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Fragrance 8-タビノカオリ-
第37話『約束のキス』
――私とキスしてくれない?
氷高さんへの殺害を思い留める条件として、水代さんは恍惚した表情を浮かべながらそう言ったのだ。
「く、キス……ですか」
「……できない、なんて言わせないよ。だって、さっき……宮原さんとキスしていたもんね? 宮原さんにできて私にできないってこと、ないよね?」
「できませんよ」
彩花ちゃんの場合は私のことを好きだって言ってくれて、その上で一度だけキスをしたんだから。遥香の恋人である私がこれ以上、他の人とキスをすることなんてできないよ。
「宮原さんの場合も、私の場合も、触れる唇は恋人の坂井さんのものなのに」
「唇の先には心があるんです。遥香じゃない人にこれ以上するなんて……私にはできませんよ。それに、ここでキスをしてしまったら遥香にも、相良さんにも悪いですし」
私がそう言うと、水代さんは呆れるようにして笑った。
「本当に真面目ね、原田さんは。でも、私もね……ちょっと坂井さんの体の影響を受けちゃって、あなたのことがとても素敵に見えるの。こうしていると、ドキドキする」
「そ、そんなこと言われたってキスしませんよ」
姿や声は遥香だけれど、心は水代さんなんだ。目の前にいる女の子が可愛いのは事実だけれど、惑わされてはいけない。
すると、水代さんは潤んだ瞳で上目遣いをして、
「ねえ、絢ちゃん。私と……キスしてよ。お願い」
甘えた口調でまるで遥香のように言ってきたのだ。こんな風に言われると、本当に遥香がそこにいるように思える。入れ替わるまでの遥香の様子を観察して、遥香のクセや特徴を頭に入れているんだな。
「私のこと……嫌いなの?」
「……遥香の声で人を殺すとか言って欲しくないです。だから、あなたを好きだと言ったら嘘になってしまうのが本音です」
大事な遥香の体を使って人を殺すとか言わないで欲しいよ。もちろん、遥香の体に憑依した状態で殺人をさせるわけにはいかない。
「まあ、あんな態度を取ったら好きじゃないって言われても仕方ないか。それでも、私はあなたにキスをして欲しいって思ってる。その想いは今も大きくなっているの」
彩花ちゃんと同じようなことを言ってくる。まさか、彩花ちゃんとのやり取りを見ていたのかな。
「キスをすれば氷高さんへの殺人を想い留めてくれるんですね」
「……うん」
「いいの? 絢ちゃん……」
「大丈夫ですよ。それに、さっき……彩花ちゃんとキスをしましたし」
キスをして、人の命を救える可能性があるんだったら安いもんだ。それに、さっき……水代さんが言ったように触れる唇は遥香のものだ。そう割り切って、水代さんとキスをすることにしよう。
「それじゃ、キスしますよ」
「……うん」
自分からキスしてほしいと言ったくせに、頬を紅潮させて緊張しているよ。
そして、私は水代さんとキスをする。相手は水代さんなのに、触れている唇が遥香のものだから、不思議と心地いいんだよな。
もういいだろうと思って、水代さんから唇を離そうと思ったら、
「んっ……」
水代さんの方から舌を絡ませてきた。この生暖かさに甘い匂い……くそっ、遥香そのもので段々とドキドキしてしまう。
「もういいでしょう!」
これ以上はしていけないと思い、私は水代さんから離れた。
「……20年ぶりのキス、美味しかった」
「舌を絡ませないでくださいよ」
「だって、ひさしぶりのキスで……坂井さんの体からか、あなたとキスして凄く興奮しちゃったんだもん。その先のことをしたいくらいに……」
遥香の声でそんなことを言わないでほしい。こっちだって興奮して、抱きしめたくなっちゃうから。
「……これで、氷高さんへの殺害を思い留めることはできましたか?」
「……あなた達がいる火曜日までの間は、ね。でも、それまでにどうにかできなかったら、私は殺害も視野に入れて行動するからね。じゃあ、またいつか」
そう言うと、水代さんが抜け出したのか、遥香の体が私の方へと倒れ込んでくる。
「大丈夫?」
そう声を掛けても、返事はない。水代さんに憑依されたことが影響して、意識を失っているんだろう。おそらく、その意識は彩花ちゃんのもの。
私は彩花ちゃんをベッドの上に寝かせる。
「どうやら、俺達のやろうとしている方向性は間違っていなかったか」
「でも、火曜日までにどうにかできなかったら、水代さん……本当に氷高さんを殺害しちゃうんだよね」
「あの様子から見て、その可能性が高そうだな」
そして、解決するために乗り越えなければならないハードルはとても高い。それを明後日までにしなければいけないと考えると尚更。
「さてと、このことを藍沢さんに伝えよう。とりあえず、まずは電話しよう」
「お願いします」
彩花ちゃんが眠っているということは、その前に憑依された遥香の方もまだ意識を取り戻していないかもしれないな。
「絢さんと奈央も話せるようにスピーカーホンにしよう」
そう言って、お兄さんはスピーカーホンにして、スマートフォンをテーブルの上に置いた。
『はい、藍沢です』
「坂井です。たった今、水代さんが遥香の体からいなくなりました。今、彩花さんは意識を失っている状態です。ベッドで寝かせています」
『そうですか。遥香さんはさっき、意識を取り戻しました。彼女には水代さんが俺に話したことを軽く説明しました』
遥香はもう意識を取り戻したんだ。ということは、彩花ちゃんも時機に意識を取り戻すかな。
「分かりました。彩花さんの意識がない状態ですから、このまま電話で水代さんから何を言われたのかを報告しましょう」
『分かりました』
