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第一部 土筆とスタンビート編
第四十六話 土筆と厄介なはぐれモノ⑫
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土筆《つくし》と地竜の激闘によって引き起こされたその超常とも言える現象を遠くから眺めた者達は、その光景を見て、天と地を繋ぐ巨大な光柱だと感じたことだろう。
土筆《つくし》の捨て身の攻撃によって撃ち込まれた電撃魔法との接触により、地竜の口の中で暴発を引き起こしたドラゴンブレスはその圧縮されたエネルギーの行き場を失い、爆発し爆風を伴いながら上昇気流に乗って天高く昇っていく。
魔力による爆発を至近距離で浴びた土筆《つくし》が無傷でいられるはずもなく、地竜の口の中に突っ込んだ左腕は跡形もなく消し飛び、全身の至るところに熱傷を始め致命傷と呼ぶに相応しい数々の怪我を負ったのだが、地妖精ドニ、風妖精シフィー、水精霊ディネ、そしてフェアリープラントのタッツによる滅私奉公《めっしほうこう》の働きで、爆風には巻き込まれたものの即死だけは何とか免れたのだった……
フェアリープラントのタッツが保有する能力によって発現した柔らかい蔓《つる》の網に優しく受け止められた土筆《つくし》は、もたれ掛かるような姿勢のまま大樹の根元まで運ばれる。
しかし、土筆《つくし》が負った怪我はどれも目を覆いたくなるような重傷ばかりで、この世界の医療技術は元より、凄腕の錬金術師でも神々の寵愛《ちょうあい》を受けた神官の治癒魔法ですら、最早《もはや》その傷を癒すことは不可能だった。
妖精達が心配そうに見守る中、土筆《つくし》の意識は徐々に薄れていき、やがて力なく全身の力が抜け落ちる。
人どころか魔物の気配すら感じられない森の中でひっそりと第二の人生を終えようとしている土筆《つくし》の前に、いつもとは少々感じの違う、おしとやかな雰囲気に包まれたコルレットが音もなく現れるのだった。
「ツクっち、さすがっす。ご褒美にコルレットちゃんの初めてをプレゼントするっすよ」
コルレットは自分の唇に右手の人差し指を当てながらそう語り掛けると、冷たくなった土筆《つくし》の唇に自身の唇を重ね合わせる。
コルレットの口から注がれる神力は、土筆《つくし》の口から流れ込むと全身へと巡っていく。
土筆《つくし》の身を焼いた怨嗟《えんさ》の呪いは浄化され、魔力の暴走で消し飛んだ左腕は新しい生命《いのち》が芽吹くように再生していく。
冷たく硬直してしまった土筆《つくし》の体は徐々に温もりを取り戻し、途絶えてしまった鼓動も脈も息も、その全てが元気だった頃の土筆《つくし》へと戻っていくのだった。
「……名残惜しいっすけど、今日はここまでっすよ」
コルレットは人差し指に口付けをして土筆《つくし》の唇に押し当て、その指をもう一度自分の唇に押し当てると満たされた表情で立ち上がる。
「……今回ばかりはコルレットちゃんもブチ切れっす」
コルレットは土筆《つくし》の前では決して見せることのない冷酷な表情で森の奥を睨むと、空間を渡ってボルダ村の騒動の黒幕である悪魔の背後へ瞬時に移動する。
「まさか、人族如《ごと》きが地竜を倒すとか有り得ないってーのっ」
気の遠くなるような長い年月を掛けて、その手中に地竜を納めることに成功した名も無き悪魔は、その苦労が貧弱な一人の人間によって打ち砕かれたことに乱心していた。
「キィィッ、ヤバい、ヤバいぞ。このままでは彼《あ》の御方に顔向けができないばかりか俺様も危ないではないかーっ……」
名も無き悪魔は自身の隠密能力に自惚れているのだろう。
神力を解放したコルレットが悠然と背後に迫っていても、その存在に全く気付く事ができないのである。
「こうなったら、あのくたばった憎たらしい冒険者を操って目的を果たすしかないなっ」
