ハナノカオリ

桜庭かなめ

文字の大きさ
226 / 226
Fragrance 8-タビノカオリ-

エピローグ『君はここにいる』

しおりを挟む
 午後0時半。
 私達が乗っている車は、最寄りのインターチェンジから高速道路に乗り、渋滞に巻き込まれることもなく家に向かって走っている。

「もう、こんな時間か。そろそろ昼ご飯をどうするか決めて欲しいな。10kmくらい先に、大きなサービスエリアがあるからそこに行こうと思ってる。俺は何でもいいから、3人で何を食べたいか決めてくれるかな」

 確かに、もうお昼時だし、何を食べるか考えた方がいいかも。
 これから行こうとするサービスエリアについて調べていると、和風、洋風、中華……もちろん、その地域のグルメのお店もある。迷っちゃうなぁ。

「どれにする? 遥香」
「そうだねぇ、たくさんあるから迷っちゃうね」
「実際に行ってみてから決めてみるっていうのもありなんじゃない?」
「奈央さんの言うことにも一理ありますね」

 確かに、実際に行ってみると気分が変わることもあるよね。通路から見える店の雰囲気とか、食欲をそそる美味しそうな匂いとか。
 ――プルルッ。
 そんなことを考えていると、彩花さんからLINEで写真が送られてくる。この旅行中に作った6人のグループトークのところだ。
 見てみると、そこには美味しそうな駅弁の写真が2枚。1枚は幕の内弁当で、もう1枚は魚介類がたくさん入ったお弁当だ。

「うわぁ、美味しそうだね、遥香」
「うん。お腹空いてきちゃったよ」

 これがいわゆる「飯テロ」っていうのかな。うううっ、お弁当の写真を見たらより一層食欲が増してきた。早くサービスエリアに着かないかな。

『美味しそうですね! 私達は今、車の中で何を食べるか話し合っていて。そうだ、さっきの2人の写真を送っておきますね!』

 そんなメッセージを送る。あっ、そうだ。駅で撮影したツーショット写真も送っておこうっと。
 2人とはさっき駅で別れたけれど、こういったSNS、メールや電話で離れている人とも繋がり続けることができる。それはとてもいいことだけれど、今回の旅行を経験して人とは会って話すのが一番いいのかなって思った。
 そんなことを考えていると、

『素敵ですね。大切にします! こっちも、駅での4人の写真を送りますね!』

 というメッセージが遥香さんから届き、その直後に私達4人の写真が送信された。

「おっ、いい写真だね、これは」
「そうだね、絢ちゃん」

 彩花さんにお礼のメッセージを送っておかないと。

『ありがとうございます! 大切にします』
『待ち受けにしたいね、これ』

 絢ちゃん、待ち受けにしたいって。
 でも、絢ちゃんの言うように……待ち受けにするにはいい写真かもしれない。今、待ち受けにしている絢ちゃんとのツーショット写真といい勝負かも。

「……この写真からも、すっかりと遥香は元に戻ったように見えるよ」
「絢ちゃん……」
「もう一度、キスしてもいいかな。遥香が遥香であることをまた確かめたいんだ。もちろん、遥香が私の隣に座っているのは分かっているんだけどね」
「……いいよ。じゃあ、絢ちゃんからしてくれる?」
「うん」

 絢ちゃんの方を向いて、私はゆっくりと目を瞑る。
 すると、程なくして私の唇には温かくて、柔らかくて、優しい感触が。それが絢ちゃんの唇であるのは分かるけれど、絢ちゃんの方は私のことをちゃんと感じてくれているかな。

「……やっぱり、遥香はここにいるね」

 絢ちゃんにそう言われたので、ゆっくりと目を開けると、そこには爽やかに笑っている絢ちゃんがいた。

「絢ちゃんも目の前にいるよ」

 それが、とても嬉しかった。今回の旅行で一番得たものは絢ちゃんなんじゃないかなって彼女の笑顔を見ながら思った。

「私と隼人が2人のすぐ側にいるんだけどね」

 私達の方に振り返り、奈央ちゃんはニヤニヤとした表情を浮かべながらそう言った。
 そうだ、ここは絢ちゃんと2人きりの空間じゃなくて、お兄ちゃんと奈央ちゃんもいたんだった。ううっ、恥ずかしいよ。

「そこは黙って見守るか、知らない振りでもしておいてやれよ……」

 お兄ちゃんの言う通りだと思うけれど、車の中だからいずれは絶対に2人がいることは分かっちゃうし。ううん。

「だって、2人が後部座席でキスしてるんだよ? バックミラー越しでそれが見えちゃうんだよ? 気になっちゃうよ……」
「まあ、奈央のその気持ちも分からなくはない」
「……何だか、私達もキスしたくなっちゃったね。……する?」
「するんだったら、せめてサービスエリアに着いてからにしてくれよ」
「じゃあ、そのときは私と絢ちゃんがいるところで……」
「えええっ! そんなの恥ずかしいよ!」
「奈央ちゃんだって、さっきの私達のキス……気になって見ていたんでしょ? 奈央ちゃんとお兄ちゃんのキスは気になるよ……ね? 絢ちゃん」
「そ、そうだね……」

 絢ちゃん、どうして顔を赤くしているんだろう。もしかして、男女のキスは見たことがないからかな。それにしても、顔を赤くしている絢ちゃんは可愛いな。
 入れ替わりという普通ならあり得ないことも体験した今回の旅行は、私と絢ちゃんに色々なものをもたらしてくれたような気がする。そして、この5日間は輝かしい思い出として、私達の中にいつまでも在り続けることだろう。



Fragrance 8-タビノカオリ- おわり


(ひとまずはここで本作品は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。)
しおりを挟む
感想 20

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(20件)

ge999c62-50
2020.11.30 ge999c62-50
ネタバレ含む
解除
ge999c62-50
2020.11.30 ge999c62-50
ネタバレ含む
解除
ge999c62-50
2020.11.29 ge999c62-50
ネタバレ含む
2020.11.29 桜庭かなめ

感想ありがとうございます。

当主は50代中盤くらいで考えて書きました。

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。

白藍まこと
恋愛
 白凪雪(しろなゆき)は高校時代、唯一の親友で幼馴染の羽澄陽葵(はすみひなた)と絶交してしまう。  クラスで他者との触れ合いを好まない雪と、クラスの中心的人物である陽葵による価値観のすれ違いが原因だった。  そして、お互いに素直になれないまま時間だけが過ぎてしまう。  数年後、社会人になった雪は高校の同窓会に参加する。  久しぶりの再会にどこか胸を躍らせていた雪だったが、そこで陽葵の訃報を知らされる。  その経緯は分からず、ただ陽葵が雪に伝えたい思いがあった事だけを知る。  雪は強い後悔に苛まれ、失意の中眠りにつく。  すると次に目を覚ますと高校時代に時間が巻き戻っていた。  陽葵は何を伝えようとしていたのか、その身に何があったのか。  それを知るために、雪はかつての幼馴染との縁を繋ぐために動き出す。  ※他サイトでも掲載中です。

秋の陽気(ようき)

転生新語
恋愛
 元夫(もとおっと)が先月、亡くなった。四十九日法要が終わって、私は妹の娘と再会する……  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/822139836259441399  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n1892ld/

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。