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Fragrance 8-タビノカオリ-
第58話『姉妹』
午後2時15分。
お兄ちゃん、直人さん、水代さんが2階のカフェから戻ってきた。心なしか、晴実さんの表情がさっきよりも明るくなっているような。
「お待たせしました。遅くなってしまってすみません」
「いいのよ、晴実ちゃん。……何だか、さっきよりもだいぶ顔色が良くなったけれど、藍沢さんや坂井さんにいいアドバイスがもらえたのかな?」
「それもありましたけれど……もっと素敵なことがありましたので」
うふふっ、と晴実さんは嬉しそうに笑う。彼女の言う素敵なこと……って何なのかよく分からないけれど、今の晴実さんの様子を見る限り、かなりいいことだったんだろう。
「先輩、もしかして……」
「……何にもないよ、彩花。アイスコーヒーを飲みながら、晴実さんと話しただけさ」
「それならいいですけど」
彩花さんは何か気付いたようだけど、直人さんに上手くかわされている。あまり深く訊かない方がいいかな。
「……時間もあまりないので、さっそく皆さんに言わないといけませんね」
晴実さんは真剣な表情をして、
「私……悠子さん達に協力します」
私達のことを見ながらしっかりとそう言った。今の彼女の様子を見る限り、私達に協力する気持ちは揺るがないみたい。
「その気持ちは嬉しいわ、晴実ちゃん。でも、私達と協力するということは……あなた自身が危険な目に遭ったり、酷いことを言われたりするかもしれない。もちろん、私達があなたのことを守るつもりだけれど……そういった覚悟はできてる?」
相良さんもまた真剣な表情だ。氷高さんと決着を付けるということは、自分のお姉さんのいじめや自殺と向き合うことになる。そのことで氷高さんから心ない言葉を言われる可能性も十分にあり得る。相良さんは晴実さんを大切に想っているからこそ、その覚悟ができているのかと訊いているんだと思う。
「……もちろんです。何か言われるかもしれないっていう怖さはありますけど、このまま逃げているのは嫌なんです。私は……水代晴実になりたいから。お姉ちゃんのことに向き合うつもりです」
このホテルに来た直後とは打って変わって、今の晴実さんは前に進んでいるのが分かる。お兄ちゃんと直人さんが彼女の背中を押すようなことを言ったのかな。それが晴実さんがさっき言った素敵なこと、なのかな?
「私ももちろんサポートするつもりです。晴実のことは私が守ります。ですから、皆さんに協力させてください。お願いします」
紬さんは深く頭を下げる。晴実さんと一緒に来ただけあって、彼女のためなら何でもするという気構えなんだと思う。おそらく、それは晴実さんからこのホテルに行くことを誘われたときから。
「……分かった」
一言、相良さんはそう言うとニコッと笑った。
「ありがとう、晴実ちゃん、紬ちゃん。2人にも協力してもらおうかな。もちろん、何かあったときは私達がサポートするから安心して」
「ありがとうございます、悠子さん」
晴実さんと紬さんが私達に協力してくれることになったのはとても心強い。
しかし、2人が協力せずとも氷高さんに決着を付けるための役割分担は決まっている。ただ、晴実さんは相良さんと同じくらいのキーパーソンだと思うから、お兄ちゃんや直人さんと同じようにメインで話す立場にするか、それとも――。
「私と紬ちゃん……何をすればいいのでしょうか」
「そうだね……おおよその役割は決まっちゃっているし」
相良さんはそう言うと、ちらっとお兄ちゃんと直人さんの方を見る。やはり、彼女も2人にどんな形で協力してもらおうか考えが思いつかないんだな。
「どうしましょうか、坂井さん」
「そうですね……メインで話すのは相良さん、藍沢さん、俺でやった方がいいでしょう」
「それは俺も同感です」
これまでのことは把握しているし、私達の方が冷静に話を進めることができるだろう。相手は相良さんを10年間も脅迫し続けている氷高さんだ。こちらが感情的になったら、言葉を駆使して逃げられてしまうかもしれない。
「そうか、感情か……」
