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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第17話『れんあいこわい』
恩田さんが自分の部屋に引き籠もってしまったので、草薙さんが彼女の部屋に入って話を聞き出そうとしている。
その影響で練習を中断していたけれど、今回の一件で関係のない生徒は練習を再開するようにという指示が出た。
月岡さんについては何とか泣き止んだが、事情を聞くために練習には参加していない。合宿所のエントランスにあるベンチで休んでいる。
「絢。とりあえず、簡単でいいから今回のことを教えてくれるかな」
「……はい、分かりました」
私は黒崎先輩に、今回の出来事の発端から、先ほどの月岡さんの告白までの流れを掻い摘まんで話した。
「そう、か……」
一通り説明し終わると腕を組みながら、黒崎先輩はそう声を漏らす。
「……なるほど。つまり、昨日の午後に絢が言っていた、恩田さんとの出来事が悪い方向へ進んでしまったってわけか」
「はい、そうです。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって……」
陸上に関係のないことで、多くの人達に迷惑を掛ける結果となってしまった。特に黒崎先輩と草薙さんには。
すると、黒崎先輩は口角を上げて、
「……絢は悪くないさ。もっと言えば、悪い人間は誰もいない。ただ、互いの相手を想う気持ちが上手く噛み合っていなかっただけだよ」
そう言って、肩をポンと叩いた。
「もっと恩田さんに違う形で接していれば、こんなことにはならなかったのでしょうか」
本当に好きなのは遥香じゃないだろう、とか。あの時の恩田さん、とても辛そうな表情をしていた。
「……どうだろうね。それは分からないよ。でも、確実に言えるのは……恩田さんの本心には近づけなかっただろう。彼女が本当に好きな人は坂井さん以外の人間である。その事実を絢は知り得なかったのかもね」
「でも、それを隠してまでも、遥香を彼女にしたかった。一部分でも本心を知られてしまったことは、恩田さんにとってとても苦しいことなのかもしれません」
「……それは本人にしか分からないことさ。私達がここで話し込んだところで、恩田さんの気持ちが変わるようなことはないよ」
これ以上深く考えないようにしよう、と黒崎先輩が言った。
確かに、先輩の言うとおりここでどう言ったって何も変わらないのは分かっている。それでも考えてしまうんだ。何かが違っていれば、少しでも状況は良くなっていたんじゃないかと。
「……しっかし、人によって恋愛感情は陸上をするのにとても邪魔になるようだ」
「じゃ、邪魔って……」
「だって、そうだろう? 恩田真紀さんから誰かに対する恋愛感情を発端に、恩田さん自身はダウンし、恩田さんに恋心を抱く月岡さんだって練習できないほどに精神的なダメージを負ってしまったじゃないか。そして、絢……君もその渦に巻き込まれるところだったんだよ。いや、こうして練習が中断になっているから、時既に遅し……か」
はあっ、と黒崎先輩はため息をつく。怒っている様子も見られず、どこか寂しそうに笑っている。
「確かに、今回は人を好きになる感情から起こった出来事です。でも、人を好きになることを悪く言わないでくれませんか。今の黒崎先輩の言い方だと、恋愛感情を抱くことが悪いように聞こえるのですが」
月曜日に合宿所へ向かうバスの中から感じていた、黒崎先輩の恋愛に対する嫌悪感。その理由が段々と分かってきた気がする。
「私は別に恋愛をすることが悪いと言っているわけじゃないんだ。絢のように坂井さんという恋人がいることで、心が支えられ、走ることに真摯に向き合うことができる人がいるわけだからね。全ての人間が絢のような人だと安心するんだけど……実際はそうじゃない。恩田さんのように、恋愛が陸上の足かせになってしまう人もいるんだよ」
恋愛は陸上の足かせ、か。今の恩田さんや月岡さんのことを考えれば、黒崎先輩の言うことに何も反論できない。
すると、黙っている私を見ながら黒崎先輩はふっ、と笑った。
「……この合宿中に絢に言ったことを覚えているかな。君が坂井さんと上手くやっていることを羨ましく思うけれど、時には憎らしくも思えると」
「ええ、覚えていますけど」
「……私はね、怖いんだよ。今の恩田さんのようになってしまうことが」
「ど、どういうことですか?」
恩田さんのようになることが怖い、って。いつもクールな黒崎先輩から怖いという言葉が出るとは思わなかった。
「……いいか。このことは誰にも言わないでほしい。絢だから話すことだ」
「え、ええ……」
そういう風に言われると急に緊張してしまうんですけど。いったい、彼女の口からどんな話しが飛び出してくるのか。
