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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第14話『好きな人とは。』
午前中の練習が終わって、昼食の時間になる。これまでなら恩田さんと一緒に食べるんだけれど、今回は月岡さんと一緒に昼食を食べた。
「しっかし、原田さんの恋人は女の子にモテるのねぇ。原田さんの方がモテそうな気がするけれど」
「遥香は優しくて強い女の子だからなぁ。そういうところに惹かれる女の子が多いんじゃないかな。実際に私もそこがきっかけで好きになったから」
「……その幸せそうな顔、憎たらしいほどに羨ましいわ。私だって真紀ちゃんとそういう風になりたかったのに、まさかこういうことになるとはね……」
そう言いながらも、月岡さんはパスタを頬張る。怒りを食欲に変えるタイプか。
「あまり食べ過ぎないようにね」
「……分かってるわよ」
まだまだ心の整理とかが付いていないかもしれないけれど、食事を取れるくらいには元気になっていて良かった。
そして、昼食を食べ終わり、1人で食休みをしているとき、
『遥香、今、電話をしてもいい? 早急に話したいことがあるんだ』
というメッセージをLINEで送る。お昼過ぎだけれど、遥香、大丈夫かなぁ。
しかし、そんな想いとは裏腹にすぐに私のメッセージは既読になり、
『いいよ。じゃあ、私から電話をかけるね』
遥香からそんなメッセージが届いた。そして、そのメッセージの通り、すぐに遥香から電話が掛かってきた。
『もしもし、絢ちゃん』
「もしもし、遥香。ごめんね、急に」
『いいよ、私は家でゆっくりしているだけだし。絢ちゃん、その後はどう?』
「……昨日の遥香との話の通りになっちゃったよ。そのことを話したくて、メッセージを送ったんだ」
『やっぱり……』
そっか……と遥香は声を漏らす。
遥香の声を聞くと、安心すると同時に、この子がもしかしたら私の隣からいなくなるのか……と、急に危機感が迫ってくる。遥香が離れてしまうのは嫌だ。
『真紀ちゃんが私のことを好きなんだ』
「ああ。午前中の練習の合間に私にそう言ってきたよ。恩田さんからそういう旨の連絡って来た?」
『ううん、来てない。沙良ちゃんからもそういう連絡があった、っていうのもないよ』
「そっか……」
ということは、今、このことを知っているのは私と遥香以外には月岡さんしかいないってことか。
「今度のインターハイがあるじゃない。恩田さん、私と同じで100mと200mに出場するんだ。そこで勝った方が遥香と付き合う、って言ってきて」
『そんなことを言ってきたの!?』
「……ああ。インターハイを使ってそういう賭け事をしちゃいけないし、遥香もそういうことは望んでいないって言ったんだけれどね」
『でも、絢ちゃんは絶対に勝つつもりでしょ? そういうことは関係無しにインターハイで優勝するってさ』
「ああ、もちろん」
私が恩田さんに言った内容と同じであることに、何だかほっとした。遥香もそれを一番に望んでいるんだと分かって。
『私が真紀ちゃんに絢ちゃんと別れるつもりはないって言っても気持ち……変わらないだろうなぁ。私のことが好きなら。真紀ちゃん、頑固なところがあるし』
「……本当に遥香のことが好きなのかな」
『えっ? どういうこと?』
「確かに口では遥香のことが好きだって言って、その時の表情は真剣そのものだった。でも、何だか苦しんでいるようにも思えるんだ」
昨日の夕食で突然様子が変わってから、ずっと。その原因は私が遥香と付き合っている事実を知ったショックだけなのだろうか。それ以外に何があるんじゃないかと思ってしまうんだ。
これまで遥香と一緒に色々な人を見てきた。午前中の恩田さんの様子を思い返すと、口にしていることとは違う理由で悩んでいるように思える。
『私のことが好きで、インターハイで勝負を付けるっていうのは……私とは関係のない本当の苦しみに対して折り合いをつけるために言った、ってことなのかな』
「そういうことだと思う。そこで思いつく彼女を苦しませる本当の理由……例えば、他の人のことが好きなんじゃないかな」
『私とは別の人が好きってこと、か』
遥香とは別の人。それが一体誰なのか。本人に訊くのが一番いいんだろうけれど、今の彼女が教えてくれるだろうか。
それなら、これまでに彼女が放った言葉を思い返すんだ。何か手がかりになるような言葉があるかもしれない。
