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しおりを挟む「行ってくるよ」
彼はそう言って列車に乗り込む。
声に確固たる意志を感じた私は、ただ見送るだけだった。
今、口を開いて出て来る言葉はきっと彼を困らせるだけだと思ったから。
だから私は何も言わず、彼を見送った。
どうか彼の夢が叶いますようにと願いながら、ずっと列車が見えなくなるまで
見送った。
空が夕暮れから夜に変わる。
私はようやく駅から帰路につく。
仕方が無い事なんて世の中には沢山あって、
私が我慢さえすれば彼の夢が叶うのだとしたら、もちろん我慢する。
それが私に出来る唯一の事なのだから。
この小さな田舎町では彼の夢が叶えられない。
知っているし、分かっている。
彼には目指すべきものがあって、才能もあったのだ。
私の彼と居たいというちっぽけな願いなんてどうでもいいよね?
見上げた夜空はいつもよりも星がぼやけて見えた。
*****
彼が居なくなっても朝が来る。
いつもと変わらい日常が繰り返される日々。
やっている事は今までと変わらないのに、
こんなにも世界は色あせてしまった。
私には彼と過ごした思い出だけが拠り所で、
でもそれさえもだんだんすり減って、色あせて行く。
どんなに小さな思い出もかき集め、繋ぎとめて
それが明日への希望になる。
「会いたいよ……」
*****
走る、走る、走る。
私は走る。
もう壊れてしまうかもしれないと思うくらい、どんどん鼓動は早くなって行く。
手にした手紙はもうくしゃくしゃになってしまった。
息を切らしながら着いたホームに列車から彼が降りて来た。
「お帰りなさい! 」
私は彼に飛びつけば、彼が抱きしめてくれた。
これから私は彼と未来を紡いで行こう。
彼となら何処までだって行けるから!
応援ありがとうございます!
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