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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第15話『Relation』
午前中と同じように、恩田さんと一緒に練習を続けるけれど、彼女とはほとんど会話をすることはなかった。400mリレーの練習を行なったとき、八神高校の生徒とは楽しくお喋りをしていた。
「恩田さん。絢と一緒に練習をしているときはピリピリとした雰囲気だったけれど、自分の高校の生徒と話しているときは彼女も気が楽なのかもね」
「そう……なんでしょうね」
黒崎先輩の言葉にそう返事をすることしかできなかった。
「でも、昨日や一昨日は絢と仲良くやっているように見えたんだけどな。急にどうしたんだろうね。何かあったの?」
「……ありましたけど、陸上とは関係のないことですので」
恋愛事で今の状況になったとは言い辛い。
しかし、黒崎先輩は爽やかな笑みを浮かべて、
「……そうか。まあ、今のところ絢も恩田さんも走りに支障をきたしていないからいいけれど、あまりその悩みを深く抱え込まないように注意しろよ。もし、そうなりそうだったら、誰かに相談するんだよ。私で良ければ話を聞くからね」
「はい。分かりました」
「まあ、絢には坂井さんっていう人生のパートナーがいるから大丈夫か」
ははっ、と黒崎先輩は爽やかに笑っている。
「……遥香にはいつも支えてもらっていますよ。インターハイが終わったら彼女とたくさん遊ぶつもりです」
今回のことだって遥香と話し合って、気持ちを共有し合っているから、恩田さんがどんな態度を取ってもきちんと向き合うことができている。悩んだら誰かに相談をするということが大切であることを既に実感している。
「ふふっ、ゴールの先に恋人が待っている、ってことか。絢の話を聞いていると微笑ましくもあって憎たらしくも思えるよ」
「笑顔で言われると凄く恐いんですが」
正直にそう言うと、黒崎先輩の口角が上がる。
「褒めているつもりなんだけれどな。恋愛感情は人をあらゆる方向に進ませる力があるからね。けれど、今のところ……絢はいい方にだけ向いているようだ。そのハンドルを誤った方向に回さないように気をつけるんだよ」
「……分かっています」
恋愛感情で走りに支障が出ないようにしろ、ってことかな。気をつけよう。
その後、天羽女子のリレー練習はパトンパスを中心に進めていく。補欠である私も練習に加わり、誰が欠員しても困らないように参加登録をしている部員全員とバトンパスの練習を行なう。
八神高校の生徒と一緒に本番を想定したリレー対決をした。ここで初めて草薙さんの走りを見るけれどかなり速い。黒崎先輩と同じくアンカーでの走りだったけれど、2年の中では一番速い黒崎先輩に負けず劣らずの走りを見せていた。
補欠の私も何回かメンバーに入れてもらって練習に参加。その時は決まって、八神高校の補欠メンバーである恩田さんが走者メンバーに入っていた。私が走るということもあって対抗心を燃やしているのだろうか。彼女と同じ順番が多かったけれど、彼女に抜かれることは一度もなかった。
気付けば夕方になっており、今日の練習が終わる。
「絢、良かったよ。本番でもし出場することがあったら、今日みたいな感じで頼む。まあ、明日と明後日も練習するから、不安なことがあったらそのときに解決していこう」
「分かりました」
「……あと、やっぱり恩田さんが君に対して対抗心を燃やしているようだったね。個人的な感情をここでぶつけている、って感じか」
「おそらく、そうだと思います」
「……勝負を通して仲直りでもいいけど、できることなら早めに仲直りしておけよ」
そう言って、黒崎先輩は先に合宿所に戻っていく。
早く仲直り、か。できればそうしたいけれど、原因が原因だから合宿中に仲直りするのはかなり難しいと思う。
「原田さん。何だか午前中よりも本気で走ってた感じ」