「……いや、待てよ……」
『何か思い当たる節があるの?』
「遥香のことを言われたとき、周りから非難されることになっても自分の欲しいものを何が何でも手に入れる、って言ったんだよ」
『それって、絢ちゃんから無理矢理にでも私を手に入れることの決意表明なんじゃないかな。それだけ想いが強いっていう』
「私もそう思ってた。でも、自分の彼女にしたい人が本当が別の人だったら……」
『……ま、まさか……』
そう、遥香以外に1人、可能性のある人がいるじゃないか。恩田さんのすぐ近くに。
「双子のお姉さんである恩田沙良さん。それが彼女の本当に付き合いたい人だとしたら」
『双子の姉。確かに周りから非難されるかもしれない、って真紀ちゃんが思っても不思議ではないね』
「……ああ」
『私以外に好きな相手がいるとしたら、沙良ちゃんの可能性が高いかもね。小学生の時ももちろん、今も真紀ちゃんは忙しいけれど仲はいいから』
「なるほどね」
『……状況は分かったよ。まだ、沙良ちゃんのことが好きかどうかは分かっていないから、このことはまだ沙良ちゃんには伏せておくよ。絢ちゃんも真紀ちゃんに、沙良ちゃんが好きなことはまだ言わないでおいて』
「分かった」
恩田さんの本音をさりげなく聞けないだろうか。もし、遥香ではない別の人が好きだとしたら、今もその想いを彼女の胸の中でしまいこんでいて、苦しんでいるかもしれない。
「ありがとう、遥香。気持ちを共有することができて、安心できた」
『私にできることがあるなら何でもするよ。絢ちゃんを支えるのが恋人としての役目……だから』
えへへっ、と遥香の笑い声が聞こえる。きっと、今……遥香は顔を赤くしているんだろうなぁ。
『じゃあ、午後の練習も頑張って』
「うん。また夜に連絡するね」
『分かった。こっちでも何かあったらメッセージを入れておくね』
「分かった。じゃあ、またあとで」
『うん。また後でね』
そう言って、遥香の方から通話を切った。
恩田さんの本音ももちろん気になるけれど、まずは練習をしっかりしないと。何せ、向こうはインターハイで遥香を彼女にするつもりでいるからな。どんな理由があろうとも、私は絶対にインターハイで優勝してみせる。そのためにも練習あるのみだ。
気付けば、午後の練習が始まるまであと数分に迫っていた。
「よし、行くか」
入り口近くにある自動販売機で飲み物を買い、夏の午後の日差しに照らされているグラウンドに向かうのであった。
「しっかし、原田さんの恋人は女の子にモテるのねぇ。原田さんの方がモテそうな気がするけれど」
「遥香は優しくて強い女の子だからなぁ。そういうところに惹かれる女の子が多いんじゃないかな。実際に私もそこがきっかけで好きになったから」
「……その幸せそうな顔、憎たらしいほどに羨ましいわ。私だって真紀ちゃんとそういう風になりたかったのに、まさかこういうことになるとはね……」
そう言いながらも、月岡さんはパスタを頬張る。怒りを食欲に変えるタイプか。
「あまり食べ過ぎないようにね」
「……分かってるわよ」
まだまだ心の整理とかが付いていないかもしれないけれど、食事を取れるくらいには元気になっていて良かった。
そして、昼食を食べ終わり、1人で食休みをしているとき、
『遥香、今、電話をしてもいい? 早急に話したいことがあるんだ』
というメッセージをLINEで送る。お昼過ぎだけれど、遥香、大丈夫かなぁ。
しかし、そんな想いとは裏腹にすぐに私のメッセージは既読になり、
『いいよ。じゃあ、私から電話をかけるね』
遥香からそんなメッセージが届いた。そして、そのメッセージの通り、すぐに遥香から電話が掛かってきた。
『もしもし、絢ちゃん』
「もしもし、遥香。ごめんね、急に」
『いいよ、私は家でゆっくりしているだけだし。絢ちゃん、その後はどう?』
「……昨日の遥香との話の通りになっちゃったよ。そのことを話したくて、メッセージを送ったんだ」
『やっぱり……』
そっか……と遥香は声を漏らす。
遥香の声を聞くと、安心すると同時に、この子がもしかしたら私の隣からいなくなるのか……と、急に危機感が迫ってくる。遥香が離れてしまうのは嫌だ。
『真紀ちゃんが私のことを好きなんだ』
「ああ。午前中の練習の合間に私にそう言ってきたよ。恩田さんからそういう旨の連絡って来た?」
『ううん、来てない。沙良ちゃんからもそういう連絡があった、っていうのもないよ』
「そっか……」
