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しおりを挟むどうしてこうなった?
私の頭の中は今その言葉で埋め尽くされていた。
「お前は私に相応しくない! まったく何て事だ、ふざけるのも大概にして
もらいたい。どうして私がこんな思いをしないといけないのか?
婚約は破棄させてもらうからな! 二度と我が家の敷居は跨ぐなよ! 」
その日、私にはどうにかこうにか漕ぎつけたビビロン侯爵との婚約を破棄されて
しまったのだ。私の今までの努力は全て、水の泡のようにあっけなく消えてしま
う結果となった。
理由はどうやら侯爵の叔母が何やら吹き込んだらしいのだが、私は何かをした
覚えなどなく、そもそも叔母という人物に会って事がないのだ。
だからまったく意味が分からず、侯爵から婚約破棄を言い渡され、屋敷から
追い出されてとぼとぼと歩いて家に帰った。
私には野望があった。
それは貴族になって今の生活から抜け出し、自由気ままに生きてやるという
実に真っ当な野望だった。
だから、どうにか貴族とお知り合いになりる為の努力はしたし、そこから先の
事も考えて身だしなみにも注意し、教養も身に着けた。
そうして巡って来たチャンスをつかみ取り、私はビビロン侯爵と婚約するに
至ったというのに……
「どうすんのよ、もう! 」
大声を出す事しか今の私に出来る事はなく、そうすればしたで余計に空しく
なってしまった。もう少しだったのに、もう少しで私の野望に届く所まで来て
いたというのにこんな仕打ち、ありえない。
「大丈夫かい、ミラ? 」
私を心配しておばあちゃんが来てくれた。
「大丈夫よ。ごめんね、大きな声出して」
だから私は決めたのだ、その叔母とやらに仕返しをしてやろうと。
そうする事でしか私の気持ちは治まらない!
*****
そうと決まればすぐに行動するのが私の美徳の一つである。
とは言え、女一人では出来る事など知れているというもの。
私は幼馴染であるトールを呼び出した。
トールは昔から私の言う事をよく聞くいい奴だった。
だから今回もきっと私の役に立ってくれる事だろうと思って、彼に今までの経緯
を話すと
「だから言っただろ? 止めとけって。貴族なんてそんなものだよ」
トールなら私に同情してくれると思っていたのに、私に賛同してくれると思って
いたのに、そんなつれない返事とか――ないわぁ。
「何よ、トールの癖に! 私にそんな態度、とっていいとでも思っているの? 」
「仕返しなんてしたってしょうがないよミラ。それこそ貴族に逆らったらどんな目
に遭わされるか分かったもんじゃない。そういうのはミラの方がよく知ってるん
じゃないのか? 」
トールの癖にまともな事を言って来る。
確かにそれはそうだ、貴族なんてろくな奴らじゃない事は知っている。
だから私の両親の事故も有耶無耶にされ、無かった事にされてしまった。
でもだからこそ私にはあいつらに仕返ししてやる権利があると思うのだ。
「なあ、ミラ。俺さ、最近現場を任されるようになったんだ」
トールは建築の仕事をしている。
「そう、よかったわね。そんな事より」
「でさ、給料も大分貰えるようになったんだ。それに少しばかりの蓄えもある。
だからミラ、俺と結婚してくれないか? 」
私の言葉を遮って急にそんな事を言ってくるトールに私は虚を突かれる。
「な、何よ急に。私はそんな話をしに来たんじゃ」
「もういいだろ? 俺はミラの事を知っているつもりだよ。今までよく頑張って
来たと思うし、それは他の奴が真似出来るような事じゃないと思う。皆、ミラ
の事をいろいろ言うけどさ、俺はミラが優しい奴だって知ってる。だからさ、
俺と結婚しよう。仕返しとかミラには似合わないよ、それにおばあちゃんも
その方が安心すると思う」
「はあ? あんたに何が分かるっていうのよ。トールの癖に……トールの癖に」
私は何故か涙が止まらなかった。
「私はね、我が儘なのよ。そんじょそこらの女とは訳が違うんだから」
「知ってる。駄目かな? 」
「絶対、私を幸せにするって約束出来るっていうなら考えてあげなくもないわ」
「約束するよ! 俺はミラを幸せにするって」
そうして私はトールと結婚した。
*****
おばあちゃんは私達の結婚を見届けると、すぐに天国へ行ってしまった。
ひ孫に会わせてあげられなかった事は残念だったけど、結婚はすごく喜んで
くれたので、少しは恩返しが出来たかもしれない。
「ねえ、私、今幸せかも」
腕の中で眠る我が子を見ているとそんな言葉が溢れ出してきた。
「だから言っただろ? ミラを幸せにするって」
トールはそう言うと私を赤ちゃんごと抱きしめた。
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