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Fragrance 8-タビノカオリ-
第4話『ピンクとブルー』
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途中でビーチボールや浮き輪を借りて、私達は浜辺へと向かう。
午後3時過ぎという時間帯だからなのか、海には意外と人が少ない。ただ、寂しいと思えるほどの少なさではないのでゆっくり遊ぶにはいいかな。
運良く、一つのビーチパラソルの下に4つの空きのサマーベッドがあった。
「ここを確保しようか」
「そうだね、お兄ちゃん」
お兄ちゃんはサマーベッドの上で仰向けになる。すると、日陰でちょっと弱めの風が心地よいのか寝始めちゃったよ。
「隼人、部屋でもたくさん寝たでしょ」
奈央ちゃんが頬を軽く叩くと、お兄ちゃんは体をビクつかせて、
「ご、ごめん。あまりにも快適だったから、すぐに寝落ちしてしまった」
あははっ、と笑いながらそう言った。
「さあ、4人で遊びましょ!」
奈央ちゃん主導で、私達はビーチボールを使って遊ぶことに。
「そーれ、お兄ちゃん!」
「よし! はい、奈央!」
「はーい、絢ちゃん……って、ごめん! 変なところに行っちゃった!」
「任せてください! 遥香!」
「さすがは絢ちゃん!」
ビーチボールを4人でパスし合うだけなのに、海でやっているからなのかとても楽しい。海はひさしぶりに来たけれど、やっぱりいいな。
ビーチボールを使ってたっぷり遊んで、一旦、サマーベッドに戻って休憩する。
「ねえ、隼人。プールの方に行こうよ」
「……ウォータースライダー目的なら考えさせてくれ。俺が絶叫系が苦手なのは奈央なら分かっていることだろ……」
お兄ちゃん、女性恐怖症は治ったけれど、絶叫系恐怖症はまだ治っていないんだ。
「ふうん、女の子の克服はできたのに、絶叫系の克服はできないんだ」
「人にはできることとできないことがあるんだよ。奈央だってどうしても食べられないものや飲めないものがあるだろう? それと一緒さ」
「で、でも……私は飲まず嫌い、食わず嫌いはしてないよ」
「……そういえばそうだな」
そこで奈央ちゃんの言うことに頷いちゃダメでしょ、ウォータースライダーに行きたくなかったら。ここは私が助け船を出すべきな――。
「よし、一度だけ滑ってみる。それは1人用なのか? それとも複数人滑ることができるやつなのか?」
「さっき見たときは2人で滑り終えた人がいたよ」
「じゃあ、奈央と一緒に滑ってみるか」
「お兄ちゃん、大丈夫なの? この前、遊園地でジェットコースターやフリーフォールに乗ったときに気絶したんでしょう?」
「ああ、確かに気絶したさ。でも、女性恐怖症が治ったから、その影響で絶叫系恐怖症の症状も少しは軽くなっているかもしれない」
「それは関係ないと思いますが……試してみないと分からないことはありますよね」
「絢ちゃん、そこは止めてよ……」
お兄ちゃん、珍しく絶叫系に対して強気だけど、それが仇とならなければいいな。
「安心してくれ、遥香。一度やってみて、ダメそうだったら止めるから」
「……無理しないでね。乗る前にでも気分が不安になったら止めるんだよ」
「うん、分かった」
「じゃあ、隼人と一緒に行ってくるね。遥香ちゃんと絢ちゃん、2人きりの時間を楽しんでね」
そう言うと、奈央ちゃんはお兄ちゃんと腕を絡ませてプールの方へと向かっていった。お兄ちゃんとウォータースライダーに乗りたいのが第一なんだろうけれど、私と絢ちゃんに2人きりの時間を作るためでもあったんだ。
「遥香、せっかく2人になったから海でもうちょっと遊んでいこうか」
「そうだね、絢ちゃんと海に来るのは初めてだもんね」
「ああ。遥香は何がしたい? ビーチボール? それとも、ボートを借りて2人で乗ってみる?」
目をパッチリさせてそんな風に言われると、凄くドキドキしてしまう。海で絢ちゃんと何をしたいのかって分からないけれど、どんな場所でも絢ちゃんと一緒にしたいってことだけは分かっている。
「……海の中で絢ちゃんとキスがしたい」