名も無き悪魔は狂気に満ちた声でそう叫ぶと両手の指の先から黒い糸を伸ばし始める。
刹那、コルレットに後頭部を鷲掴みされ、初めて背後を取られていた事に気付くのだった。
「なっ、何だ貴様っ!?」
頭を動かすことが出来ずに眼球だけを精一杯横に寄せた名も無き悪魔は、コルレットの手から漏れ出す虹色の炎に後頭部をジリジリと焼かれながら悲鳴を上げる。
「……」
コルレットは名も無き悪魔が少しでも長く苦しむように、出力を調整しながら虹色の炎で焼いていく。
「ごぉらぁぁぁっ、止めろっていってんだろうがぁぁぁっ」
文字通り身を焦がされて悶え苦しむ名も無き悪魔は、何とかコルレットの手から逃れようとジタバタともがく。
「あー、もう、俺様はぁ怒ったぞっ。取《と》り敢《あ》えず死んどけやーっ」
名も無き悪魔はそう叫ぶと、両手の指の先から伸ばした黒い糸を振り上げて自身の背後にいるコルレットに襲い掛かる。
コルレットは鷲掴んでいた後頭部から手を離すと空間を渡って名も無き悪魔の前に移動するのだった。
「クックック……これは僥倖《ぎょうこう》。目的を果たせなかったとしても天使の首を持ちかえればお釣りが来るというものっ」
名も無い悪魔は標的を土筆《つくし》からコルレットに変更すると、問答無用で襲い掛かるのだった。
「このグフォス様の肥やしとなりなっ」
自らをグフォスと名乗った悪魔は周辺に大量の瘴気を撒き散らし、コルレット目掛けて瘴気の刃を降らす。
「ヒャッヒャーッ。ベフエフ様が家臣、諜者《ちょうじゃ》のグフォスとは私のことだーっ」
勝手に身の上をベラベラと垂れ流すグフォスと名乗った悪魔を冷酷な表情で見据えるコルレットは、降り掛かる瘴気の刃を気に留めることもなく左腕を伸ばしてグフォスの顔面を鷲掴みにする。
「雑魚の名など不要」
先ほどよりも強い虹色の炎に顔面を焼かれたグフォスは悲鳴を上げると、命乞いをしながら両手の指の先から伸ばした黒い糸を操ってコルレットの体を串刺しにする。
「ヒャッヒャッヒャッ。格好付けてるんじゃねーよっ」
確かな手応えに勝利を確信したグフォスは、更に瘴気を撒き散らすと容赦なくコルレットに瘴気の雨を降らすのだった。
「どうだーっ、瘴気に穢《けが》されていく苦しみはっ。後からたあっぷりと調教してやるから楽しみに待ってやがれっ」
大量の瘴気でコルレットを団子状に包み込んだグフォスは薄気味悪い笑みを浮かべると、包み込んだ瘴気を圧縮させて止めの一撃を加えようとする。
しかし、どれだけグフォスが圧力を加えようとしてもコルレットが圧搾《あっさく》されることはなかった。
「はぁぁぁぁっ。何じゃこれはっ」
予想もしなかった展開にグフォスが恐怖の念を抱くと、コルレットから放たれた神気により周辺の瘴気が消滅する。
「救いがあると思うなよ」
コルレットはグフォスの顔を鷲掴みにしたまま冷酷な表情でそう呟くと、虹色の炎の出力を上げ、別次元に存在するグフォスの本体まで焼き尽くそうとする。
「未来永劫《みらいえいごう》、我の炎に焼かれ続けるがいい」
コルレットは冷酷な表情を変えぬまま、更に虹色の炎の出力を上げると、グフォスは具現化した姿を維持することができなくなり、断末魔の叫びと共にドロドロと爛《ただ》れるようにその身を虹色の炎に焼き尽くされて消滅するのだった……
コルレットはグフォスをこの世界から消し去った後、土筆の元に向かうウルノと国王軍の気配に気付き、必要以上の干渉を避けるために空間を割いて別次元へと帰っていく。
ウルノ達は地竜が放ったドラゴンブレスで作られた道を全速力で進むと、最短距離にて土筆が戦った空き地まで辿り着くことができたのだった。
「これは……」
頭部を失って絶命している地竜を見た国王軍の騎士が思わず言葉を漏らす。
