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Fragrance 8-タビノカオリ-
第12話『君の名は。-中編-』
どうしてなんだろう。
絢ちゃんは目の前にいるのに、手を伸ばしても絢ちゃんに触れることができない。温もりを感じることができない。むしろ、どんどん寒くなってきてる。どうして? 段々と体が震えてきて、治まる気配が全く感じられない。
どんどんと絢ちゃんが離れていってしまう。消えていってしまう。
追いかけようとしても、脚が動かない。誰かに脚を強く掴まれているかのよう。
絢ちゃんが消えたのか。それとも、私が意識を失ったのか。
全てが黒く染まってしまった。
「うんっ……」
目を開けると、そこにはようやく馴染みが出てきた天井が見えた。
私、お手洗いを出ようとしたら、宮原さんと鉢合わせしてぶつかっちゃったんだよね。絢ちゃんかお兄ちゃんが部屋まで運んでベッドに運んでくれたんだ。
ゆっくりと体を起こして目を擦る。
すると、段々と視界がはっきりとしてきて、藍沢さんみたいな人がいるなぁ。青髪の男の人がいる。どうしてなんだろう。
「彩花、体の具合はどうだ? どこか痛いところはある?」
青髪の男性は優しい笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。
「……えっ? あやか……?」
耳を疑った。私のことを遥香ではなく、彩花と言ったのだ。彩花というのは宮原さんの下の名前だけど。
「朝食の後にお手洗いの前で女の子とぶつかって、今まで眠っていたんだぞ。2時間弱くらいかな……」
「はあ……」
そうだよね。宮原さんとぶつかって、そこからは覚えていない。
「彩花、体調の方は――」
「きゃああっ!」
「……えっ?」
「お兄ちゃんじゃない男の人がどうして私達の部屋に……って、あなたは昨日、お兄ちゃんを助けてくれた方……って、声がおかしい!」
ああもう、分からないことが多すぎるよ。
まず、藍沢さんがどうしてここにいるんだろう。
でも、その理由はすぐに見当が付いた。おそらく、宮原さんが意識を取り戻したから、彼女と一緒に私の部屋に遊びに来たんだと思う。
それよりも、どうして私の声が他人の人のような声なの?
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
藍沢さんはそう言うと、腕を組んで何やら考えている。
そういえば、周りを見渡しても絢ちゃんやお兄ちゃん、奈央ちゃんの姿が見当たらない。それに、ここ……ダブルルームみたいだけれど、置いてある荷物が全然違うし、隣の部屋に行ける扉もないし。どうなってるの?
「彩花。いや……彩花? とりあえず、姿や声は俺と付き合っている宮原彩花だ。信じられないんだったら、洗面所の鏡で見てきてごらん」
えっ、姿や声が藍沢さんと付き合っている宮原彩花さんってどういうこと?
色々とおかしい状況なのは分かったけれど、藍沢さんの言っていることが半信半疑だったので、
「は、はい……」
彼の言うとおり、まずは自分の姿を見てみることにしよう。
ベッドから降りて洗面所に行き、鏡で今の姿を見る。すると、鏡に映っていたのは、
「きゃああっ! この可愛い女の子は誰なんですか!」
すぐに宮原さんだと分かったけれど、自分の姿じゃないのでそんな風に叫んでしまった。綺麗な白い肌、パッチリとした目、セミロングの赤髪、私よりも大きな胸……間違いなく宮原さんだ。
まさか、入れ替わりっていうのが現実にあるなんて。しかも、それを自分が体験してしまうなんて。
部屋に戻ると、真剣な表情をした藍沢さんがベッドの近くになっていた。
「ねえ、ちょっといいかな」
「……はい」
どうしてなんだろう。藍沢さんとこうしてしっかりと顔を向き合うのは初めてなのに、ドキドキして嬉しくなるのだろうか。
「……君の名は」
「坂井遥香です」
私は自分の名前である「坂井遥香」をはっきりと藍沢さんに伝えた。
すると、藍沢さんは目を見開いたけれど、元々落ち着いた性格なのかそれもほんの僅かな間だけ。再び、何かを考えているみたい。多分、体は宮原さんなのに、心は私という状況を理解しようとしているところだと思うけど。
「入れ替わってしまったのか。彩花とぶつかってしまったときに……」
落ち着いた声で藍沢さんはそう言った。
「……そうみたいですね。彼女の姿、昨日も見ましたし、お手洗いから出ようとして彼女とぶつかったときに見たことも覚えています」
「そう……でしたか。お兄さんから聞いているかもしれませんが、俺は藍沢直人といいます。入れ替わった相手は宮原彩花です」
