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Fragrance 8-タビノカオリ-
第21話『とまどい』
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お昼ご飯をどこで食べるかを直人さんと相談して、ホテルの周辺の散歩もしてみよう、ということで、ホテルの近くにあるお店で食べることになった。
そして、ホテルから数分歩いたところにお蕎麦屋さんがあったのでそこに決定。私は温かい鶏南蛮そばを食べて、俺は冷たいせいろそばを食べた。
途中、いつもの癖で直人さんの食べているせいろそばを食べたいと行ってしまった。しかし、直人さんはそういうことに慣れているのか、快く一口分けてくださった。お礼とお詫びを兼ねて、私の鶏南蛮そばを一口直人さんに分けた。
おそば屋さんを後にして、私と直人さんはアクアサンシャインリゾートホテルへと歩き始める。とても暑いと思って、スマートフォンで時刻を確認したら、今は午後1時過ぎ。これからが一番暑い時間だから、早くホテルに戻りたい。
「美味しかったですね。せいろそばも美味しかったです」
「鶏南蛮も美味しかったですよ。暑くても、温かいものっていいですね」
「お店の中は涼しかったですからね。今日になってからは一番体の調子がいいです。彩花さんの体で言ってしまっていいのか分かりませんが」
でも、お蕎麦屋さんの中は結構涼しかったから、温かいそばでちょうど良かった。
「ははっ、複雑ですよね。でも、体の調子が良くなって安心しました。彩花は今朝、寒気があると言っていましたから」
「寒気もすっかりとなくなりました」
部屋で温かい紅茶を飲んで、さっき温かいそばを食べたからかな。すっかりと体調が良くなった。
「何だかこうして歩いていると、本当に直人さんと一緒に旅行に来ているように思えます」
「そうですか」
彩花さんの体だからかな、直人さんの隣にいたいというか。自然と彼の隣に立っているというか。何にせよ、直人さんが側にいることがとても安心できる。
「でも、それだと何だか彩花さんに悪いですよね。体や声が彩花さんでも、一番大事な心が彩花さんではないんですから。しかも、恋人である直人さんと楽しい、って思えてしまうことに罪悪感を抱き始めているんです」
そう、私が直人さんの隣にいて、心地よい気分になってはいけないんだ。本当ならここに立っているのは彩花さんで、私には絢ちゃんっていう恋人がいるのに。2人のことを考えると、段々と泣きたくなってしまう。
すると、直人さんが私の頭を優しく撫でてくれる。直人さんはいつもの優しい笑みを私に見せてくれる。
「……確かに、彩花のことを考えると罪悪感を抱いたり、こういう風にしていていいのか……って戸惑ったりしますよね」
「直人さん……」
「……ただ、楽しいと思えることって俺は凄く素敵なことだと思います。彩花の体の影響があるとしても。だから、楽しいっていう気持ちをわざわざ抑えつけるようなことをしなくていいと思うんですよね」
「でも、このまま楽しんでしまったら、直人さんと一緒にいたいと思うようになって、直人さんのことを好きになってしまうかもしれません。私には絢ちゃんという付き合っている女の子がいるのに。だって、直人さんがこんなにも素敵なんですもん……」
こんなにも直人さんに優しくされて、笑顔で接してくれると……本当に彼のことが好きになってしまいそうだ。彩花さんの体だからかもしれないけれど、直人さんを欲し始めてきていることが分かった。
「……俺のことをどう思っていただいてもかまいません。ただ、2つだけ……覚えておいていただけますか。1つは楽しいときには思いっきり楽しんでいいということ。もう1つは、絢さんに対する気持ちを無くさないで欲しいということです」
「直人、さん……」
楽しいという気持ちと、絢ちゃんを想う気持ち、か。
「遥香さんの気持ちは俺がきちんと受け止めます。ただし、俺は宮原彩花の彼氏として、坂井遥香さん……あなたと向き合います」
直人さんは真剣な表情をしながらそう言った。大好きな彩花さんの姿や声なのに、私を「坂井遥香」として向き合ってくれることが嬉しいし、安心する。だからこそ、好きになってしまいそうなのだ。