気付けば、そんなことを言ってしまっていた。
「いや、これは、ね……」
さすがにこれはないでしょ。せっかく海に来たのに。まあ、どこでもキスはしたいけれど。今の言葉を訂正したいのに上手く言葉を出すことができない。
「……何だか遥香らしいな」
「ごめん。でも、その……」
「……実は私も遥香とキスしたいって思っていたんだ。普段と違う場所だとロマンチックというか、ドキドキするというか。こういう場所だからキスしたいっていうか」
恥ずかしいなぁ、と絢ちゃんは照れくさそうに笑っている。
すると、絢ちゃんは無言で私の手を引いて、海の方へと連れて行き……気付けば、私の胸くらいの深さのところまで歩いていた。
「ここなら、はっきりとは見られることはなさそうだね」
「……うん」
そう言うと、絢ちゃんは私のことをぎゅっと抱きしめてきた。海に入っていても、触れていれば絢ちゃんの温もりはしっかりと感じることができるんだ。嬉しいな。
「遥香、好きだよ」
「……私も好き」
そして、絢ちゃんの方からキスをしてきた。絢ちゃん、さっきドキドキするって言っていたからか心なしか普段よりもキスが暑いような。
「遥香……」
「絢ちゃん……」
その後、絢ちゃんと2人きりの時間を楽しんだ。
そして、サマーベッドに戻るけれど、そこにはお兄ちゃんと奈央ちゃんの姿はない。
「2人とも、まだ戻ってきていないんだ」
「じゃあ、ビーチボールを返して、私達もプールに行ってみようよ」
「そうだね、絢ちゃん」
そして、私と絢ちゃんはビーチボールをホテルに返して、ホテルのプールへと向かう。すると、何やら騒がしくなっている。
「遥香、たくさん人がいるあのサマーベッドで横になっている人、お兄さんじゃない?」
「えっ?」
絢ちゃんが指さす先には、サマーベッドで横になっているお兄ちゃんと、その側で心配そうにしている奈央ちゃんがいる。お兄ちゃん、きっと奈央ちゃんと一緒にウォータースライダーを滑って具合が悪くなっちゃったんだ。
「遥香、あの子もいるよ」
「……あっ!」
お兄ちゃんの側に立っている人は奈央ちゃんだけじゃなかった。
女子更衣室で出会った赤髪の女の子と、彼女の恋人と思われる青髪の男性がお兄ちゃんの看病をしていたのであった。
午後3時過ぎという時間帯だからなのか、海には意外と人が少ない。ただ、寂しいと思えるほどの少なさではないのでゆっくり遊ぶにはいいかな。
運良く、一つのビーチパラソルの下に4つの空きのサマーベッドがあった。
「ここを確保しようか」
「そうだね、お兄ちゃん」
お兄ちゃんはサマーベッドの上で仰向けになる。すると、日陰でちょっと弱めの風が心地よいのか寝始めちゃったよ。
「隼人、部屋でもたくさん寝たでしょ」
奈央ちゃんが頬を軽く叩くと、お兄ちゃんは体をビクつかせて、
「ご、ごめん。あまりにも快適だったから、すぐに寝落ちしてしまった」
あははっ、と笑いながらそう言った。
「さあ、4人で遊びましょ!」
奈央ちゃん主導で、私達はビーチボールを使って遊ぶことに。
「そーれ、お兄ちゃん!」
「よし! はい、奈央!」
「はーい、絢ちゃん……って、ごめん! 変なところに行っちゃった!」
「任せてください! 遥香!」
「さすがは絢ちゃん!」
ビーチボールを4人でパスし合うだけなのに、海でやっているからなのかとても楽しい。海はひさしぶりに来たけれど、やっぱりいいな。
ビーチボールを使ってたっぷり遊んで、一旦、サマーベッドに戻って休憩する。
「ねえ、隼人。プールの方に行こうよ」
「……ウォータースライダー目的なら考えさせてくれ。俺が絶叫系が苦手なのは奈央なら分かっていることだろ……」
お兄ちゃん、女性恐怖症は治ったけれど、絶叫系恐怖症はまだ治っていないんだ。
「ふうん、女の子の克服はできたのに、絶叫系の克服はできないんだ」
「人にはできることとできないことがあるんだよ。奈央だってどうしても食べられないものや飲めないものがあるだろう? それと一緒さ」
「で、でも……私は飲まず嫌い、食わず嫌いはしてないよ」
「……そういえばそうだな」
そこで奈央ちゃんの言うことに頷いちゃダメでしょ、ウォータースライダーに行きたくなかったら。ここは私が助け船を出すべきな――。
