お前しかいない

菫川ヒイロ

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「大丈夫、栄ちゃん? 」


「たぶん大丈夫だと思う。ありがとう、止めに入ってくれて」


 私が心配すると栄ちゃんはそんな事を言って来たので、
 私は嬉しくもあったのだが、止めないでおこうとした自分もいたので
 少し複雑な気分ではある。
 
 
「それにしても凄かったね、渡辺さん。さすがプロって感じ。
 やっぱり違うのかね本物って奴は」
 
 
「確かに、あれが本物って奴なんだろうな。正直予想以上で驚いたし
 ちょっと怖かったよ。本当に別物になるんだなって」
 
 
 確かにそれは見ていても思った。
 あれは完全に別物になっていたと思う、
 ああいうのって一体どういう仕組みでなるものだろうか? 
 役者という生き物はみなああなのだろうか?
 不思議な生き物である。
 
 
 そして「君もだよ」とは私は言わなかった。
 人の才能を引き出し、開花させるなんて事は凡人には出来まい。
 それをやってのけたのだ、誇るべきだし、称えられるべきなのだ。
 
 
 嗚呼、何故だろう……ザワザワする。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 私は授業が終わっても教室に居た。
 椅子で舟を漕ぎながら、物思いにふける。
 映像部に行くべきか、行かざるべきかという二択は当然
 行くべきだし、行かないなんていう選択肢は元々ありはしない。
 
 
 ありはしないのだが、ただ行ってもどうしたらいいのかが分からないのだ。
 あんな事があった後で私はどんな顔をすればいい?
 意外とそういう所を気にしてしまうのが千里だった。
 
 
 大胆なのに小心者というなんとも面倒臭い彼女は散々悩んで
 結局は行く事にしたのはあの感覚が忘れられなかったからだ。
 教室の前で一呼吸してからドアを開ければ
 
 
「ほらね、ちゃんと来たでしょ? 」


「なんだ、遅いぞ! 」


 中にはイカレた連中がしっかりと居て、私にカメラを向けていた。
 
 
「ちょっと、勝手に撮るの止めなさいよあんた! 
 それにあんた達も、来るに決まってるでしょ! 私はもう部員なんだからね。
 まったく、どうしてこんな部活に入ちゃったのかしら? 」
 
 
 私は文句を言いながらも、取り合えずは昨日ぶん殴った奴の隣に座って
 
 
「それで、これから何をすればいいのよ、私は? 」


 今後の活動方針について聞いてみたのだ、まじまじと彼の顔を見ながら。
 
 
 



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