森の中の空き地であったその場所は土筆が仕掛けた罠の発動により荒れに荒れ、地竜のドラゴンブレスが通り過ぎた跡なのか、空き地から伸びる二本の道は地面が抉《えぐ》り取られ、そこに存在していたであろう森の一部は跡形もなく消え去っていたのである。
「おいっ、人が倒れてるぞっ」
周囲を捜索していた国王軍の一人が大樹の根元にもたれ掛かっている土筆《つくし》を発見して声を上げる。
その声を聞いて真っ先に反応したウルノは倒れるように土筆《つくし》の元へ駆け寄ると、勢いそのままに土筆《つくし》を抱き締め、その温もりを感じて涙を流す。
「ウルノ殿。気持ちは分からぬでもないが、先ずは治療だろう」
今回派遣された国王軍の将官を務めるダリニッチは、土筆《つくし》を発見した部下からの報告を受けて歩み寄ると、鯖折《さばお》り状態になっている土筆《つくし》を見て苦笑いをする。
「あっ、いや、これは……」
微かに呻き声を上げる土筆《つくし》に気付いたウルノは頬を赤らめると、申し訳なさそうに土筆《つくし》から離れるのだった。
「それにしても、あの地竜をこの冒険者が一人で討伐したのか……」
ダリニッチはほぼ無傷の状態で大樹の根元にもたれ掛かる土筆《つくし》を見た後、先ほどまで戦場であったと思われる荒れた地に頭部を失って絶命したであろう地竜を見渡すと、凡人では全く考えが及ばない状況に腕を組み思索《しさく》にふける。
暫くすると、地竜の状態を調べるよう命令を受けていた騎士が駆け寄って来る。
「隊長っ、地竜の鑑定スキル結果がでました」
駆け寄った兵士はそう告げるとダリニッチに対して鑑定結果の報告を行う。
ダリニッチはその報告を聞き終わると、もう一度土筆《つくし》を見て感慨深く頷くのだった。
その後、国王軍はダリニッチの指示により周辺の安全を確保すると、地竜を運ぶための荷台が運び込まれ、意識を失ったままの土筆《つくし》はウルノの付き添いで別の荷台に運び込まれ帰路に就く。
ダリニッチは腐臭を好む魔物や死霊悪霊など、招かざる客を招き入れないように散乱していた肉片を一ヶ所に集めて浄化の炎で焼却すると、一部の兵士に後処理を任せ、土筆《つくし》達と共にボルダの村へと帰還するのだった……
土筆《つくし》の捨て身の攻撃によって撃ち込まれた電撃魔法との接触により、地竜の口の中で暴発を引き起こしたドラゴンブレスはその圧縮されたエネルギーの行き場を失い、爆発し爆風を伴いながら上昇気流に乗って天高く昇っていく。
魔力による爆発を至近距離で浴びた土筆《つくし》が無傷でいられるはずもなく、地竜の口の中に突っ込んだ左腕は跡形もなく消し飛び、全身の至るところに熱傷を始め致命傷と呼ぶに相応しい数々の怪我を負ったのだが、地妖精ドニ、風妖精シフィー、水精霊ディネ、そしてフェアリープラントのタッツによる滅私奉公《めっしほうこう》の働きで、爆風には巻き込まれたものの即死だけは何とか免れたのだった……
フェアリープラントのタッツが保有する能力によって発現した柔らかい蔓《つる》の網に優しく受け止められた土筆《つくし》は、もたれ掛かるような姿勢のまま大樹の根元まで運ばれる。
しかし、土筆《つくし》が負った怪我はどれも目を覆いたくなるような重傷ばかりで、この世界の医療技術は元より、凄腕の錬金術師でも神々の寵愛《ちょうあい》を受けた神官の治癒魔法ですら、最早《もはや》その傷を癒すことは不可能だった。
妖精達が心配そうに見守る中、土筆《つくし》の意識は徐々に薄れていき、やがて力なく全身の力が抜け落ちる。
人どころか魔物の気配すら感じられない森の中でひっそりと第二の人生を終えようとしている土筆《つくし》の前に、いつもとは少々感じの違う、おしとやかな雰囲気に包まれたコルレットが音もなく現れるのだった。
「ツクっち、さすがっす。ご褒美にコルレットちゃんの初めてをプレゼントするっすよ」
コルレットは自分の唇に右手の人差し指を当てながらそう語り掛けると、冷たくなった土筆《つくし》の唇に自身の唇を重ね合わせる。
