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Fragrance 8-タビノカオリ-
第18話『震える少女』
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彩花ちゃんや奈央さんと3人で色々と話していると、隣の部屋からお兄さんが現れる。
「みんな、今……藍沢さんから電話があった」
「直人先輩からですか?」
「ああ。奈央がさっき言っていたこのホテルにお化けが出る、っていう一言から藍沢さんと遥香がこのホテルについて調べたそうだ。色々なことが分かったから、それをみんなに話すために俺も女子会に混ぜて欲しい」
「うん。入ってきていいよ、隼人」
昨日の会話の影響で、今の奈央さんの言葉がちょっと厭らしく聞こえちゃうな。
さっきの電話、やっぱり藍沢さんだったんだ。
藍沢さんと遥香がホテルについて調べて分かったこと。お兄さんが真剣な表情をしているから、結構重要なことが判明したのかもしれない。
スマートフォンとタブレットを持っていたお兄さんは、ベッドの私達に一番近いところに腰を下ろした。
「藍沢さんはお化けが出る、という奈央の一言がずっと気になっていたそうだ。部屋に戻って、遥香と一緒にこのホテルの噂について調べたら、このホテルとその周辺では多くの心霊写真が撮影されていることが分かり、写真がネット上にアップされているんだ」
お兄さんはそう言うと、タブレットを操作してテーブルの上に置いた。
タブレットを見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』と画像検索された結果が表示されている。不気味な写真がたくさんあるけれど……どれどれ、誰のものか分からない手、赤い光、ぼんやりと浮かんでいる女性の顔など、様々な心霊写真が。
「し、心霊写真だ……」
「怖いよ、隼人……」
思わず私は奈央さんと身を寄せ合う。それなのに寒気がしてくる。
そんな私達に比べて、彩花ちゃんはあまり変わりない様子でタブレットに表示されている写真を見ている。頼もしいな。
「あっ、ここのホテルらしき建物も写っていますね」
「そうだ、彩花さん。このアクアサンシャインリゾートホテルは海やプールを堪能できるスポットとしても人気があるけれど、一部マニアの間ではこういった心霊写真が撮影できるということで、心霊スポットとしても人気なんだ」
『えええっ!』
ということは、私達……本当にお化けや幽霊が出るところに泊まっていたんだ。これなら、奈央さんの言うとおり、遥香と彩花ちゃんの体が入れ替わったのはお化けや幽霊の仕業だと思うよ。
「……奈央と絢さんを更に怖がらせることになるけれど、お化けや幽霊は特に夏のこの時期に多く出るみたいなんだ」
『きゃああっ!』
ううっ、本当に怖いよ。もう、奈央さんと抱きしめ合ったまま、そこのベッドで眠りたい気分。
「……隼人さん。お化けや幽霊が出るということは、何か理由があったりするんですか? よくあるじゃないですか。昔、ここで起こった出来事への怨念とか……」
ど、どうして彩花ちゃんはそこまで冷静でいられるのかな。入れ替わっちゃうと、そのことの驚きが強すぎて、幽霊やお化けくらいでは何とも思わなくなるのかな。
「いいところに気付くね、彩花さん。藍沢さんと遥香も同じことを思って更に調べたら、20年前の8月中旬、白海リゾートホテルという所で、当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんだ」
「そうなんですか……」
まさか、20年前にそんなことがあったなんて。16歳の女子高生ということは私、遥香、彩花ちゃんと同しか。生きていれば36歳の女性なんだ。
「しかも、その白海リゾートホテルはこのホテルの昔の名前なんだよ」
こ、このホテルで起こったことなんだ。
「それじゃ、このホテルやその周辺でお化けや幽霊が出るわけですね」
「ああ。この地域で起こった事件について調べたんだけれど、人が亡くなった事件に限定すれば、最後の事件が例の少女が自殺した事件なんだよ」
「そうなんですか。事故でもなければ、他殺でもない。自殺なんですよね。その女の子に何があったのでしょうか」