「よし、一度だけ滑ってみる。それは1人用なのか? それとも複数人滑ることができるやつなのか?」
「さっき見たときは2人で滑り終えた人がいたよ」
「じゃあ、奈央と一緒に滑ってみるか」
「お兄ちゃん、大丈夫なの? この前、遊園地でジェットコースターやフリーフォールに乗ったときに気絶したんでしょう?」
「ああ、確かに気絶したさ。でも、女性恐怖症が治ったから、その影響で絶叫系恐怖症の症状も少しは軽くなっているかもしれない」
「それは関係ないと思いますが……試してみないと分からないことはありますよね」
「絢ちゃん、そこは止めてよ……」
お兄ちゃん、珍しく絶叫系に対して強気だけど、それが仇とならなければいいな。
「安心してくれ、遥香。一度やってみて、ダメそうだったら止めるから」
「……無理しないでね。乗る前にでも気分が不安になったら止めるんだよ」
「うん、分かった」
「じゃあ、隼人と一緒に行ってくるね。遥香ちゃんと絢ちゃん、2人きりの時間を楽しんでね」
そう言うと、奈央ちゃんはお兄ちゃんと腕を絡ませてプールの方へと向かっていった。お兄ちゃんとウォータースライダーに乗りたいのが第一なんだろうけれど、私と絢ちゃんに2人きりの時間を作るためでもあったんだ。
「遥香、せっかく2人になったから海でもうちょっと遊んでいこうか」
「そうだね、絢ちゃんと海に来るのは初めてだもんね」
「ああ。遥香は何がしたい? ビーチボール? それとも、ボートを借りて2人で乗ってみる?」
目をパッチリさせてそんな風に言われると、凄くドキドキしてしまう。海で絢ちゃんと何をしたいのかって分からないけれど、どんな場所でも絢ちゃんと一緒にしたいってことだけは分かっている。
「……海の中で絢ちゃんとキスがしたい」
気付けば、そんなことを言ってしまっていた。
「いや、これは、ね……」
さすがにこれはないでしょ。せっかく海に来たのに。まあ、どこでもキスはしたいけれど。今の言葉を訂正したいのに上手く言葉を出すことができない。
「……何だか遥香らしいな」
「ごめん。でも、その……」
「……実は私も遥香とキスしたいって思っていたんだ。普段と違う場所だとロマンチックというか、ドキドキするというか。こういう場所だからキスしたいっていうか」
恥ずかしいなぁ、と絢ちゃんは照れくさそうに笑っている。
すると、絢ちゃんは無言で私の手を引いて、海の方へと連れて行き……気付けば、私の胸くらいの深さのところまで歩いていた。
「ここなら、はっきりとは見られることはなさそうだね」
「……うん」
そう言うと、絢ちゃんは私のことをぎゅっと抱きしめてきた。海に入っていても、触れていれば絢ちゃんの温もりはしっかりと感じることができるんだ。嬉しいな。
「遥香、好きだよ」
「……私も好き」
そして、絢ちゃんの方からキスをしてきた。絢ちゃん、さっきドキドキするって言っていたからか心なしか普段よりもキスが暑いような。
「遥香……」
「絢ちゃん……」
その後、絢ちゃんと2人きりの時間を楽しんだ。
そして、サマーベッドに戻るけれど、そこにはお兄ちゃんと奈央ちゃんの姿はない。
「2人とも、まだ戻ってきていないんだ」
「じゃあ、ビーチボールを返して、私達もプールに行ってみようよ」
「そうだね、絢ちゃん」
そして、私と絢ちゃんはビーチボールをホテルに返して、ホテルのプールへと向かう。すると、何やら騒がしくなっている。
「遥香、たくさん人がいるあのサマーベッドで横になっている人、お兄さんじゃない?」
「えっ?」
絢ちゃんが指さす先には、サマーベッドで横になっているお兄ちゃんと、その側で心配そうにしている奈央ちゃんがいる。お兄ちゃん、きっと奈央ちゃんと一緒にウォータースライダーを滑って具合が悪くなっちゃったんだ。
「遥香、あの子もいるよ」
「……あっ!」
お兄ちゃんの側に立っている人は奈央ちゃんだけじゃなかった。
女子更衣室で出会った赤髪の女の子と、彼女の恋人と思われる青髪の男性がお兄ちゃんの看病をしていたのであった。
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