ワタナベさん

菫川ヒイロ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む





 私達はいつの間にか飛ばされていた……砂漠に。
 見渡す限りが砂しかないそんな場所で私は途方に暮れる。
 何をどうなってこうなったのか?
 そんな事を考える事さえ馬鹿らしくなってしまう。
 
 
「何よこれ。馬鹿じゃないの? 」


 文句を言った所でどうなる訳でもないけれど、それでも言わずに居られない。
 それぐらいは許されるはずだ。だというのにワタナベさんは止まる事なく進んで
 行くのである、文句も言わずに。
 
 
 そんな寡黙な姿に私は敵わないなと思う。
 カッコいいなと思ってしまう。
 これだって思ってしまった。
 
 
「ちょっと待ってよ」


 私はワタナベさんの後をついて行く。
 歩いていると私の人生もそうでありたいと思ってしまった。
 ワタナベさんと同じ道を歩いて行きたいと思った。
 
 
 これはきっと恋だ。
 ワタナベさんの姿がとても凛々しく見える。
 その歩く姿が愛おしい。
 これ即ち恋の始まりだった。
 
 
 私達だけの世界で恋が芽生えてしまったのなら、
 もう咲かすしかないだろう。
 
 
「私と結婚しませんか? 」


 この先、どんなことがあってもワタナベさんとならやっていけると思った。
 ワタナベさんとなら何も怖くはないと思えた。
 だから私は求婚した。
 
 
「いや、獏だから」


 ワタナベさんはそんな事を言うけれど、それが何だと言うのだろう?
 この世界で私達しかいないのだ、問題なんて何もない。
 これはきっと運命だ!
 
 
「そんな事、関係ありませんよ! 獏だからって何だって言うんですか? 」


「関係大ありだよ。そもそもこうなったのは君の所為じゃないのか? 」


「え、私? 」


「え、違うの? 」


 ワタナベさんは何か勘違いをしている。
 確かに私は夢を食べるけれど、だからと言ってこんな力はないのだ。
 砂漠へ急に飛ばすなんて力を持ってなんていない。
 
 
「じゃあ誰の仕業? 」


「さあ? 」


 それが分かったからといってどうなる訳でもないし、どうでもいいのだ。
 私はワタナベさんと一緒ならハッピーエンドを迎えられると信じている。
 
 
 
 
 
 
 
 





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...