今の氷高さんは相良さんや水代さんにはとても強気な態度だ。しかも、このホテルに出てくる水代さんの霊に対しては、家族が側にいたにも関わらず小心者とはっきりと言ったくらいだ。そんな彼女の強気な態度を、晴実さんと紬さんによって変えることができるかもしれない。もし、そうなればこちらが有利な状況になるだろう。
「相良さん」
「何でしょうか、藍沢様」
「晴実さんって水代さんと姿は似ていますか?」
「ええ。雰囲気はそっくりですよ。違うところと言えば、円加はストレートのロングヘアで、晴実ちゃんよりも胸が小さかったことくらいですかね」
「なるほど……」
つまり……晴実さんの今のおさげの髪型をストレートにすれば、見た目は水代さんとあまり変わりない状態になるんだ。
「ちなみに、声の方は?」
「声もそっくりです。円加を知っている人でも、晴実ちゃんの声を聞いたら最初は円加だと間違えると思いますね。彼女の実家にあるホームビデオを見ない限りは、円加の声を聞く機会はほぼないでしょうから」
なるほど、声まで水代さんに似ているんだ。
「藍沢さん、まさか……」
どうやら、お兄ちゃんと直人さんは何かいい案が思いついたみたい。私は全然思いつかないけど。
「……そういうことですよ、坂井さん。晴実さんと紬さんに協力してもらいましょう。そのため、今夜に決行する必要があります。水代さんがこのホテルで自殺したのも夜ですからね。そして、晴実さん……そのときまで氷高さんと会わないようにしてくれませんか」
「分かりました」
晴実さんのことを知らない方が効果もより大きいだろうから。
その後、私達は晴実さんと紬さんが泊まる部屋に移動し、今夜の作戦について話し合った。そして、事前に準備しなければならないこともあるので、それぞれが動き始めた。時間もあまりないけれども、氷高さんにばれてはいけないので慎重に。
20年前の水代さんのいじめから始まった今回の出来事にも、いよいよ決着を付けるときが訪れそうだ。
お兄ちゃん、直人さん、水代さんが2階のカフェから戻ってきた。心なしか、晴実さんの表情がさっきよりも明るくなっているような。
「お待たせしました。遅くなってしまってすみません」
「いいのよ、晴実ちゃん。……何だか、さっきよりもだいぶ顔色が良くなったけれど、藍沢さんや坂井さんにいいアドバイスがもらえたのかな?」
「それもありましたけれど……もっと素敵なことがありましたので」
うふふっ、と晴実さんは嬉しそうに笑う。彼女の言う素敵なこと……って何なのかよく分からないけれど、今の晴実さんの様子を見る限り、かなりいいことだったんだろう。
「先輩、もしかして……」
「……何にもないよ、彩花。アイスコーヒーを飲みながら、晴実さんと話しただけさ」
「それならいいですけど」
彩花さんは何か気付いたようだけど、直人さんに上手くかわされている。あまり深く訊かない方がいいかな。
「……時間もあまりないので、さっそく皆さんに言わないといけませんね」
晴実さんは真剣な表情をして、
「私……悠子さん達に協力します」
私達のことを見ながらしっかりとそう言った。今の彼女の様子を見る限り、私達に協力する気持ちは揺るがないみたい。
「その気持ちは嬉しいわ、晴実ちゃん。でも、私達と協力するということは……あなた自身が危険な目に遭ったり、酷いことを言われたりするかもしれない。もちろん、私達があなたのことを守るつもりだけれど……そういった覚悟はできてる?」
相良さんもまた真剣な表情だ。氷高さんと決着を付けるということは、自分のお姉さんのいじめや自殺と向き合うことになる。そのことで氷高さんから心ない言葉を言われる可能性も十分にあり得る。相良さんは晴実さんを大切に想っているからこそ、その覚悟ができているのかと訊いているんだと思う。
「……もちろんです。何か言われるかもしれないっていう怖さはありますけど、このまま逃げているのは嫌なんです。私は……水代晴実になりたいから。お姉ちゃんのことに向き合うつもりです」
このホテルに来た直後とは打って変わって、今の晴実さんは前に進んでいるのが分かる。お兄ちゃんと直人さんが彼女の背中を押すようなことを言ったのかな。それが晴実さんがさっき言った素敵なこと、なのかな?