こちらであったことを遥香や直人さんに伝えて、これからどうしていくのか考えることにしよう。
氷高さんへの殺害を思い留める条件として、水代さんは恍惚した表情を浮かべながらそう言ったのだ。
「く、キス……ですか」
「……できない、なんて言わせないよ。だって、さっき……宮原さんとキスしていたもんね? 宮原さんにできて私にできないってこと、ないよね?」
「できませんよ」
彩花ちゃんの場合は私のことを好きだって言ってくれて、その上で一度だけキスをしたんだから。遥香の恋人である私がこれ以上、他の人とキスをすることなんてできないよ。
「宮原さんの場合も、私の場合も、触れる唇は恋人の坂井さんのものなのに」
「唇の先には心があるんです。遥香じゃない人にこれ以上するなんて……私にはできませんよ。それに、ここでキスをしてしまったら遥香にも、相良さんにも悪いですし」
私がそう言うと、水代さんは呆れるようにして笑った。
「本当に真面目ね、原田さんは。でも、私もね……ちょっと坂井さんの体の影響を受けちゃって、あなたのことがとても素敵に見えるの。こうしていると、ドキドキする」
「そ、そんなこと言われたってキスしませんよ」
姿や声は遥香だけれど、心は水代さんなんだ。目の前にいる女の子が可愛いのは事実だけれど、惑わされてはいけない。
すると、水代さんは潤んだ瞳で上目遣いをして、
「ねえ、絢ちゃん。私と……キスしてよ。お願い」
甘えた口調でまるで遥香のように言ってきたのだ。こんな風に言われると、本当に遥香がそこにいるように思える。入れ替わるまでの遥香の様子を観察して、遥香のクセや特徴を頭に入れているんだな。
「私のこと……嫌いなの?」
「……遥香の声で人を殺すとか言って欲しくないです。だから、あなたを好きだと言ったら嘘になってしまうのが本音です」
大事な遥香の体を使って人を殺すとか言わないで欲しいよ。もちろん、遥香の体に憑依した状態で殺人をさせるわけにはいかない。
「まあ、あんな態度を取ったら好きじゃないって言われても仕方ないか。それでも、私はあなたにキスをして欲しいって思ってる。その想いは今も大きくなっているの」
彩花ちゃんと同じようなことを言ってくる。まさか、彩花ちゃんとのやり取りを見ていたのかな。
「キスをすれば氷高さんへの殺人を想い留めてくれるんですね」
「……うん」
「いいの? 絢ちゃん……」
「大丈夫ですよ。それに、さっき……彩花ちゃんとキスをしましたし」
キスをして、人の命を救える可能性があるんだったら安いもんだ。それに、さっき……水代さんが言ったように触れる唇は遥香のものだ。そう割り切って、水代さんとキスをすることにしよう。
「それじゃ、キスしますよ」
「……うん」
自分からキスしてほしいと言ったくせに、頬を紅潮させて緊張しているよ。
そして、私は水代さんとキスをする。相手は水代さんなのに、触れている唇が遥香のものだから、不思議と心地いいんだよな。
もういいだろうと思って、水代さんから唇を離そうと思ったら、
「んっ……」
水代さんの方から舌を絡ませてきた。この生暖かさに甘い匂い……くそっ、遥香そのもので段々とドキドキしてしまう。
「もういいでしょう!」
これ以上はしていけないと思い、私は水代さんから離れた。
「……20年ぶりのキス、美味しかった」
「舌を絡ませないでくださいよ」
「だって、ひさしぶりのキスで……坂井さんの体からか、あなたとキスして凄く興奮しちゃったんだもん。その先のことをしたいくらいに……」
遥香の声でそんなことを言わないでほしい。こっちだって興奮して、抱きしめたくなっちゃうから。
「……これで、氷高さんへの殺害を思い留めることはできましたか?」
「……あなた達がいる火曜日までの間は、ね。でも、それまでにどうにかできなかったら、私は殺害も視野に入れて行動するからね。じゃあ、またいつか」
そう言うと、水代さんが抜け出したのか、遥香の体が私の方へと倒れ込んでくる。
「大丈夫?」
そう声を掛けても、返事はない。水代さんに憑依されたことが影響して、意識を失っているんだろう。おそらく、その意識は彩花ちゃんのもの。
私は彩花ちゃんをベッドの上に寝かせる。
「どうやら、俺達のやろうとしている方向性は間違っていなかったか」
「でも、火曜日までにどうにかできなかったら、水代さん……本当に氷高さんを殺害しちゃうんだよね」
「あの様子から見て、その可能性が高そうだな」
そして、解決するために乗り越えなければならないハードルはとても高い。それを明後日までにしなければいけないと考えると尚更。
「さてと、このことを藍沢さんに伝えよう。とりあえず、まずは電話しよう」
「お願いします」
彩花ちゃんが眠っているということは、その前に憑依された遥香の方もまだ意識を取り戻していないかもしれないな。
「絢さんと奈央も話せるようにスピーカーホンにしよう」
そう言って、お兄さんはスピーカーホンにして、スマートフォンをテーブルの上に置いた。
『はい、藍沢です』
「坂井です。たった今、水代さんが遥香の体からいなくなりました。今、彩花さんは意識を失っている状態です。ベッドで寝かせています」
『そうですか。遥香さんはさっき、意識を取り戻しました。彼女には水代さんが俺に話したことを軽く説明しました』
遥香はもう意識を取り戻したんだ。ということは、彩花ちゃんも時機に意識を取り戻すかな。
「分かりました。彩花さんの意識がない状態ですから、このまま電話で水代さんから何を言われたのかを報告しましょう」
『分かりました』
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