「それに、体は入れ替わってしまいましたけれど、お互いに今は旅行中じゃないですか。楽しめるときは楽しんでいいんですよ。そうじゃないと損をしているというか。それに、元の体に戻ったら、絢さんに思いっきり甘えればいいと思います」
「……ふふっ」
本当に直人さんといると安心するなぁ。こういうところに彩花さんは惹かれていったんだと思う。
「彩花さんが直人さんのことを好きになった理由が、ますます分かってきたような気がしますね。でも、どうしてなんでしょう。不思議と胸の苦しみがなくなってきました」
直人さんが側にいてくれるなら、きっと大丈夫。そんな感じがしたから。今は直人さんと一緒にいる時間を楽しもう。
「……今頃、彩花さんも同じように戸惑っているのかもしれませんね」
「そうかもしれないですね。絢さんは素敵そうな女の子ですからね」
「絢ちゃんはとてもかっこよくて可愛い素敵な女の子なんです! 絢ちゃんとは入学式の日に一目惚れをして、絢ちゃんから告白されたときは本当に嬉しくて。ああ、今でも思い出すと幸せな気持ちでいっぱいになります」
彩花さんと入れ替わっても、私は私……なんだな。絢ちゃんのことを褒められると嬉しいし、彩花ちゃんのことを話すと楽しい気持ちが湧き上がってくる。
「すみません。今の話、お部屋で話しましたね……って、どうして笑っているんですか?」
「……本当に絢さんのことが好きなんだな、と思って」
「それは本当ですけど、言われると照れちゃいますね」
今、絢ちゃんはどうしているかな。4人でお昼ご飯を食べているのかな。
「今、彩花さんのことを考えていましたね?」
「よく分かりましたね。付き合っている人の話を聞いたので、俺も付き合っている人の顔を思い浮かべました」
当てずっぽうで言ってみたんだけど、見事に当たったのでちょっと驚いた。
「ふふっ、そうですか。直人さんの気持ちも分かりますけど、目の前に女の子がいるのに別の女の子のことを考えていると、ちょっと嫉妬しちゃいます」
「嫉妬するところは彩花にそっくりだ」
「ああ、また」
彩花さんが直人さんの彼女だと分かっていても、今はすぐ側にいる私のことも考えてくれてもいいのにな、って。それはとても我が儘なことだけれど。
気付けば、アクアサンシャインリゾートホテルの入り口が見えていた。戻ったら、直人さんと一緒に、20年前の事件について知っている人がいるかどうか聞き込み調査をすることにしよう。
そして、ホテルから数分歩いたところにお蕎麦屋さんがあったのでそこに決定。私は温かい鶏南蛮そばを食べて、俺は冷たいせいろそばを食べた。
途中、いつもの癖で直人さんの食べているせいろそばを食べたいと行ってしまった。しかし、直人さんはそういうことに慣れているのか、快く一口分けてくださった。お礼とお詫びを兼ねて、私の鶏南蛮そばを一口直人さんに分けた。
おそば屋さんを後にして、私と直人さんはアクアサンシャインリゾートホテルへと歩き始める。とても暑いと思って、スマートフォンで時刻を確認したら、今は午後1時過ぎ。これからが一番暑い時間だから、早くホテルに戻りたい。
「美味しかったですね。せいろそばも美味しかったです」
「鶏南蛮も美味しかったですよ。暑くても、温かいものっていいですね」
「お店の中は涼しかったですからね。今日になってからは一番体の調子がいいです。彩花さんの体で言ってしまっていいのか分かりませんが」
でも、お蕎麦屋さんの中は結構涼しかったから、温かいそばでちょうど良かった。
「ははっ、複雑ですよね。でも、体の調子が良くなって安心しました。彩花は今朝、寒気があると言っていましたから」
「寒気もすっかりとなくなりました」
部屋で温かい紅茶を飲んで、さっき温かいそばを食べたからかな。すっかりと体調が良くなった。
「何だかこうして歩いていると、本当に直人さんと一緒に旅行に来ているように思えます」
「そうですか」
彩花さんの体だからかな、直人さんの隣にいたいというか。自然と彼の隣に立っているというか。何にせよ、直人さんが側にいることがとても安心できる。
「でも、それだと何だか彩花さんに悪いですよね。体や声が彩花さんでも、一番大事な心が彩花さんではないんですから。しかも、恋人である直人さんと楽しい、って思えてしまうことに罪悪感を抱き始めているんです」
