ハナノカオリ

桜庭かなめ

文字の大きさ
192 / 226
Fragrance 8-タビノカオリ-

第41話『はざま』

 大浴場からは真っ直ぐ部屋に戻った。ただ、彩花ちゃんは15階のエレベーターホールにあった自動販売機で冷たい紅茶を買ったけれど。

「温泉、気持ち良かったね」
「そうですね。今日の疲れが取れた気がしました」

 遥香の体に慣れてきたのか。それとも温泉が気持ち良かったのか。
 彩花ちゃんはさっき買った冷たい紅茶を飲んでいる。

「ふぅ」

 私も何か冷たい飲み物でも買えば良かったかな。温泉に長く浸かっていたせいか、今もちょっと熱い。

「うわっ」

 すると、突然、私は彩花ちゃんにベッドへと押し倒される。

「突然だったから驚いちゃったよ」
「……ごめんなさい。浴衣姿の絢さんを見たら、つい。あと、このくらいしないと……温泉での続きをしてくれないような気がして」

 もしかしたら、彩花ちゃんは私の今の気持ちに気付き始めているかもしれない。

「……理由無しに続きをしない、なんてことはないよ」
「絢さん……」
「その……部屋に戻っても、彩花ちゃんが温泉の時と同じ気持ちだったらしてもいいかな、って思っていたんだ。一番大事なのは目の前にいる彩花ちゃんの気持ちだと思うから」

 本当に……私は酷い女だ。遥香という恋人がいるのに、彩花ちゃんの気持ちに応えたいと思っているのだから。

「それで、彩花ちゃん……イチャイチャしたいの?」

 彩花ちゃんにそう問いかける。彩花ちゃんにも藍沢直人さんという素敵な恋人がいるからだ。
 少しの間、彩花ちゃんは何も言わなかった。色々なことを想っているんだろう。そして、どうしたいのかを考えていることだろう。

「……んっ」

 温泉に入っているときと同じように、彩花ちゃんは私に熱いキスをする。

「……今夜だけでいいですから、絢さんと続きがしたいです。女の子同士のイチャイチャを……私に教えてくれませんか」

 彩花ちゃんははっきりとそう言った。そのときに私を見てくる彼女の視線は、私の体の中にグイグイと入り込もうとしているように思えた。

「も、もちろん……絢さんがしてもいいって思えるところまででいいですから。これは私の我が儘ですし……」

 どうやら、彩花ちゃんは私のことを気遣ってくれているようだ。

「……分かった。私のできる範囲で……しよっか」
「……ありがとうございます」

 そもそも、彩花ちゃんとえっちなことをしようとしている時点でダメなような気もするけれど。

「それにしても、彩花ちゃんは普段から押し倒すタイプなの? 直人さんは……受け入れるタイプにも見えるけれど」
「え、ええと……」

 さっき押し倒されたので、いつも彩花ちゃんから直人さんを誘っているように思ってしまう。

「……私から誘ってました」
「ははっ、やっぱり」
「絢さんはどうなんですか? 遥香さんとそういうことをするときは……」

 遥香から誘ったときもあれば、私から誘ったこともある。

「……半々かな」
「半々なんですね」
「……うん。じゃあ……イチャイチャしよう」

 そして、私達は浴衣姿でイチャイチャする。

「……明日、目が覚めたらどうなっているんだろう」

 小さな声で彩花ちゃんはそう言う。

「水代さんのことがまだ解決できないから、このままなんじゃないかな」

 遥香と彩花ちゃんの体が入れ替わったのは、水代さんが意図的に行なったことだから。彼女が元に戻そうと考えてくれない限りこのままだろう。

「やっぱり、そうなんでしょうね」
「でも、いつかは絶対に元の体に戻った方がいいよ。仮に遥香が直人さんのことが好きになっていても。私の恋人は遥香だけだし、直人さんだって恋人は彩花ちゃんだけだと思っているはずだから」
「そう、ですよね……」

 彩花ちゃんに元の体に戻る気持ちを強く抱かせるためにそう言ったけれど、この状況で私の恋人が遥香だけだなんてよく言えたと思った。心の中で自分自身に嘲笑する。
 ただ、元の体に戻って彩花ちゃんと直人さんが少しでも早く元の関係に戻れるように、私もサポートしなきゃ。

「でも、元の体に戻るまでは彩花ちゃんの側にいるし、彩花ちゃんのことを守る。それが直人さんとの約束だからね。だから、今夜は安心して眠っていいんだよ」
「……側で笑っていてくれる絢さんがいれば、安心して眠れそうです。だから、キスをしてもらってもいいですか?」
「ふふっ、彩花ちゃんならそう言うと思ったよ」
「私なら、ですか」

 私の方からそっとおやすみのキスをする。すると、彩花ちゃんは眠たそうな表情になる。

「……本当に眠くなってきちゃいました。もっとお話ししたいのに」
「気持ちは嬉しいな。でも、明日はきっとみんなで頑張らないといけないと思うから、今日はもう寝ようか」
「……はい」

 そういえば、夕方……相良さんは今後の対策を考えてみると言っていた。何か良い方法は思いついたのかな。それは明日になったら聞いてみることにしよう。

「絢さん、おやすみなさい」
「おやすみ、彩花ちゃん」

 彩花ちゃんはゆっくりと目を閉じる。眠っている姿は……遥香そのものだな。

「……ごめんね、遥香」

 私、遥香に嫌なことをしちゃってるね。直人さんには嫌なことをしなければいいって言ったのにね。
 今、遥香はどうしているんだろう。私と彩花ちゃんがイチャイチャしたように、直人さんとイチャイチャしているのだろうか。もし、そうだとしたら複雑だけれど、責めることはしない。責めるつもりもない。責める……気持ちが湧くこともないと思う。絶対に。

「……私も寝よう」

 明日以降、何が待ち受けているか分からない。きちんと眠って、今日の疲れを取っておかないと。
 それから程なくして、私も眠りにつくのであった。
感想 20

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。