「2学期になってから、自殺した女の子は学校でいじめられたことが分かったんだ」
「いじめ……」
いつの時代にもいじめは存在するんだ。そして、いじめを受けたことが原因で自殺に至る人がいることも。
「ただ、それだけじゃない。自殺した女の子は友人の女の子の家族と一緒にこのホテルに旅行していたんだ。友人は自殺した女の子のクラスメイトだ」
「そうですか。つまり、自殺当日は自殺した女の子の家族と、友人の女の子の家族が来ていたということですか」
「そういうことだね。友人の女の子が、自殺直前に女の子のことを突き放してしまったらしいんだ。突き放したっていうのはおそらく、喧嘩をして……そのときに酷いことを言ってしまった、と考えているけれど」
「友達の女の子は、自分がひどいことを言ってしまったせいで自殺をしてしまったと思ったのかもしれませんね。いじめがあったということは、自殺した女の子の心には既に何かしらの傷があったことも知っていたと思いますし」
「そうだろうね。自殺してしまった女の子にとって、友人の女の子は唯一の心の拠り所だったのかも。仲が良くなければ一緒に旅行はしないだろうから」
お兄さんと彩花ちゃんの言うとおりだろう。自殺した女の子はいじめの影響で心に傷を負っている中、信頼できる友人がいた。しかし、そんな友人から「突き放す」ような言葉を言われたら、孤独感に苛まれてもおかしくない。しかも、8月中旬という時期。嫌な学校生活がもう少しで再開してしまうこともあって、生きていることから逃げたい気持ちがより強くなったのかも。
「……じゃあ、もしかして私と遥香さんの体が入れ替わってしまった原因は、20年前に自殺した女の子かもしれないと考えているんですか? 私や遥香さんに孤独や絶望を味わわせるために……」
「ああ。藍沢さんや遥香も、そして俺もそう考えている」
20年前の夏、このホテルで16歳の女子高生が自殺した。その女の子はクラスメイトの女の子と一緒にこのホテルに来ていた。私達と重なる部分があるな。
「じゃあ、そうなると……自殺した女の子はクラスメイトの女の子のことを友人としてだけではなく、1人の女の子として好きだったのかもしれません。遥香や彩花さんに同じ目に味わわせたい、ということは……」
クラスメイトである遥香と付き合っているためか、どうしても20年前の自殺した女の子とクラスメイトの子も恋愛関係にあるんじゃないかと考えてしまう。
そして、遥香には私という恋人がいて、彩花ちゃんにも藍沢さんという恋人がいる。自分の苦しみを分かってもらうために、そして恋人との決定的な溝を生じさせるために入れ替わりを起こしたのかもしれない。
もしかしたら、この20年間に遥香と彩花ちゃんのように、入れ替わりを経験した人達が他にもいるかもしれない。
「絢さんの言う通りかもしれないね。ただ、藍沢さんとさっき電話で話して、彩花さんと遥香が入れ替わったことには20年前の事件が関係していると考えている。2人は引き続き、20年前の事件について調べるそうだ」
「そうですか……」
2人で一緒に調べているってことは、遥香は藍沢さんと上手くやっているってことか。まあ、藍沢さんのことが恐いと思っているよりはよっぽどいいけど、ちょっと複雑な気持ちをどうしても抱いてしまう。例え、目の前に「坂井遥香」の姿があっても。
「とりあえず、俺は部屋でタブレットを使って20年前の事件について調べてみる。3人はゆっくりしていてもかまわないし、ちょっと早いけれどお昼を食べに行ってもいいし。特に彩花さんは入れ替わってあまり時間も経っていないからね。それに今朝、遥香は体の調子が悪かったからね」
「ありがとうございます。ただ、私も何かやりたいです」
彩花ちゃんは真剣な表情をしながらお兄さんにそう言った。向こうはこのホテルについて頑張って調べているのに、自分が何もやらないというのは嫌なんだろう。
「ネットで調べるのはお兄さんがやるとして、他にも調べる方法はあるんじゃないかな。20年前の事件だし。まずはそれを考えようか」
「絢ちゃんの言うとおりだね。でも、そろそろお腹も減ってきたから、調べる方法を考えたら4人でお昼ご飯を食べに行こうか」
