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しおりを挟む「海に行きたいからよ」
別に海でないといけない訳でも無かったけど、それでも最初にそう決めた以上は
行きたかったの。でもこのままじゃあきっと着かないと思ったから私が自分で
運転する事にしただけで。だから彼が車に戻って来た時に私はそう答えたのよ、
私の方が海に行きたい訳だしね。
拘る必要はないでしょ? 着けばいいのだし。
それに悪いと思ったの、ずっと運転させるのは。
運転する私の横で静かに座っている元運転手。
その姿はなんだか愛らしくて、
「仕事の帰りだったの? 」
だから少しだけ興味がわいたの。
「まあ、そうですけど」
でも帰ってくる言葉はそっけない。
「こういう事ってよくしてるの? 」
それでも私は諦めなかったわ。
「? 」
「嗚呼、ヒッチハイクしてる人を乗せたりしてるのかって事」
「初めてです」
「そうなんだ。その割には結構スムーズに止まったように思えたけど? 」
「本当に初めてです」
「そっかそっか。私も初めてなのよ、ヒッチハイク。本当に乗せてくれる人って
居るのね。驚いちゃった」
結局碌に会話なんて続きやしない。
そもそも私がそんなに話すような人間ではなかったから当然の結果なのだけどね。
それでもやってみようと思えたのは少しばかり私が変わって来たという事なのか
もなんて考えていたら言われたのよ。
「道、間違ってますけど海に行きたいんですよね? 」
何だかやたら木が目に入るとは思ってはいたけど、ほら防風林的なものかと
思っていたけど違ったみたいで、本当に山の麓まで来てしまってどうしたものか
と考えていたの。ここまでの道のりなんて一々覚えてなかったから、目印なんて
ものも見つけられなくて帰り道が分からなくなってしまったの。
結局何処にも行けないのかと思った私達が行きついたのはホテルだった。
*****
「ねえ、どう思う? 」
そう聞いても眉をよせるだけである。
「馴れ初めを聞いたらそんな話を聞かされてさ、ゆきづりの相手との間に出来た
のが私だったっていうそんな恋の話。もっと愛のある物語を期待していた私の
気持ちを見事に踏みにじったのよ、どう思う? 」
親からそんなぶっ飛んだ話をされるなんて普通は思っていないものでしょ?
「残念ながら僕にはそれに対する答えを持ってはいないよ。それにその話は僕に
するような話じゃないよ、姉ちゃん」
漸く口を開いた真面目な弟の返答に私は思う。
強く生きろよ、弟よ。
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