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しおりを挟む「名乗る程の者ではないですよ」
そんな事よりも早くこの場から立ち去らないといけないのだ。
僕は彼女の手を引き走る。当然のようにナイフはそこに刺さったままで、
彼女もどうにか足を動かしている。こんな状況でも意外となんとかなるものなん
だと走りながら思っていた。
「いや、意味わかんないから! アンタはどうして平気なのよ! 」
意外と早く正気に戻った彼女は僕の手を振り解いた。
まあここまで来れば問題はないだろうと僕が刺さっていたナイフを抜いて服を
めくりあげた。
「ほら、こうやって結婚情報誌を使えば刺さって無いでしょ? 」
僕は腹に巻き付けていた結婚情報誌を取って彼女に見せる。
「いや、ちょっと赤くなってるけど? 」
自分で確認してからすぐに服で隠した。
これぐらいならどうとでもなる。
「それじゃあ、もうこんな事はしないようにね。あ、これよかったら読んで」
僕が彼女に結婚情報誌を渡したのはナイフと交換する為だった。
*****
今日、私はおかしな男と出会った。
まったくもって理解できない行動と言動、そして突然いなくなったのだ。
もしかしたらあれは夢だったのかと思ってしまうぐらいでだった。
一人とぼとぼと家路についた私を待っていたのは私の婚約者だった。
「やあ、久しぶり」
私に何も言わずに海外へ行ってしまった彼は碌に連絡もよこさず、一体どういう
つもりなのかこうして私の前に立っていた。久しぶりとかどの口が言うのか?
急にいろいろな事が起き過ぎて私の頭は追い付かない。だから投げた。手に持って
いたそれを投げたのだ、彼に向って。
「どうしたんだよ、危ないじゃないか。嗚呼、そうか……」
そして彼は落ちた結婚情報誌を拾って言った。
「ごめんね、やっと一段落ついたんだ。結婚しよう」
そして私は彼と結婚する事になった。
それから五十年後に私は再会する、あのおかしな男と。
それは孫の婚約者としてだった。
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