向こう側の君

菫川ヒイロ

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 君を初めて見かけたのは、春だった。
 
 
 そして、今日もいつも通り君はそこに居た。
 いつもの時間、いつもの場所に君は立っている。
 長く綺麗な黒髪をなびかせている君。
 
 
 君は僕の事なんてきっと知らない事だろう。
 それはそうさ、だって僕は君に気付かれないようにしているのだから。
 理由はまあ、恥ずかしいからなのだが。
 
 
 まあ、そんな事はどうでもよくて。
 僕は君がそこに居てくれると言うだけで毎日を頑張れた。
 おかしな話だとは思うけど本当なんだ。
 
 
 こんな事は初めてで、僕も驚いてはいる。
 けど、これがきっと恋ってやつなんだと思う。
 君の名前すらしらない僕が、君に恋をしたんだ。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 いつものように僕は君が見える位置へ移動する。
 そして君の事を確認して安堵する。
 「今日も居る」という事実が僕にはとても大切な事だった。
 
 
 でも今日は少し様子が違った。
 君の周りにおかしな男達が居るではないか。
 どういう事か分からない僕の胸はざわついた。
 
 
 何かよくない事が起こるのではないのか?
 そんな事が頭をよぎったと同時に男の手が君に伸びて行く。
 そして僕の目の前に電車が入って来た。
 
 
 どうなったのか知りたいが、電車が邪魔で向こう側が見えない。
 気付いた時にはもう僕は走り出していた。
 自分でもどうしてこんな事をしているのかなんて分からない。
 
 
 けど、これが恋なのだろう。
 
 
 僕は走って君の元へと急いだ。
 高鳴る鼓動は抑える事など出来ずに、それでも僕は走る。
 走って君の元へ辿り着いた時には全てが終わっていた。
 
 
 男達は全員、ホームに倒れていたのだ。
 そしてその中心に立っているのは僕が知っている人では無かった。
 知っているつもりだったが、実際僕は何も知らなかったのだ。
 
 
 下に落ちているカツラ。
 
 
「え、男? 」


 そこには短髪の男性が立っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 


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