「私ももちろんサポートするつもりです。晴実のことは私が守ります。ですから、皆さんに協力させてください。お願いします」
紬さんは深く頭を下げる。晴実さんと一緒に来ただけあって、彼女のためなら何でもするという気構えなんだと思う。おそらく、それは晴実さんからこのホテルに行くことを誘われたときから。
「……分かった」
一言、相良さんはそう言うとニコッと笑った。
「ありがとう、晴実ちゃん、紬ちゃん。2人にも協力してもらおうかな。もちろん、何かあったときは私達がサポートするから安心して」
「ありがとうございます、悠子さん」
晴実さんと紬さんが私達に協力してくれることになったのはとても心強い。
しかし、2人が協力せずとも氷高さんに決着を付けるための役割分担は決まっている。ただ、晴実さんは相良さんと同じくらいのキーパーソンだと思うから、お兄ちゃんや直人さんと同じようにメインで話す立場にするか、それとも――。
「私と紬ちゃん……何をすればいいのでしょうか」
「そうだね……おおよその役割は決まっちゃっているし」
相良さんはそう言うと、ちらっとお兄ちゃんと直人さんの方を見る。やはり、彼女も2人にどんな形で協力してもらおうか考えが思いつかないんだな。
「どうしましょうか、坂井さん」
「そうですね……メインで話すのは相良さん、藍沢さん、俺でやった方がいいでしょう」
「それは俺も同感です」
これまでのことは把握しているし、私達の方が冷静に話を進めることができるだろう。相手は相良さんを10年間も脅迫し続けている氷高さんだ。こちらが感情的になったら、言葉を駆使して逃げられてしまうかもしれない。
「そうか、感情か……」
今の氷高さんは相良さんや水代さんにはとても強気な態度だ。しかも、このホテルに出てくる水代さんの霊に対しては、家族が側にいたにも関わらず小心者とはっきりと言ったくらいだ。そんな彼女の強気な態度を、晴実さんと紬さんによって変えることができるかもしれない。もし、そうなればこちらが有利な状況になるだろう。
「相良さん」
「何でしょうか、藍沢様」
「晴実さんって水代さんと姿は似ていますか?」
「ええ。雰囲気はそっくりですよ。違うところと言えば、円加はストレートのロングヘアで、晴実ちゃんよりも胸が小さかったことくらいですかね」
「なるほど……」
つまり……晴実さんの今のおさげの髪型をストレートにすれば、見た目は水代さんとあまり変わりない状態になるんだ。
「ちなみに、声の方は?」
「声もそっくりです。円加を知っている人でも、晴実ちゃんの声を聞いたら最初は円加だと間違えると思いますね。彼女の実家にあるホームビデオを見ない限りは、円加の声を聞く機会はほぼないでしょうから」
なるほど、声まで水代さんに似ているんだ。
「藍沢さん、まさか……」
どうやら、お兄ちゃんと直人さんは何かいい案が思いついたみたい。私は全然思いつかないけど。
「……そういうことですよ、坂井さん。晴実さんと紬さんに協力してもらいましょう。そのため、今夜に決行する必要があります。水代さんがこのホテルで自殺したのも夜ですからね。そして、晴実さん……そのときまで氷高さんと会わないようにしてくれませんか」
「分かりました」
晴実さんのことを知らない方が効果もより大きいだろうから。
その後、私達は晴実さんと紬さんが泊まる部屋に移動し、今夜の作戦について話し合った。そして、事前に準備しなければならないこともあるので、それぞれが動き始めた。時間もあまりないけれども、氷高さんにばれてはいけないので慎重に。
20年前の水代さんのいじめから始まった今回の出来事にも、いよいよ決着を付けるときが訪れそうだ。
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