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Fragrance 6-キオクノカオリ-
第10話『伝える』
絢ちゃんと私。
互いにどれだけのことを想っているのか。そして、女性同士で付き合うことによって出くわすと思われる試練に向き合う覚悟があるかどうか。それを今、ちゃんと言葉にしてみんなに伝えるんだ。
でも、お父さんにまた否定されるんじゃないかって恐い気持ちになる。お父さんだって真剣だし、私も真剣だから臆病な気持ちも湧き上がってしまう。
「……絢ちゃん」
絢ちゃんの手をぎゅっと握って、気持ちを落ち着かせようとする。
「まずは私が自分で言ってみていい?」
「うん、分かった。頑張れるところまで頑張って」
「……ありがとう」
きっと、絢ちゃんがいなかったら、お父さんと真っ直ぐに向き合えないまま、ぶつかってまた逃げていたかもしれない。
でも、絢ちゃんと一緒なら言える。どんなことを周りから言われても、私の想いを曲げずに貫ける自信がある。
絢ちゃんに一度頷き、お父さんの方を見る。
「私、絢ちゃんのことが好き。さっき、お父さんに何を言われてもその気持ちは全然変わらなかったし、むしろ絢ちゃんへの想いは強くなった。陸上部の練習をしていた絢ちゃんに会いに行って、頑張っている絢ちゃんを見ると、やっぱり私には原田絢っていう女の子しか考えられないと思ったの」
絢ちゃんと別れなさいと言われても、彼女と別れようとは全く思わなかった。むしろ、一緒にいたいという想いがより強くなって。絢ちゃんの顔を見ると、それがもっと鮮明なものに変わって。
「絢ちゃんがこうして側にいるだけで、私は幸せだし、自然と気持ちも安らいで、強い気持ちを持てるようになるの。きっと、絢ちゃんと一緒にいることで、辛いこととか苦しいことは訪れると思う。それはとても辛くて、苦しくて、絢ちゃんと一緒でも乗り越えるのができないかもしれない」
今回のお父さん以上に立ちはだかる壁が現れるかもしれない。そこでまた泣いて、苦しんで、諦めてしまうことがあるかもしれない。
「それでも、私は……絢ちゃんと一緒にいて後悔した、って思うことは絶対にないと思う。ここで絢ちゃんと別れることが一番の後悔だと思う。だって、好きだっていう気持ちを押し殺すことになるんだもん。そんなの、絶対に嫌だよ」
何よりも苦しいのは、本当の気持ちを捨ててしまうこと。今なら、絢ちゃんが好きだという気持ちをねじ伏せてまで、彼女と別れること。
「絢ちゃんのことが好き。絢ちゃんとなら乗り越えられる。その気持ちを大切にして、私はこれからずっと絢ちゃんと一緒にいたい。それが私の気持ちと覚悟……です」
口にした言葉はさっきとあまり変わっていない。でも、その言葉に込めた気持ちはさっきよりもずっと強い。だって、今は……絢ちゃんの気持ちも込めて話したから。お互いに好きで、一緒にいたいというシンプルな想いを。
お父さんは何度か頷いて、
「……そうか」
ぼそっとそう呟いた。
お母さん、お兄ちゃん、奈央ちゃん、須藤さんは柔らかい笑みを浮かべている。4人には私達の気持ちと覚悟が伝わって、納得してくれたと思う。
でも、お父さんはどうなんだろう。お父さんは未だに真剣な表情をして、笑みになりそうな感じではない。やっぱり、甘い考えなのかな。高校生の私達の覚悟なんて。
「原田さんはどうなんだ?」
「えっ?」
「原田さんはどのように考えているのか、訊きたいんだが」
「そうですね……」
意外にも絢ちゃんは落ち着いている様子だった。笑みまで浮かべている。さっきは緊張していたのに。
お父さんはきっと原田さんに確かめようとしているんだ。私と同じ気持ちを抱き、覚悟を持っているのかを。
絢ちゃんは私の横に立って、
「遥香が全部言ってくれました」
唯一言、力強くそう言った。
「遥香のことが好きで、一緒にいたいです。何があっても、遥香と付き合って後悔したりしませんし、恨んだりもしません。むしろ、ここで別れることが一番の後悔です。だから、遥香と全く同じです」
