
「遥香ちゃんは恋人のいる場所へ行ったんでしょう? それなら、隼人君が行かなくてもいいんじゃないかな」
「でも……」
「心配する気持ちも分かるけど、今は遥香ちゃんと恋人の女の子と2人でどうやって乗り越えるか考えるべきだと思うの」
「そういう、ものですかね……」
兄として手助けできることがあればしたいところなんだけど。
「絢ちゃんと一緒なら遥香ちゃんは大丈夫だよ。それに、須藤さんの言うとおり、これは遥香ちゃんと絢ちゃんの2人で考えて、乗り越えていくべきだと思う」
奈央は須藤さんと同じ考えか。
よく考えてみれば、確かに今回のことは遥香と絢さんの問題だ。父さんという壁をどうやって乗り越えていくのか。遥香一人でできなかった今、絢さんと2人で乗り越える方法を模索するべきかもしれない。そこに俺がいても、邪魔になるだけの可能性もありそうだ。それに、2人で考え、乗り越えていくことに意味があるのかもしれないし。
「分かりました。2人を信じたいと思います」
「……さすがはお兄ちゃんだね」
こういうときの優しい笑みは親世代の女性らしい温かみのあるものだった。
「そういえば、ここを歩いているってことは、須藤さんは父さんと母さんに会いにきたんですか?」
「まあね。今までヒロくんが日本に帰ってきても、私の方が予定があって、なかなか会えなかったの。今回は運良く予定もなかったから会いにきたの」
「じゃあ、すぐに家に行きましょうか?」
頭にきて父さんに色々と言った直後だから、家に帰りづらい状況だけれど。
でも、学生時代の友人と再会すれば父さんの機嫌も良くなるかな。あわよくば、須藤さんが遥香のことで父さんに何か言ってくれるかもしれないし。
しかし、意外なことに須藤さんは首を横に振った。
「それは後でいいわ。今は隼人君や奈央ちゃんと3人で話したい気分だから。それに遥香ちゃんの話を聞いて、2人に私の昔話を話したくなったし」
「昔話ってもしかして?」
俺がそう訊くと、須藤さんは頬をぽっ、と赤く染める。
「……うん、私の大学時代の話。もっと言えば、私とヒロくんの恋人エピソードかな」
「そ、そうですか……」
母さんじゃない女性との恋愛エピソードを聞くのは、息子としてちょっと複雑な気分だな。知らぬが仏、のような感じがして。
「私、けっこう興味ありますね」
奈央はちょっと目を輝かせていた。やっぱり、女子ってこういう類の話が大好きなのかな。
「じゃあ、決まりだね。駅前に落ち着ける喫茶店があるのを知っているから、そこに行ってから話そうか」
「分かりました」
須藤さんの大学時代の話自体はとても気になっている。父さんと須藤さんは元々付き合っていた。でも、実際には父さんと母さんが結婚し、現在に至っている。父さんと須藤さんは何かしらの形で別れているはずだ。そこまでにどんなことがあったのか。
もしかしたら、これから須藤さんが話すことの中から、今回のことを解決する糸口が掴めるかもしれない。須藤さんは遥香と絢さんの話を聞いたから、大学時代のエピソードを話したくなったそうだから。
俺と奈央は須藤さんの後をついていくのであった。
「あらあら、そんなに見つめられると何だか照れちゃうわね。もしかして、親子で好意を持たれちゃったりして」
「いや、若いなと思って……」
「嬉しいことを言ってくれるわね。私の方があなた達親子に恋をしちゃうかもね」
うふふっ、と須藤さんは声に出して笑っている。結構可愛らしい雰囲気なので両親とあまり変わらない年齢だとは信じられない。
「そういえば、隼人君は急いでいるようだったけれど、何かあったの?」
「……あっ!」
須藤さんが父さんの元恋人であることに驚いたせいで、遥香のことをすっかりと忘れてしまっていた。
「俺、妹の遥香の後を追おうと天羽女子に向かおうとしていたんです」
「遥香ちゃん……ああ、あのとき、トモちゃんが抱いていた赤ちゃんのことね」
トモちゃん……というのは母さんのことか。名前が智子だし。
「遥香ちゃん、何かあったの?」
