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本編
12 初恋の結末
しおりを挟む騎士になって早3年が経ち、俺は活発化した魔物や魔族の討伐に明け暮れる日々を過ごしていた。
年は18歳になり、すっかり記憶の中の主人公と同じ姿になっている。王子様も同じだが、唯一違うのは目つきの悪くない、眼鏡をかけたフィリス様だ。
王子様と俺は国内外を飛び回って魔王の種の疑いがある魔物の討伐の中心となっていた。
しかし、魔王はいまだ現れず。けれど明らかに世の中の空気が変わっている。
そんな最中のことだった。
「――見合い、ですか?」
「そうだ。お前も身分的にも年齢的にも婚約者がいて然るべきなんだが、すっかり忘れていた」
「忘れてたって」
久しぶりに顔を見たと思ったら、何だそれ。
父の適当ぶりに呆れたが、俺も頭になかったのは同じ。人のことは言えない。
元々魔物が出やすい故郷も、目に見えて魔物が増えているとの報告をしに来た父が、ついでのようにそんな事を言う。暴れる竜種が増えてきているから、今回の魔王は竜かもしれないという、真面目な話の流れからのこれである。
「今こんな時に見合いですか?」
「今こんな時だからだ。うちは子がお前1人だし、跡取りの問題もあるしな」
子どもの話になってくると、婚約っていうより、もはや結婚だよな。それに、今の状況下で婚約話とか、死亡フラグとしか思えなくて嫌なんだけど。
「……いや、もう少し待って欲しいんですが……」
「フィリス殿か? 彼の方は将来の王配だぞ」
「そんなことは分かっています。ていうか、何も言ってませんが」
「違うのか?」
相変わらず勘が鋭い。
「いや……『待って欲しい』の理由は確かにフィリス様なんだけど、何て言うか」
「お前が好いているのは、とても分かりやすいが」
「だからちょっと待ってくださいって。そうなんだけど、ちょっと違う気がするというか……」
正直フィリス様に対する気持ちが、そういう気持ちなのか何なのかとはっきり問われると、多分そうなんだけど……少しだけ違うような気もする。
最初はただ「綺麗だな」「可愛いな」「友達になりたいな」という、子どもの好奇心だった。
けれど不器用で、本当はそうでもないのに強がって、一生懸命真っ直ぐに立とうと、好きな人のために必死で頑張る姿を見て、助けになりたい、守ってあげたいと思った。
好きなのには間違いないけど、想いを伝えたいとか本懐を遂げたいとかではない。困らせてしまう事が分かりきっている。だから俺の気持ちは知らないままでいい。
じゃあどうしたいのかと、的確な表現を見つけようと考え始めると、頭の中がこんがらがって思考の迷路に迷い込んでしまう。
「……何と言うか……初恋の、その終わりを……はっきり見届けたいというか」
そうだ。
口にしたら、それが正解な気がしてくる。
俺の初恋の終わりとフィリス様の幸せな顛末が、イコールであることを見届けさせて欲しい。それが1番望みに近い。
どうか、幸せに。
幸せになってほしい。
「……気持ちにケリをつけて、未練を残したくないということか」
「はい。トドメはきっちり刺しておきたいといいますか」
俺は父の眼をまっすぐ見て言った。その後の方がまだ見ぬ相手に、全力で向き合える気がするしな。
「なるほどな。お前は何だかんだそういうところ、私に似ているな」
「えっ、いや……父上は確かに力技先行で、諸々本音なのは間違いないですけど……大袈裟に誇張していた部分もかなりあるでしょう」
「ほう?」
父が眉を上げてにやりと笑った。
父は確かに脳筋で我が道を行くところがある。正直小さい頃は、母が領政を担っていた事もあって、強いけど頭がよくない人だと思っていた。けれどそうではない。上の立場の人間にはきちんと対応しているし、大事なところは必ず父が矢面に立っている。
「そうしているのは、母上のためでもあったんでしょう……俺の育て方は今でもいかがなものかとは思いますけど」