コルレットの口から注がれる神力は、土筆《つくし》の口から流れ込むと全身へと巡っていく。
土筆《つくし》の身を焼いた怨嗟《えんさ》の呪いは浄化され、魔力の暴走で消し飛んだ左腕は新しい生命《いのち》が芽吹くように再生していく。
冷たく硬直してしまった土筆《つくし》の体は徐々に温もりを取り戻し、途絶えてしまった鼓動も脈も息も、その全てが元気だった頃の土筆《つくし》へと戻っていくのだった。
「……名残惜しいっすけど、今日はここまでっすよ」
コルレットは人差し指に口付けをして土筆《つくし》の唇に押し当て、その指をもう一度自分の唇に押し当てると満たされた表情で立ち上がる。
「……今回ばかりはコルレットちゃんもブチ切れっす」
コルレットは土筆《つくし》の前では決して見せることのない冷酷な表情で森の奥を睨むと、空間を渡ってボルダ村の騒動の黒幕である悪魔の背後へ瞬時に移動する。
「まさか、人族如《ごと》きが地竜を倒すとか有り得ないってーのっ」
気の遠くなるような長い年月を掛けて、その手中に地竜を納めることに成功した名も無き悪魔は、その苦労が貧弱な一人の人間によって打ち砕かれたことに乱心していた。
「キィィッ、ヤバい、ヤバいぞ。このままでは彼《あ》の御方に顔向けができないばかりか俺様も危ないではないかーっ……」
名も無き悪魔は自身の隠密能力に自惚れているのだろう。
神力を解放したコルレットが悠然と背後に迫っていても、その存在に全く気付く事ができないのである。
「こうなったら、あのくたばった憎たらしい冒険者を操って目的を果たすしかないなっ」
名も無き悪魔は狂気に満ちた声でそう叫ぶと両手の指の先から黒い糸を伸ばし始める。
刹那、コルレットに後頭部を鷲掴みされ、初めて背後を取られていた事に気付くのだった。
「なっ、何だ貴様っ!?」
頭を動かすことが出来ずに眼球だけを精一杯横に寄せた名も無き悪魔は、コルレットの手から漏れ出す虹色の炎に後頭部をジリジリと焼かれながら悲鳴を上げる。
「……」
コルレットは名も無き悪魔が少しでも長く苦しむように、出力を調整しながら虹色の炎で焼いていく。
「ごぉらぁぁぁっ、止めろっていってんだろうがぁぁぁっ」
文字通り身を焦がされて悶え苦しむ名も無き悪魔は、何とかコルレットの手から逃れようとジタバタともがく。
「あー、もう、俺様はぁ怒ったぞっ。取《と》り敢《あ》えず死んどけやーっ」
名も無き悪魔はそう叫ぶと、両手の指の先から伸ばした黒い糸を振り上げて自身の背後にいるコルレットに襲い掛かる。
コルレットは鷲掴んでいた後頭部から手を離すと空間を渡って名も無き悪魔の前に移動するのだった。
「クックック……これは僥倖《ぎょうこう》。目的を果たせなかったとしても天使の首を持ちかえればお釣りが来るというものっ」
名も無い悪魔は標的を土筆《つくし》からコルレットに変更すると、問答無用で襲い掛かるのだった。
「このグフォス様の肥やしとなりなっ」
自らをグフォスと名乗った悪魔は周辺に大量の瘴気を撒き散らし、コルレット目掛けて瘴気の刃を降らす。
「ヒャッヒャーッ。ベフエフ様が家臣、諜者《ちょうじゃ》のグフォスとは私のことだーっ」
勝手に身の上をベラベラと垂れ流すグフォスと名乗った悪魔を冷酷な表情で見据えるコルレットは、降り掛かる瘴気の刃を気に留めることもなく左腕を伸ばしてグフォスの顔面を鷲掴みにする。
「雑魚の名など不要」
先ほどよりも強い虹色の炎に顔面を焼かれたグフォスは悲鳴を上げると、命乞いをしながら両手の指の先から伸ばした黒い糸を操ってコルレットの体を串刺しにする。
「ヒャッヒャッヒャッ。格好付けてるんじゃねーよっ」
確かな手応えに勝利を確信したグフォスは、更に瘴気を撒き散らすと容赦なくコルレットに瘴気の雨を降らすのだった。