そして、態度に示したかったのか、絢ちゃんは強引にも私とキスをした。さすがにここでするのは恥ずかしいよ。
「これが私達の覚悟です。遥香と私が付き合うことを許してくれませんか。私が遥香を守ります。幸せにします。だから、お願いします」
絢ちゃんは深々とお父さんに頭を下げた。
「絢ちゃんと付き合いたいです! お父さん、お願いします!」
私もお父さんに頭を下げた。
もうこれが、私にできる精一杯のことだった。お父さんに私達の気持ちと覚悟が伝わって納得してくれることを願うしかない。
無言の時間がどれだけ経っただろうか。そして、
「遥香、原田さん。顔を上げなさい」
お父さんの落ち着いた声が静寂をそっと切り開く。
私はゆっくりと顔を上げると、そこには優しげに微笑むお父さんがいた。
「……素敵な人と付き合っているんだな、遥香は」
お父さんは腕を組んで、うんうん、と頷いている。
「原田さん。遥香のことを宜しくお願いします。遥香は俺にとって大切な娘なので、幸せにしてください。それが遥香と付き合うことを許す唯一つの条件だ。遥香も同じ。原田さんは御両親にとって大切な娘さんだ。彼女を幸せにできるように頑張りなさい」
そう言うお父さんは安心した表情を浮かべていた。
『ありがとうございます!』
お父さんへのお礼の言葉は自然と絢ちゃんと重なった。
お父さんにちゃんと気持ちと覚悟が伝わったんだ。そして、お父さんは絢ちゃんと私が付き合うことを納得してくれたんだ。
絢ちゃんのことを見ると、絢ちゃんは弾けるような笑顔をして私の頭を撫でる。頑張って言えたね、と褒めてくれているのかな。
「良かったね、遥香ちゃん! 絢ちゃん!」
奈央ちゃんは私と絢ちゃんのことを抱きしめてくれる。その温もりから、奈央ちゃんの優しい気持ちを肌で感じることができた。
「2人で壁を越えることができたね。遥香ちゃん、原田さん」
須藤さんは嬉しそうに笑顔を浮かべている。
今回のように何か問題が起きたら、絢ちゃんと一緒に協力して前に進めばいいんだ。そうすればきっと大丈夫だと信じている。
「……本当に大きく成長したな。隼人と遥香は」
そう呟くお父さんの微笑みは少し寂しそうに、そして切なそうに見えるのであった。
互いにどれだけのことを想っているのか。そして、女性同士で付き合うことによって出くわすと思われる試練に向き合う覚悟があるかどうか。それを今、ちゃんと言葉にしてみんなに伝えるんだ。
でも、お父さんにまた否定されるんじゃないかって恐い気持ちになる。お父さんだって真剣だし、私も真剣だから臆病な気持ちも湧き上がってしまう。
「……絢ちゃん」
絢ちゃんの手をぎゅっと握って、気持ちを落ち着かせようとする。
「まずは私が自分で言ってみていい?」
「うん、分かった。頑張れるところまで頑張って」
「……ありがとう」
きっと、絢ちゃんがいなかったら、お父さんと真っ直ぐに向き合えないまま、ぶつかってまた逃げていたかもしれない。
でも、絢ちゃんと一緒なら言える。どんなことを周りから言われても、私の想いを曲げずに貫ける自信がある。
絢ちゃんに一度頷き、お父さんの方を見る。
「私、絢ちゃんのことが好き。さっき、お父さんに何を言われてもその気持ちは全然変わらなかったし、むしろ絢ちゃんへの想いは強くなった。陸上部の練習をしていた絢ちゃんに会いに行って、頑張っている絢ちゃんを見ると、やっぱり私には原田絢っていう女の子しか考えられないと思ったの」
絢ちゃんと別れなさいと言われても、彼女と別れようとは全く思わなかった。むしろ、一緒にいたいという想いがより強くなって。絢ちゃんの顔を見ると、それがもっと鮮明なものに変わって。
「絢ちゃんがこうして側にいるだけで、私は幸せだし、自然と気持ちも安らいで、強い気持ちを持てるようになるの。きっと、絢ちゃんと一緒にいることで、辛いこととか苦しいことは訪れると思う。それはとても辛くて、苦しくて、絢ちゃんと一緒でも乗り越えるのができないかもしれない」
今回のお父さん以上に立ちはだかる壁が現れるかもしれない。そこでまた泣いて、苦しんで、諦めてしまうことがあるかもしれない。
