雨降りの午後

菫川ヒイロ

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 彼が何が好きかなんて事は当然のように知っていたし、嫌いなものだって知って
 いる。そんなものは知っていて当然の事だったのだ私にとっては。好きな人の
 好みぐらい知っていないでどうする? そんな事でどうして彼の事を好きだなん
 ていえるのかが私には理解出来なかった。
 
 
 だから私には今の自分の状況が納得出来なかった。
 どうして彼の隣にいるのがあの女で、私ではないのか?
 彼の事を何も知らないあの女が幸せそうな顔をするのが私には許せない。
 その場所は私が立つはずの場所だった。
 
 
 彼への気持ちには気付いていた。
 でもそれを自覚する事に臆病になっていた私の背中を押したのはあの女だった。
 だからあの女に相談したのだ、それが全ての始まりだった。
 
 
 『大丈夫だって』 『うまくいくから』 『絶対そうだから』
 
 
 そう私に言いながらも実際は別の事を考えており、私の事を馬鹿にしていた
 のだろう。確かにあの女は私に言ったのだ。
 
 
 『恋はスピードが重要よ』
 
 
 まさかこんな形でそれを実感する事になるなんて思ってもいなかった訳だが、
 でも結果としてそれが正しい事が証明されてしまった。私が告白するよりも先に
 告白したあの女が結局、彼の横に居るという事実。
 
 
 のろまな私は彼女になれなかった。
 
 
 
 
 雨が降っている。
 知っていた、今日は午後から雨が降る事は。
 だから私は一人、傘をさした。
 
 
 目の前を二人が肩を寄せ合い歩いている。
 二人で一つの傘をさして、
 そんなものを見たくは無かった。
 
 
 もっと雨が降ればいいと思った。
 傘を深くさしても怪しまれる事はないし、
 そうすれば私の姿も気持ちも隠してくれるから。
 
 
 私の涙が止まるまではどうかと願った雨の帰り道。
 
 
 私の靴は雨を吸って重たかった。
 
 
 
 
 



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