「……兄から聞いています」
入れ替わったことはショックだけれど、藍沢さんがいると不思議と落ち着く。宮原さんの体だからなのかな。
「お兄さんと一緒に遥香さんをここまで運んだとき、意識を取り戻したら互いに連絡するように約束してあるんです」
お兄ちゃんがこっちについてきてくれたんだ。
「そうだったんですか。ということは、私の体に入ってしまった宮原さんのことは絢ちゃんと奈央ちゃんが運んだんですね……」
私と宮原さんの関係者は合計4人。何かあったときのために2人ずつに分かれるとしたら、こっちは藍沢さんとお兄ちゃん、向こうは絢ちゃんと奈央ちゃんになるか。
「……もしかしたら、今頃、向こうの方も2人が入れ替わってしまったことを知ったところかもしれません。ちょっと連絡しますね」
「はい、お願いします。私が連絡したいですけど、この声じゃ私だと信じてくれないと思いますから……」
お兄ちゃんと連絡を取ることになっているなら、藍沢さんに任せた方がいい。
藍沢さんはお兄ちゃんに電話をかける。その時も藍沢さんは落ち着いていて。宮原さんが彼氏にするのも分かる気がするな。頼りになるというか、安心できるというか。今の藍沢さんの姿をずっと見ていたいというか。
「分かりました。今すぐそちらに向かいます。失礼します」
どうやら、お兄ちゃんとの電話が終わったみたい。
「宮原さんの方はどうですか?」
「意識を取り戻して、向こうの方も魂が入れ替わっていることに気付いたそうです。これから、遥香さん達が泊まっている部屋に一緒に行きましょう。一応、遥香さんと彩花がお互いに入れ替わったことを確認したいので」
向こうも入れ替わっている事実に気付いたんだ。意識を取り戻したことに一安心。あと、お腹の調子が悪かったから、宮原さん……大丈夫かな。そこが心配だ。
「……そうですか。分かりました。絢ちゃん、私の姿を見てどう思うんだろう。可愛い女の子ですからショックはさほど受けないとは思いますが……」
「その絢さんというのは遥香さんの恋人の女性ですよね」
「はい、そうです」
「……きっと、分かってくれますよ」
藍沢さんは優しい笑みを浮かべてそう言ってくれる。不安はあるけれど、この人が側にいれば大丈夫な気がすると自然に思えるから不思議だ。
「さあ、行きましょうか。彩……遥香さん」
「はい」
名前、間違えちゃうよね。見た目や声が宮原さんそのものなんだもん。
3人がどんな反応が反応をするのか不安を抱く中、私は藍沢さんと一緒に、自分の泊まっている1501号室へと出発するのであった。
絢ちゃんは目の前にいるのに、手を伸ばしても絢ちゃんに触れることができない。温もりを感じることができない。むしろ、どんどん寒くなってきてる。どうして? 段々と体が震えてきて、治まる気配が全く感じられない。
どんどんと絢ちゃんが離れていってしまう。消えていってしまう。
追いかけようとしても、脚が動かない。誰かに脚を強く掴まれているかのよう。
絢ちゃんが消えたのか。それとも、私が意識を失ったのか。
全てが黒く染まってしまった。
「うんっ……」
目を開けると、そこにはようやく馴染みが出てきた天井が見えた。
私、お手洗いを出ようとしたら、宮原さんと鉢合わせしてぶつかっちゃったんだよね。絢ちゃんかお兄ちゃんが部屋まで運んでベッドに運んでくれたんだ。
ゆっくりと体を起こして目を擦る。
すると、段々と視界がはっきりとしてきて、藍沢さんみたいな人がいるなぁ。青髪の男の人がいる。どうしてなんだろう。
「彩花、体の具合はどうだ? どこか痛いところはある?」
青髪の男性は優しい笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。
「……えっ? あやか……?」
耳を疑った。私のことを遥香ではなく、彩花と言ったのだ。彩花というのは宮原さんの下の名前だけど。
「朝食の後にお手洗いの前で女の子とぶつかって、今まで眠っていたんだぞ。2時間弱くらいかな……」
「はあ……」
そうだよね。宮原さんとぶつかって、そこからは覚えていない。
「彩花、体調の方は――」
「きゃああっ!」
「……えっ?」
「お兄ちゃんじゃない男の人がどうして私達の部屋に……って、あなたは昨日、お兄ちゃんを助けてくれた方……って、声がおかしい!」
ああもう、分からないことが多すぎるよ。
まず、藍沢さんがどうしてここにいるんだろう。
でも、その理由はすぐに見当が付いた。おそらく、宮原さんが意識を取り戻したから、彼女と一緒に私の部屋に遊びに来たんだと思う。
それよりも、どうして私の声が他人の人のような声なの?