私も合宿所に戻ろうとしたとき、恩田さんが話しかけてきた。
「恩田さんにはそう見えるのかもしれないけれど、私はいつも真剣に走っているよ」
「なぁんだ、遥香のことを話したから本気になったんだと思ってたのに。つまんないの」
わざと対抗心を燃やしたいのか、恩田さんの口調、言葉はかなり挑発的である。どんなことを言われても遥香を賭けて戦うつもりはないけれど、このまま言われ続けるのも気分が悪い。
恩田さんと2人きりだし、ちょうどいい。彼女の本心を聞き出すとしようか。
「……本当に遥香のことが好きなの?」
「あ、当たり前じゃない! 何を今更……」
恩田さんはそう言っているけれど、視線がちらついている。今までなら私の目を見て言ってくれたのに。
「遥香のことは友人として好きかもしれない。でも、1人の女の子として好意を持っているのかな」
「……当たり前じゃない。だから、さっき原田さんにああいうことを……」
「本当は別に好きな人がいるんじゃないかな。私にはそういう風に見えたけれど。その苦しみを紛らわすために、遥香を無理矢理にでも彼女にしようとしている」
「好き勝手なことを言わないでよ! そんな、憶測なんて……」
「本当に遥香を付き合いたいと思うなら、私の目を見て言ってくれるかな」
恩田さんは強い口調で反論するけれど、依然として私の目を見て話そうとしない。恩田さんならきっと本当のことや、自身のあることはきちんと私の目を見るはず。
「どんな内容であっても、私は恩田さんの本音が知りたいんだ。私にできることがあれば協力させてほしい」
まあ、本当に遥香のことが好きで、インターハイに勝って遥香を奪い取るつもりならそれは絶対に協力しないけれど。
しばらくの間、恩田さんは口を開かなかったけど、
「……あなたに関係ないことだわ」
静かな声でそう言った。
「その言葉、君が本当に好きなのは遥香の他にいると解釈していいんだね」
私には関係ない。つまり、それは……恩田さんの本当に好きな人が遥香ではないことを言っているのだから。
しかし、恩田さんは何も言わずに合宿所へと戻ってしまった。ここで彼女を追いかけてまで糾弾しても恩田さんの心をより苦しめてしまうだけ……か。
「恩田さん。絢と一緒に練習をしているときはピリピリとした雰囲気だったけれど、自分の高校の生徒と話しているときは彼女も気が楽なのかもね」
「そう……なんでしょうね」
黒崎先輩の言葉にそう返事をすることしかできなかった。
「でも、昨日や一昨日は絢と仲良くやっているように見えたんだけどな。急にどうしたんだろうね。何かあったの?」
「……ありましたけど、陸上とは関係のないことですので」
恋愛事で今の状況になったとは言い辛い。
しかし、黒崎先輩は爽やかな笑みを浮かべて、
「……そうか。まあ、今のところ絢も恩田さんも走りに支障をきたしていないからいいけれど、あまりその悩みを深く抱え込まないように注意しろよ。もし、そうなりそうだったら、誰かに相談するんだよ。私で良ければ話を聞くからね」
「はい。分かりました」
「まあ、絢には坂井さんっていう人生のパートナーがいるから大丈夫か」
ははっ、と黒崎先輩は爽やかに笑っている。
「……遥香にはいつも支えてもらっていますよ。インターハイが終わったら彼女とたくさん遊ぶつもりです」
今回のことだって遥香と話し合って、気持ちを共有し合っているから、恩田さんがどんな態度を取ってもきちんと向き合うことができている。悩んだら誰かに相談をするということが大切であることを既に実感している。
「ふふっ、ゴールの先に恋人が待っている、ってことか。絢の話を聞いていると微笑ましくもあって憎たらしくも思えるよ」
「笑顔で言われると凄く恐いんですが」
正直にそう言うと、黒崎先輩の口角が上がる。
「褒めているつもりなんだけれどな。恋愛感情は人をあらゆる方向に進ませる力があるからね。けれど、今のところ……絢はいい方にだけ向いているようだ。そのハンドルを誤った方向に回さないように気をつけるんだよ」
