52 / 57
最終章:やっぱり先輩の愛はいろいろと重すぎる
18-1
しおりを挟むあれから思い出したくもないような5日間を過ごして、次の休みにはもともと予定されていたかのように親同士の顔合わせも済んだ。
私の父と先輩のお父さんはなぜか顔見知りのように仲が良くて、非常に不思議だったけど、二人ともこの結婚を喜んでくれてほっとした。
職場にもドキドキして結婚の報告をしたのだけど、『いつ結婚するのかなと思ってた』とさらりと部長に言われ、さらには、他の女子社員からも当たり前のように祝福されて唖然とした。
私は『バレたらどうしよう』だとか色々考えて動けなかったのに、結局蓋を開けてみれば、周りは全員、私が思っているよりずいぶん大人で、私だけが成長してなかったんだなぁとそんなことを思った。
そして新居は先輩の家。でも実家も改装して、いつでも帰りやすいようにしよう、と先輩が言ってくれて、セキュリティの強化された改装が実家に施された。
さすがにお金がもったいないんじゃない、と言ったら、そのために大きな案件取ったから、と言われて、あとでこっそり新田先生に聞いたところ、今まで忙しくて断っていた大手通信会社の法律顧問を受けたらしい。契約金は驚くような金額だった。
私は今までてっきり先輩は実家のお金を使って色々としていると思っていたのに、その全部が自分で稼いだものだったらしい。私はその事実に耳を疑った。
そしてさらに、『あの人何億つまれようとも受けなかったのに、みゆさんのためとなれば軽く受けるんですよね。ホントあの人の愛って狂気ですよねぇ~』と新田先生はいとも当たり前のように言ったのだ。
(改めて私、とんでもない人と結婚したんじゃない……?)
―――そしてあれから数か月。
玄関チャイムが鳴って、我が家にやってきたのは、副社長、こと、一樹さんだ。
最近出張さえなければ、休みの日はよくうちに顔を出してくれる。
「飛行機が遅れて、遅くなっちゃった。これ、お土産」
一樹さんは、そう言ってテーブルの上に重そうなお土産の箱をおいてくれる。
「ありがとうございます。今回どこ行ってたんですっけ?」
「モンゴル」
「……モンゴル」
なんだか嫌な予感がする。そう思いながら、その箱に手をかけた。
開けてみると、50cmくらいの金ぴかの熊の像(多分純金だ)が入っていたのだ。
「って、これなんですか!」
「現地で熊の足がお守りになるって聞いたから。とりあえず一番効果ありそうな金の熊を買ってみた」
「金の熊って! この兄弟のプレゼントセンスどうなってんの……⁉」
ニコニコする一樹さんに断るわけにもいかず、ありがとうございます、と小さく告げて、その熊を触ってみる。
モンゴルからはるばるいらっしゃい、お疲れさまです、と心の中で熊に話しかけた。もちろん熊からの返事はない。心なしかこんな異郷の地に連れられてきて、熊は不機嫌にも見えなくなかった。
先輩は私に麦茶と、一樹さんにコーヒーを出すと、
「それより、みゆがいつまでも仕事辞めないんだけどさ」
と愚痴るように一樹さんに言った。
それに私はむっとすると、
「仕事は辞めないって言ってますよね。せっかく仕事覚えて来たし、みんないい人だし」
と返す。
「ほら、またこれ。一樹からもなんとか言ってやってよ」
「あはは。かわいい義妹のお願い事はききたいから辞めさせられないよねぇ。それに社内で会えるのは嬉しいし」
そう。一樹さんは完全に私の味方だ。
あれだけかわいい弟、と評されていた先輩だが、軍配は私に上がったのだ。
「最近俺よりみゆの方が優位じゃない。気持ちはわかるけど」
「かわいいよねぇ、妹って」
そう言って目を細める一樹さんの顔は、先輩にちょっと似ている。
一樹さんの目は、完全にかわいい妹を見る目、そのものだ。
「二人の子どもも今から楽しみすぎてならないよ」
そう言って私のお腹を見た。
―――そう、あの婚姻届けを提出してからのあの5日間。
あのサバイバルな5日間の中で、私は妊娠したのだ。
妊娠の知らせを聞いたとき、先輩は喜びすぎて1週間ほど様子が変だった。(普段もまぁ、変なのだが本当にあの時は変だった。)
一樹さんも、先輩のお父さんも、うちの父も大喜びで、私はそんなみんなの様子を見て、お腹の子がここまでみんなに祝福されてこの世に生まれてこられるなら幸せだなぁって思っていた。
「俺とみゆの子どもだからかわいいに決まってる」
先輩はきっぱりと言い切る。