「それでも、私は……絢ちゃんと一緒にいて後悔した、って思うことは絶対にないと思う。ここで絢ちゃんと別れることが一番の後悔だと思う。だって、好きだっていう気持ちを押し殺すことになるんだもん。そんなの、絶対に嫌だよ」
何よりも苦しいのは、本当の気持ちを捨ててしまうこと。今なら、絢ちゃんが好きだという気持ちをねじ伏せてまで、彼女と別れること。
「絢ちゃんのことが好き。絢ちゃんとなら乗り越えられる。その気持ちを大切にして、私はこれからずっと絢ちゃんと一緒にいたい。それが私の気持ちと覚悟……です」
口にした言葉はさっきとあまり変わっていない。でも、その言葉に込めた気持ちはさっきよりもずっと強い。だって、今は……絢ちゃんの気持ちも込めて話したから。お互いに好きで、一緒にいたいというシンプルな想いを。
お父さんは何度か頷いて、
「……そうか」
ぼそっとそう呟いた。
お母さん、お兄ちゃん、奈央ちゃん、須藤さんは柔らかい笑みを浮かべている。4人には私達の気持ちと覚悟が伝わって、納得してくれたと思う。
でも、お父さんはどうなんだろう。お父さんは未だに真剣な表情をして、笑みになりそうな感じではない。やっぱり、甘い考えなのかな。高校生の私達の覚悟なんて。
「原田さんはどうなんだ?」
「えっ?」
「原田さんはどのように考えているのか、訊きたいんだが」
「そうですね……」
意外にも絢ちゃんは落ち着いている様子だった。笑みまで浮かべている。さっきは緊張していたのに。
お父さんはきっと原田さんに確かめようとしているんだ。私と同じ気持ちを抱き、覚悟を持っているのかを。
絢ちゃんは私の横に立って、
「遥香が全部言ってくれました」
唯一言、力強くそう言った。
「遥香のことが好きで、一緒にいたいです。何があっても、遥香と付き合って後悔したりしませんし、恨んだりもしません。むしろ、ここで別れることが一番の後悔です。だから、遥香と全く同じです」
そして、態度に示したかったのか、絢ちゃんは強引にも私とキスをした。さすがにここでするのは恥ずかしいよ。
「これが私達の覚悟です。遥香と私が付き合うことを許してくれませんか。私が遥香を守ります。幸せにします。だから、お願いします」
絢ちゃんは深々とお父さんに頭を下げた。
「絢ちゃんと付き合いたいです! お父さん、お願いします!」
私もお父さんに頭を下げた。
もうこれが、私にできる精一杯のことだった。お父さんに私達の気持ちと覚悟が伝わって納得してくれることを願うしかない。
無言の時間がどれだけ経っただろうか。そして、
「遥香、原田さん。顔を上げなさい」
お父さんの落ち着いた声が静寂をそっと切り開く。
私はゆっくりと顔を上げると、そこには優しげに微笑むお父さんがいた。
「……素敵な人と付き合っているんだな、遥香は」
お父さんは腕を組んで、うんうん、と頷いている。
「原田さん。遥香のことを宜しくお願いします。遥香は俺にとって大切な娘なので、幸せにしてください。それが遥香と付き合うことを許す唯一つの条件だ。遥香も同じ。原田さんは御両親にとって大切な娘さんだ。彼女を幸せにできるように頑張りなさい」
そう言うお父さんは安心した表情を浮かべていた。
『ありがとうございます!』
お父さんへのお礼の言葉は自然と絢ちゃんと重なった。
お父さんにちゃんと気持ちと覚悟が伝わったんだ。そして、お父さんは絢ちゃんと私が付き合うことを納得してくれたんだ。
絢ちゃんのことを見ると、絢ちゃんは弾けるような笑顔をして私の頭を撫でる。頑張って言えたね、と褒めてくれているのかな。
「良かったね、遥香ちゃん! 絢ちゃん!」
奈央ちゃんは私と絢ちゃんのことを抱きしめてくれる。その温もりから、奈央ちゃんの優しい気持ちを肌で感じることができた。
「2人で壁を越えることができたね。遥香ちゃん、原田さん」
須藤さんは嬉しそうに笑顔を浮かべている。
今回のように何か問題が起きたら、絢ちゃんと一緒に協力して前に進めばいいんだ。そうすればきっと大丈夫だと信じている。
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