「そう……しましょう」
気付けば、もう正午近くか。あっという間に時間が経っちゃったな。数時間前はまだ2人の体は入れ替わっていないけれど、それも遠い昔のように思える。
私達4人も20年前の事件について考え始めるのであった。
「みんな、今……藍沢さんから電話があった」
「直人先輩からですか?」
「ああ。奈央がさっき言っていたこのホテルにお化けが出る、っていう一言から藍沢さんと遥香がこのホテルについて調べたそうだ。色々なことが分かったから、それをみんなに話すために俺も女子会に混ぜて欲しい」
「うん。入ってきていいよ、隼人」
昨日の会話の影響で、今の奈央さんの言葉がちょっと厭らしく聞こえちゃうな。
さっきの電話、やっぱり藍沢さんだったんだ。
藍沢さんと遥香がホテルについて調べて分かったこと。お兄さんが真剣な表情をしているから、結構重要なことが判明したのかもしれない。
スマートフォンとタブレットを持っていたお兄さんは、ベッドの私達に一番近いところに腰を下ろした。
「藍沢さんはお化けが出る、という奈央の一言がずっと気になっていたそうだ。部屋に戻って、遥香と一緒にこのホテルの噂について調べたら、このホテルとその周辺では多くの心霊写真が撮影されていることが分かり、写真がネット上にアップされているんだ」
お兄さんはそう言うと、タブレットを操作してテーブルの上に置いた。
タブレットを見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』と画像検索された結果が表示されている。不気味な写真がたくさんあるけれど……どれどれ、誰のものか分からない手、赤い光、ぼんやりと浮かんでいる女性の顔など、様々な心霊写真が。
「し、心霊写真だ……」
「怖いよ、隼人……」
思わず私は奈央さんと身を寄せ合う。それなのに寒気がしてくる。
そんな私達に比べて、彩花ちゃんはあまり変わりない様子でタブレットに表示されている写真を見ている。頼もしいな。
「あっ、ここのホテルらしき建物も写っていますね」
「そうだ、彩花さん。このアクアサンシャインリゾートホテルは海やプールを堪能できるスポットとしても人気があるけれど、一部マニアの間ではこういった心霊写真が撮影できるということで、心霊スポットとしても人気なんだ」
『えええっ!』
ということは、私達……本当にお化けや幽霊が出るところに泊まっていたんだ。これなら、奈央さんの言うとおり、遥香と彩花ちゃんの体が入れ替わったのはお化けや幽霊の仕業だと思うよ。
「……奈央と絢さんを更に怖がらせることになるけれど、お化けや幽霊は特に夏のこの時期に多く出るみたいなんだ」
『きゃああっ!』
ううっ、本当に怖いよ。もう、奈央さんと抱きしめ合ったまま、そこのベッドで眠りたい気分。
「……隼人さん。お化けや幽霊が出るということは、何か理由があったりするんですか? よくあるじゃないですか。昔、ここで起こった出来事への怨念とか……」
ど、どうして彩花ちゃんはそこまで冷静でいられるのかな。入れ替わっちゃうと、そのことの驚きが強すぎて、幽霊やお化けくらいでは何とも思わなくなるのかな。
「いいところに気付くね、彩花さん。藍沢さんと遥香も同じことを思って更に調べたら、20年前の8月中旬、白海リゾートホテルという所で、当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんだ」
「そうなんですか……」
まさか、20年前にそんなことがあったなんて。16歳の女子高生ということは私、遥香、彩花ちゃんと同しか。生きていれば36歳の女性なんだ。
「しかも、その白海リゾートホテルはこのホテルの昔の名前なんだよ」
こ、このホテルで起こったことなんだ。
「それじゃ、このホテルやその周辺でお化けや幽霊が出るわけですね」
「ああ。この地域で起こった事件について調べたんだけれど、人が亡くなった事件に限定すれば、最後の事件が例の少女が自殺した事件なんだよ」
「そうなんですか。事故でもなければ、他殺でもない。自殺なんですよね。その女の子に何があったのでしょうか」
「2学期になってから、自殺した女の子は学校でいじめられたことが分かったんだ」
