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第一幕

水曜日⑧

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「以上で帰りの会を終わります。皆さん、気をつけて帰って下さい」先生の本日最後の言葉で学校は終わった。僕は由貴の元へ行き、「先にグラウンド行って待ってるね」と待ちきれない声で言った。
「分かった。勇輝くんと話してから行くね」由貴は笑顔でそう言った。由貴は勇輝と付き合っている。勇輝と聞くと僕はドキッとした。彼と僕は友達だが、僕は由貴のことが好きだった。誰が誰を好きか自由のはずであるが、本人達が知らない裏切りの罪悪感が僕を苦しめた。この事を2人に話すべきではなく、自分1人で抱えていかなければならないが、そっと1人で抱えきれるかの自信はなかった。
僕は由貴との会話の後ランドセルを勢いよく背負って、階段を最速で降りグランドの倉庫から一輪車を取り出した。急いでいつもの練習場所に行き、手摺りを掴みながら一輪車に乗り、ペダルを漕ぐと同時に手を離し、バランスを取りながら進んだ。休み時間に練習した感覚はまだ体に染み付いていたため、40メートル近く乗れた。やった。これで少しは良いところ見せられると胸を撫で下ろした時に
「ごめん、遅くなった」と由貴の声がした。
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