とく子

菫川ヒイロ

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「まあ、お得じゃない! 」


 値下げ札が付いている商品を見てとく子は思わず声が出てしまった。


「今ならなんとポイントが付くんですよ! 」


 そんなとく子に店員がやってきて、さらに追い打ちをかける。
 

「そうなの! じゃあ買います! 」


 即断即決、とく子は買う事を決めた。
 

「ありがとうございま~す」


 店員が笑顔でとく子に商品を受け渡すし、とく子も笑顔で受け取る。
 とく子は今、幸福感に包まれていた。
 それがとく子という人物の行動原理であった。




 *****
 
 
 
 
「ねえ、本気なの? 」


 私がとく子にそう聞けば


「だってお得じゃない? 」


 とく子はそんな返事をする。
 だから私は我慢が出来なかったのだ。
 

「お得ってねえ、そんな損得かだけで決めていい事じゃないでしょ?
 もっとよく考えて! 」


「でもポイント貰えるんだよ? お得じゃない? 」


「あのねぇ。婚約破棄したらポイント貰えるとかどう考えてもおかしいでしょ!
 一体どんな仕組なのよそれは! そんなふざけた事がある訳ないじゃない!
 アンタみたいなのと婚約してくれる人なんてそうそう居るもんじゃないのよ?
 分かっているの? 」
 
 
 私の言葉にムッとするとく子。
 
 
「何よそれ! 別に私にだって婚約者の一人や二人、すぐに出来るわよ!
 馬鹿にしないでよね! もういい! 私、婚約破棄するから! 」
 
 
 失敗した。
 とく子を諭す為に言ったつもりが怒らしてしまった。
 こうなったらとく子はもう何が何でも婚約破棄をするのだろう。


 得をしたから何だというのか?
 そんな事よりも優先すべき事がいくらでもある事を知らないのか?
 損得で言うのであれば私がとく子と居る事が得だとは思えない。
 それでも居ようと思えるのは友達だからなのに……もう無理だわ。
 
 
 とく子はポイントと引き換えに、婚約者と友達を失った。
 
 
 
 
 





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