お前しかいない

菫川ヒイロ

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 数日後、鈴が書き上げて来た脚本を読んだ結果、俺は悩む事になる。
 それは鈴がこの短い期間に二本も書き上げて来たからだ。
 どちらも甲乙つけがたいので、二人にも聞いて見る事にした。
 
 
「私はどちらかと言えばこっちかな、場面転換もあって楽しそうだし」


 立花さんはそう言うが
 
 
「私はこっちがいいわ。私、こういうのやった事ないのよね」


 渡辺さんはこう言う。
 二人の意見が割れたので、結局自分で決める事に変わりはないが
 今回は主演女優のやりたい方をやらせてあげる事にした。
 
 
 その方がモチベーションも高く居られるだろうし、
 それに一発目はやはりインパクトがないといけない!
 この斬新な脚本の方が注目を浴びるだろう。
 
 
「よし、じゃあこっちの「猫にチーズは似合わない」にします! 」


 こうして映像部の記念すべき一作目は決まった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 私はその一部始終を、ぼーとした頭で眺めていた。
 ちょっと張り切り過ぎて二本も書いてしまったので、
 今の私の中はスッカラカンである。
 
 
 別にどっちでも、栄ちゃんの好きな方をやればいいと思ってはいたけど
 こうして選考作業をみていると複雑な気分になってくる
 今度からは一本だけにしておこうと心に決めた。
 
 
 とは言え今回の選択は結構意外だった。
 栄ちゃんの好みとは違う方を選んだからだ。
 いろいろと考えているようで何よりだが、つまらなくもあったりする。
 
 
 栄ちゃん的には女優を優先してあげたのだろうが、
 私的にはあの女を優先しているようで癪に障る。
 でもまあその結果苦しむのはあの女なのだし、良い事にしよう。
 
 
「お腹すいたな」


「どこか食べにいきます? 」


 頭の栄養が足りていない私が無意識にこぼした言葉に立花さんが反応する。
 目をキラキラさせてこちらを見て来るが、一体何を期待しているのだろうか?
 今この人を相手にするのは正直しんどいのだが……
 
 
「何それ、私も行くわよ」


 何故か女優様も乱入してきて面倒臭い。
 助けを求めて栄ちゃんを見れば、脚本をずっと読んでいるので諦めた。
 こうなるともうダメなので、そっとして置く事にして
 
 
 私は二人を連れて下校する事にした。


  『私の役割はもう終わったはずなんだけどな』
  
  
 この部活、意外と私が一番苦労するのかも知れないなと思った。
 
 






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