「どうだーっ、瘴気に穢《けが》されていく苦しみはっ。後からたあっぷりと調教してやるから楽しみに待ってやがれっ」
大量の瘴気でコルレットを団子状に包み込んだグフォスは薄気味悪い笑みを浮かべると、包み込んだ瘴気を圧縮させて止めの一撃を加えようとする。
しかし、どれだけグフォスが圧力を加えようとしてもコルレットが圧搾《あっさく》されることはなかった。
「はぁぁぁぁっ。何じゃこれはっ」
予想もしなかった展開にグフォスが恐怖の念を抱くと、コルレットから放たれた神気により周辺の瘴気が消滅する。
「救いがあると思うなよ」
コルレットはグフォスの顔を鷲掴みにしたまま冷酷な表情でそう呟くと、虹色の炎の出力を上げ、別次元に存在するグフォスの本体まで焼き尽くそうとする。
「未来永劫《みらいえいごう》、我の炎に焼かれ続けるがいい」
コルレットは冷酷な表情を変えぬまま、更に虹色の炎の出力を上げると、グフォスは具現化した姿を維持することができなくなり、断末魔の叫びと共にドロドロと爛《ただ》れるようにその身を虹色の炎に焼き尽くされて消滅するのだった……
コルレットはグフォスをこの世界から消し去った後、土筆の元に向かうウルノと国王軍の気配に気付き、必要以上の干渉を避けるために空間を割いて別次元へと帰っていく。
ウルノ達は地竜が放ったドラゴンブレスで作られた道を全速力で進むと、最短距離にて土筆が戦った空き地まで辿り着くことができたのだった。
「これは……」
頭部を失って絶命している地竜を見た国王軍の騎士が思わず言葉を漏らす。
森の中の空き地であったその場所は土筆が仕掛けた罠の発動により荒れに荒れ、地竜のドラゴンブレスが通り過ぎた跡なのか、空き地から伸びる二本の道は地面が抉《えぐ》り取られ、そこに存在していたであろう森の一部は跡形もなく消え去っていたのである。
「おいっ、人が倒れてるぞっ」
周囲を捜索していた国王軍の一人が大樹の根元にもたれ掛かっている土筆《つくし》を発見して声を上げる。
その声を聞いて真っ先に反応したウルノは倒れるように土筆《つくし》の元へ駆け寄ると、勢いそのままに土筆《つくし》を抱き締め、その温もりを感じて涙を流す。
「ウルノ殿。気持ちは分からぬでもないが、先ずは治療だろう」
今回派遣された国王軍の将官を務めるダリニッチは、土筆《つくし》を発見した部下からの報告を受けて歩み寄ると、鯖折《さばお》り状態になっている土筆《つくし》を見て苦笑いをする。
「あっ、いや、これは……」
微かに呻き声を上げる土筆《つくし》に気付いたウルノは頬を赤らめると、申し訳なさそうに土筆《つくし》から離れるのだった。
「それにしても、あの地竜をこの冒険者が一人で討伐したのか……」
ダリニッチはほぼ無傷の状態で大樹の根元にもたれ掛かる土筆《つくし》を見た後、先ほどまで戦場であったと思われる荒れた地に頭部を失って絶命したであろう地竜を見渡すと、凡人では全く考えが及ばない状況に腕を組み思索《しさく》にふける。
暫くすると、地竜の状態を調べるよう命令を受けていた騎士が駆け寄って来る。
「隊長っ、地竜の鑑定スキル結果がでました」
駆け寄った兵士はそう告げるとダリニッチに対して鑑定結果の報告を行う。
ダリニッチはその報告を聞き終わると、もう一度土筆《つくし》を見て感慨深く頷くのだった。
その後、国王軍はダリニッチの指示により周辺の安全を確保すると、地竜を運ぶための荷台が運び込まれ、意識を失ったままの土筆《つくし》はウルノの付き添いで別の荷台に運び込まれ帰路に就く。
ダリニッチは腐臭を好む魔物や死霊悪霊など、招かざる客を招き入れないように散乱していた肉片を一ヶ所に集めて浄化の炎で焼却すると、一部の兵士に後処理を任せ、土筆《つくし》達と共にボルダの村へと帰還するのだった……
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