ということは、今、このことを知っているのは私と遥香以外には月岡さんしかいないってことか。
「今度のインターハイがあるじゃない。恩田さん、私と同じで100mと200mに出場するんだ。そこで勝った方が遥香と付き合う、って言ってきて」
『そんなことを言ってきたの!?』
「……ああ。インターハイを使ってそういう賭け事をしちゃいけないし、遥香もそういうことは望んでいないって言ったんだけれどね」
『でも、絢ちゃんは絶対に勝つつもりでしょ? そういうことは関係無しにインターハイで優勝するってさ』
「ああ、もちろん」
私が恩田さんに言った内容と同じであることに、何だかほっとした。遥香もそれを一番に望んでいるんだと分かって。
『私が真紀ちゃんに絢ちゃんと別れるつもりはないって言っても気持ち……変わらないだろうなぁ。私のことが好きなら。真紀ちゃん、頑固なところがあるし』
「……本当に遥香のことが好きなのかな」
『えっ? どういうこと?』
「確かに口では遥香のことが好きだって言って、その時の表情は真剣そのものだった。でも、何だか苦しんでいるようにも思えるんだ」
昨日の夕食で突然様子が変わってから、ずっと。その原因は私が遥香と付き合っている事実を知ったショックだけなのだろうか。それ以外に何があるんじゃないかと思ってしまうんだ。
これまで遥香と一緒に色々な人を見てきた。午前中の恩田さんの様子を思い返すと、口にしていることとは違う理由で悩んでいるように思える。
『私のことが好きで、インターハイで勝負を付けるっていうのは……私とは関係のない本当の苦しみに対して折り合いをつけるために言った、ってことなのかな』
「そういうことだと思う。そこで思いつく彼女を苦しませる本当の理由……例えば、他の人のことが好きなんじゃないかな」
『私とは別の人が好きってこと、か』
遥香とは別の人。それが一体誰なのか。本人に訊くのが一番いいんだろうけれど、今の彼女が教えてくれるだろうか。
それなら、これまでに彼女が放った言葉を思い返すんだ。何か手がかりになるような言葉があるかもしれない。
「……いや、待てよ……」
『何か思い当たる節があるの?』
「遥香のことを言われたとき、周りから非難されることになっても自分の欲しいものを何が何でも手に入れる、って言ったんだよ」
『それって、絢ちゃんから無理矢理にでも私を手に入れることの決意表明なんじゃないかな。それだけ想いが強いっていう』
「私もそう思ってた。でも、自分の彼女にしたい人が本当が別の人だったら……」
『……ま、まさか……』
そう、遥香以外に1人、可能性のある人がいるじゃないか。恩田さんのすぐ近くに。
「双子のお姉さんである恩田沙良さん。それが彼女の本当に付き合いたい人だとしたら」
『双子の姉。確かに周りから非難されるかもしれない、って真紀ちゃんが思っても不思議ではないね』
「……ああ」
『私以外に好きな相手がいるとしたら、沙良ちゃんの可能性が高いかもね。小学生の時ももちろん、今も真紀ちゃんは忙しいけれど仲はいいから』
「なるほどね」
『……状況は分かったよ。まだ、沙良ちゃんのことが好きかどうかは分かっていないから、このことはまだ沙良ちゃんには伏せておくよ。絢ちゃんも真紀ちゃんに、沙良ちゃんが好きなことはまだ言わないでおいて』
「分かった」
恩田さんの本音をさりげなく聞けないだろうか。もし、遥香ではない別の人が好きだとしたら、今もその想いを彼女の胸の中でしまいこんでいて、苦しんでいるかもしれない。
「ありがとう、遥香。気持ちを共有することができて、安心できた」
『私にできることがあるなら何でもするよ。絢ちゃんを支えるのが恋人としての役目……だから』
えへへっ、と遥香の笑い声が聞こえる。きっと、今……遥香は顔を赤くしているんだろうなぁ。
『じゃあ、午後の練習も頑張って』
「うん。また夜に連絡するね」
『分かった。こっちでも何かあったらメッセージを入れておくね』
「分かった。じゃあ、またあとで」
『うん。また後でね』
そう言って、遥香の方から通話を切った。
恩田さんの本音ももちろん気になるけれど、まずは練習をしっかりしないと。何せ、向こうはインターハイで遥香を彼女にするつもりでいるからな。どんな理由があろうとも、私は絶対にインターハイで優勝してみせる。そのためにも練習あるのみだ。
気付けば、午後の練習が始まるまであと数分に迫っていた。
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