父と母ではネームバリューも身分も違う。聞いた話では、当時父を結婚相手として狙っていた人は少なくなく、そんな中で母が相手というのは、反対する人がかなり多かったそうだ。フィリス様の身分ですらあんな調子だったんだから、母ならもっとやりやすかったのは簡単に想像がつく。嫌がらせなども相当あったのではないだろうか。だからきっと、父は頑なに母を城に連れてこない。たまに王都に来ても、俺と会うのはタウンハウスか街中だった。
ただ幸いにも母は優秀だった。だから父はそれを利用するために、大げさに頭の悪いふりをした。領の運営を母にさせることによって、父の手綱を握れるのは母だけなんだと、そうみんなに印象づけた。
俺はそう踏んでいたのだが、おおむね正解のようだ。見た目が厳ついから、獲物を見つけた猛獣みたいでちょっと怖いが、愉快そうに笑っている。
「馬鹿のふりは楽だぞ?」
「私がそれをやるには、まだ実力が足りません。父上のようにするには、『あいつに言っても仕方がない。怖い。でもあいつの代わりはいない』……そんな風にならないと。今の私ではただの馬鹿だと犬だと舐められて終わりです。あと親子二代で同じ作戦もちょっと。それこそ馬鹿の一つ覚えじゃないですか」
「お前な……ま、もう遅いと思うがな。青いことだ」
遅いって何が。若干自分でも認めつつはあるけど、俺はまだ父よりは常識があると思うぞ確実に。誇張は誇張。元があるから誇張って言うんだよ。
「――ともかく、もう少しお時間をください」
「いいだろう。ただ、ひとつだけ言っておく」
「……?」
「私とお前の母は、それはそれは色んな者に反対されていた。そしてお前の母は最初、相応しくないだのなんだのと言って、あっさり身を引こうとしていたのだが……それでも今の結果はこうだ。そう聞くと少しはやる気も出るのではないか?」
「それは父上と母上が両思いだったからでしょう。婚約者のいる相手に、片思いではね。大体さっきご自分で『王配だぞ』って釘刺したくせに」
そうなじってはみたものの、父はさらに笑うだけ。感じ悪いことこの上ない。
「青いなあ」
「うるさい」
「まあ何でもいいが。そういう事なら待っておこうか。別にどうしても今すぐ見合いさせねばならん相手がいるわけではないしな」
「ありがとうございます」
あの人を幸せを見届けるのが、俺の初恋の集大成って気がする。
よし。そうと決まればあとは頑張るだけである。
「しかし、お前。驚くほど重いな」
「父上には言われたくないんですが」
母を独占したくて、子ですら離したがるくらいの執着男のくせに、よくもまあ人の事を言えたもんだ。俺が重たいというのなら、それは多分、あんたに似たんだろうと思うよ。
「まあ、報われない献身も、経験のひとつにはなるだろう。では私は戻る。頑張れよ」
「はい。父上も、お気をつけて」
「私は妻を残しては死ねんから大丈夫だ。お前こそ気をつけろ」
「はい。互いに武運を」
その言葉に父は何も返さず俺の背中をばしばし叩く。正直痛いんだけど。それでも、珍しい父の心遣いに俺は感謝していた。
父と別れてそのまま王子様の執務室へ顔を出すと、フィリス様もいて、2人で真剣に話をしている。
王子様が戦いに出るようになり、政の代行や少し年の離れた王子様の弟の勉強は一部フィリス様がみている。その進捗等々の話をしていたようだ。
「ただいま戻りました」と声を掛け、俺は話に混ざって父の話を報告した。
「辺境伯領もか……」
うちだけでなく、各地からの情報でも竜の話が上がっているそうで、やはり竜から魔王が出るやもという話だ。
竜の国には話を入れるよう指示しているが、基本交流のない国なので上手くいくかどうかと、王子様は思案顔だ。
「私が直接出向かねばならんかもな」
「竜は気位が高いので不安ですね……」
休憩を取っても、全く話題は切り替わらず、何だかやっぱり空気が重い。
少し話題を変えようと俺はふと疑問を口にした。
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