黒崎先輩は周りに誰もいないことを確認して、
「実は、果歩のことがずっと好きなんだよ」
その影響で練習を中断していたけれど、今回の一件で関係のない生徒は練習を再開するようにという指示が出た。
月岡さんについては何とか泣き止んだが、事情を聞くために練習には参加していない。合宿所のエントランスにあるベンチで休んでいる。
「絢。とりあえず、簡単でいいから今回のことを教えてくれるかな」
「……はい、分かりました」
私は黒崎先輩に、今回の出来事の発端から、先ほどの月岡さんの告白までの流れを掻い摘まんで話した。
「そう、か……」
一通り説明し終わると腕を組みながら、黒崎先輩はそう声を漏らす。
「……なるほど。つまり、昨日の午後に絢が言っていた、恩田さんとの出来事が悪い方向へ進んでしまったってわけか」
「はい、そうです。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって……」
陸上に関係のないことで、多くの人達に迷惑を掛ける結果となってしまった。特に黒崎先輩と草薙さんには。
すると、黒崎先輩は口角を上げて、
「……絢は悪くないさ。もっと言えば、悪い人間は誰もいない。ただ、互いの相手を想う気持ちが上手く噛み合っていなかっただけだよ」
そう言って、肩をポンと叩いた。
「もっと恩田さんに違う形で接していれば、こんなことにはならなかったのでしょうか」
本当に好きなのは遥香じゃないだろう、とか。あの時の恩田さん、とても辛そうな表情をしていた。
「……どうだろうね。それは分からないよ。でも、確実に言えるのは……恩田さんの本心には近づけなかっただろう。彼女が本当に好きな人は坂井さん以外の人間である。その事実を絢は知り得なかったのかもね」
「でも、それを隠してまでも、遥香を彼女にしたかった。一部分でも本心を知られてしまったことは、恩田さんにとってとても苦しいことなのかもしれません」
「……それは本人にしか分からないことさ。私達がここで話し込んだところで、恩田さんの気持ちが変わるようなことはないよ」
これ以上深く考えないようにしよう、と黒崎先輩が言った。
確かに、先輩の言うとおりここでどう言ったって何も変わらないのは分かっている。それでも考えてしまうんだ。何かが違っていれば、少しでも状況は良くなっていたんじゃないかと。
「……しっかし、人によって恋愛感情は陸上をするのにとても邪魔になるようだ」
「じゃ、邪魔って……」
「だって、そうだろう? 恩田真紀さんから誰かに対する恋愛感情を発端に、恩田さん自身はダウンし、恩田さんに恋心を抱く月岡さんだって練習できないほどに精神的なダメージを負ってしまったじゃないか。そして、絢……君もその渦に巻き込まれるところだったんだよ。いや、こうして練習が中断になっているから、時既に遅し……か」
はあっ、と黒崎先輩はため息をつく。怒っている様子も見られず、どこか寂しそうに笑っている。
「確かに、今回は人を好きになる感情から起こった出来事です。でも、人を好きになることを悪く言わないでくれませんか。今の黒崎先輩の言い方だと、恋愛感情を抱くことが悪いように聞こえるのですが」
月曜日に合宿所へ向かうバスの中から感じていた、黒崎先輩の恋愛に対する嫌悪感。その理由が段々と分かってきた気がする。
「私は別に恋愛をすることが悪いと言っているわけじゃないんだ。絢のように坂井さんという恋人がいることで、心が支えられ、走ることに真摯に向き合うことができる人がいるわけだからね。全ての人間が絢のような人だと安心するんだけど……実際はそうじゃない。恩田さんのように、恋愛が陸上の足かせになってしまう人もいるんだよ」
恋愛は陸上の足かせ、か。今の恩田さんや月岡さんのことを考えれば、黒崎先輩の言うことに何も反論できない。
すると、黙っている私を見ながら黒崎先輩はふっ、と笑った。
「……この合宿中に絢に言ったことを覚えているかな。君が坂井さんと上手くやっていることを羨ましく思うけれど、時には憎らしくも思えると」
「ええ、覚えていますけど」
「……私はね、怖いんだよ。今の恩田さんのようになってしまうことが」
「ど、どういうことですか?」
恩田さんのようになることが怖い、って。いつもクールな黒崎先輩から怖いという言葉が出るとは思わなかった。
「……いいか。このことは誰にも言わないでほしい。絢だから話すことだ」
「え、ええ……」
そういう風に言われると急に緊張してしまうんですけど。いったい、彼女の口からどんな話しが飛び出してくるのか。
黒崎先輩は周りに誰もいないことを確認して、
「実は、果歩のことがずっと好きなんだよ」
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