自転車

菫川ヒイロ

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 はあはあはあ
 
 
 息を切らしながら自転車を漕ぐ私の体温はどんどん上昇していく。
 それでも気にせずにペダルを踏んだのは、冷たい空気がちょうどいい感じに
 吹いて来て私の熱を奪って行くからだ。
 
 
 もう夕暮れ。
 カレーの匂いがする。
 一家団欒の声が聞こえる。
 
 
 そう言えば今日は流星群が来るらしく、
 流れ星が見れるかもしれないと誰かが言っていた。
 
 
 でも私はそんなものを見る気は全くもって起きなかった。
 願い事が叶う? そんなものに願った所でどうなる訳でもない事はとっくに
 しっているし、そんな夢見がちな少女を演じるにはもう人生経験を積み過ぎて
 しまった。
 
 
 はあはあはあ
 
 
 息を荒げて坂道を上る。
 文句も言わずにもくもくと上ればようやく目的地が見えた。
 約30分の道のりであった。
 
 
 私は呼び鈴を鳴らす。
 中々出て来ない住民を急かすべくもう一度鳴らす。
 そしてついでにまた鳴らしたらやっと出て来た住民は私に「うるさい」と文句を
 言うのだ。あり得ない。
 
 
「はい、買って来たわ」


 私は注文されていたカレーを彼に渡す。
 
 
「さんきゅ~。金は~」


 お金を出そうとする彼に私は断った。
 
 
「お金なんていいわ、それよりも婚約破棄するから」


「何だよ急に? どうしてそんな事になるんだ」


 彼には理由が分からないらしい。
 
 
「ねえ、どうして私がカレーを買ってアンタの所まで届けないといけないの? 」


 私の問いに彼は少しばかりのお脳を使って答えた。
 

「それは……婚約者だから? 」


 その面白くもなんともないような答えを聞いて私は決めたのだ『殺そう』って。
 こんな奴はそうした方がいいに決まっているのだ。
 
 
「もう婚約者じゃないから。大体どうしてカレーなのよ」


「カレーって美味しいじゃん! 俺、カレー好きなんだよね」


 どうでもいい情報だったし、どうでもいい理由だった。
 だから私は決めたのだ『殺そう』って、何かに願ったりなんてせずに
 『みんなで殺そう』って決めた。
 
 
 きっとそれがみんなの願いなのだろうから。
 
 
 
 
 
 
 



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