「ああ、実は遥香と絢さんが付き合っていることを父さんが激しく否定してさ。それにショックを受けて、遥香はきっと絢さんのいる天羽女子に行っていると思うんだ」
「そうだったんだ……」
「でも、父さんが否定した理由は親心からだけじゃないような気がして。同性で付き合うことに対する……憎悪のようなものを感じてさ」
「中にはそういうのを否定する人はいるからね……」
奈央は苦笑いをしながらそう言うが、それ以上の言葉が出ない。人を好きになる気持ちはやっぱり難しいことだよな。恋愛は自由であるけれど、同性で付き合うことを嫌う人ももちろんいるから。
「とにかく、俺は遥香のところに行かないといけないんです。なので、これで――」
「待って」
話を切り上げて遥香のところへ行こうと走り出そうとしたとき、須藤さんは真剣な表情をして俺の手をぎゅっと掴んでくる。
「遥香ちゃんは恋人のいる場所へ行ったんでしょう? それなら、隼人君が行かなくてもいいんじゃないかな」
「でも……」
「心配する気持ちも分かるけど、今は遥香ちゃんと恋人の女の子と2人でどうやって乗り越えるか考えるべきだと思うの」
「そういう、ものですかね……」
兄として手助けできることがあればしたいところなんだけど。
「絢ちゃんと一緒なら遥香ちゃんは大丈夫だよ。それに、須藤さんの言うとおり、これは遥香ちゃんと絢ちゃんの2人で考えて、乗り越えていくべきだと思う」
奈央は須藤さんと同じ考えか。
よく考えてみれば、確かに今回のことは遥香と絢さんの問題だ。父さんという壁をどうやって乗り越えていくのか。遥香一人でできなかった今、絢さんと2人で乗り越える方法を模索するべきかもしれない。そこに俺がいても、邪魔になるだけの可能性もありそうだ。それに、2人で考え、乗り越えていくことに意味があるのかもしれないし。
「分かりました。2人を信じたいと思います」
「……さすがはお兄ちゃんだね」
こういうときの優しい笑みは親世代の女性らしい温かみのあるものだった。
「そういえば、ここを歩いているってことは、須藤さんは父さんと母さんに会いにきたんですか?」
「まあね。今までヒロくんが日本に帰ってきても、私の方が予定があって、なかなか会えなかったの。今回は運良く予定もなかったから会いにきたの」
「じゃあ、すぐに家に行きましょうか?」
頭にきて父さんに色々と言った直後だから、家に帰りづらい状況だけれど。
でも、学生時代の友人と再会すれば父さんの機嫌も良くなるかな。あわよくば、須藤さんが遥香のことで父さんに何か言ってくれるかもしれないし。
しかし、意外なことに須藤さんは首を横に振った。
「それは後でいいわ。今は隼人君や奈央ちゃんと3人で話したい気分だから。それに遥香ちゃんの話を聞いて、2人に私の昔話を話したくなったし」
「昔話ってもしかして?」
俺がそう訊くと、須藤さんは頬をぽっ、と赤く染める。
「……うん、私の大学時代の話。もっと言えば、私とヒロくんの恋人エピソードかな」
「そ、そうですか……」
母さんじゃない女性との恋愛エピソードを聞くのは、息子としてちょっと複雑な気分だな。知らぬが仏、のような感じがして。
「私、けっこう興味ありますね」
奈央はちょっと目を輝かせていた。やっぱり、女子ってこういう類の話が大好きなのかな。
「じゃあ、決まりだね。駅前に落ち着ける喫茶店があるのを知っているから、そこに行ってから話そうか」
「分かりました」
須藤さんの大学時代の話自体はとても気になっている。父さんと須藤さんは元々付き合っていた。でも、実際には父さんと母さんが結婚し、現在に至っている。父さんと須藤さんは何かしらの形で別れているはずだ。そこまでにどんなことがあったのか。
もしかしたら、これから須藤さんが話すことの中から、今回のことを解決する糸口が掴めるかもしれない。須藤さんは遥香と絢さんの話を聞いたから、大学時代のエピソードを話したくなったそうだから。
俺と奈央は須藤さんの後をついていくのであった。
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