そう、私が直人さんの隣にいて、心地よい気分になってはいけないんだ。本当ならここに立っているのは彩花さんで、私には絢ちゃんっていう恋人がいるのに。2人のことを考えると、段々と泣きたくなってしまう。
すると、直人さんが私の頭を優しく撫でてくれる。直人さんはいつもの優しい笑みを私に見せてくれる。
「……確かに、彩花のことを考えると罪悪感を抱いたり、こういう風にしていていいのか……って戸惑ったりしますよね」
「直人さん……」
「……ただ、楽しいと思えることって俺は凄く素敵なことだと思います。彩花の体の影響があるとしても。だから、楽しいっていう気持ちをわざわざ抑えつけるようなことをしなくていいと思うんですよね」
「でも、このまま楽しんでしまったら、直人さんと一緒にいたいと思うようになって、直人さんのことを好きになってしまうかもしれません。私には絢ちゃんという付き合っている女の子がいるのに。だって、直人さんがこんなにも素敵なんですもん……」
こんなにも直人さんに優しくされて、笑顔で接してくれると……本当に彼のことが好きになってしまいそうだ。彩花さんの体だからかもしれないけれど、直人さんを欲し始めてきていることが分かった。
「……俺のことをどう思っていただいてもかまいません。ただ、2つだけ……覚えておいていただけますか。1つは楽しいときには思いっきり楽しんでいいということ。もう1つは、絢さんに対する気持ちを無くさないで欲しいということです」
「直人、さん……」
楽しいという気持ちと、絢ちゃんを想う気持ち、か。
「遥香さんの気持ちは俺がきちんと受け止めます。ただし、俺は宮原彩花の彼氏として、坂井遥香さん……あなたと向き合います」
直人さんは真剣な表情をしながらそう言った。大好きな彩花さんの姿や声なのに、私を「坂井遥香」として向き合ってくれることが嬉しいし、安心する。だからこそ、好きになってしまいそうなのだ。
「それに、体は入れ替わってしまいましたけれど、お互いに今は旅行中じゃないですか。楽しめるときは楽しんでいいんですよ。そうじゃないと損をしているというか。それに、元の体に戻ったら、絢さんに思いっきり甘えればいいと思います」
「……ふふっ」
本当に直人さんといると安心するなぁ。こういうところに彩花さんは惹かれていったんだと思う。
「彩花さんが直人さんのことを好きになった理由が、ますます分かってきたような気がしますね。でも、どうしてなんでしょう。不思議と胸の苦しみがなくなってきました」
直人さんが側にいてくれるなら、きっと大丈夫。そんな感じがしたから。今は直人さんと一緒にいる時間を楽しもう。
「……今頃、彩花さんも同じように戸惑っているのかもしれませんね」
「そうかもしれないですね。絢さんは素敵そうな女の子ですからね」
「絢ちゃんはとてもかっこよくて可愛い素敵な女の子なんです! 絢ちゃんとは入学式の日に一目惚れをして、絢ちゃんから告白されたときは本当に嬉しくて。ああ、今でも思い出すと幸せな気持ちでいっぱいになります」
彩花さんと入れ替わっても、私は私……なんだな。絢ちゃんのことを褒められると嬉しいし、彩花ちゃんのことを話すと楽しい気持ちが湧き上がってくる。
「すみません。今の話、お部屋で話しましたね……って、どうして笑っているんですか?」
「……本当に絢さんのことが好きなんだな、と思って」
「それは本当ですけど、言われると照れちゃいますね」
今、絢ちゃんはどうしているかな。4人でお昼ご飯を食べているのかな。
「今、彩花さんのことを考えていましたね?」
「よく分かりましたね。付き合っている人の話を聞いたので、俺も付き合っている人の顔を思い浮かべました」
当てずっぽうで言ってみたんだけど、見事に当たったのでちょっと驚いた。
「ふふっ、そうですか。直人さんの気持ちも分かりますけど、目の前に女の子がいるのに別の女の子のことを考えていると、ちょっと嫉妬しちゃいます」
「嫉妬するところは彩花にそっくりだ」
「ああ、また」
彩花さんが直人さんの彼女だと分かっていても、今はすぐ側にいる私のことも考えてくれてもいいのにな、って。それはとても我が儘なことだけれど。
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