「いじめ……」
いつの時代にもいじめは存在するんだ。そして、いじめを受けたことが原因で自殺に至る人がいることも。
「ただ、それだけじゃない。自殺した女の子は友人の女の子の家族と一緒にこのホテルに旅行していたんだ。友人は自殺した女の子のクラスメイトだ」
「そうですか。つまり、自殺当日は自殺した女の子の家族と、友人の女の子の家族が来ていたということですか」
「そういうことだね。友人の女の子が、自殺直前に女の子のことを突き放してしまったらしいんだ。突き放したっていうのはおそらく、喧嘩をして……そのときに酷いことを言ってしまった、と考えているけれど」
「友達の女の子は、自分がひどいことを言ってしまったせいで自殺をしてしまったと思ったのかもしれませんね。いじめがあったということは、自殺した女の子の心には既に何かしらの傷があったことも知っていたと思いますし」
「そうだろうね。自殺してしまった女の子にとって、友人の女の子は唯一の心の拠り所だったのかも。仲が良くなければ一緒に旅行はしないだろうから」
お兄さんと彩花ちゃんの言うとおりだろう。自殺した女の子はいじめの影響で心に傷を負っている中、信頼できる友人がいた。しかし、そんな友人から「突き放す」ような言葉を言われたら、孤独感に苛まれてもおかしくない。しかも、8月中旬という時期。嫌な学校生活がもう少しで再開してしまうこともあって、生きていることから逃げたい気持ちがより強くなったのかも。
「……じゃあ、もしかして私と遥香さんの体が入れ替わってしまった原因は、20年前に自殺した女の子かもしれないと考えているんですか? 私や遥香さんに孤独や絶望を味わわせるために……」
「ああ。藍沢さんや遥香も、そして俺もそう考えている」
20年前の夏、このホテルで16歳の女子高生が自殺した。その女の子はクラスメイトの女の子と一緒にこのホテルに来ていた。私達と重なる部分があるな。
「じゃあ、そうなると……自殺した女の子はクラスメイトの女の子のことを友人としてだけではなく、1人の女の子として好きだったのかもしれません。遥香や彩花さんに同じ目に味わわせたい、ということは……」
クラスメイトである遥香と付き合っているためか、どうしても20年前の自殺した女の子とクラスメイトの子も恋愛関係にあるんじゃないかと考えてしまう。
そして、遥香には私という恋人がいて、彩花ちゃんにも藍沢さんという恋人がいる。自分の苦しみを分かってもらうために、そして恋人との決定的な溝を生じさせるために入れ替わりを起こしたのかもしれない。
もしかしたら、この20年間に遥香と彩花ちゃんのように、入れ替わりを経験した人達が他にもいるかもしれない。
「絢さんの言う通りかもしれないね。ただ、藍沢さんとさっき電話で話して、彩花さんと遥香が入れ替わったことには20年前の事件が関係していると考えている。2人は引き続き、20年前の事件について調べるそうだ」
「そうですか……」
2人で一緒に調べているってことは、遥香は藍沢さんと上手くやっているってことか。まあ、藍沢さんのことが恐いと思っているよりはよっぽどいいけど、ちょっと複雑な気持ちをどうしても抱いてしまう。例え、目の前に「坂井遥香」の姿があっても。
「とりあえず、俺は部屋でタブレットを使って20年前の事件について調べてみる。3人はゆっくりしていてもかまわないし、ちょっと早いけれどお昼を食べに行ってもいいし。特に彩花さんは入れ替わってあまり時間も経っていないからね。それに今朝、遥香は体の調子が悪かったからね」
「ありがとうございます。ただ、私も何かやりたいです」
彩花ちゃんは真剣な表情をしながらお兄さんにそう言った。向こうはこのホテルについて頑張って調べているのに、自分が何もやらないというのは嫌なんだろう。
「ネットで調べるのはお兄さんがやるとして、他にも調べる方法はあるんじゃないかな。20年前の事件だし。まずはそれを考えようか」
「絢ちゃんの言うとおりだね。でも、そろそろお腹も減ってきたから、調べる方法を考えたら4人でお昼ご飯を食べに行こうか」
「そう……しましょう」
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