「……分かっています」
恋愛感情で走りに支障が出ないようにしろ、ってことかな。気をつけよう。
その後、天羽女子のリレー練習はパトンパスを中心に進めていく。補欠である私も練習に加わり、誰が欠員しても困らないように参加登録をしている部員全員とバトンパスの練習を行なう。
八神高校の生徒と一緒に本番を想定したリレー対決をした。ここで初めて草薙さんの走りを見るけれどかなり速い。黒崎先輩と同じくアンカーでの走りだったけれど、2年の中では一番速い黒崎先輩に負けず劣らずの走りを見せていた。
補欠の私も何回かメンバーに入れてもらって練習に参加。その時は決まって、八神高校の補欠メンバーである恩田さんが走者メンバーに入っていた。私が走るということもあって対抗心を燃やしているのだろうか。彼女と同じ順番が多かったけれど、彼女に抜かれることは一度もなかった。
気付けば夕方になっており、今日の練習が終わる。
「絢、良かったよ。本番でもし出場することがあったら、今日みたいな感じで頼む。まあ、明日と明後日も練習するから、不安なことがあったらそのときに解決していこう」
「分かりました」
「……あと、やっぱり恩田さんが君に対して対抗心を燃やしているようだったね。個人的な感情をここでぶつけている、って感じか」
「おそらく、そうだと思います」
「……勝負を通して仲直りでもいいけど、できることなら早めに仲直りしておけよ」
そう言って、黒崎先輩は先に合宿所に戻っていく。
早く仲直り、か。できればそうしたいけれど、原因が原因だから合宿中に仲直りするのはかなり難しいと思う。
「原田さん。何だか午前中よりも本気で走ってた感じ」
私も合宿所に戻ろうとしたとき、恩田さんが話しかけてきた。
「恩田さんにはそう見えるのかもしれないけれど、私はいつも真剣に走っているよ」
「なぁんだ、遥香のことを話したから本気になったんだと思ってたのに。つまんないの」
わざと対抗心を燃やしたいのか、恩田さんの口調、言葉はかなり挑発的である。どんなことを言われても遥香を賭けて戦うつもりはないけれど、このまま言われ続けるのも気分が悪い。
恩田さんと2人きりだし、ちょうどいい。彼女の本心を聞き出すとしようか。
「……本当に遥香のことが好きなの?」
「あ、当たり前じゃない! 何を今更……」
恩田さんはそう言っているけれど、視線がちらついている。今までなら私の目を見て言ってくれたのに。
「遥香のことは友人として好きかもしれない。でも、1人の女の子として好意を持っているのかな」
「……当たり前じゃない。だから、さっき原田さんにああいうことを……」
「本当は別に好きな人がいるんじゃないかな。私にはそういう風に見えたけれど。その苦しみを紛らわすために、遥香を無理矢理にでも彼女にしようとしている」
「好き勝手なことを言わないでよ! そんな、憶測なんて……」
「本当に遥香を付き合いたいと思うなら、私の目を見て言ってくれるかな」
恩田さんは強い口調で反論するけれど、依然として私の目を見て話そうとしない。恩田さんならきっと本当のことや、自身のあることはきちんと私の目を見るはず。
「どんな内容であっても、私は恩田さんの本音が知りたいんだ。私にできることがあれば協力させてほしい」
まあ、本当に遥香のことが好きで、インターハイに勝って遥香を奪い取るつもりならそれは絶対に協力しないけれど。
しばらくの間、恩田さんは口を開かなかったけど、
「……あなたに関係ないことだわ」
静かな声でそう言った。
「その言葉、君が本当に好きなのは遥香の他にいると解釈していいんだね」
私には関係ない。つまり、それは……恩田さんの本当に好きな人が遥香ではないことを言っているのだから。
しかし、恩田さんは何も言わずに合宿所へと戻ってしまった。ここで彼女を追いかけてまで糾弾しても恩田さんの心をより苦しめてしまうだけ……か。
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