「父さんもすっごい楽しみにしてるよね。あれは、じじバカになるね」
「あんな人だと思わなかったよ」
先輩はつぶやくように言う。先輩と先輩のお父さんは、仲が悪かった、と聞いていた。
でも、私が妊娠して、それからできるだけ先輩と一緒にお父さんと会うようになって、徐々に二人は打ち解けるようになってきたのだ。
「みゆちゃんのおかげだよね。二人が打ち解けてよかった」
一樹さんは微笑んで言う。私は、私はなにもしてないですけど……、とつぶやいた。
結局、先輩とお父さんは、話す機会が少なかったことですれ違っていたのだろうと思う。
人はお互いに会って話さないと誤解がそのまま大きくなってすれ違っていくことは、私と先輩との経験からもなんとなくわかってたから。
「そういえば性別分かったんでしょ? どっちだった?」
一樹さんが言う。
「女の子です」
「それはかわいいだろうね」
一樹さんは目を細める。すると先輩も、
「絶対かわいいだろうな。……でも心配だ」
とつぶやいた。「変な男に目をつけられたりしないか心配」
「それを先輩が言います?」
私は思わず眉を寄せた。
「俺がみゆのこと好きすぎて変なのは自覚してる」
「それを堂々と言わないでください!」
「みゆだけだって心配なのに、子どもも心配。やっぱりもっとSP増やさないといけないかなぁ」
私はそれを聞いて思わず泣きそうになる。
あの事件の解決後、やっとSPの人数を減らしてもらえたのだけど、3人はなぜかそのまま残り、今も外出するときはずっと3人のSPが近くにいる。おかげで近所の住人にまで、『皇族が近くに住んでいるっぽい』とまことしやかに囁かれているのだ。
先輩に文句を言ったら、『もしみゆに何かあったら、俺、その相手を絶対どうにかしちゃうよ。それでもいいの?』と強い言葉で押し切られ、そのまま保留になっている次第だ。
「これ以上いらない! SP3人はそのままいるんだし!」
「でも心配だから、もうすこし人数いるよね?」
「絶対いらない!」
「だめ」
そう言って先輩は当たり前のように私を抱きしめる。「俺はね、みゆのことが大事なの。みゆのお父さんからも大事な大事な娘を託されてるの」
「とりあえず、先輩が一番危ないのは間違いないです!」
私が言った言葉は聞こえないふりをされた。
(その耳、都合の悪い言葉は聞こえない構造なの⁉)
そんな私たちを見て、一樹さんが楽しそうに笑う。
「相変わらず仲良しだよね」
(そういえば一樹さんがいた!)
そう思ってやけに恥ずかしくなった。
「……そ、そうですかね?」
仲いいとは言っても、さっき大事なことは聞こえないフリされましたけど……。
眉を寄せる私を、先輩はもう一度ぎゅう、と抱きしめなおすと、
「仲いいの、あたりまえでしょ。俺はみゆにしか反応しないし、みゆしか愛せないんだから」
と私の髪に当たり前のようにキスを落としながら言う。
(お願いだから、恥ずかしげもなく、そんなことを人前で言って、そんなことしないでくれーーーーーー!)
私が泣きそうな顔になると、一樹さんも、先輩も、楽しそうに笑った。
―――なんなんだこのいじめっ子兄弟……!
しかしそんな二人にも慣れつつある自分が恐ろしい……。やっぱり人は慣れる生き物らしい。
11
あなたにおすすめの小説
いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜
こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。
傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。
そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。
フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら?
「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」
ーーどうやら、かなり愛されていたようです?
※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱
※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる