花束を君に

菫川ヒイロ

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 例えば、花束を持った男が居たとしてだ。
 それはそれは綺麗な真っ赤なバラの花束を抱えて、
 ある晴れた昼下がりに自分の目の前にやって来たとする。
 
 
「君の事を心の底から愛している」


 なんて言葉を口にし、花束を渡されたとしたら
 それを受け取るべきなのだろうかと私は考える。
 
 
 その男はすらっとした長身で、汚れなど何処にもない真っ白なスーツを着て
 いたとして、片膝をついてその潤んだ瞳で私へ熱い視線を送って来ていたと
 するのならどうだろうか?
 
 
 さらに彼は貴族で、将来を約束されたようなポジションに居て、
 私は何処の誰とも知らないイモ臭い平民だったとして、
 そんな格差など関係ないと言ってくれるような人だったりしたら?
 
 
「僕の妻になってくれないか」


 なんて優しい笑顔で白い歯を見せられて、彼の後ろにそれは煌びやかな何かが
 見えてしまったとしたら私はきっとイエスと言ってしまうのだろうなと思った
 のだ。
 
 
 だからこの目の前でぐうたらしている男の背中を足で押してみた。
 
 
「何? 」


 面倒臭そうにこっちを振り向いたその男の顔見て私は決めた。
 読んでいたマンガを閉じて「婚約破棄します」といい、そしてまた
 マンガの続きを読みだすのだ。
 
 
 
 
 







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