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しおりを挟む「何処まで行きますか? 」
急いでいた俺はタクシーを捕まえた。
これでギリ間に合うかどうかだが、後は運転手の腕次第である。
俺はすぐに目的地を告げて出してもらった。
「運転手さん、出来るだけ急いでもらえますか? 」
「お急ぎですか? 」
「はい、大事な商談がありまして」
まあ、運転手にそんな事を言っても分かってもらえる訳もないが、こちらが
急いでいる事を伝えておけば多少は頑張ってくれるだろうという期待をかける。
でもまあ、それもごぶごぶだろうと思う。
「倍、払いますから飛ばしてもらう事って出来ますか? 」
だからここは金の力を使う。
タイムイズマネー。その程度の損失で済むのであれば安いものだと思う事にした。
否、実際にこの商談が纏まれば利益は莫大だ。
それならここはいくべきだろう。
「お客さん。すいませんがね、そう言う事はしていないんですよ」
ダメだった。
結局、私は運転手との賭けに負けたのだ。
まあでも、あと少しだけの望みに賭けよう。
「お金とかは貰えませんが、少々運転が荒くなるのは許して下さいね」
あれ? もしかして俺、賭けに勝ったのか?
しかも金も要らないというこの運転手、すごくないか?
当りを引いたと思った。
プロ意識がそうさせるのだろうか?
要らないと言われてしまったが、ここは渡すべきだろう。
相手へ敬意を払う意味を込めて。
だからそんな素晴らしい運転手の名前を覚えておこうと思った俺は気付く。
この運転手、写真の人物よりも若くないか?
それによく見たら、服装が制服では無く私服だった。
「あの、運転手さん。お名前を聞かせてもらってもいいですか? 」
「名前ならそこに書いて……アレ? 気づいてしまいましたか、お客さん」
バックミラー越しに俺の事を見て笑う運転手の目は血走っていた。
「いやぁねえ。たまたま何ですよ。たまたま車が止まっていたんですよ。
だからそれに乗っただけなんです、別にやましい気持ちなんて何もないですよ。
ドライブをしたいっていう気分だったものでね、だからドライブ中なんですよ私。
今、私ドライブの途中でたまたまお客さんが乗り合わせただけの事でね。
だからね、一緒にいきましょう。お客さんはお急ぎみたいですからね。
勿論、急いで行きますよお花畑へね」
「違う! 違う、俺はそんな所へ行きたい訳じゃない! 」
俺の言葉など関係なしに運転手はアクセルを踏む、目的地を目指して。
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