私は結婚する

菫川ヒイロ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む





「叔父様。私、今度結婚する事になったの」


 私がそう報告すると
 
 
「おめでとうエリブーラ。よかったな」


 叔父様は言葉では祝ってくれたけれど、まったく興味がないようだった。
 まあ、それはそれで叔父様らしくはあるけれど……もう少し反応が欲しかったと
 思ってしまうのは私の我が儘なのだろうか?
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 私と叔父様の付き合いは子供の頃からだ。
 母に連れられて叔父様の家へやって来た私はこの家にのあちらこちらにある、
 よく分からない不思議なものに興味津々だった。
 
 
「何しに来たんだよ姉さん」

 
「アンタがちゃんとやってるか見に来たのよ、生存確認」


 叔父様の問いに母そう答えていた事を今でも覚えている。
 母が言うには叔父様は発明家なのだという。
 そんな人が自分の知り合いにいるという事が当時の私にはとても誇らしかった。
 
 
 だからよく友達に自慢したものだ。
 でも叔父様の発明はちっとも人の役に立たない物ばかりだったので、変わった人
 ご用達の発明家だった。
 

 そんな叔父様の家に私が入り浸るようになったのはもう少し成長してからだった。
 母に頼まれたのだ、『生存確認』を。
 その日は初めて一人だけで叔父様の家を訪ねた、食べ物を持って。
 
 
「こんにちわ叔父様」


「あ、嗚呼。どうした? 」


「生存確認です。これ、どうぞ」


 私はそう言って食べ物を渡したら叔父様は笑った。
 
 
「ははは。そうか、ありがとう。おい! 」


 私は叔父様に食べ物を渡すと勝手に家の中に入る。
 相変わらずよく分からないものが沢山あって、私にはそれが宝の山のように見え
 ていた。
 
 
「何だ、興味があるのか? 」


 叔父様に聞かれて私は頷く。
 そうすると叔父様は一つ一つの使い方を教えてくれた。
 全部欲しくはなかったが、全部面白かったから私は興味を引かれた。
 
 
 何よりも説明してくれているときの叔父様はとても嬉しそうに話す、
 そんな姿が私を楽しくさせる。大人のそんな姿を見たのはこの時が初めてで、
 未だにそんな大人を見た事がない。


 それからは暇さえあれば叔父様の家へ行き、いろんな話を聞いた。
 知らない事を知れるというのはとても楽しい事で、だからこの時間が私には
 至福の時だった。
 
 
「ねえ叔父様。どうして叔父様は役に立たないものばかり作っているの? 」


「ん? そうか、私はそんなつもりはないのだが、エリブーラにはそう見えている
 のか。そうか」
 
 
 深い意味があった訳では無いけれど、何だかとても悪い事を言ってしまった。
 私は叔父様のその表情を見てとても苦しくなった。どうしてこんな事を言って
 しまったのだろう? どうして大好きな人を傷つけてしまったのだろう。
 
 
 私の初恋はとても苦い思い出になり、叔父様の家へ行く事も止めてしまった。
 
 
 

 *****
 
 
 
 
 そして久しぶりに来た私。
 
 
「こんにちわ、叔父様。生存確認に来たわ」


「おお、エリブーラか! 大きくなったな」


 叔父様は私の事を覚えていてくれた。
 あの時と変わらず叔父様は今も発明を続けている、一人で。
 

「エリブーラ、そこのを取ってくれ」


 叔父さんは昔のように私に言うから、私も嬉しくなってついつい長居してしまい
 気が付けば日が暮れていた。
 
 
「叔父様、夕食はどうするの? 」


「何か適当に食べるさ」


「ダメよ、私が作るから一緒に食べましょう」


 そうして私が作った料理を一緒に食べた。
 
 
「美味いな! エリブーラもこんなおいしい物を作れるようになったんだな」


 別に大した料理ではないが、叔父様の食生活を考えればきっと豪勢な事だろう。
 
 
「そうよ! 私、もう大人なのよ」


 そう言って私は酒に口をつけた。
 あの時とはもう違う。私も大人になり、叔父様も歳を取った。
 
 
「叔父様はずっと一人で居るつもりなの? 」


「まあな。今更結婚なんて考えていないよ。そもそもそんな相手も居ないしな」


 この人はきっとこのまま一人で、誰も側に居ないだろう事が想像出来てしまう。
 そんな現実が私には受け入れられなかった。
 
 
「ねえ、叔父様はキスした事あるの? 」


「何だ急に? 酔っているのか? 」


「酔ってなんていないわ! この程度で酔う程、子供じゃないもの」


「いいや、酔っているよ。もう止めよう」


「私は大人よ! キスだってした事あるし、セックスだって事あるんだから! 」


 叔父様が私からグラスを取り上げようとするので、私は叔父様の腕を掴む。
 が、叔父様はそのままバランスを崩して倒れてしまい、私は叔父様の上に覆い
 被さる形になってしまった。
 
 
「ねえ、叔父様。キスした事ある? 」


「あるよ! ある! だから退きなさい! 」


 そう言う叔父様に私はキスをした。
 
 
「ねえ、叔父様。セックスした事ある? 」




 *****
 
 
 
 
 朝、鳥が鳴いている。
 私の横で叔父様が眠っている。
 そして、私は結婚する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約しない方が良いと噂の侯爵と婚約することになった話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

Lost Precious

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

ビデルダ区域

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

短編小説集|桜色の海、涙色の空。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

黒いのに浄化できちゃう凄いソイツン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

専業種夫

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:44

余計なお世話係

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

鬼人の恋

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

亡者の唄と森の幻味亭

O.K
ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...