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
藍沢さんはそう言うと、腕を組んで何やら考えている。
そういえば、周りを見渡しても絢ちゃんやお兄ちゃん、奈央ちゃんの姿が見当たらない。それに、ここ……ダブルルームみたいだけれど、置いてある荷物が全然違うし、隣の部屋に行ける扉もないし。どうなってるの?
「彩花。いや……彩花? とりあえず、姿や声は俺と付き合っている宮原彩花だ。信じられないんだったら、洗面所の鏡で見てきてごらん」
えっ、姿や声が藍沢さんと付き合っている宮原彩花さんってどういうこと?
色々とおかしい状況なのは分かったけれど、藍沢さんの言っていることが半信半疑だったので、
「は、はい……」
彼の言うとおり、まずは自分の姿を見てみることにしよう。
ベッドから降りて洗面所に行き、鏡で今の姿を見る。すると、鏡に映っていたのは、
「きゃああっ! この可愛い女の子は誰なんですか!」
すぐに宮原さんだと分かったけれど、自分の姿じゃないのでそんな風に叫んでしまった。綺麗な白い肌、パッチリとした目、セミロングの赤髪、私よりも大きな胸……間違いなく宮原さんだ。
まさか、入れ替わりっていうのが現実にあるなんて。しかも、それを自分が体験してしまうなんて。
部屋に戻ると、真剣な表情をした藍沢さんがベッドの近くになっていた。
「ねえ、ちょっといいかな」
「……はい」
どうしてなんだろう。藍沢さんとこうしてしっかりと顔を向き合うのは初めてなのに、ドキドキして嬉しくなるのだろうか。
「……君の名は」
「坂井遥香です」
私は自分の名前である「坂井遥香」をはっきりと藍沢さんに伝えた。
すると、藍沢さんは目を見開いたけれど、元々落ち着いた性格なのかそれもほんの僅かな間だけ。再び、何かを考えているみたい。多分、体は宮原さんなのに、心は私という状況を理解しようとしているところだと思うけど。
「入れ替わってしまったのか。彩花とぶつかってしまったときに……」
落ち着いた声で藍沢さんはそう言った。
「……そうみたいですね。彼女の姿、昨日も見ましたし、お手洗いから出ようとして彼女とぶつかったときに見たことも覚えています」
「そう……でしたか。お兄さんから聞いているかもしれませんが、俺は藍沢直人といいます。入れ替わった相手は宮原彩花です」
「……兄から聞いています」
入れ替わったことはショックだけれど、藍沢さんがいると不思議と落ち着く。宮原さんの体だからなのかな。
「お兄さんと一緒に遥香さんをここまで運んだとき、意識を取り戻したら互いに連絡するように約束してあるんです」
お兄ちゃんがこっちについてきてくれたんだ。
「そうだったんですか。ということは、私の体に入ってしまった宮原さんのことは絢ちゃんと奈央ちゃんが運んだんですね……」
私と宮原さんの関係者は合計4人。何かあったときのために2人ずつに分かれるとしたら、こっちは藍沢さんとお兄ちゃん、向こうは絢ちゃんと奈央ちゃんになるか。
「……もしかしたら、今頃、向こうの方も2人が入れ替わってしまったことを知ったところかもしれません。ちょっと連絡しますね」
「はい、お願いします。私が連絡したいですけど、この声じゃ私だと信じてくれないと思いますから……」
お兄ちゃんと連絡を取ることになっているなら、藍沢さんに任せた方がいい。
藍沢さんはお兄ちゃんに電話をかける。その時も藍沢さんは落ち着いていて。宮原さんが彼氏にするのも分かる気がするな。頼りになるというか、安心できるというか。今の藍沢さんの姿をずっと見ていたいというか。
「分かりました。今すぐそちらに向かいます。失礼します」
どうやら、お兄ちゃんとの電話が終わったみたい。
「宮原さんの方はどうですか?」
「意識を取り戻して、向こうの方も魂が入れ替わっていることに気付いたそうです。これから、遥香さん達が泊まっている部屋に一緒に行きましょう。一応、遥香さんと彩花がお互いに入れ替わったことを確認したいので」
向こうも入れ替わっている事実に気付いたんだ。意識を取り戻したことに一安心。あと、お腹の調子が悪かったから、宮原さん……大丈夫かな。そこが心配だ。
「……そうですか。分かりました。絢ちゃん、私の姿を見てどう思うんだろう。可愛い女の子ですからショックはさほど受けないとは思いますが……」
「その絢さんというのは遥香さんの恋人の女性ですよね」
「はい、そうです」
「……きっと、分かってくれますよ」
藍沢さんは優しい笑みを浮かべてそう言ってくれる。不安はあるけれど、この人が側にいれば大丈夫な気がすると自然に思えるから不思議だ。
「さあ、行きましょうか。彩……遥香さん」
「はい」
名前、間違えちゃうよね。見た目や声が宮原さんそのものなんだもん。
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